地底世界のターザンとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > ウィキペディア小見出し辞書 > 地底世界のターザンの意味・解説 

地底世界のターザン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/19 07:11 UTC 版)

地底世界のターザン』(ちていせかいのたーざん、: Tarzan at the Earth's Core)は、エドガー・ライス・バローズによるアメリカSF小説

ターザンが、地球内部にあるペルシダーを訪れる」という骨子であり、約110作[1](単行本では約70冊[2])あるバローズの作品の中でも、ほぼ唯一の本格的なクロスオーバー作品である(後述)。

本項では、ペルシダー・シリーズの最終作"Savage Pellucidar"の版権を有し、ターザン・シリーズの多くを翻訳している早川書房版の表記を優先する。東京創元社版の訳題は『ターザンの世界ペルシダー』。

出版

本作は、"Tarzan at the Earth's Core"のタイトルでブルー・ブックに1929年に連載され、1930年にメトロポリタンから単行本化された。ペルシダー・シリーズでは第4巻となり、そのほぼ半分(折り返し)の位置にある。ターザン・シリーズの場合も、ほぼ半分の位置に当たる(後述。詳細はターザン・シリーズ#作品一覧を参照)。

日本語訳は、以下の通り。両社とも「地底世界シリーズ」の一環として刊行された(ハヤカワ版での「ターザン・シリーズ」の刊行は1971年8月からである)。

ハヤカワ文庫SF
『地底世界のターザン』、1971年5月31日、佐藤高子訳。挿絵、カバーイラスト、口絵は柳柊二(ただし、「ハヤカワSF」版の文庫化である[3])。解説は野田昌宏
創元推理文庫SF
『ターザンの世界ペルシダー』、1976年6月25日、厚木淳訳。挿絵、カバーイラスト、口絵は武部本一郎

ストーリー

設定的には、ペルシダー・シリーズの前作(第3巻)『戦乱のペルシダー』(Tanar of Pellucidar、創元版は『海賊の世界ペルシダー』)の続編に当たるが、ターザン・シリーズとしても前作『ターザンと失われた帝国』(Tarzan and the Lost Empire1928年~1929年)の設定を受け継いでいる部分がある。

ペルシダー・シリーズ第2巻まで
本来、ペルシダー・シリーズは全2巻として1915年に連載が完結していた(単行本化は1923年[4]
  • 主人公のアメリカ人青年、デヴィッド・イネスは、技師のアブナー・ペリー老人の試作した採掘用マシン、鉄モグラ(機械モグラ)の試運転に同乗する。しかし、途中で方向転換ができないことが判明。「マグマに突入する!」という最期を思い描くも、実際に出たのは「太陽の輝く大地」に、であった。実は地球は内部が巨大な空洞になっており、彼らはそこに到達したのである。そこはペルシダーと呼ばれ、恐竜古生物が跋扈し、原始人の生活レベルにあるギラク(ペルシダー人)を、翼竜から進化したマハールが支配していた。
  • サリ族を中心にペルシダー人をまとめたデヴィッドは、マハールに抵抗。一度、地上に戻って装備を調達し、部族をまとめてペルシダー帝国を建国、マハールを領土から一掃する。デヴィッドは皇帝に就任、彼らを文明化することを夢見ていた。
第3巻
ブルー・ブックに1929年3月号から8月号にかけて、全6回に渡って掲載された。
ペルシダーとの通信に使用される「グリドリー波」が、ジェイスン・グリドリーによって発見される。続編はもちろん、バルスームとの通信にも使用された(第7巻『火星の秘密兵器』、第9巻『火星の合成人間』)。
  • デヴィッドの描いた「文明化」は拒まれ、時計は廃止、列車は影も形もなく、ライフルに至っては、いざという時にも棍棒代わりにされる始末であった。
  • そんな折、仇敵マハールを上回る強敵、コルサール人が国家として台頭してくる。彼らは大航海時代風の帆船や銃を扱う文明人であり、ムーア風の壮麗な建物を要し、首領は「エル・シド」と呼ばれていた(デヴィッドは、「11世紀に実在したエル・シド(El Cid)に由来する」、と見ている)。
  • コルサール人との戦争の結果、疾風のタナー(デヴィッドの親友であるガークの息子。デヴィッドの妻ダイアンにとっては息子同然の存在)らが捕虜となる。デヴィッドは、捕虜の奪回のためコルサールの艦隊を追跡、首都に潜り込む。逃走の結果、北極の大開口部を発見、「コルサール人は、大航海時代に開口部を通って入り込んだ海賊(私掠船。コルセア(fr:Corsaire))の子孫」と確信する。
  • 冒険の末、タナーらはペルシダー帝国に帰還するものの、デヴィッドはコルサールに捕らえられたままだった。アブナー・ペリーはコルサールとの戦争とデヴィッドの窮状を地上に訴えるが、通信の最後は途絶えてしまう。ジェイスンは、デヴィッド救出を志願する。

