ライム病とは? わかりやすく解説

ライム病

ライム病(Lyme disease またはLyme borreliosis)は、野鼠小鳥などを保菌動物とし、野生マダニマダニマダニ)によって媒介される人獣共通の細菌スピロヘータ)による感染症である。19世紀後半より欧州報告されていた、マダニ刺咬後に見られる原因不明神経症状(Garin‐Bujadoux 症候群、Bannwarth 症候群、Hellerstrom 病など)、1970 年代以降アメリカ北西部中心に流行続いている、マダニ刺咬後に見られる関節炎、および遊走性皮紅斑良性リンパ球腫、慢性萎縮性肢端皮膚炎髄膜炎心筋炎などが、現在ではライム病の一症状であることが明らかになっている。

疫 学
欧米では現在でも年間数万人のライム病患者発生し、さらにその報告数も年々増加していることから、社会的に重大な問題となっている。
本邦では、1986年に初のライム病患者報告され以来、現在までに数百人の患者が、主に 本州中部以北(特に北海道および長野県)で見い出されている。欧米現状比較して本邦でのライム病患者報告数は少ないが、本邦においても野鼠マダニ病原体保有率は欧米並みであることから、潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと推測されている。感染症法施行後報告数としては、1999年4~12月に14 例、2000年1~12月12となっている。

病原体

ライム病をおこす病原体であるボレリアは数種類確認されている。北米では主にボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi )、欧州ではB. burgdorferi に加えて、ボレリア・ガリニ(B. garinii )、ボレリア・アフゼリ(B. afzelii )が主な病原体となっているが、本邦ではB. garinii 、B. afzelii が主な病原体となっていると考えられている。

ライム病

1. イクソデス・マダニ
(左から幼虫、飽血幼虫若虫、飽血若虫成虫メス、飽血成虫メス
旭川医科大学 宮本健司、中尾稔両博士提供)

ライム病ボレリアは、野山生息するマダニ(イクソデス・マダニ、図1)に咬着されることによって媒介伝播される北米においては主にスカプラリス・マダニ(Ixodes scapuralis )、欧州においては主にリシナス・マダニ(I. ricinus )がライム病ボレリア伝播するとされている。本邦においてはシュルツェ・マダニI. persulcatus )の刺咬後にライム病を発症するケースがほとんどで、これらマダ ニ本州中部以北山間部棲息し、北 海道では平地でもよく見られる一般家庭 内ダニ感染することはないとされている)。

臨床症状 (表1a, b)
感染初期stage Iマダニ刺咬部を中心とする限局性の特徴的な遊走性紅斑呈することが多い。随伴症状として、筋肉痛関節痛頭痛発熱悪寒倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑出現期間は数日から数週間といわれ、形状環状紅斑または均一性紅斑がほとんどである。
播種期stage II体内循環を介して病原体全身性拡散するこれにともない皮膚症状神経症状心疾患眼症状関節炎筋肉炎など多彩な症状見られる
慢性期stage III感染から数カ月ないし数年要する播種期症状加えて重度皮膚症状関節炎などを示すといわれる本邦では、慢性期移行したとみられる症例現在のところ報告されていない症状としては、慢性萎縮性肢端皮膚炎慢性関節炎慢性脳脊髄炎などがあげられる

表1-a. ライム病の臨床症状

早期症状stage I, stage II
  限局性 遊走性紅斑
インフルエンザ様症状倦怠感頭痛発熱など)
拡散性播種性) 神経症状脊髄神経根炎、髄膜炎顔面神経麻痺
循環器症状刺激伝導系障害性不整脈心筋炎
皮膚症状二次性紅斑良性リンパ球腫)
眼症状虹彩炎角膜炎
関節炎筋肉炎など
晩期症状stage III 慢性萎縮性肢端皮膚炎
慢性関節炎

