岡崎市全市民への5万円給付
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 04:54 UTC 版)
「中根康浩」の記事における「岡崎市全市民への5万円給付」の解説
2020年10月の岡崎市長選挙で中根は告示日直前に「年内に全市民へ5万円を給付する」という公約を追加。現職の内田康宏を3万2千票余りの大差で破り、逆転劇を成し遂げた。敗れた現職陣営から「禁じ手の買収公約」との批判を受け、地方自治論を専門とする名城大学の昇秀樹教授からも「現金の一律支給は政策として疑問が残る」と指摘を受けるも、中根は10月21日の市長就任後の記者会見で「年内クリスマスまでに全額支給する」「実現できない場合はリコール(解職請求)を受けても当然」と明言した。財源については「裏技的というか、僕の知らない調達の仕方があるかもしれない」と述べ、財源調達を精査する特命チームを立ち上げる方針を示した。 しかし市財政課によると、全市民に5万円配ると約193億円超かかるのに対し、中根があてにする財政調整基金は約81億円しかない。ほかの基金はそれぞれ使う目的が条例で決められており、いずれも条例を廃止する必要がある。市の担当者は財政調整基金について「一気に取り崩したことは過去にない。次の新型コロナ感染拡大に備え、ある程度残さないと逼迫する」と発言した。 さらに市は「近年、当初予算に基金から40億円を充てている上、2021年度は感染拡大の影響で70億円程度の税収減が見込まれ、財政に余裕はない」と説明しており、従来の市民サービスが縮減される可能性も指摘された。 岡崎市議会の簗瀬太議長も「現在の岡崎市の財政ではキャッシュとして200億円をすぐ用意というのはなかなか難しい。スタートしても年内の支給は難しい」と中根の政策を疑問視する見解を述べた。 2020年11月2日、市議会各派代表者会議で、市議会臨時会の会期は11月5日から9日までの5日間に延長することが決まった。中根は、5万円給付のために「おかざき市民応援給付金給付事業費」約195億5,933万円を計上。そこから財政調整基金積立金などを差し引いた計約195億3,505万円増額の一般会計補正予算案を組んだ。 財政調整基金約81億円の取り崩しだけでは当然5万円給付の総額に届かない。中根は、公共施設、文化施設、公園、岡崎市美術博物館、東岡崎駅周辺地区などの整備に積み立てた他の5つの基金を廃止することで帳尻を合わせようと考えた。6つの基金の合計は193億4,004万円。将来に備える財源をほぼ使い切る内容の基金廃止条例案を組んだ。 市議会最大会派「自民清風会」の市議は「市民生活の影響が大きすぎる」と反対しており、なかでも公共施設の長寿命化を図るための改修基金である「公共施設保全整備基金」約45億円について、「絶対に手を付けてはいけないものだ」と警告した。市職員からも「廃止する理由が思い当たらない」「考えるだけで泣きそうになる」などの声が漏れ始めた。 同年11月5日、市議会臨時会での所信表明後、5万円給付の減額や対象を絞る可能性を示唆した。「公約違反では」との報道陣の指摘に、「原案を議会に提案した時点で公約を実行したことになるから、欺いたことにはならない」と答えた。 ホントに5万円戻せるの?――できるよ! 財源はあるし公約だからね。公約?――公約って言うのはこれをやりますっていう公の約束のこと。市民との約束だから実現できて当たり前。財源はどう考えているの?――まず、コンベンションホールをやめて80億円を確保する。それに岡崎市は毎年50億円くらいの予算が翌年に繰り越されてる。大丈夫だね。安心した~。――僕も市長になったら2,640万円の退職金を0円にするからね。 — 中根やすひろ公式サイト 5万円給付の減額を示唆した11月5日、中根は自身のホームページに掲げた上記の言葉をすみやかに削除した。 同年11月6日、市議会臨時会に、約195億3,505万円増額の一般会計補正予算案と5つの基金廃止条例案を提出。前日の発言どおり、議案を提出した直後、市民への5万円一律給付を断念する意向を明らかにした。採決が行われるのは3日後の11月9日。中根は給付対象を低所得者に絞る考えを示し、「市議会で否決されるなら、市の人口約38万人から市民税納税者を引いた約18万人に限定して5万円給付をすればよい」と述べた。また、11月9日の臨時会において提案説明後、採決前に議案を撤回する方針を示した。その一方で11月7日付のツイッターに「私が提案した原案を可決していただきたいという思いに変わりはない」とのコメントを発表した。混迷を極める中根の言動に対し、市議は「全市民への5万円給付と低所得者の生活支援は別次元の話だ」「議会軽視も甚だしい」と再び批判。さらに中根の選対幹部からも「議会と戦ってほしかった。投票をお願いした市民に説明ができない」と失望の声が上がった。 