タイ王国海軍とは? わかりやすく解説

タイ王国海軍

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/28 14:58 UTC 版)

タイ王国海軍の空母チャクリ・ナルエベト

タイ王国海軍(タイおうこくかいぐん、タイ語กองทัพเรือ英語:Royal Thai Navy)は、タイ王国海軍

別名王立タイ海軍(おうりつタイかいぐん、ราชนาวี)。

歴史

近代以前

タイは国の両側を水で囲まれ、貿易などによって栄えてきた。そのため、海上交通の安全を守ることは重要であり、そのための一定の海上戦力は近代以前にも保有してきた。しかしながら、近代においては周辺に植民地を構えるイギリスフランスなどの列強諸国に対して装備に遅れをとっていた。

近代海軍

近代軍組織としてのタイ王国海軍は、1887年ラーマ5世が前王宮水軍と王宮水軍を統合して軍務省(กรมยุทธนาธิการ)の下に置いた時から始まる。その後、組織増強が図られ、1910年海軍省となる。

しかし、1931年世界恐慌の影響を受け規模縮小され、国防省の下に編入される。1933年に名称を海軍(กองทัพเรือ)に変更した。海軍創設に尽力したチュムポーンケートウドムサック親王は、「タイ海軍の父」と呼ばれている。

第二次世界大戦前後

近代海軍設立後の1930年代には、トンブリ級海防戦艦など数隻の軍艦を、タイ王国と同じく数少ないアジアの独立国であり、海軍大国である大日本帝国から購入し小規模な艦隊を編成するまでになった。

しかし、第二次世界大戦下の1940年11月23日フランス領インドシナに駐留するフランス海軍との間に起こったタイ・フランス領インドシナ紛争中の1941年1月に起きたコーチャン島沖海戦において手痛い敗北を喫し、壊滅に近い損害を受けてしまった。

その後にタイは、日本とともに枢軸国としてイギリス軍アメリカ軍オーストラリア軍などの連合国軍と戦ったが、同盟国の日本軍の駐留を受け入れたことや、タイの領土がほとんど戦禍に見舞われなかったこともあり、大戦期間中はその規模を拡充することなく終戦を迎えた。

現代

第二次世界大戦後のタイが直面した安全保障上の問題は、内憂としては武装共産主義運動、外患としてはカンボジアやラオスにおけるベトナム軍の脅威と、いずれも陸上からのものであった。ベトナムの海軍力は極めて小さく、脅威としてはおおむね無視できる程度であったことから、タイ王国軍のなかで海軍の地位は低いものとされていた。軍事予算の大部分は陸軍が獲得し、ついで空軍が戦闘機など高価なプロジェクトのため配分を受け、海軍予算は老朽化する艦艇の更新すらままならない程度であった[1]

しかし1980年代後半に入ると、タイ国共産党の弱体化やベトナム軍のラオス・カンボジアからの撤退によって陸上からの脅威が減少する一方、国連海洋法条約採択によって200海里排他的経済水域(EEZ)が制定されたのを受けて、南シナ海でも海洋権益を巡る紛争が顕在化した。この情勢を受けて、地域において主要な役割を担いうる海軍部隊の整備が国家の関心事となり、そのための予算が配分されるようになった[1]

現代のタイ海軍は空母フリゲートなどの戦力を有する、東南アジアでは有数の戦力を有する海軍となっている。現在ではスペインアメリカ中国から購入した艦船をもって運営している。

また、アメリカ海軍との結びつきも強く、米海軍とタイ海軍は毎年、海上協力即応訓練(CARAT)を実施している。この訓練は、シンガポール・タイ・マレーシアインドネシアブルネイフィリピンと順繰りで行われるアメリカ軍の2ヶ国間合同訓練である。

2012年、タイ海軍では2010年以降の退役が決定されたドイツ海軍206A型潜水艦6隻の導入が計画されたが、インラック政権下で却下された。

2015年7月、タイ海軍は中国から元型潜水艦を3隻購入すると発表した[2]が、アメリカ政府の圧力などにより、この時は事実上断念した。その後の2017年1月、タイ海軍が中国海軍の元型を再度導入する計画が明らかになり、4月には同型1隻を購入する事をタイ政府は閣議決定した。購入するのは元型の対外輸出バージョン「S26T」通常動力型で、中国から2026年までに合計3隻購入することで基本合意しているという。[3]

