FIFAとKNVBによるオンライン・テストの開始 (2016後半)
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「サッカーの審判補助システム」の記事における「FIFAとKNVBによるオンライン・テストの開始 (2016後半)」の解説
2016年7月19日から21日にかけてアメリカ合衆国のNew Jerseyで第2回のワークショップが開催。20以上のリーグと協会が参加し、MLSとNew York Red Bullsの協力でユースチームの試合において初のオンラインでの"ライブ"テストが実施された。ピッチ上の審判、VARs、テクニカルスタッフが一体となってトレーニングを行う必要性も確認され、FIFAはテスト参加国ためにZurichの本部に訓練施設を設置することを決定した。KNVBは2016年7月26日のPSV - FC アイントホーフェンの練習試合で初のオンライン・テストを実施(主審によるオン・フィールド・レビューは想定されておらず、このテスト形式は後にIFABによってセミ・ライブ・テストと名付けられる)、エド・ヤンセンが主審、デニー・マッケリーがVARを担当した。FIFAが認めたテスト国 アメリカは公式戦ライブテストの事前準備として、2016年8月12日に独立リーグであるUnited Soccer League(USL)の試合New York Red Bulls II対Orlando CityでIFABと共に初めてライブテスト。この試合ではVARとの音声のやり取りだけでなく、主審 Ismail Elfathが前後半に1回ずつ、映像での確認が必要と判断したシーンでゴール裏のレビュー・アシスタントの持つスクリーンで映像を確認するオン・フィールド・レビューでの判定も実施。その後もNew York Red Bulls IIのホームゲームでライブ・テストが繰り返された。 2016年9月1日のバリでのイタリア - フランスの練習試合において、FIFAとIFABと共に、VAR制度における先駆的役割を果たしてきたオランダのビョルン・カイペルスの審判団がトップレベルでは初のオンライン・テストを実施、VARsはデニー・マッケリーとポル・ファン・ブーケルが務めた。この試合ではFIFAがこの段階のテストに主審がピッチサイドで映像判定を行うオン・サイト・スクリーン・レビュー(後にオン・フィールド・レビューに改名)を使用しないと決めていたため、"セミ・ライブ"・テストと位置づけられた(以降も2016年に欧州で行われたオンライン・テストは全てセミ・ライブ・テスト)。テストは90分をとおして2回のシーンでVARsが10秒ほどで主審に助言を与え、選手たちも即座に判定を受け入れて問題なく成功 (この試合について日本では「ビデオ判定によってPKが取り消された」と多くの誤報が流れたが、ボールがサイドラインを割った時点で直前のプレーでペナルティーエリア内でのハンドの反則が無かったことを主審がVARに確認し、そのままプレーを再開させた)。現地で観戦していたInfantinoは「我々はカルチョ(フットボール)を愛しており、スポーツ面を壊すこと無く審判を助けることで我々の愛するカルチョを守らなければいけない」と改めて基本指針を示した上で、「我々は歴史の1ページを記した。ビデオ審判は試合の細かいエピソードを決めることは無いが、主審が重要な決定を下す助けになり得る」と評価した。主審を務めたカイペルスは試合後に「素晴らしい経験。選手たちはVARの判断を説明するとすぐ判定を受け入れてくれた。素晴らしい光景だった。適切な判定をすればより受け入れてもらえるということ」と感想を述べている。コーナーキックの際などの細かい押し合いでビデオ判定を求める行為が繰り返されるという疑念に対してFIFA審判委員会責任者 Massimo Busaccaは「VARsがペナルティーエリア内での細かいプッシング行為や、細かい反則のような『疑わしいシーン』についていちいち介入することは無い。あくまで試合中に2, 3回の頻度である『重要なシーンでの明確な誤審』を避けるのが目的」と説明した。 KNVBは2017年明けを待たずに当初の予定前倒しで公式戦でのオンライン・テスト実施が認められ、2016年9月21日のアヤックス - ヴィレムIIと翌22日のフェイエノールト - FC オスのKNVBベーカー2試合で世界初のトップレベルの公式戦でのセミ・ライブ・テストを実施。アヤックス - ヴィレムIIの60分にアヌアール・カーリのファールに対して主審 デニー・マッケリーがイエローカードを提示したが、VAR ポル・ファン・ブーケルとのやり取りをした数秒後にレッドカードに提示し直し、カーリはビデオ判定による公式戦最初の『犠牲者』となった。この判定による出場停止処分に対してに対してヴィレムIIは「主審はすでにイエローカードと判定を決定しており、選手やファンの抗議も無く、VARが助言できる『明確なケース』では無かった」とKNVBの規律委員会に抗議したが、マッケリーの「仮にVARが助言していなくても第4審判の助言で判定を変えることはあり得た。これはルールにあり、VARだけ特別ということはない」という主張が認められ、VARが『明確なケース』かを判断する権限は認められており、運用ルール上問題は無かったとしてヴィレムIIの抗議は却下された。