ADB
アジア開発銀行
アジア開発銀行 (Asian Development Bank: ADB) は、アジア太平洋地域の経済成長と貧困削減を目的として、1966年に31カ国が加盟して設立された。フィリピンのマニラに、本部を置く。2007年の加盟国は67カ国、うち48カ国がアジア太平洋地域諸国である。加盟国の代表で構成される理事会が最高決定機関であり、理事会の選出した総裁が、運営の責を担っている。現総裁は、日本の黒田東彦氏である。
ADBは、低利融資、保証、無償資金、民間投資、技術的助言等を提供し、経済基盤整備や、保健医療・教育等社会サービス向上を進め、貧困者の生活改善に貢献している。ADBの通常資金は、市場で調達した資金、加盟国の拠出金、及び融資による利益からなり、その他、加盟ドナー国による特別基金がある。2006年の融資額は、承認74億ドル、実施57億ドルであった。また、無償資金は5.4億ドル、技術協力は2.4億ドル承認された。
ADBは、経済成長、社会開発、良い統治 (governance) に焦点をあて、地域内協力や、政府・民間機関・国際機関のパートナーシップを推進している。支援対象分野は、農業、資源、エネルギー、財務、社会サービス基盤、交通運輸、通信等、多岐に渡るが、大半は、道路、空港、発電所、上下水道施設等の建設事業である。また、津波、地震等自然災害時には、緊急資金提供を実施した。保健医療分野では、SARS対策、鳥インフルエンザ対策、アジア経済危機時のワクチン確保等の緊急支援、HIV/AIDS対策、栄養、医療施設・看護学校整備等の長期開発支援等に貢献している。(青山温子)
参考URL:http://www.adb.org/default.asp>http://www.adb.org/default.asp
アジア開発銀行
![]() ADBロゴ | |
![]() アジア開発銀行本部ビル | |
略称 | ADB |
---|---|
標語 |
Fighting poverty in Asia and the Pacific (アジア太平洋地域の貧困と闘う) |
設立 | 1966年12月19日 |
種類 | 地域団体 |
法的地位 | アジア開発銀行設立協定 |
目的 | 資金の貸付 |
本部 |
![]() マニラ首都圏マンダルーヨン市 |
貢献地域 | アジア太平洋地域 |
会員数 | 48か国 |
公用語 | 英語 |
総裁 | 神田眞人 [1] |
主要機関 | Board of Directors[2] |
上部組織 | アジア開発銀行研究所 |
加盟 |
世界銀行 国際通貨基金 財務省 |
職員数 | 2,833人(2010年末) |
ウェブサイト | https://www.adb.org |
アジア開発銀行(アジアかいはつぎんこう、英: Asian Development Bank, ADB)は、アジア・太平洋における経済成長および経済協力を助長し、開発途上加盟国の経済発展に貢献することを目的に設立された国際開発金融機関である。日本語で「ア開銀」という略称もある。
概要

本部はフィリピン共和国・マニラ首都圏マンダルーヨン市。アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の発案により、1966年に発足した[3]。現在67か国/地域で構成される。最大の出資国は日本とアメリカ合衆国(ともに出資比率15.7%を占める)である。中華人民共和国と中華民国(名義は中国台北[4]でこれに抗議して中華民国は1986年と1987年のADB総会をボイコットしたことがある)が共に加盟している、国際機関としては珍しい存在である[5]。2016年には中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)と協調融資の実施で覚書を締結した。
設立当時から日本の大蔵省(現・財務省)が深く関わっていた。アジア開発銀行は大蔵省OBで初代総裁も務めた渡辺武が作成した私案をもとに、大蔵省OBで大蔵大臣だった福田赳夫、その盟友であり、当時の金融界のフィクサーであった常盤橋経済研究所の大橋薫が設立に関与し、大蔵省の意向を強く反映して設立が進められた。
事業
主な事業
ADBの主な事業は、
- 開発途上加盟国に対する資金の貸付・株式投資
- 開発プロジェクト・開発プログラムの準備・執行のための技術支援及び助言業務
- 開発目的のための公的・民間支援の促進
- 開発途上加盟国の開発政策調整支援等
である[6]。開発途上国に対する融資と技術援助は、主に社会基盤(教育・医療等)、運輸・通信、エネルギー、農業・天然資源、鉱工業、金融などのプロジェクトに供与され、毎年およそ60億ドルの融資額、1.8億ドルが技術支援に使われる(2005年には65件のプロジェクトに52.6億ドルが融資され、49.5億ドルだった2004年から6%増加)。
包括的取組