組織

王立タイ海軍本部

現在の海軍は国防省に属する。組織構造はアメリカ海軍に近似しており、艦隊海兵隊から成る。

海軍本部はバンコク宮殿の中にあるが、艦隊司令部チョンブリー県サッタヒープにあり、潜水艦部隊司令部もサッタヒープ海軍基地内にある。

海兵隊は3海軍作戦地域に分散配備されており、第一作戦区域:タイランド湾東岸、第二作戦区域:タイランド湾西岸、第三作戦区域:アンダマン海沿岸(インド洋)となっている。

さらに、2部隊海軍航空隊を所有しており、第一航空隊をウタパオ海軍飛行場に、第二航空隊をソンクラー海軍基地の2箇所に配備している。

装備

艦船

『Jane's Fighting Ships 2011-2012』より。

通常動力型潜水艦

航空母艦

フリゲート

  プーミポン・アドゥンヤデート(471 Bhumibol Adulyadej) - 2019年就役

ナレースワン(421 Naresuan) - 1994年就役
タークシン(422 Taksin) - 1995年就役
チャオプラヤー(455 Chao Phraya) - 1991年就役
バンパコン(456 Bangpakong) - 1991年就役
クラブリ(457 Kraburi) - 1992年就役
サイブリ(458 Saiburi) - 1992年就役
プッタヨートファー・チュラーローク(461 Phuttha Yotfa Chulalok) - 1994年再就役
プッタルート・ラーンパーライ(462 Phuttha Loetla Naphalai) - 1996年再就役

コルベット

ラッタナコーシン(441 Rattanakosin) - 1986年就役
スコータイ(442 Sukhothai) - 1987年就役(2022年沈没により事実上喪失[4]
カムロンシン(531 Khamronsin) - 1992年就役
タイアンチョン(532 Thayanchon) - 1992年就役
ロンロム(533 Longlom) - 1992年就役
タピ(431 Tapi) - 1971年就役
キリラット(432 Khirirat) - 1974年就役

哨戒艦

  • ホアヒン級×3
ホアヒン(541 Hua Hin) - 2000年就役
クレーン(542 Klaeng) - 2001年就役
シーラーチャー(543 Si Racha) - 2001年就役
  • パッターニー級 (en)×2
パッターニー(511 Pattani) - 2005年就役
ナラーティワート(512 Narathiwat) - 2006年就役
クラビ(en)(551 Krabi) - 2013年就役[5]
プラチュワップキーリーカン (552 Prachuap Khiri Khan) - 2019年就役[5]

ミサイル艇

  • ラチャリット級×3
ラチャリット(321 Ratcharit) - 1979年就役
ウィッタヤコーン(322 Witthayakhom) - 1979年就役
ウドムデット(323 Udomdet) - 1980年就役
  • プラブラパク級×3
プラブラパク(311 Prabparapak) - 1976年就役
ハナク・サットル(312 Hanhak Sattru) - 1976年就役
サファーリン(313 Suphairin) - 1977年就役

砲艇

  • チョンブリー級×3
チョンブリー(331 Chon Buri) - 1983年就役
ソンクラー(332 Songkhla) - 1983年就役
プーケット(333 Phuket) - 1984年就役

哨戒艇

サッタヒープ(521 Sattahip) - 1983年就役
クローン・ヤーイ(522 Khlong Yai) - 1984年就役
タクバイ(523 Tak Bai) - 1984年就役
カンタン(524 Kantang) - 1985年就役
テーパー(525 Thepha) - 1986年就役
タイムアン(526 Taimuang) - 1986年就役
  • T81級×3
T81-83
  • PGM-71型
T11-19
T110
  • T91級×9
T91-99
  • T991級×3(3隻建造中・3隻計画中)
T991-993 - 2007年就役
T994-996 - 2012年就役予定
  • SWIFT型×9
T21-29
  • T213級×13
T213-214
T216-226
T210-212

高速艇

  • SEAL ASSAULT CRAFT×3
T242
他2隻
  • ASSAULT BOAT×90
  • P51級×4
P51-54

ドック型輸送揚陸艦

戦車揚陸艦

  • ノーマッド級×2
シーチャン(721 Sichang) - 1987年就役
スリン(722 Surin) - 1988年就役
チャーン(712 Chang) - 1962年再就役
パンガン(713 Pangan) - 1966年再就役
ランター(714 Lanta) - 1973年再就役
パンサン(715 Prathong) - 1975年再就役

