【ハリアー】(はりあー)
Hawker Siddeley Harrier.
イギリスのホーカーシドレー社が開発したSTOVL式攻撃機。
世界で唯一成功したSTOVL機ともいわれる。
冷戦時代のにらみ合いにおいて、敵に滑走路を破壊されても運用可能なVTOL機は空軍の悲願であった。
世界各国がVTOL機を試作しては失敗する中、本機の原型となる P.1127 ケストレルが1960年に初飛行した。
本機における最大の成功要因は、VTOL用エンジンである、ロールス・ロイスペガサスターボファンにある。
このエンジンは機体中央部に配置され、4つの推力偏向ノズルを持つ。前方2つはバイパス流を、後方2つはコア流を噴射する。
VTOL時は下方に、STOL時は斜め後ろに、巡航時は後方に噴射される他、空戦機動時にもノズルを傾けて旋回性能を向上させるVIFFモードを持つ。
また、VTOLモードにおけるダウンウォッシュの影響を避けるため、主翼の下反角が大きく面積が小さいことも特徴である。
本機に代わるSTOVL機が登場しなかったため、改良が繰り返され、シーハリアーやハリアー2などの発展型が運用され続けている。
アメリカではマクダネル・ダグラスがライセンス生産する形で採用されたが、後に発展改良したAV-8B「ハリアーII」を開発した。
この改良型は、機体の素材にカーボン材を使用することで大幅な軽量化に成功し、それまでの大きな欠点であった航続距離とペイロードの大幅な改善に成功した。
このAV-8BにさらにFLIRを搭載し夜間攻撃能力を付与されたAV-8B(NA)ナイトアタック型や、レーダーにF/A-18などと同じAPG-65を搭載して高度な目視外射程戦闘能力を持ったAV-8B plusなども生産されている。
スペックデータ
乗員 | 1名 |
全長 | 14.12m |
全高 | 3.55m |
翼幅 | 9.25m |
主翼面積 | 22.61㎡ |
空虚重量 | 6,745kg |
運用時重量 | 10,410kg |
最大兵装搭載量 | 2,380kg |
最大離陸重量 | 14,000kg(STOL時) 9,415kg(VTOL時) |
エンジン | ロールス・ロイス ペガサス105ターボファン(推力96.75kN)×1基 P&W F402-RR-401ターボファン(推力99.62kN)×1基(AV-8) |
最高速度 | マッハ0.89 |
航続距離 | 1,200nm/1,800nm(フェリー飛行時) |
上昇率 | 4,485m/min |
武装 | GAU-12U「イコライザー」25mm機関砲ポッド×2門(携行弾数300発) ADEN 30mm機関砲パック×2門(GR.1) 7箇所のハードポイントに最大5,986kgまでの兵装を搭載可能。 ・空対空ミサイル:AIM-9,AIM-120 ・空対地ミサイル:AGM-65 ・空対艦ミサイル:シーイーグル,ハープーン ・対レーダーミサイル:ALARM,AS-37「マーテル」 ・爆弾/ロケット弾:通常爆弾,JDAM,マトラ・ロケット弾ポッド(68mmロケット弾を搭載) ・偵察ポッド:DJRP,スナイパーXR,TIALD |
派生型
- GR.1:
RAF向けの初期量産型。
- GR.1A:
GR.1の改修型。エンジンをペガサスMk.101からペガサスMk.102に換装。
- GR.3:
GR.1の攻撃力を強化し、センサー機器の改善やエンジンをペガサスMk.103へのアップグレードを行った型。
フォークランド紛争に投入されたのはこのタイプ。
- GR.5:
AV-8Bの逆輸入型。アビオニクスが若干異なる。41機製造。
- GR.5A:
GR.7への繋ぎのため小改良されたモデル。21機製造。
- GR.7:
AV-8B(NA)の逆輸入型。
機関砲やアビオニクスが異なり、レーザー誘導のAGM-65「マーベリック」やペイヴウェイを搭載できるよう改修されている。
英海軍でのシーハリアー退役に伴って海軍・空軍の統合部隊で運用されるようになったが、2010年に退役した。
- GR.7A:
改良されたロールス・ロイス ペガサス Mk.107エンジンを装備した型。
- GR.9:
GR.7の電子機器の更新と兵装の強化を行ったモデル。
GR.7と共に2010年にRAFから退役。
- GR.9A:
GR.7Aを、アビオニクスと兵装を中心にアップグレードした型。
- シーハリアー:
ハリアーの発展型。詳しくは項を参照。
- T.2:
RAF向け機種転換用の複座練習機型。
- T.2A:
GR.1Aと同様にエンジンのアップグレードを行った複座練習機型。
- T.4:
GR.3の複座練習機型。
- T.10:
TAV-8Bを参考に設計された逆輸入型。GR.7と同等の戦闘能力を持つ。
- T.12:
練習型にGR.9と同様のアップデートを施した型。
- T.12A: GR.7Aに相当する練習型。
- AV-8A:
アメリカ海兵隊向けのGR.1A初期量産型。マクダネル・ダグラスがライセンス生産。
AIM-9「サイドワインダー」2発とADEN 30mm機関砲ポッド2基を装備し、ペガサス Mk.103エンジンを搭載。
- AV-8B「ハリアーII」:
AV-8Aの大幅改良型。
中止となったAV-16計画の技術を転用しており、ペイロードがほぼ2倍、その他の能力も大幅に強化され、後期型はFLIRを装備している。
- AV-8B「ハリアーIIplus」:
アメリカ海兵隊向け。機首を改良し、APG-65レーダーを搭載。
AMRAAM運用能力を獲得している。
- AV-8C:
AV-8A のレーダー警戒受信機やチャフ・フレアなど、防御面を強化したタイプ。
ハリアーIIが完成するまでの繋ぎとして製作された。
- TAV-8A:
AV-8Aのアメリカ海兵隊向け複座練習型。
- TAV-8B:
AV-8Bのアメリカ海兵隊向け複座練習型。戦闘能力は持たない。
- AV-8S「マタドール」:
スペイン海軍向けAV-8A。現在はタイ海軍に譲渡されている。
- TAV-8S:
スペイン海軍向けTAV-8A。現在はタイ海軍に譲渡されている。
- EAV-8B「マタドールIIVA.2/VA.3」:
スペイン海軍向けのAV-8B(後にplus仕様に改修)及びAV-8B plus。
ホーカー・シドレー ハリアー
(Hawker Siddeley Harrier から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/04 02:01 UTC 版)
ホーカー・シドレー ハリアー (英語: Hawker Siddeley Harrier) は、イギリスのホーカー・シドレー(HSA; 後のブリティッシュ・エアロスペース)社が開発した垂直/短距離離着陸機(V/STOL機)。
注釈
- ^ 強い横風に対する機首方位維持には有効であるため、ヨーイングを制御する目的でラダー、エルロンの操作を要する
- ^ こうした制約のため、ホバリング継続は約60秒程度に制限されている。ただし、この時間制限は非常にシビアな使用環境(極端な高温多湿など)を想定したものであり、現実的な環境ではもう少し使用時間は延び、実際、エアショーなどでは5分程度のホバリングが演技されている。
- ^ アメリカ海兵隊のAV-8Aのフライトマニュアルには、高度30ft以下でのホバリング中、舗装をしていない部分から舗装部分に水平移動した時に重さ11トンの舗装マットを4フィート(約1.2 m)吹き上げたという警告が記載されていた[3]。
- ^ close air support(近接航空支援)
- ^ 1976年から1977年にかけての「フランクリン・D・ルーズベルト」の最後の航海では、海兵隊のAV-8A飛行隊の空母上への展開も試みられた。しかし分秒単位で綿密に進行する艦上の発着艦作業のなかで、垂直着陸という異質な動きをするハリアーを組み込むことは、作業の流れを乱すことが判明し、以後、空母航空団にハリアーが加わることはなかった[8]。
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad 松崎 2005.
- ^ a b c d 石澤 2005.
- ^ a b c d 山内 2005.
- ^ RAY MASSEY (2019年5月5日). “Those magnificent men in their flying machines: Fascinating pictures commemorate the 50th anniversary of the Daily Mail Great Transatlantic Air Race that gripped the world”. デイリー・メール
- ^ a b c 田村 2005.
- ^ Lambert 1991, pp. 131–132.
- ^ Polmar 2006, ch.25 Amphibious Assault.
- ^ 石川 2013.
- ^ 大塚 2020.
- ^ Polmar 2006, ch.19 New Directions.
- ^ a b Calvert 2019.
- ^ 松崎 2005b.
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