1999年ADBは、従来の開発援助の運営方針を貧困削減を最重要目標と定め、それに向けて「貧困層に配慮した持続可能な経済成長」、「社会開発」および「グッド・ガバナンス」を戦略の三本の柱とした貧困削減戦略を発表した。この柱を支える指標として、「環境の保護」、「ジェンダーと開発の促進」、「民間セクターの発展」、そして「地域内協力」を挙げている。
組織
本部をフィリピンのマニラ首都圏マンダルーヨン市に据え、世界26か所に事務所を設置している(アジア地域19か所に駐在員事務所、太平洋地域3か所に準地域事務所のほか、フランクフルトに欧州代表事務所、東京に駐日代表事務所(代表:児玉治美)とアジア開発銀行研究所(所長:吉野直行)、ワシントンD.C.に北米代表事務所、東チモールに特別リエゾン事務所)。
2007年末時点におけるADB の職員数は2,443人であり、出身国は55か国。このうち経営幹部は5人、専門職員は847人(上位10か国は、日本:118人、アメリカ合衆国:103人、インド:58人、中華人民共和国:50人、オーストラリア:50人、カナダ:46人、ドイツ:37人、大韓民国:34人、インドネシア:33人、イギリス:32人)、一般職員は1,591人。
2019年末時点におけるADB の職員数は3,548人で、総裁1人、副総裁6人、他専門職員は1,287人(国別は、日本:149人、アメリカ合衆国:143人、インド:92人、イギリス:82人、オーストラリア:78人、大韓民国:76人、中華人民共和国:65人、カナダ:56人、フィリピン:49人、フランス:45人、ドイツ:44人、パキスタン:30人、インドネシア:30人、その他:337人)、一般職員は2,254人[8]。
歴代総裁はすべて日本人が就任している。
最高政策決定機関は総務会(Board of Governors)で、各加盟国1人の総務で構成される。日本からの総務として財務大臣(現任:加藤勝信)が任命される。総裁は総務会で選出される。また、融資の承認など日常業務の意志決定がなされる理事会(Board of Directors)は、マニラ駐在の12人の理事(域内国から8人、域外国4人)で構成される。理事は隔年で選出される。
歴代総裁
氏名 | 就任年月 | 退任年月 |
---|---|---|
渡辺武 | 1967年11月 | 1972年11月 |
井上四郎 | 1972年11月 | 1976年11月 |
吉田太郎一 | 1976年11月 | 1981年11月 |
藤岡眞佐夫 | 1981年11月 | 1989年11月 |
垂水公正 | 1989年11月 | 1993年11月 |
佐藤光夫 | 1993年11月 | 1999年1月 |
千野忠男 | 1999年1月 | 2005年2月 |
黒田東彦 | 2005年2月 | 2013年3月 |
中尾武彦 | 2013年4月 | 2020年1月 |
浅川雅嗣 | 2020年1月 | 2025年2月 |
神田眞人[9] | 2025年2月 |
沿革
- 1965年12月4日 - マニラで開催された銀行設立全権代表会議においてアジア開発銀行を設立する協定が採択される。
- 1966年8月24日 - アジア開発銀行を設立する協定が発効し、発足
- 1974年 - アジア開発基金設立
- 1983年 - 株式投資による民間部門支援を開始
- 1992年 - 地域協力の推進を開始
- 1996年 - 東京に駐日代表事務所を設置
- 1997年 - 東京にアジア開発銀行研究所を設置
総会
総会が毎年集まる年次総会が加盟国で開かれる。
開催年 | 回 | 開催日 | 開催地 | 開催国/地域 |
---|---|---|---|---|
1966 | 11月24日-26日 | 東京プリンスホテル | ![]() | |
1968 | 1 | 4月4日-6日 | ヒルトンマニラ | ![]() |
1969 | 2 | 4月10日-12日 | ウェントワースホテル | ![]() |
1970 | 3 | 4月9日-11日 | ウェスティン朝鮮ホテル | ![]() |
1971 | 4 | 4月15日-17日 | シンガポール・コンファレンス・ホール | ![]() |
1972 | 5 | 4月20日-22日 | ホーフブルク宮殿 | ![]() |
1973 | 6 | 4月26日-28日 | ADB本部(マニラ) | ![]() |
1974 | 7 | 4月25日-27日 | ヒルトン クアラルンプール | ![]() |
1975 | 8 | 4月24日-26日 | ADB本部 | ![]() |
1976 | 9 | 4月22日-24日 | ホテル ボロブドゥール ジャカルタ | ![]() |
1977 | 10 | 4月21日-23日 | ADB本部 | ![]() |
1978 | 11 | 4月24日-26日 | ホーフブルク宮殿 | ![]() |
1979 | 12 | 5月2日-4日 | ADB本部 | ![]() |