以上を踏まえ、本作では、冒頭でジェイスンがターザンを捜索隊の隊長にスカウトする。彼の提案で、新素材ハーベナイトが収集された(『ターザンと失われた帝国』の主人公、エリッヒ・フォン・ハーベンが発見したため、この名前がついた)。強固で軽いハーベナイト製の飛行船O-220号はドイツで建造され、ドイツ軍人の士官らを乗せ、北極の大開口部を目指し、地球内部へ突入する。しかし、到着早々、ターザンは単独行動の結果、帰路を見失う。捜索に出かけたフォン・ホルストやワジリ族も二次遭難し、帰ってきたのはジェイスンのみだった。彼は飛行機による単独捜索を主張し、実行するものの、翼竜との邂逅で不時着してしまう。

以後は、ターザン・シリーズで確立していた「複数主人公による冒険(と、サブヒーローの恋)」を展開、終盤までデヴィッドの出番は訪れない(しかも、直接的な描写は皆無)。また、コルサール人も終盤近くまで登場せず、エル・シドや前作の人物はほぼ登場しない、という、本筋から外れた展開が主流を占めている。また、「飛行機で翼竜に遭遇し、不時着。ヒロインと遭遇する」という展開は、1918年の『時間に忘れられた国』第2部と同じである。

ラストでは、ついにフォン・ホルストのみ発見されず、ジェイスンは残留して捜索を続行する決意をする。これにヒロインのジャナが同行を申し出たところで、本作は終了した。

第5巻
フォン・ホルストは、『栄光のペルシダー』(Back to the Stone Age1937年[5]。創元版は『石器の世界ペルシダー』)の主人公として活躍し、最終的にデヴィッドの捜索隊と合流する。その後の運命は明言されていないが、フォン・ホルストの妻となったラ・ジャがサリ(ペルシダー帝国の首都)に住んでいるので、彼もサリに移住したと思われる。
また、「ジェイスンはターザンらに説得され、飛行船O-220号で地上に帰還した」旨が、第5巻のラストでデヴィッドの口からフォン・ホルストに語られている。
「前作(前々作)で消息を絶った人物の冒険譜」と言う形式は、『時間に忘れられた国』第3部と同じである。
第6巻
フォン・ホルストを発見したデヴィッドが、サリへの帰路で遭遇した冒険譜。フォン・ホルスト云々は、冒頭以外ではほとんど無関係で、独立した一編となっている。

ターザン・シリーズの次作『無敵王ターザン』(Tarzan the Invincible、1930年)では、ターザンが「飛行船による無謀な計画」によりアフリカを留守にしている状況が語られ、そのスキをついて革命家グループがオパル(アトランティスの植民地の末裔。ターザン・シリーズの基本設定の一つ)の宝物を狙う、というストーリーが展開する。しかし、以後のシリーズは「単巻読みきり」という状態となり、例外は『ターザンと女戦士』(1936年~1937年)の後半のみ(『ターザンと黄金都市』(1932年)の続編)となっている(ただし、未訳分3巻については不明)。

