ECコミック
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エンターテイニング・コミックス(Entertaining Comics)は、主にECコミック(EC Comics)の名で知られている、1940年代から1950年代にかけて、犯罪漫画(猟奇作品)、恐怖漫画、風刺、戦記、SF漫画の分野で活動していたアメリカ合衆国の漫画出版社であり、後には検閲制度の圧力によりユーモア雑誌『MAD』の発行に専念するようになった。ECコミックはアメリカンコミック業界の開拓者の一人マクスウェル・ゲインズの私有企業であり、後に息子のウィリアム・ゲインズに受け継がれた。
- ^ Goulart, Ron. Comic Book Encyclopedia (Harper Entertainment, New York, 2004)
- ^ この文句はECのホラーコミックに掲載された『ワイアード・サイエンス』と『ワイアード・ファンタジー』の自社広告に頻繁に使われていた。
- ^ Diehl, Digby Tales from the Crypt: The Official Archives (St. Martin's Press, New York, NY 1996) pp. 30-32
- ^ Diehl, 前掲書, p. 48-49
- ^ Diehl, 前掲書, p. 51
- ^ Diehl, 前掲書, p. 50
- ^ (1980) The Complete EC Library: Weird Fantasy Volume 3 (in English). Russ Cochran.
- ^ Diehl, 前掲書, p. 37,40
- ^ Diehl, 前掲書, p. 83
- ^ Von Bernewitz, Fred and Geissman, Grant Tales of Terror: The EC Companion (Gemstone Publishing and Fantagraphics Books, Timonium, MD & Seattle, WA, 2000) p. 94
- ^ Diehl, 前掲書, pp. 94
- ^ アル・フェルドスタイン原作、ジョー・オーランド作画のこの作品は、かつて『ワイアード・ファンタジー』誌第18号(1953年3-4月号)に掲載された作品であり、倫理規定委員会により最初の別作品が却下されたために再録された。
- ^ a b Diehl, 前掲書, p. 95
- ^ Von Bernewitz and Geissman, 前掲書, p. 88
- ^ Diehl, 前掲書, pp. 148-9
- ^ Diehl, 前掲書, p. 147
- ^ Diehl, 前掲書, p. 150
- 1 ECコミックとは
- 2 ECコミックの概要
- 3 『MAD』およびその後
エンターテイニング・コミックス
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「ECコミック」の記事における「エンターテイニング・コミックス」の解説
1947年にマックス・ゲインズがボート事故で死亡すると、マックスの息子ウィリアムがこの漫画出版社を引き継いだ。陸軍航空隊での1942年から1946年までの4年間の兵役の後、ウィリアムは化学教師として身を立てる計画を立て、ニューヨーク大学で学業を修めるべく実家に戻っていた。ウィリアムは教職に就かず、代わりに家業を受け継ぐことになった。1949年と1950年に、ウィリアム・ゲインズはホラー、サスペンス、サイエンスフィクション、戦記、犯罪物を主題に取り扱ったシリーズの導入を始めた。ECコミックの編集者アル・フェルドスタインとハーヴェイ・カーツマンは、ジョニー・クレイグ、リード・クランドール、ジャック・デイヴィス、ウィル・エルダー、ジョージ・エヴァンス、フランク・フラゼッタ、グレアム・インジェルス、ジャック・ケイメン、バーナード・クリグスタイン、ジョー・オーランド、ジョン・サヴァリン、アル・ウィリアムソン、ベイシル・ウォルヴァートン、ウォリー・ウッドらの有名かつ熟練したフリーランスの作画家達に仕事を依頼した。カーツマンとフェルドスタイン自身もまた作画を手掛けており、それらの原作はゲインズの助言の下に、主に二人の編集者とクレイグにより執筆されていた。後に、カール・ウェスラー、ジャック・オレック、オットー・バインダーらの他の原作者が加わった。 ECはその斬新なアプローチと、編集部に寄せられファンレターおよびファンクラブ「全国ECファン・中毒者クラブ」を通じて読者との交流を開拓することで、成功を収めた。その原作が極めてセンセーショナルな物である一方で、作画は非常に丁寧な物であった。 作画家個人の署名を作品に入れる事を許可し、個性的な画風の開発を奨励し、更にはコミック誌の中に1ページの作画家紹介ページを盛り込むことで、ECコミックは作画家チームの地位を向上させた。これはしばしば作画家の名前がクレジットされない当時の漫画業界の慣習とは対照的な物であった。ただし、マーベル・コミックのジャック・カービーとジョー・シモンのチームや、クオリティ・コミックのジャック・コール、DCコミックスのボブ・ケイン等の、高い名声を得ていた他社の作画家らも存在する。 ECは一連の卓越したタイトルを、エンターテイニング・コミックスの社名の下に出版した。最も悪名高かったのは、ホラー誌『テールズ・フロム・ザ・クリプト(地下室の物語)』『ザ・ヴォルト・オブ・ホラー(怪奇の納骨所)』『ザ・ホーント・オブ・フィアー(恐怖の巣窟)』の3誌である。これらのタイトルでは、物語の主人公の多くに与えられた不気味で皮肉に満ちた運命を通じて、身の毛もよだつような「生の喜び」が描かれていた。