同年11月9日、加藤勝信官房長官は記者会見で、中根が当選後わずか19日で公約遂行を断念したことに関し、「公約は実現可能な施策を掲げるべきだ」との認識を示した。 同日、市議会臨時会が再開。各会派の動向が注目される中、一般会計補正予算案など5件の質疑において、「自民清風会」「民政クラブ」「チャレンジ岡崎」「公明党」の4会派は基金を取り崩して財源とする議案にいずれも猛反発。市長選で共闘した日本共産党の2人の市議でさえ、基金取り崩しと5万円給付に反対した。さらに答弁側である財務部長からも「公共施設休館や公園の利用停止が想定される」と将来を不安視する発言が引き出され、中根は議場で四面楚歌の状況に置かれた。自民清風会の簗瀬太市議は「財政計画の見通しに関する市長の答弁は抽象的な言葉ばかり」と語気を強め、市への資料提出と11月18日までの会期延長を求める緊急動議を提案。同案は賛成33、反対4で可決された。これにより当初、予定されていた採決は先延ばしとなった。 公約実現性の不透明さから市役所へ批判のメールや電話が殺到。出馬表明後ほぼ毎日更新されていた中根のツイッターは11月7日を境についに途絶える。「『断念』などと報道されているようですが、そのつもりは毛頭ありません」と言い逃れをした最後の投稿にとりわけ多くの批判が寄せられた。 11月18日、臨時会が開かれ、5万円給付のための補正予算案と基金廃止条例案は賛成2、反対34で否決された。公約に掲げた月額給与50%カット、市長退職金廃止の条例案も賛成3、反対33で否決された。直後の報道陣の取材で中根は「ひとつの責任を果たした」と審議の結果を要約した。「市民から『嘘つき』というかなり厳しい声もあるが」と問われると「嘘をついているという思いはありません」と答え、「財源の見通しが甘かったのでは」と指摘されると「甘さは特に感じていない」と答えた。11月20日の定例記者会見で、一律5万円給付断念を正式に表明。今後も現金給付を行わないのかとの報道陣の問いに「『やれない』ということを議会が決定した。今でもやりたいけれど、やれないでしょ。独裁者じゃないんだから」と答えた。 12月1日、市議会定例会で小木曽智洋市議は中根に次のように問いただした。 小木曽智洋 確かに議会は5万円現金給付に対し否決という判断を下した。しかしそれは、しっかりとした数字や根拠に基づく資料を請求し、財政当局の皆様に仕上げて頂いた資料に基づいて審議した上での判断である。市長はこの後に及んでも「私は今でもやりたいが、議会が反対したからできない」と、責任転嫁と受け取れる発言をした。5万円の現金給付ができないのは議会が反対したからではない。財源がないからできないのである。この事実を認識できていないのか、認めたくないのか分からないが、こんなことでは信頼関係を築くことは永久に無理だと考える。見解をお聞かせ願いたい。市長 「やりたくてもやれない」という発言の中に、議会に責任転嫁する意図は全くない。議決の重さを強調する意味で、議会制民主主義のルールとして議会のご賛同を頂かなければ実行できないという事実を申し上げたというのが、私の真意である。 — 岡崎市議会 令和2年12月定例会 12月01日。 12月2日、全市民への5万円給付を選挙公約にしたのは公職選挙法違反の投票買収の罪にあたるとして、72歳の税理士兼行政書士の男性が愛知県警に告発し、受理された。 12月3日、市議会一般質問で「議会に説明する前に私的なツイッターやフェイスブックで情報発信したことに対する批判があった。それゆえ今後は、公式の記者会見や市のホームページで発信するよう改める」と答弁した。 市長就任時の記者会見で「5万円給付が実現できない場合はリコールを受けて当然」と発言した中根に対抗するため、12月21日、市民およそ20人が政治団体「中根やすひろ岡崎市長をリコールする会」を設立した。この時期の団体設立は、「ケーキを買ってシャンパンでも飲んで穏やかに過ごしてほしい」という中根の言葉に起因。12月23日、代表の建設会社社長は「本当に困っている人は5万円をもらってもゆっくり過ごしている余裕はない。クリスマスを前にリコールの準備をし、市民の『困っている』という思いを知ってもらいたい」と訴えた。 2021年4月20日、定例記者会見で報道陣が5万円給付問題について質問すると、中根は「議会にご理解とご承認をいただけなかったので、実現できなかったということ」と回答。公約を果たせなかった責めは議会側にあるとの見解を改めて示した。 2022年1月21日、愛知県警が中根を公職選挙法違反(買収)の疑いで捜査結果の書類を検察に送付したことが報道によって明らかとなった。中根の事務所スタッフや市職員が事情聴取されたが、起訴を求めない意見をつけたとみられる。
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