キャラクター等

本作は、その性質上、既存のシリーズの人物等(ターザン・シリーズペルシダー・シリーズ共)と、本作オリジナルの3種類に大別される。

ターザン・シリーズの人物

ペルシダーを訪れたのはターザンとワジリ族だけであるが、飛行船O-220号の建造に関し、エリッヒ・フォン・ハーベンの協力が不可欠だった。また、ハーベンのような「ゲスト・ヒーロー(ゲスト・ヒロイン)」の後日が描かれるのも珍しい。

ターザン
ジェイスンによってデヴィッド奪還隊の隊長に選ばれた。経済的な援助も求められている。飛行船O-220号の設計図を見せられ、新素材ハーベナイトの使用を提案する。
ペルシダー到着後は、単独行動を主張し実行した結果、サゴス(ゴリラ人間)の罠にかかった末、「方角が判らない」という不測の事態に陥る(ペルシダーの太陽は地球の中心部に固定されているため、夜のない永遠の真昼の世界である)。彼を捜索に出たワジリ族やフォン・ホルストも、事情は違うものの二次遭難しており、到着早々、部隊に多大な迷惑をかけた。
野田昌宏は「初期の作品にえがかれているようなターザンの人間くささみたいなものが、もうこのへんまでくると、鮮度がかなりおちている」[6]とした上で、展開がマンネリになっている、と、本作に関し、手厳しい意見を述べている。
ワジリ族
シリーズ第2巻から登場している黒人部族。アフリカの原住民で、厚木淳は「勇敢で寡黙」[7]、「堂々たる威厳」[8]と絶賛している。リチャード・A・ルポフは「ターザンの義兄弟にあたる」[9]と紹介している。
ワジリ族の酋長の地位はターザンが受け継いでいる(第2巻で相続)ものの、実戦に当たってはムヴィロが指揮をとっている(別の人物が指揮している時期もある)。総勢10名が登場し、二次遭難をしたものの、終盤でターザンらと合流し、ライフルを使ってその窮地を救った。
勤勉で聡明な部族でもあり、飛行船O-220号の操縦・運用に関しても訓練を受けている。
エリッヒ・フォン・ハーベン
創元版はエリッヒ・フォン・ハルベン。ターザン・シリーズの前作『ターザンと失われた帝国』(1928年~1929年)の主人公。ハーベナイト(創元版はハルベナイト)の発見者という重要な役割だが、出番は少ない。
フェヴォニア
創元版はファヴォニアで、ハヤカワ版でも、『ターザンと失われた帝国』では同じくファヴォニアとなっている。前作のヒロインで「失われた帝国」出身。ハーベンの妻として、短いシーンながら登場している。

ペルシダー・シリーズの人物

ジャ
出身地からアノロックのジャと呼ばれる。ペルシダー帝国海軍の提督。デヴィッド奪還艦隊を率いる。
ダコール
アモズ族の王で、ダイアン(デヴィッドの妻)の兄。デヴィッド奪還艦隊の構成員。
タナー
前作の主人公で、ガークの息子。ガークの妹がダイアンの母に当たる。ダイアンにとっては息子のような存在。デヴィッド奪還艦隊の構成員。
グールク
スリア族の王で、ペルシダー帝国の一員。デヴィッド奪還艦隊の構成員。

以上のうち、まともに登場するのはジャぐらいで、しかも非常に出番は少ない。他の構成員はさらに影が薄く、頭数に近い。アブナー・ペリーは言及されるのみで、登場していない。ガークは「タナーの父」と触れてある程度である。そもそもデヴィッドの直接的な出番は皆無に近く、結果的に「前作までとは関係ない物語」が主体となり、単独の物語に近い構成になっている。