ECの戦記コミック誌『フロントライン・コンバット(最前線の戦闘)』と『トゥーフィステッド・テイルズ(鉄拳の物語)』では、当時の愛国主義的な風潮に抗って、しばしば死んだ魚のような目をした英雄とは呼べないような主人公の物語が扱われていた。『ショック・サスペンストーリーズ』誌では、人種差別、性、薬物使用、アメリカ的生き方の是非の様な、深刻な問題が取り扱われていた。ECは自社のSFコミック誌『ワイアード・サイエンス』や『ワイアード・ファンタジー』を、フィクション・ハウス社の『プラネット・コミックス』誌に掲載されているようなスペースオペラではない真のSF作品を掲載する、「我が社の最も誇るべきSFタイトル」と常に自慢していた。『クライム・サスペンストーリーズ』誌の作品は、フィルム・ノワールの映画と多くの共通点を持っていた。ミステリー作家マックス・アラン・コリンズが自作の中で述べた、ラス・コクランにより1983年に復刻された『クライム・サスペンストーリーズ』に関する注釈によれば、ジョニー・クレイグは彼の画風において「フィルム・ノワール風の一群の効果」を開発しており、一方でECの犯罪漫画に表れる人物やテーマからは、しばしばフィルム・ノワールに関連付けられる作家達、特にジェームズ・M・ケインからの強い影響が散見できるという。 傑出したイラストにより描かれる衝撃的な結末の物語が、ECのトレードマークとなっていった。ゲインズは毎晩遅くまで大量の書籍を読み漁り、物語の主題となる着想の源を捜し求めていた。その翌日にはフェルドスタインが原作に発展させられそうなアイデアを思い付くまで、発掘してきた素材を次々に提示してみせるのであった。ECの最盛期には、カーツマンが3本のタイトルを担当していたのに対し、フェルドスタインは7本のタイトルを担当していた。作画家らには各々の画風に応じた原作が割り当てられていた。デイヴィスとインジェルスはしばしば戦慄的な超自然テーマの原作を作画し、一方ケイメンとエヴァンスは比較的穏健な原作を担当していた。 数百本の作品が執筆される中で、主要に取り扱われる基本的なテーマがあった。EC作品のよく知られたテーマの幾つかを以下に挙げる。 平凡な状況がもたらす皮肉かつ恐ろしい顛末。しばしば登場人物の犯罪に対する因果応報が描かれる。「コレクション完成(Collection Completed)」と題された作品では、妻に対する当てつけのために剥製作りに没頭する男が登場する。男が妻の可愛がっていた猫を殺して剥製にすると、我慢の限界を越えた妻は男を殺し、男の死体を剥製にして飾る。「嫌悪感(Revulsion)」は、昔自分の食事に紛れ込んでいた虫を見つけたことで、虫への嫌悪感を抱くようになった宇宙パイロットの話である。物語の結末では、巨大な昆虫型エイリアンが自分のサラダの中にいるパイロットの死体を発見し、恐怖の叫び声を上げる。生物の解剖、鍋の中で茹でられるロブスター、メキシカン・ジャンピング・ビーン、毛皮のコート、魚釣り等もこれらの状況の一例であり、上の様なやり方で扱われる。 『ヘンゼルとグレーテル』『眠り姫』『赤頭巾』等の童話を、身の毛もよだつような形に翻案した「恐ろしいお伽話」シリーズ。 シャムの双生児は、主にECの三大ホラー誌で人気のあるテーマであった。1950年から1954年にかけて、少なくとも9本以上のシャムの双生児漫画がECのホラーおよび犯罪コミック誌に登場している。フェルドスタインへのインタビューでは、あたかも彼ら自身がシャムの双生児であるかのようなゲインズとフェルドスタインの相互依存ぶりが、二人にこれだけ多数のシャムの双生児物を書かせた原因ではないかと考察されている。 レイ・ブラッドベリのSF短編の漫画化作品は、1952年に始まって20冊に及ぶECのコミック誌に登場した。この企画はフェルドスタインとゲインズがブラッドベリの2本の短編を剽窃し、1本の漫画作品として組み合わせたと言う不名誉な事件から始まった。この漫画を読んだブラッドベリは二人に賞賛の手紙を送り、その中で、「何かの手違いで」自分がまだ原作使用料を受け取っていないと書き添えた。ECは小切手を送付し、ブラッドベリの漫画化作品のシリーズ化を交渉した。 政治的なメッセージを含んだ作品は、ECのSF及びサスペンスコミックの基本的なテーマとなっていた。扱われた論題としては、リンチ行為、反ユダヤ主義、警察の腐敗等がある。 ECの三大ホラー誌には3人組の物語の案内人が登場していた。『テールズ・フロム・ザ・クリプト』を案内するクリプト・キーパーと、『ザ・ヴォルト・オブ・ホラー』で読者を出迎えるヴォルト・キーパーと、『ザ・ホーント・オブ・フィアー』にけたたましい笑い声を響かせるオールド・ウィッチである。悪意に満ちた物語の筋書きを楽しげに詳しく述べ立てながら、案内人達は他の案内人とくだらない口喧嘩をし、次々に駄洒落を飛ばし、読者を嘲笑し侮辱しさえする。「ようこそ、腫れ物に食屍鬼どもよ……」と。この読者に対する無礼な嘲りは、同社のパロディ雑誌『MAD』のトレードマークにもなり、その言葉巧みなやり取りは、後にマーベル・コミックのスタン・リーを含む多数の原作者に模倣された。 最も後まで残されたECの遺産は、パロディ雑誌『MAD』である。この雑誌はECの成功が確実なものとなる前にカーツマンの副企画として開始され、アメリカで最も有名で最も長続きしたユーモア出版物となった。1954年に風刺が大ブームとなり他の出版社が『MAD』の模倣雑誌を出版すると、ECは姉妹雑誌『パニック』を創刊した。『パニック』はアル・フェルドスタインにより編集され、ジョー・オーランドを加えた『MAD』の常連作画陣が参加していた。
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