1980 | 13 | 4月30日-5月2日 | フィリピン国際会議場 | ![]() |
1981 | 14 | 4月30日-5月2日 | シェラトン・ワイキキ・ビーチリゾート | ![]() |
1982 | 15 | 4月28日-30日 | フィリピン国際会議場 | ![]() |
1983 | 16 | 5月4日-6日 | フィリピン国際会議場 | ![]() |
1984 | 17 | 4月25日-27日 | RAI Amsterdam Convention Centre | ![]() |
1985 | 18 | 4月30日-5月2日 | Dusit Thani Hotel | ![]() |
1986 | 19 | 4月30日-5月2日 | フィリピン国際会議場 | ![]() |
1987 | 20 | 4月27日-29日 | 帝国ホテル | ![]() |
1988 | 21 | 4月28日-30日 | The Westin Philippine Plaza | ![]() |
1989 | 22 | 5月4日-6日 | Great Wall Sheraton Hotel | ![]() |
1990 | 23 | 5月2日-4日 | Ashok Hotel | ![]() |
1991 | 24 | 4月24日-26日 | Hotel Vancouver | ![]() |
1992 | 25 | 5月4日-6日 | 香港コンベンション・アンド・エキシビション・センター | ![]() |
1993 | 26 | 5月4日-6日 | ADB本部 | ![]() |
1994 | 27 | 5月3日-5日 | Acropolis Convention Center | ![]() |
1995 | 28 | 5月3日-5日 | Aotea Centre | ![]() |
1996 | 29 | 4月30日-5月2日 | ADB本部 | ![]() |
1997 | 30 | 5月11日-13日 | ヒルトン福岡シーホーク | ![]() |
1998 | 31 | 4月29日-5月1日 | Geneva International Conference Center | ![]() |
1999 | 32 | 4月30日-5月2日 | ADB本部 | ![]() |
2000 | 33 | 5月6日-8日 | The Westin Riverside Plaza Hotel | ![]() |
2001 | 34 | 5月9日-11日 | ハワイ・コンベンション・センター | ![]() |
2002 | 35 | 5月10日-12日 | Shanghai International Convention Center | ![]() |
2003 | 36 | 6月30日 | ADB本部 | ![]() |
2004 | 37 | 5月15日-17日 | International Convention Center Jeju | ![]() |
2005 | 38 | 5月4日-6日 | Istanbul Convention & Exhibition Center | ![]() |
2006 | 39 | 5月4日-6日 | Hyderabad International Convention Centre | ![]() |
2007 | 40 | 5月6日-7日 | 国立京都国際会館 | ![]() |
2008 | 41 | 5月5日-6日 | Feria de Madrid | ![]() |
2009 | 42 | 5月4日-5日 | Bali International Convention Center | ![]() |
2010 | 43 | 5月3日-4日 | Uzexpocentre | ![]() |
2011 | 44 | 5月5日-6日 | Vietnam National Convention Center | ![]() |
2012 | 45 | 5月4日-5日 | フィリピン国際会議場 | ![]() |
2013 | 46 | 5月4日-5日 | India Expo Centre and Mart | ![]() |
2014 | 47 | 5月4日-5日 | Palace of Independence (Astana) | ![]() |
2015 | 48 | 5月4日-5日 | ヘイダル・アリエフ・センター | ![]() |
2016 | 49 | 5月3日-5日 | メッセ・フランクフルト | ![]() |
2017 | 50 | 5月4日-7日 | 横浜国際平和会議場 | ![]() |
2018 | 51 | 5月3日-6日 | ADB本部 | ![]() |
2019 | 52 | 5月1日-5日 | ナンディ | ![]() |
2020 | 53 | 9月17日-18日 | オンライン | |