ヴィレムIIはさらなる抗議を「クラブイメージにマイナス」と断念したが、メディア上では「VAR運用ルールがまだ不明確」との意見や、「主審の権威を損なわないようにホッケーのビデオ判定制度のように主審から助言を求めるだけにすべき」との意見も出た。KNVBは10月のベーカー戦第2ラウンドでもFIFAの許可を受けてスパルタのホームゲームとフェイエノールトのホームゲームでセミ・ライブ・テストを実施。FIFAのChief Officer for Technical Developmentに就任したマルコ・ファン・バステンもVARバスに同席し、「このシステムの必要性は誰もが感じている。ロシアでのワールドカップで導入できれば大歓迎だが、手続き上まだ多くのステップがあり、現実的でなければならない」とコメントした。KNVBはファンの理解を得るため、フェイエノールト - エクセルシオール戦でVARを務めたデニー・マッケリーがTwitterで募集したVARについての質問に答える企画も行っている。 イタリア・サッカー協会は2017年のライブ・テスト国入りと2017-2018シーズンからのセリエBでのライブ・テスト実施を目標に、2016年10月2日から毎週日曜のセリエAの2, 3試合でオフライン・テストを開始した。 IFABは10月27日と28日にチューリヒで第3回のワークショップを開催。主な議論になったのは『VARの介入の公開』、『主審によるピッチ上でのレビュー(オン・フィールド・レビュー)』、そしてVARが主審の判定に介入できる条件である『明確なミス』の意味であり、それは『中立なほぼ全員が判定が間違っていると同意する状況』と定義された。またFIFAのフットボール・テクノロジー・イノベーションの責任者 Johannes Holzmüllerも参加し、テクノロジーの具体的なセットアップについての議論や、最善のカメラの設置位置なども話し合わ、モニタリングとピッチ上の主審とのコミュニケーションを同時に行うVARを助けるためのアシスタントVARの導入など、実践上の変更も提案されている。2016年11月3日のロンドンで行われたIFAB年次総会でも、この時点で15以上の組織(オーストラリア、ベルギー、ブラジル、チェコ、フランス、ドイツ、イタリア、メキシコ、オランダ、ポルトガル、カタール、USA、FIFA)によって何らかのテストが行われているVARの試験進度は大きな議題であり、「全てのテスト参加組織は定められたVARプロトコルに則って行うこと」、「映像確認が許される出来事に対しても、『主審の判定の何が明確なミスか?』が常に鍵になる疑問点となること」、「『最小限の介入で最大限の利益を』という最優先の哲学に則り、映像確認を行う回数は稀になるが、それをする時は試合の明確な利益のためであり、さらに試合の流れと感情が映像確認にとって何度も妨げられる事が無いことが重要であること」という主要な点が改めて強調された。 FIFAとIFABは11月15日のイタリアとドイツの練習試合でもセミ・ライブ・テストを実施。ポルトガルの主審 Artur Soares Diasの審判団が担当し、後半にPKが取られなかった2回の接触シーンとゴールがオフサイド判定で取り消された1回のシーンでVARとコンタクトを取り、全て即座にピッチ上の審判団の判定がVARによって支持された。FIFA会長 Infantinoは「もちろんまだ全てがパーフェクトでは無いがテスト結果には大満足」と評価した上で、「次のステップは主審自身のモニターチェック(on-field review)」と、セミ・ライブ・テストから本当のライブ・テストへ進む意向を示した。 日本でのクラブ・ワールドカップも含めてVARのテストはこの段階では主にスタジアムの横に付けたバスの中から行われていたが、2016年12月14日のKNVBベーカー PECズヴォレ対FCユトレヒトの試合でロスタイムに主審ビョルン・カイペルスがユトレヒトに決勝点となるPKを与えたことで、判定に怒ったPECファン数人が試合後にVAR ケヴィン・ブロムの乗るバスのドアを叩き、ブロムが警察に対応を要求する事態が発生。KNVBは翌日にオペレーション・ディレクター ハイス・デ・ヨングが声明を出し、「VARが試合をよりフェアにし、審判を助けるためのものであること」、「現在はまだテスト段階であり、フットボール界全体のためにこのテストでなるべく多くを学ばなければいけないということ」、「オランダは先駆的な仕事をしており、そのおかげでマッケリーが今週日本でのクラブワールドカップで重要な役割を担っていること」をファンに対して改めて説明して理解を求め、前日の試合についても「カイペルスのPK判定に対してブロムは『明らかなミス』ではないと判断したため、主審の判定がそのまま確定された。これはIFABのプロトコルにきちんと従って行われていること」と説明し、「PEC - ユトレヒト戦後に何があったかは厳しく調査して今後必要なら対応したい」と述べた。オランダのプロ審判組合(BSBV)会長 ペーター・ファン・ドンゲンはKNVBに対してビデオ審判の安全が第一であるべきと強く主張し、スタジアムから離れた場所やスタジオからの判定作業を要求した。
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