天然ガス自動車 普及への課題

天然ガス自動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/22 10:41 UTC 版)

普及への課題

シェールガスの登場により天然ガス自動車の普及が進むとする予測もあったが、シェールガスの精製分離過程で水素エネルギーを取り出すことができることも分かっており、燃料電池車の方が次世代自動車として普及するとみる予測もある[7]

天然ガスの供給と流通、車両の製造と導入において、いずれもイニシャルコストが大きく、ガススタンド(LPGのスタンドとは異なる)の拡大と、ベース車両の1.5から2倍程度にもなる車両本体価格の低減が普及のための課題となる。さらに技術の進歩や自動車排出ガス規制の強化などにより、排出ガス中の有害物質が天然ガス自動車に遜色ないレベルのディーゼルエンジンが開発されれば、天然ガス自動車の導入は投資額に見合わないものとなる。

フランスのCNGバス

ヨーロッパ諸国ではオランダ商用車メーカーDAF1980年頃に同国政府からの補助金を得て、当時のディーゼルエンジンより排出ガス中の有害物質が大幅に少ないエンジンを開発した。オランダ政府もCNGバス普及のために補助金交付の制度を制定したが、当時少数台数の導入しかされなかったという。これはイニシャルコスト・ランニングコスト・走行距離などにおいて、ディーゼルエンジンが優れていたためであるとみられている[8]。一方、フランスポーランドなど一部の国では2010年代以降も一部でCNGバスの導入がみられ、ドイツメルセデス・ベンツの大型バス「シターロ」には2021年時点でもハイブリッド機構を組み合わせたCNGモデル(Citaro NGT)が存在するほか、同じくドイツのMAN Truck & Busでも2019年にフルモデルチェンジした大型バス「MAN・ライオンズ・シティ」に引き続き、CNGモデルを設定している[9]

シンガポールでは2000年代に導入の試みが見られたが、ガソリンと比較して天然ガスの燃料価格の魅力が出せなかったこと、ステーションのインフラ整備が十分でなかったことなどから、同国政府からの補助金も途絶えた。

競技車両としては2010年前後にニュルブルクリンク24時間レースフォルクスワーゲンシロッコをCNG化して投入。2.0L直列4気筒ターボで300馬力を発生したこのマシンは、2011年に100台以上のエントリーで代替エネルギー車クラス1位/総合27位という結果を残している[10]。またオーストリア人レーサーのマンフレッド・ストールは2010年前後に三菱・ランサーエボリューションスバル・インプレッサ WRX STIプジョー・207といったラリーカーをCNG化していた[11][12]。しかしいずれも業界にムーブメントを起こすには至らなかった。

日本でも1990年代後半から2000年代にかけては、環境対策として自治体からの補助金により、コミュニティバス公営バスを中心にCNG車の導入が推進された[13]。しかしガスボンベの交換時期がボンベ製造後15年と定められている[13]ことから、大半の車両はボンベ交換をせずに廃車されている[13]。また通常のディーゼルバスと異なり中古車としての譲渡や地方事業者への移籍も難しく、更には部品取りとしての需要も少ないため、廃車と同時に解体された上で部品の多くが廃棄される例が多数を占める[13]。そのため車両の寿命やリユースまで考えると、CNG車の導入が必ずしも省資源・環境保護につながっていないという指摘もある[13]。『バスラマ・インターナショナル』を刊行するぽると出版編集部ブログでは、東京都府中市の「ちゅうバス」を例に取りこの問題を論じている[13]

LPG車の場合は、ボンベは6年毎(20年未満)あるいは2年毎(20年以上)に検査を受ければよく、検査に合格し続ける限り交換は義務化されていない。ただし、LPG車が主流のタクシー用車種の場合は検査済み容器と交換する方が検査で車両が使用できない期間を削減できるため、検査済みの中古品と交換することが一般化している。


注釈

  1. ^ たとえば、ガソリンスタンドやオートガススタンドが24時間営業の店舗でも併設のCNGスタンドは24時間営業ではない、等。
  2. ^ 石油系燃料はそれ自体がバルブ等がそれらに晒されることで潤滑に寄与するため。

出典

  1. ^ a b c d e f g h 天然ガス自動車の普及に向けて(第24版、2021年) 一般社団法人日本ガス協会、2021年10月1日閲覧。
  2. ^ : compressed natural gas
  3. ^ https://www.jstage.jst.go.jp/article/japt1933/31/5/31_5_222/_pdf
  4. ^ CNG燃料容器(タンク)の構造 本田技研工業
  5. ^ http://www.gas.or.jp/ngvj/spread/world_spread.html
  6. ^ [1]
  7. ^ 中原圭介『シェール革命後の世界勢力図』ダイヤモンド社、2013年、224頁〜
  8. ^ バスラマ・インターナショナル97号』「CNGとディーゼル、どちらがクリーン?」による。
  9. ^ MAN LION’S CITY 12 GMAN DE
  10. ^ ニュル24時間でダカールチャンピオン達が競演
  11. ^ ストールレーシング、CNGのプジョー207S2000をお披露目
  12. ^ モータースポーツ用 CNG-R コンセプト
  13. ^ a b c d e f あるCNGバスの“運命””. ぽると出版編集部ブログ (2019年3月17日). 2020年8月23日閲覧。
  14. ^ バスラマ・インターナショナル No.77』「特集:小型CNGバスの新しい動き」ぽると出版、2003年4月25日、ISBN 4-89980-077-0
  15. ^ ガス燃料エンジン用バルブシート材の開発 - 本田技研工業 > 論文サイト(更新日不明/2017年4月7日閲覧)


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