文化面から見た糞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 02:19 UTC 版)
糞尿は人間の文化においても重要な位置を占める。 糞便や排便行為に対する意識や作法は、時代や地域、文化圏によって大きく異なる。現代では、多くの文化圏において排泄はプライベートな行為とされ、他人の排便行為を窺い見ることは、成人のあいだでは忌避されることが多い。例えば、現代の公衆便所では、男性用の小便器を別として、他人に見られないように個室に仕切られているものが大半である。しかし、古代ローマの公衆便所には、たくさんの穴が開いた長い石の板があるだけで、まったくプライバシーはなく、市民らは並んで腰かけて用を足しながら談笑していた。21世紀の中国でも、個室で仕切られておらず、同時に入った利用者は互いの排便を見る形態の公衆便所が広く見られる。 また、排泄した糞尿の処理も、時代や地域によって大きく異なる。例えば、18世紀以前のフランス・パリの街は糞尿まみれだったと言われる。当時のフランスではトイレが普及しておらず、貴族も庶民もおまるで用を足し、その汚物を道端に捨てていた。建物の上から「Gare à l'eau!(お水に注意!)」と聞こえたら、窓から糞尿が降ってくるという意味であり、通行者は逃げた。王室も同じことで、ヴェルサイユ宮殿の庭で人々はところ構わず糞を垂れていた。当時の上流夫人のパニエ(釣鐘形のスカート)は、一説には他人の目を余り気にせずに楽に排便できるためであったとされる。この状況を変えるため、1608年に国王アンリ4世が「家の窓から糞尿を夜であっても投げ捨てない」という法律を制定した。その後1677年、初代パリ警察警視総監ニコラ・ド・ラ・レニー(フランス語版)が「1ヶ月以内に街中の家の中にトイレを設置すること」という命令をトイレ業者に勧告した。しかし状況は改善されず、100年後の1777年にルイ16世は「窓からの汚物の投げ捨てを禁止する」という法令を再度制定した。しかし、これも効果は薄く、パリの街が腐敗臭から逃れたのは、19世紀半ばのナポレオン3世の時代になってからとされる。 こういった糞尿に関する意識や習慣の違いは、文化人類学や社会学、歴史学などの考察の対象でもある。 同じ文化圏内においても、年齢や性別によって便に対する意識は異なる。哲学や心理学においては、人格形成や、人間心理における排便行為や糞尿の意味付け、機能等が主要な考察の主題の一つとなっている。一般に乳幼児は成人より忌避意識や羞恥心が弱く、例えば糞尿を題材にした発言をすることが成人よりも多く見られる。 糞尿は、汚物として忌避の対象である故に、反社会的行為や嫌がらせ、派閥の離脱などのために利用される例もある。例えば、『古事記』上巻及び『日本書紀』第七段には、建速須佐之男命が姉の天照大神を訪ねた高天原で行った乱行のひとつとして、御殿に糞を撒き散らしたとの記載がある。あるいは蒯通が韓信のもとを離れる際、発狂したと思わせるために、彼は大便を入れた器を皆に見せて廻ったとの伝説がある。また、『源氏物語』の桐壺の巻では、帝の寵愛を一手に受けた桐壺の更衣に対する嫌がらせとして、渡殿(渡り廊下)に糞尿が撒き散らされた。 また、糞を占いの対象とする事例や、不運や病気、あるいは逆に富貴や幸運の予兆や象徴とする例もある。中世の日本では、鳥獣に糞をかけられた際に、陰陽師に占わせていたことが『吾妻鏡』に見られる。例えば、安貞2年2月7日(ユリウス暦換算:1228年3月14日)条、将軍の衣に鳶の糞がかかったため、陰陽師に占わせたところ、病事に注意がいると伝えられたと言う。また、寛喜元年5月21日(ユリウス暦1229年6月14日)条には、犬の糞が御所の常御座の畳の上にかかったため占わせた、と記されている。 一方で、糞尿は笑いや文学・芸術の題材・対象でもある。糞尿に関する説話などは「糞尿譚(ふんにょうたん)」と呼称され、火野葦平は同名の小説で芥川賞を受賞している。演芸において、糞尿を題材にしたものは下ネタと分類される。漫画やアニメなどのサブカルチャーメディアのうちには、糞便を主題としたり、主題としないまでも決まりネタとして登場する作品も多く、ソフトクリームのように円錐状にとぐろを巻いた「記号化された糞」が用いられることもある。糞を模した美術品や、芸術活動の一環として糞そのものを使った創作活動も存在する[要出典]。 糞便は愛着や性的嗜好の対象でもあり、このような興味を「スカトロジー」や、「糞便愛好」や「糞尿愛好」と言う。排泄する姿、排泄物は一般に他人に見せることが無いため、特殊な性的嗜好を持った者にとって人糞は鑑賞の対象となる。太さや硬さ、香り、色などを鑑賞する。排泄物だけでなく排便行為や肛門の動きも愉しむ。また、人糞を食す事に性的興奮を覚える者も稀に存在する。 詳細は「糞尿愛好症」を参照
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