本作オリジナルの人物等

本節では、人類以外の種族、機体についても説明する。なお、ジェイスン・グリドリーは、厳密には前作『戦乱のペルシダー』(創元版は『海賊の世界ペルシダー』)で登場した人物である。彼とフォン・ホルスト以外は、後続の作品では基本的に登場しない。

ジェイスン・グリドリー
本作の主人公。ターザナに住んでおり、ある程度の資産を持っている。
前作でグリドリー波を発見した。以後、複数の作品で言及される。
  • 第6巻『恐怖のペルシダー』(創元版は『恐怖の世界ペルシダー』)冒頭でのジェイスンとデヴィッドの交信。
  • 火星シリーズ第7巻『火星の秘密兵器』、第9巻『火星の合成人間』での冒頭の通信。ただし、ジェイスンに関しては、前者では不在(ペルシダー訪問中)と明記されており、後者では名前が出てくるのみである。
  • 金星シリーズ第1巻『金星の海賊』冒頭で、ジェイスンがバローズに電話をかけ、フォン・ホルストの無事を伝えている。
ジャナ
本作のヒロインで、<ゾラムの赤い花>と呼ばれる、ゾラム族の美女。バローズのヒロインらしく、プライドが高い。
ソア
ジャナの兄。ターザンと遭遇した後、行動を共にする。ターザンが行方不明になった後、ジェイスンと遭遇し、行動を共にする。
誤解から、ジェイスンは彼をジャナの恋人と思い込み、やきもきしていた。
フォン・ホルスト
飛行船O-220号の乗組員(航空士)で、階級は中尉。ドイツの軍人で貴族。本作ではターザン捜索中に行方不明となる。次巻の主人公。
ズップナー
創元版はツップナー。飛行船O-220号の船長。ターザン、フォン・ホルスト、ワジリ族、ジェイスン、と、次々に遭難者が出るため、飛行船で待機しているシーンが多い。最終的に、彼らの帰還を待たず、O-220号でペルシダーへの捜索に乗り出す。
ハインズ中尉(操縦士)、ドルフ(航空士)という乗組員が搭乗している他、技師12名、整備員8名、コック1名、フィリッピン人のキャビン・ボーイ2名も乗り込んでいる[10]
ロバート・ジョーンズ
飛行船O-220号のコック。厚木淳は「文明化されたアメリカ黒人」とでもいうべき表現を使った後、「愛嬌者ではあるが腰抜けの臆病者」[11]と、手厳しい評価を下している。
タル・ガシュ
サゴス族(ゴリラ人間)に属する。タル(ター)はマンガニ(類人猿)の言語で「白」を意味しているが、ペルシダーのサゴスでも同じ意味であった。「タル・ガシュ」は「白い牙」となる(「ターザン」は「白い肌」)。
序盤でターザンと遭遇し、行きがかり上、彼と同行する。途中でソアも加わるが、ターザンがシプダール(プテラノドン)にさらわれたため、彼の死を確信し、部族の元に戻った。
  • 創元版の表紙では、シプダールがターザンをさらうシーンが描かれている。
ホリブ
蛇人間と呼ばれる種族で、いわゆるリザードマン。屈強な種族で、ターザンらを生け捕りにしたものの、ワジリ族の加勢で脱走されてしまう。
ゴロボオ
ホリブの飼っている生物。ターザンの判断では、三畳紀のパレイザウルスに相当する。
  • ハヤカワ版の表紙でターザンが跨っているのは、この生物である。
ダイロドル
創元版ではダイロドールステゴサウルスだが好戦的。背びれを水平にすることで滑空が可能。尾は舵を取る。

飛行船O-220号とハーベナイト

本作で重要な存在となる飛行船O-220号だが、バローズの作品にとっては例外的な機体である。すなわち、「主人公側があらかじめ用意した機体」としては、敵に対して圧倒的な優位を持っている、という点である(厳密には、本作は続編であり、その視点から見れば「強敵への対抗策」であり、「後出し」ではあるが)。