2021 | 54 | 5月3日-5日 | オンライン | |
2022 | 55 | 5月First日-5日 | ADB本部 | ![]() |
2023 | 56 | 5月2日-5日 | Songdo Convensia | ![]() |
2024 | 57 | 5月2日-5日 | トビリシ | ![]() |
2025 | 58 | 5月4日-7日 | ミラノ | ![]() |
出資比率上位国
日本 - 15.65%
アメリカ合衆国 - 15.65%
中国 - 6.46%
インド - 6.35%
オーストラリア - 5.8%
カナダ - 5.25%
インドネシア - 5.17%
韓国 - 5.05%
ドイツ - 4.34%
加盟メンバー
1966年の発足時は31か国/地域(台湾・香港なども加盟メンバーであることから)だったが、新規加盟国アイルランド(2006年7月24日)、ジョージア(2007年2月2日)に迎え、現在加盟メンバーは67か国/地域を数える。域内(アジア・太平洋)48メンバー、域外(ヨーロッパ・北米など)19メンバー。
カッコ内は加盟年。
地域内メンバー(アジア・太平洋地域)
アフガニスタン(1966)
アルメニア(2005)
オーストラリア(1966)
アゼルバイジャン(1999)
バングラデシュ(1973)
ブータン(1982)
ブルネイ(2006)
カンボジア(1966)
中国(1986)
クック諸島(1976)
フィジー(1970)
ジョージア(2007)
中国香港(1969) [注釈 1]
インド(1966)
インドネシア(1966)
日本(1966)
カザフスタン(1994)
キリバス(1974)
韓国(1966)
キルギス(1994)
ラオス(1966)
マレーシア(1966)
モルディブ(1978)
マーシャル諸島(1990)
ミクロネシア連邦(1990)
モンゴル(1991)
ミャンマー(1973)
ナウル(1991)
ネパール(1966)
ニュージーランド(1966)
パキスタン(1966)
パラオ(2003)
パプアニューギニア(1971)
フィリピン(1966)
サモア(1966)
シンガポール(1966)
ソロモン諸島(1973)
スリランカ(1966)
中華民国(1966) [注釈 2]
タジキスタン(1998)
タイ(1966)
東ティモール(2002)
トンガ(1972)
トルクメニスタン(2000)
ツバル(1993)
ウズベキスタン(1995)
バヌアツ(1981)
ベトナム(1966)
地域外メンバー(ヨーロッパ・北米)
一部の市民・NGOなどの動き
経済発展を目的としたアジア開発銀行が途上国において融資する大型開発プロジェクトは、現地に環境面・社会面への負の影響を与えているという主張があり、意志決定プロセスに現地住民の参加が十分確保されているとも言えないという主張があることからも、融資される側である途上国からだけでなく、一部のNGO[誰?]から批判の声が上がっている[要出典]。
毎年開催される総会では、問題のあるプロジェクトを扱う政策提言型NGOによるロビー活動はもちろんのこと、アジア開発銀行が取る政策自体に反対表明をする人々のグループが、対抗フォーラムを行うこともある。 インドのハイデラバードで開催された第39回には、Peoples Forum against ADB[リンク切れ]が開催され、2007年5月に開催された第40回京都総会では、ADB京都総会・市民フォーラムが開催され、ADBの融資するプロジェクトの問題点などが話し合われた。
脚注
注釈
出典
- ^ 共同通信 2025年2月24日(月) 8:30配信
- ^ “アーカイブされたコピー”. 2010年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年12月15日閲覧。
- ^ 船橋洋一『21世紀 地政学入門』文藝春秋、2016年、148頁。ISBN 978-4-16-661064-8。
- ^ 新潮社 (2015年4月16日). “中国が台湾の「AIIB参加」を拒んだ理由”. ハフィントン・ポスト 2017年4月27日閲覧。
- ^ 吉岡桂子 (2017年4月27日). “ザ・コラム ADB50年 アジアを代表するのは誰?”. 朝日新聞 朝刊: p. 16
- ^ 外務省ホームページから引用。[1]
- ^ ADBのウェブサイトから引用
- ^ “ADB総裁寄稿・関連記事 アジア開発銀行の概要と新型コロナウィルス 危機への対応 浅川雅嗣ADB総裁プレゼン資料 「日経SDGs/ESG会議」 2020年5月11日”. アジア開発銀行駐日代表事務所. 2018年9月3日閲覧。
- ^ 藤田祐樹(マニラ)「アジア開銀総裁に神田氏就任」『日本経済新聞』2025年2月25日、朝刊、3面。
関連項目
外部リンク
- Asian Development Bankのページへのリンク