本末転倒
本末転倒(ほんまつてんとう)とは、本来重要であるべき事柄と、それよりも重要度が低い事柄が逆転してしまう状況を指す言葉である。本来の目的や主要な事柄が二の次になり、副次的な事柄が優先されることで、全体のバランスが崩れることが特徴である。
本末転倒の具体的な例としては、企業経営において利益追求が過度になり、社会的責任や従業員の福利厚生が犠牲になるケースや、学校教育において試験の点数ばかりを重視し、生徒の人間性や個性を育てることがおろそかになるケースなどが挙げられる。
本末転倒
本末転倒とは、「重要な部分とどうでもいい部分を取り違えること」や「手段と目的を履き違えること」あるいは「逆効果になること」などの意味で用いられる表現である。本末転倒の「本末(ほんまつ)」は、「根本と枝葉」「大切なことと些細なこと」「本寺と末寺」などを意味する語。同じく「転倒(てんとう)」は「さかさまになること」を意味する語である。
本末転倒の語源・由来
本末転倒の由来としては一説には、鎌倉時代に、仏教の宗派のうち末寺が檀家を増やして栄えるようになり本山よりも力を持つようになったことという事象が、この言葉の由来であるとされる。「本山」というのは仏教のその宗派に属する寺を統括する寺院のことを意味し、末寺というのは何らかの本山に属する立場の寺のことを指す。本末転倒の類語、似た表現、言い換え表現
本末転倒の類語には、「釈根灌枝」や「冠履転倒」などの表現が挙げられる。「釈根灌枝(しゃくこんかんし)」は「木の根をほったらかしにして木の枝にばかり水をやる」こと、つまり無駄なことに気を取られて大事な部分を疎かにするということである。
「冠履転倒(かんりてんとう)」は「冠と履物の位置が逆になっている」さま、つまり物事の順序・価値・上下関係などが乱れているということである。
本末転倒の例文、使い方
本末転倒の英語表現
「本末転倒」の意味で使える英語表現としては、以下のような表現が挙げられる。- get one's priorities wrong ・・・優先順位をつけ間違う
- mistake the means for the end ・・・手段を目標と取り違える、手段が目的化してしまう
- confuse the order of things ・・・順序を間違える
- put the cart before the horse ・・・ 直訳すると「馬車を馬の前に取り付ける」、つまり「本末転倒」
「本末転倒」と「元も子もない」の違い
「元も子もない」というのは「全てを失ってしまう」「元金も利息もない」といった意味合いの表現で、本末転倒とは意味合いは異なる。「本末転倒」と「身も蓋もない」の違い
「身も蓋もない」というのは、言葉や表現が露骨でむき出しなことを意味する慣用句で、本末転倒とは意味合いは異なる。本末転倒
「本末転倒」とは・本末転倒の意味
「本末転倒」とは、「力の入れ方を間違える」「本来の目的が変わってしまう」といった意味の四文字熟語であり、「元も子もない」とは異なる言葉だ。本末転倒の「本」とは「中心、主格、大筋」などを意味する言葉である。それに対して、「末」は「脇、枝葉、重要でない部分」などを表す言葉だ。そして、この場合の「転倒」は「入れ替わる」を意味する。そのまま意味をなぞると、本末転倒は「中心と枝葉が入れ替わってしまう」となるだろう。ここから派生して、「大切だと思ってしたことが、いつのまにかどうでもいいことに取って代わられてしまう」という文脈で使われるようになった。
わかりやすい例を挙げる。ある人が会社で、売上を伸ばそうと必死で働いていた。しかし、あまりにも無理をしすぎて、残業ばかりするようになった。残業が増えると当然、人件費も高くなってしまう。会社のために働いていたにもかかわらず、負担をかけてしまったのは本末転倒だといえるだろう。「利益を出す」と「長く働く」という目的がすり替わってしまったのである。この例えのように、本末転倒はネガティブな文脈で使われることが多い。本末転倒は教訓の意味合いが強い熟語であり、誰かをいさめたり、教育したりするときに引用されてきた。
「つまらないことにこだわる」のも本末転倒があてはまる状況だ。例を挙げる。Bさんはダンス教室に通っていた。ダンスの楽しさに目覚めたBさんは、順調に成長していく。そしてついに、Bさんは発表会の舞台に立つこととなった。ところが、Bさんは発表会の間、衣装選びに熱中してしまう。ダンスの練習をしようともせず、着る服ばかり考えていた。本番を迎えて、Bさんは大失敗をする。もしも一番大切なダンスの練習をしていたなら、Bさんは舞台を成功させられていただろう。衣装という、些細な事柄にとらわれて大きな目的を台無しにしてしまったのだ。Bさんの考えは本末転倒である。
「悪気はない行動が逆効果になる」という例もある。Cさんは、やる気のある新入社員だった。Cさんは先輩の影響で、朝早く出社して机の掃除をするようになった。整理整頓をするうち、頭もすっきりして眠気が覚めたからだ。やがてCさんは自分の机だけではなく、同僚の机も掃除するようになった。しかし、同僚の机は散らかっているようで、本人なりに整理がなされていた。Cさんはかえって、同僚の仕事の邪魔をしていたのである。Cさんの熱意は本末転倒になってしまった。