コルクのような軽さと、鋼鉄の強度を両立している」新素材、ハーベナイトで船体や真空タンクが建造されており(ヘリウムガスは高価であり、水素ガスは危険であるため、当初は飛行船O-220号の建造自体が疑問視されていた[12])、軽くて強固な機体に仕上がっており、操作性の高さに乗員が驚いている。

船体は葉巻型で、長さは299メートル、直径は45メートル。総重量は75トン。真空タンクの揚力は225トン。エンジンは5600馬力。時速168キロで航行可能[13]。直接の戦力は不明だが、コルサールを訪れた際は、爆撃の用意があることを明かしている[14]

また、「大勢の地上人を乗せてペルシダーを訪れた」、「その乗員ほとんどを無事に帰した」と言う点でも特筆すべき存在である(イレギュラーな存在、ともいえる)。本作では、ズップナー船長のところで紹介した26名(本人含む)に、グリドリー、フォン・ホルスト、ターザン、ムヴィロ率いる10名のワジリ族が加わっており、総勢39名が乗り込んでいるが、本作以外で直接登場する地上人は3名のみ(デヴィッド・イネス、アブナー・ペリー、アー・ギラク)である(フォン・ホルストを除く)。アー・ギラクの登場が最終巻であることを考えれば、本作の地上人が「大勢」であるといえる。

ただし、本作以前で「ペルシダーを訪れた」人物は、以上42名よりも多いことが判明している(コルサール人の祖先と、アー・ギラクの船の乗員)が、第1巻の時点で、彼らは明らかに故人である。第3巻では気球の残骸をデヴィッドが発見し、「北極に大開口部がある」と確信するシーンはあるものの、乗組員の運命は明示されていない(デヴィッドは帽子を取り、黙祷していることから、彼らの生存を絶望視している模様)。この直前に「もうひとつの太陽」(ペルシダーのそれではなく、宇宙に浮かぶ天体としての太陽)をデヴィッドらが目撃するシーンがある。

なお、「O-220」というのは、当時のバローズの電話番号である[15]

備考

バローズにとっての「折り返し地点」

ペルシダー・シリーズでは、全7巻中の第4巻だが、ターザン・シリーズでは13作目に当たる(しかし、数え方によっては、14作目、あるいは15作目[16][17]と、異同がある。厚木淳は「訳者あとがき」で16作目、と紹介している[18])。ターザン・シリーズは全24巻(最大で全26巻、あるいは全29作[19][20]であり、こちらも「ほぼ半分」といえる。

1912年に『火星のプリンセス』で始まるバローズの作家人生は、1950年の死で一旦終了した[21]が、生前の最後の作品は1947年の"Tarzan and the Foreign Legion"(『ターザンと外人部隊』、ハヤカワ版は未刊)であり、作家人生として考えた場合も、ほぼ半分の位置に相当する。単行本リストでは、69冊中34冊目[22]であり、やはり半分ほどに当たる。ヘインズのリストでは、全110作(109作と欠番1つ)中、67番[23]だが、ヘインズのリストは短編・長編問わず、ともに1作としてカウントされているので、事情は違ってくる。例えば、連作短編集『ターザンの密林物語』はシリーズでは6作目であり、12の短編から構成されているが、ヘインズのリストではそれぞれの短編にナンバリングされている(22番から37番まで。番号が12以上になっているのは、他の作品を途中に挟んでいるため[24])。

「ネタ切れ」

野田昌宏は、本作の解説「ターザン、ペルシダーへ行く」で「ネタ切れに大変苦しんでいる[25]と評している。「ターザンが他のシリーズに登場する」という発想は以前からあり、火星シリーズ第4巻(『火星の幻兵団』、1914年執筆、1916年連載)において構想されたものの、破棄されている[26]

また、本作では、サゴス(ペルシダー現住の種族。ゴリラ人間、と呼称される)と、地上の類人猿(マンガニ。ターザンを育てた種族)の言語が同一であることが、ターザンによって確認されている。その上、プロットの一部が『時間に忘れられた国』(1918年)に類似している(#ストーリー参照)。