表1-b. ライム病の鑑別診断

病期 臨床症状 鑑別診断

早期限局性

遊走性紅斑 体部白癬銭形湿疹環状肉芽腫蜂巣炎刺虫
神経症状 ベル麻痺中枢神経系腫瘍
心臓 ウイルス性心筋炎急性リウマチ熱心内膜炎

早期拡散性

髄膜炎 ウイルス性髄膜炎髄膜周囲炎、髄膜脳炎その他の無菌性髄膜炎

晩期

関節炎 化膿性関節炎急性リウマチ熱幼年リウマチ関節炎、Henoch-Schonlein 紫斑病コラーゲン血管病、出血傾向悪性滲出外傷性滲出血友病


病原診断
ライム病の診断には、欧米では、流行地での媒介マダニとの接触機会などの疫学的背景遊走性紅斑やその他ライム病に合致する臨床症状、さらに米国疾病管理予防センターCDC)が示した血清学診断基準表2)、などから総合的に判断することが推奨されている。
病原体検出病原体ボレリア分離培養にはBSKII 培地用いられており、紅斑部からの皮膚生検分離が可能である。欧米では脳炎患者髄液からも稀に分離されているが、血液からの分離難しいとされている。
血清診断本邦では輸入例、国内例ともにみられるため、それぞれに適した血清診断抗原選択する必要があり、北米からの輸入例が疑われる場合には、血清診断はコマーシャルラボ経由米国臨床検査ラボにて行う。欧州からの輸入例および国内例では、感染症研究所細菌部で検査が可能である。

第1ステップ Enzyme immunoassayEIA)あるいはImmunofluorescent assayIFA)により試験する

EIA あるいはIFA陽性擬陽性であった検体ではWestern immunoblot(WB)を行い、以下の場合最終的に抗体陽性とする。

第2ステップ 1)WB で主要表層抗原C (OspC)、ボレリア膜タンパク質A (BmpA)、鞭毛抗原のうち少なくとも2つ以上に対してIgM 抗体価が上昇していること。
2)WB で18kDa 抗原、OspC 、28kDa 抗原、30kDa 抗原、BmpA 、鞭毛抗原、45kDa 抗原、58kDa 抗原、66kDa 抗原、93kDa 抗原のうち、少なくとも5つ以上に対してIgG 抗体価が上昇していること。

【ライム病血清診断情報受付窓口
ライム病血清診断に関する問い合わせ、およびライム病情報受付窓口は以下の機関が行っている。
国立感染症研究所 細菌第一部 第四室
 〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1
 TEL:03-5285-1111(内線2224
 FAX:03-5285-1163

 研究協力機関としては
千葉科学大学薬学部免疫微生物学研究室 増沢幸先
 〒288-0025 千葉県銚子市潮見町3番
 TELFAX:0479-30-4685

旭川医科大学 皮膚科学教室 橋本喜夫先生
 〒078-8307 北海道旭川市西神楽4線5号3番地の11
 TEL:0166-65-2111

治療・予防
ライム病ボレリアには抗菌薬による治療が有効である(表3)。マダニ刺咬後の遊走性紅斑にはドキシサイクリン髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソン第一選択薬として用いられており、薬剤耐性今のところ報告されていないマダニ刺咬によるエーリッキアの重複感染疑われる場合には、ドキシサイクリンもしくはテトラサイクリンが有効とされている。
予防には、野山マダニの刺咬を受けないことがもっとも重要である。マダニ活動期(主に春から初夏、および秋)に野山出かけるときには、1)むやみになどに分け入らないこと、2)マダニ衣服への付着確認できる白っぽい服装をすること、3)衣服の裾は靴下中にいれ、虫よけをし、マダニを体に近寄らせないこと、などを心がける。また万一刺咬を受けた場合には、自分マダニを引き剥がさず病院皮膚科切除してもらうのがよい。無理に体を剥ぎ取るマダニの刺口が皮膚の中に残り感染増長する場合がある。
ワクチンとしては、米国ではFDA認可受けたものがあるが、本邦では導入されていない

表3. ライム病の抗菌薬による治療

参考論文:Nadelman RB, Wormser GP., Lyme borreliosis, Lancet 1998;352:557‐565.)

臨床症状 抗菌薬

遊走性紅斑顔面神経麻、 良性リンパ球腫など

Doxycycline *
Amoxicillin
Cefuroxime axetil
Phenoxymethylpenicillin
Penicillin V)
Tetracycline *

髄膜炎神経根炎、末梢性神経炎など**

Ceftriaxon
Cefotaxime
Doxycycline
Penicillin G

14
14
1428
14

慢性関節炎

Doxycycline
Amoxicillin
Ceftriaxon

*エーリッキアの重複感染疑われる場合doxycycline もしくはtetracycline適用
** 脳炎移行している場合は、投与期間 (~4W) を延長できる

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
ライム病は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りである。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
病原体検出
 例、生体試料からの分離培養など
病原体対す抗体検出
 例、血清ELISA 法Western Blot検査など


国立感染症研究所細菌部 川端

  





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