一人っ子政策の問題点
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「一人っ子政策」の記事における「一人っ子政策の問題点」の解説
一人っ子政策の影響と長寿化のため、中国の人口の高齢化は急速に進むと予想された。これに社会保障制度の設計が追い付かず、中国は高齢化への備えが不十分なまま少子・高齢化社会へ突入することになる。このことが貯蓄の減少・消費の低迷・設備投資の鈍化などを通じて経済成長にボディーブローのように影響を与えることが懸念された。 一人っ子政策が開始されて、四半世紀が経ち、1人の女性が生涯に産む子供の数の平均を示す合計特殊出生率は1.5~1.6に落ち込んでいるとされるが、国勢調査や毎年の標本調査の結果は1.0~1.2とされる。これは人口の自然増と自然減との境目の2を大きく下回っている。このため、北京大学の梁建章、李建新ら一部の中国人学者はこの一人っ子政策が、1974年にフォード政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官、ヘンリー・キッシンジャーの下でアメリカ国家安全保障会議が作成した「国家安全保障課題覚書200(英語版)」、いわゆる「キッシンジャー・レポート」に関与するものだと主張している。この覚書の趣旨は開発途上国の人口爆発が資源・食料の不足や現地政権の基盤の不安定を招き、米国の安全保障上の障害となりうるため、発展途上国の人口抑制に関する開発援助を実施するように米国政府に提言していた。その後、アメリカは国際連合などの国際組織や非政府組織を通じて発展途上国に対して人口抑制のメリットを宣伝し、各国の人口学者の養成や政策の形成に影響できる官僚に人口抑制策に関する研修を提供した。中国は覚書で名指しされなかったものの、中国政府は1980年に、1972年から同年までの間に8回中国を訪問した国際連合人口基金の高官と国勢調査、計画生育、人口学などの研究プロジェクトを導入する協議に合意し、同年の一人っ子政策を正式に導入した。 一人っ子政策により、都市部の若者の多くは、兄弟姉妹を持たず、「1-2-4体制」(子供1人を2人の親と4人の祖父母が世話をする)の中で成長したことで、他者とのコミュニケーションの能力に欠けた利己的な子供を生みだしていると言われる。また、第2子以降を産んだことによる不利益を恐れて公式に届出がなされず戸籍に登録されないままとなっている、いわゆる黒孩子が多数発生しており、2010年の中国政府の統計においてすらその数は1300万人に上るとされている。 一人っ子(独生子女)を失った「失独家庭」は100万世帯に上るとされる。彼らはネットで交流するなどして連帯し、このうち3000人以上が政府に補償を求める陳情を展開したが、認められなかった。そこで約180人が、「2人目の出産が認められなかったために、老後の介護などで子供から得られる利益を失った」として2015年5月に北京第1中級人民法院に提訴した。同法院は訴えを受理せず、日本の高等裁判所にあたる高級人民法院も「国家の政策調整の範囲内であり、裁判所が受理する案件ではない」との判断を示した。原告側は日本の最高裁判所にあたる最高人民法院に不服申し立ての手続きをとっている。2016年4月18日、彼らのような唯一の子供を事故や病気で失った親ら1000人が中国各地から北京に集まり、政府の国家衛生・計画出産委員会のビルの前で抗議活動を行った。「失独者」と書かれた帽子を被り、「政策の犠牲になった者の存在を忘れるな」、また「政府のサポートが足りない」として、政府に暮らしと老後のケアを訴えた。北京の警備が厳しさを増す中で1000人規模の抗議活動は異例である。警官隊が駆けつけ数10台のバスを並べ、市民の目から、抗議の様子を遮断した。 高齢化のペースが日本などの先進各国より早いペースで進むことも、一人っ子政策の結果である。中国民生部の統計によると2014年末時点で65歳以上の高齢者は1億3755万人であり、人口の10パーセントを占めるが、2034年には人口の20パーセントに達すると推計される。国が豊かになる前に高齢化の波が押し寄せるという意味の「未富先老」という言葉も中国メディアを賑わすようになった。他方でこれまで中国では、「親の介護は子どもがすべき」という伝統が根強かった。2013年に施行された『改正高齢者権益保障法』でも「高齢者と別居する家族は、日常的に帰るか連絡すること」と明記する。しかし、一人っ子政策や出稼ぎ労働の広がりで、家族だけで親の面倒を見ることが難しくなってきたため、この習慣も変わりつつある。習近平党総書記は2016年2月、「高齢化に効果的に対応しなければならない」と党と政府に指示して、老人介護を重大政策に掲げた。 一人っ子政策の柱の1つである「優生」を担う「優生優育」政策(簡体字: 优生优育)と呼ばれる障害者の出生率を抑制する優生学的国家政策も生命倫理や人権の観点から問題視されている。中国優生優育協会、中国優生科学協会がこの政策を支える社会団体(日本の独立行政法人や外郭団体に近い)として中国政府の下で設立されている。この「優生優育」などに代表される研究者や政府の都合を優先する中国の組織風土は2018年11月に中国で世界初の遺伝子操作されたヒトの出産が発表されて国際的な波紋を呼んだ際に槍玉にあがった。 また、一人っ子政策による一人っ子は小皇帝(女児の場合は小皇后)と呼ばれ、兄弟姉妹のいない環境下で過保護に育てられたとされ、「我儘」「協調性がない」等と批判されてきた。このため同程度の学歴、年収、実力でなければ結婚しない傾向が強くなってしまい、女性は「剰女(シェンニュイ=余り女)」と呼ばれ差別されてしまった。
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