創元版と武部本一郎

創元版は、バローズの1作目でもある『火星のプリンセス』以降、火星シリーズ金星シリーズ…と、一貫して武部本一郎が手がけていた。ハヤカワ版ではシリーズによって画家が違っており、武部が手がけたのはターザン・シリーズのみである。両社とも、武部の死後は加藤直之が受け継いだ。

また、後に創元社から第1作『ターザン』(1999年)と第2作『ターザンの帰還』(2000年)が刊行されたが、それまでは同社のターザン・シリーズとしては、唯一の作品であった(『石器時代から来た男』が1977年に刊行されたが、ターザンは登場するものの、脇役でしかない)。ターザン・シリーズ#ハヤカワ版と創元版(邦訳順)も参照。

バローズ作品のカメオ出演

ジェイスン・グリドリー自身やグリドリー波によって複数の作品が結びついている例がある他、「ある作品の主人公が、別の作品に登場する」という事例もある。しかし、設定的に重要なのは、本作の他は「月シリーズ」第1部のみで、それも冒頭のみであり、第2部の本文以降は接点が無くなる。

以下、タイトルの後の数字は「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」の作品番号である。複数が振ってあるものは、2部作(3部作)であり、それぞれに番号が与えられているため。

The Outlaw of Torn(8)
未訳。執筆順では、バローズの2作目[27](もしくは1作目[28])に当たる。
13世紀のイギリスを舞台にしており、この時代のグレイストーク卿(ターザンの先祖)が登場する。
石器時代から来た男(9、14)
ターザンが登場する。ただし半裸の「猿人ターザン」としては登場せず、衣服を着たグレイストーク卿として登場し、悪漢の一味に関しても単独行動を取る事無く、仲間と共に当たる。「猿人」としては引退状態である。
第2巻『ターザンの復讐』(創元版は『ターザンの帰還』)と第3巻『ターザンの凱歌』の間に位置する。結局「夢オチ」が採用されており、上記の状態は半ば「なかったこと」にされた。ただし、ターザンの息子ジャックの誕生は、そのまま続編に生かされている。
ルータ王国の危機(10、16)
第1部と第2部の間に『石器時代から来た男』が書かれた(作品番号は発表順であり、執筆順とは異なる)。本作の主人公バーニー・カスターと、その友人バッツオウ中尉が『石器時代から来た男』(こちらではバッツオー)に登場する。また、バーニーの妹ヴィクトリアが、『石器時代から来た男』のヒロインとなっている。
本作第2部冒頭では、ヴィクトリアとバッツオウの間に、ほのかな愛情が通っているものの、出番はそれだけである。
月シリーズ(55、58、59)
第1部『月の地底王国』(創元版は『月のプリンセス』)において、バルスーム(火星)と地球の交信が描かれている。火星からの技術供与で第8光線の原理が解明され、地球から宇宙船が飛び立つものの、事故で月に不時着する。ジョン・カーターについても触れられており、当該作では教科書に載るレベルの知名度を誇っているが、主体は月の内部での冒険である。
第2部では、冒頭で火星との交流が失われた旨、簡潔に記されている。第3部では、アメリカから文明は失われており、インディアンレベルの生活を白人が送っている。
ただし、バローズの作品としては、例外的に未来を舞台にした作品である(2025年~2432年頃まで。雑誌掲載は1923年~1925年)。他に、未来を舞台にしたバローズ作品は、『失われた大陸』、"The Scientists Revolt"(未訳)がある程度であり、かなり例外的である。