汎用揚陸艇

  • 新型×0(2隻建造中)
  • マンノーク級×3
マンノーク(781 Man Nok) - 2001年就役
マンクラーン(782 Man Klang) - 2001年就役
マンナイ(783 Man Nai) - 2001年就役
  • トーンケーオ級×4
トーンケーオ(771 Thong Kaeo) - 1982年就役
トーンラーン(772 Thong Lang) - 1983年就役
ワンノック(773 Wang Nok) - 1983年就役
ワンナイ(774 Wang Nai) - 1983年就役
  • マタフォン級×6
マタフォン(761 Mataphon)
ラウィ(762 Rawi)
アダン(763 Adang)
ペートラー(764 Phetra)
コラム(765 Kolam)
タリボン(766 Talibong)
  • 新型×0(1隻建造中)

歩兵揚陸艦

  • LSIL351級×2
プラブ(741 Prab)
サタカット(742 Satakut)

中型揚陸艇

  • 旧・米艦×24

車両兵員揚陸艇

  • 旧・米艦×12
  • 新型×0(1隻建造中)

強襲揚陸艇

  • 各型×4

エアクッション型揚陸艇

  • GRIFFON 1000TD型×3
401-403

掃海艦

  • タラーン(621 Thalang) - 1980年就役

機雷掃討艇

  • ラットヤー級×2
ラットヤー(633 Lat Ya) - 1999年就役
ターディンデーン(634 Tha Din Daeng) - 1999年就役
  • バーンラチャン級×2
バーンラチャン(631 Bang Rachan) - 1987年就役
ノンサライ(632 Nongsarai) - 1987年就役

沿岸掃海艇

バンゲコ(612 Bangkeo) - 1992年再就役
ドンチェディ(613 Donchedi) - 1995年再就役

掃海ボート

  • 旧・米艦×5
MLM6-10
  • MSB11級×7
MSB11-17

測量艦

  • チャンタラ(811 Chanthara) - 1961年就役
  • プルハットサボーディ(813 Pharuehatsabodi) - 2008年就役

海洋観測艦

  • サク(812 Suk) - 1982年就役

練習艦

  • ヤーロー型×1
マクットラジャクマーン(433 Makut Rajakumarn) - 1973年就役
ピンクラオ(413 Pin Klao) - 1959年再就役
フォサムトン(611 Phosamton) - 1947年再就役

給油艦

  • 中R22T型×1
シミラン(871 Similan) - 1996年就役
  • キュラ(831 Chula) - 1980年就役

港内タンカー

  • 各型×5
サムイ(832 Samui)
プロン(833 Prong)
プロエット(834 Proet)
サメット(835 Samed)
チック(842 Chik)

給水艦

  • チャング(841 Chuang) - 1965年就役

運送船

  • クレッグケオ(861 Kled Keo) - 1948年就役

設標艦

  • スリヤー(821 Suriya) - 1979年就役

曳船

  • リン級×2
リン(853 Rin)
ラング(854 Rang)
  • セムサン級×2
セムサン(855 Samaesan)
リート(856 Raet)

港内曳船

  • YTL422型×2
クレーンバダーン(851 Klueng Badaan)
マーンバイチャル(852 Marn Vichai)

航空機

『Jane's Fighting Ships 2011-2012』より。

固定翼機

回転翼機

無人機

脚注

参考文献

関連項目

参考文献

  • 世界の艦船(海人社)各号
  • Jane's FIghting Ships 2011-2012

タイ王国海軍

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/27 04:32 UTC 版)

プラ・ルアン (駆逐艦)」の記事における「タイ王国海軍」の解説

第一次世界大戦終結後、レディアントは1920年6月20日ソーニクロフト社へ買い戻され後で1920年9月にタイ王国海軍へ200,000ポンド売却され11世紀存在したとされる王プラ・ルアンに因みプラ・ルアンと改名された。本艦購入資金捻出するために国王ラーマ6世その他の上流階級人物個人的に寄付行ったことは、タイ王国において軍艦購入のため寄付が行われた最初の例と考えられている。海軍提督アブハカラ・キアーティヴォンセ(英語版王子直々にイギリスへ本艦購入交渉向かい売却後イギリスからタイ王国への回航の際にはキアーティヴォンセ提督が自ら本艦指揮を執った。

※この「タイ王国海軍」の解説は、「プラ・ルアン (駆逐艦)」の解説の一部です。
「タイ王国海軍」を含む「プラ・ルアン (駆逐艦)」の記事については、「プラ・ルアン (駆逐艦)」の概要を参照ください。

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