本末転倒とよく似た意味の言葉に「元も子もない」がある。いずれも「努力が無駄になってしまう」という教訓は同じの言い回しだ。ただし、「元も子もない」には「大きな損失が出た」というニュアンスがある。本末転倒には「よい結果を出せなかった」というニュアンスはあるものの、「元も子もない」ほどの壊滅的な被害は示されていない。結果がひどく悪いときには「元も子もない」を使い、それほど深刻でないなら「本末転倒」を使うのがふさわしい。
たとえば、Aさんが利益を求めるあまり、残業を多くしてしまうのは本末転倒の事態である。しかし、Aさんが残業を多くして、体も壊し、人事評価まで下げてしまったとなると本末転倒と表現するにはやや甘い。「元も子もない」と表すのが適切だ。
そのほかにも、本末転倒と混同しやすい四文字熟語に「主客転倒」がある。主客転倒は「主なものと付属のものが逆転する」という意味で、「目的がすり替わること」を表す本末転倒とは微妙に用途が異なる。「上司が部下に言いくるめられる」「子どもが親よりもスポーツで好成績を収める」などの場合に、主客転倒はあてはまるだろう。
英語圏にも本末転倒に近い言葉はある。「put the cart before the horse」は「馬がいないのに荷車を持ってくる」という意味のことわざだ。本来なら馬に荷車を引かせなくてはならない。荷車だけあっても、それを引けるものはいないからだ。つまり、荷車を先に持ってくるのは優先順位が逆転してしまっている。日本における本末転倒と同じ意味のフレーズだといえるだろう。
「本末転倒」の語源・由来
本末転倒は鎌倉時代の事件が基になっているとされる。当時、仏教は宗派を問わず「本山」が巨大な力を持っていた。末山と呼ばれる傘下の寺は、本山の指示を仰ぐ形で存続していた。ただ、鎌倉時代の本山は武家や公家のためのものだったといわれている。本山は裕福な人々に仏教を説き、大きな利益を得ていた。しかし、庶民は高尚な本山に参ることができない。そこで、庶民向けに開かれた末山に参るしかなかった。やがて末山の数が増えると、本山の権力がどんどん弱まっていく。最終的に、仏教は庶民中心の宗教となり、末山が発展していった。この逆転現象を「本末転倒」の由来だとする説がある。「本末転倒」の使い方・例文
・君の言っていることは本末転倒だよ。どうしてこれ以上、あの会社の手伝いをする必要があるんだい?前までは向こうもうちの会社を手伝ってくれた。でも、今では誰も協力してくれていないじゃないか。・その画家はなかなかモチーフを見つけられないでいた。せめて創作意欲がわいてきてほしいと、彼は宇治川に毎日通っていた。しかし、絵も描かずにお茶を飲み、散歩をしているだけだ。これでは本末転倒だと自覚していた。
・彼女は心からスイミングスクールに通うのが好きだった。しかし、中学校に上がってからは、勉強をしない言い訳に、水泳を持ち出すようになっている。以前ほど、純粋に水泳を楽しめているわけでもない。これでは本末転倒だ。
・本末転倒だと指摘されて、ようやく気付いたんだ。確かに僕は彼女を愛していた。でも、海外に連れて行こうとしたのは、兄貴よりもいい生活をしたかったからなんだ。それで彼女を苦しめてしまった。人生の目的を見失っていたよ。
・新監督は選手にフィールド上で、激しく守備をするように命令した。選手たちは前半の間、とてもよく走ってボールを追いかけた。しかし、それで後半は走れなくなるなら本末転倒だ。監督は疲れがひどくなってからのプランも用意していた。
・映画ファンは本末転倒な事態に陥りやすい。彼らは感動や興奮を求めて映画館に通っていたはずなのだ。しかしいつからか、彼らは映画の内容よりも鑑賞本数や、使ったお金の合計を自慢するようになっていく。
・私は都会の暮らしが嫌で田舎に来た。農業を営みながら、自然の中で暮らすのはとても幸せだった。でも、畑を増やすと毎日忙しく働かなければならなくなった。都会のころよりもたいへんで、本末転倒だ。
ここからは、本末転倒の間違った用法を挙げていく。
・自分の子供に何も言い返せないのか。本末転倒じゃないか。親としてちゃんと説教してやらなくちゃ。
本来の主従関係が逆転しているという意味なら、本末転倒はしっくりこない。「主客転倒」とするほうが的確だろう。
・顧問として生徒たちを勝たせてやりたかった。でも、生徒たちは厳しい練習についてくることができず、ついに主力が怪我をしてしまった。教育委員会は事態を重く受け止め、私は更迭された。本末転倒だ。
あまりにも事態が深刻な場合にも、本末転倒は使いにくい。「元も子もない」のほうが、ひどい結果を表現するにはふさわしい。
・昨日は全然勉強できなかったよ。おかげでテストは散々だった。本末転倒だね。
本末転倒は「大切なものが些細なものとすり替わってしまった」という文脈で使われる。単に「結果がひどかった」というだけでは、本末転倒とはいわない。「よかれと思ったことが悪い結果につながった」というなら、本末転倒もあてはまる。
ほんまつ‐てんとう〔‐テンタウ〕【本末転倒】
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