脚注

創元版は「エドガー・ライス・バロズ」、ハヤカワ版は「エドガー・ライス・バロズ」と表記ゆれが存在する。

  1. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 関口幸男訳、早川書房ハヤカワ文庫SF〉、野田昌宏1971年、289-296頁では、109作と欠番1つで全110作。しかし、死後に短編「金星の魔法使」(金星シリーズ最終作)や「タンゴール再登場」が発見されており、それらはこのリストには載っていない。
  2. ^ リチャード・A・ルポフ 『バルスーム』 厚木淳訳、東京創元社1982年、261-265頁では69冊。同書14頁で触れてある、「1970年のエース・ブックスのペイパーバック版『金星の魔法使』(それまで未収録だった「海賊の血」を収録)」を入れると70冊になる。
  3. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「地球空洞説の系譜」『地底世界ペルシダー』 佐藤高子訳、早川書房〈ハヤカワ文庫SF〉、野田昌宏、1971年、239頁。
  4. ^ 連載は、第1作が1914年、第2作が1915年。単行本化は、それぞれ1922年1923年
  5. ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『石器の世界ペルシダー』 厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫〉、1976年、359頁によると、1935年
  6. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「ターザン、ペルシダーへ行く」『地底世界のターザン』 佐藤高子訳、早川書房〈ハヤカワ文庫SF〉、野田昌宏、1971年、337頁。
  7. ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『ターザンの世界ペルシダー』 厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫〉、1976年、343頁。
  8. ^ 同上。
  9. ^ 『バルスーム』 178頁。
  10. ^ 『地底世界のターザン』 29頁。
  11. ^ 「訳者あとがき」『ターザンの世界ペルシダー』 343頁。
  12. ^ 『地底世界のターザン』 23頁。
  13. ^ 『地底世界のターザン』 26-27頁。
  14. ^ 『地底世界のターザン』 326頁。
  15. ^ 「訳者あとがき」『ターザンの世界ペルシダー』 342頁。
  16. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 293頁。
  17. ^ 「ターザン、ペルシダーへ行く」『地底世界のターザン』 337頁。
  18. ^ 「訳者あとがき」『ターザンの世界ペルシダー』 340頁。
  19. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 289-296頁。
  20. ^ ヘインズのリストの内、少なくとも『石器時代から来た男』は、通常、シリーズには含めない(ハヤカワ版でも正伝としての刊行予定はなく、別巻扱いでの刊行予定であった)。また、子供向け作品2作("The Tarzan Twins"と"Tarzan and The Tarzan Twins with jad-bal-ja the Golden Lion"、邦訳は『ターザンの双生児』として1冊にまとめられている)は、シリーズに含める場合と含めない場合がある。
  21. ^ 死後、複数の遺稿が発見され、少なくとも5巻が発行された。ただし、未単行本化だった作品も含む。
  22. ^ 『バルスーム』 263頁。
  23. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 293頁。
  24. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 290-291頁。
  25. ^ 「ターザン、ペルシダーへ行く」『地底世界のターザン』 337頁。
  26. ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『合本版・火星シリーズ第2集火星の幻兵団』 厚木淳訳、東京創元社〈創元SF文庫〉、2002年、768-769頁。
  27. ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『ターザン』 厚木淳訳、東京創元社〈創元SF文庫〉、1999年、394頁。
  28. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 289頁。

関連項目


地底世界のターザン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/10/13 21:47 UTC 版)

ターザン・シリーズの登場人物と用語」の記事における「地底世界のターザン」の解説

元版は『ターザンの世界ペルシダー』。ペルシダー・シリーズ第4巻兼ねており、前作戦乱ペルシダー』(創元版は『海賊世界ペルシダー』)の続きとなっている。 ペルシダー 本作の舞台地球内部にある、空洞世界デヴィッド・イネス元版ではディヴィッド・イネス。ペルシダー・シリーズ主人公アメリカ人翼竜から進化したマハールからペルシダー人を解放しペルシダー帝国築いて皇帝就任した前作で、新たな敵コルサール人捕虜となる。彼を救うのが、本作メイン・テーマとなっている。本作での出番極めて短く実質的に登場しないアブナー・ペリー デヴィッド友人であり、技術者でもある老人ペルシダー帝国ライフル帆船もたらした前作デヴィッド窮地伝え以後サリペルシダー帝国実質的な首都)で艦隊建造していた。直接登場しないジェイスン・グリドリー 本作ゲスト・ヒーローペルシダー・シリーズ前作では、冒頭最後のみの出番に留まった。ペリー通信相手。 グリドリー波の発見者であり、グリドリー波はペルシダーのみならずバルスームとの通信にも使われている(火星シリーズ第7巻火星秘密兵器』、第9巻火星の合成人間』)。金星シリーズ第1巻金星海賊』の序盤に、わずかながら登場し後述フォン・ホルスト生存連絡している。 本作では、デヴィッド救出名乗りを上げ計画練り隊長ターザンスカウトした。飛行船0-220号は、ターザン(と、前作ゲスト・ヒーローであるエリッヒ・フォン・ハーベン)の御蔭新素材ハーベナイトで建造され予想上の扱いやすさを示した。 しかし、まずターザンが、自身過信して遭難ペルシダーでは太陽動かず星空もないため、方向見失った)、グリドリーやワジリ族(ムヴィロ以下、10名)も二次遭難しデヴィッド救出どころではなく終盤まで本筋から離れた行動となったフォン・ホルスト 飛行船0-220号の乗組員航空士)。彼のみ、最後まで消息不明となった。グリドリーは責任感じ、彼を探すために残留志願する。しかし、後日語られたところでは、ターザンらが「デヴィッドが、ペルシダー人で構成した捜索隊組織する方が効果的」と説得したため、グリドリーは0-220号で地上戻ったフォン・ホルストは、ペルシダー・シリーズの次巻『栄光ペルシダー』(創元版は『石器世界ペルシダー』)で主人公務め最終的にデヴィッド出会いサリ行き勧められている。答え明らかにされていないが、彼の妻であるロ・ハール族のラ・ジャサリ移住したようなので(第7巻ペルシダー還る』。創元版は『美女世界ペルシダー』)、ホルストサリ住んでいると思われるジャナ 本作ヒロイン。<ゾラムの赤い花>と呼ばれる美女。グリドリーと結ばれる。彼女もサリ行き志願したが、実際はグリドリーと地上向かった思われる第6巻で、ゾラム族のズォル(創元版ゾール)が「ジャナ恋人別世界行った」と説明している)。 ソアという兄がおり、彼はターザン行動を共にしている。 タル・ガシュ サゴス族(ゴリラ人間、と説明されている)の一員で、一時期ターザン行動を共にした。 名前の意味は「白い牙」。マンガニの言葉使っており、その偶然にターザン興味覚えたズップナー 飛行船0-220号の船長務める。部下には、フォン・ホルストの他、彼と同じ航空士ドルフ操縦士にはハインズ中尉などがいる。 コルサール人 エル・シド頭領とする海賊国家デヴィッド推測では、北極の穴を通ってきた地上人末裔。意味はコルセア語源、と作中では思われている。帆船マスケット銃使い人海戦術押し立てる前作では、マハール狩り立てエル・シド以下、幹部クラス登場したが、本作では無関係人物のみしか直接には登場していない。 アノロックのジャ 本名ジャのみだが、通り名として出身地をつけて「アノロックのジャ」と呼ばれることが多い。海洋民族(島で生活している)であり、ペルシダー帝国では海軍提督ペリー建造した艦隊率い、コルサールを目指していたところ、ターザンらと合流。すぐに飛行船O-220号とも合流しデヴィッド無血解放させる。 ムヴィロ、ワジリ族についてはワジリ族と関係者参照

※この「地底世界のターザン」の解説は、「ターザン・シリーズの登場人物と用語」の解説の一部です。
「地底世界のターザン」を含む「ターザン・シリーズの登場人物と用語」の記事については、「ターザン・シリーズの登場人物と用語」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「地底世界のターザン」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「地底世界のターザン」の関連用語

地底世界のターザンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



地底世界のターザンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの地底世界のターザン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのターザン・シリーズの登場人物と用語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS