ハンセン病とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 同じ種類の言葉 > ヘルスケア > 疾患 > > ハンセン病の意味・解説 

ハンセン病


ハンセン病(leprosy)は感染症法には含まれないまた、らい予防法1996年4月廃止された。ハンセン病はらい菌Mycobacterium leprae )の感染により、皮膚表面斑紋結節などを生じさせ、また神経障害による知覚障害運動障害筋肉萎縮をきたし、外形的な変形などの後遺症を残す場合がある。近年わが国での新患発生年間20名以下で推移している。
WHOにより、多剤併用療法によるハンセン病対策推進されている。

疫学
らい予防法廃止に伴い届け出制度なくなったが、日本ハンセン病学会ハンセン病新患調 査班がわが国のハンセン病の実態把握のための調査行っている。国内における年間新患発生数過去10年以上20名以下であり、そのうち半数以上を在日外国人占める(図1)。

 1993年から2003年の間における国内患者の約60%は、沖縄県出身者見出された。外国人患者ブラジル人45%、ついでフィリピン人が約20%でこれに続いていた。これらは出身国に おけるハンセン病の感染状況、および本邦における在留者数を反映したものと推測される近年日本人患者高齢者多く平均年齢は63.9歳であったとりわけ沖縄以外でこの傾向顕著である。国内15カ所の療養所入所している約3,500療養者のうち、陽性2001年末で46であった邑久光明園牧野調査)。

 2002年国外における新患としては、インド473,658)、ブラジル38,365)、ネパール13,830)、 タンザニア(6,492)、モザンビーク(5,830)、マダガスカル(5,482)に多数発生見られ、これら6カ国で世界88%を占める。その他、HIV感染がハンセン病に及ぼす影響については、結核 におけるような明確な変化報告されていない

病原体
ハンセン病は抗酸菌分類されるらい菌Mycobacterium leprae )(図2)による感染症である。

未だ人工培地での培養不能であるが、マウス足蹠アルマジロ、マンガベイサル、アカゲサルで実験感染系が成立している。世代時間1112日で、32前後低温発育至適とし、ヒトにおける病変好発部位低体温部に一致する組織球性細胞内で増殖し、また神経親和性有するアルマジロ霊長類での自然感染例が報告され、ハンセン病は人獣共通感染症考えられている。

 らい菌ゲノムDNAは3, 268, 203 bpである。蛋白質コードする遺伝子は1,604である一方、1,116偽遺伝子存在し、このことが、らい菌in vitroにおいて培養不能であることの原因ではないか推測されている。菌体外層にはフェノール糖脂質(phenolic glycolipid-I, PGL-I)が存在し末端の3糖の構造らい菌特異なものとして血清診断利用される
らい菌phenotype, genotypeともに多型性に乏しく疫学解析応用可能な手法がなかったが、近年rpoT 遺伝子内の多型、TTC3塩基リピート数の違い報告され、それらによる感染様式解明初めとした分子疫学分野研究進みつつある。未治療患者存在するらい菌感染源となり、鼻粘膜を介して感染成立する考えられている。らい菌病原性弱く血清疫学結果からは、発症に至る感染例0.2%以下であることが示されている。潜伏期間通常、2~4年とされているが、20年以上と推定される例も報告されている。


臨床症状
ハンセン病は皮膚症状神経障害主な臨床症状とし、増殖に伴う1次的な組織変形破壊宿主応 答により惹起された2次的病変組み合わさった病像からなるらい菌対す宿主免疫能を反映したTT型 (類結核型、tuberculoid type)、B群境界群、borderline group)、LL型(らい腫型、lepromatous type)、およびI群(未定型群、indeterminate group)にわたる病型スペクトラム呈する

 皮膚症状病型により、またそれぞれの症例により多様である。各症状については参考文献参照されたい。神経症状多く場合末梢神経肥厚伴い(図3)、知覚障害触覚痛覚温度覚)、運動障害自律神経障害として現れる

 ハンセン病の経過中に、らい反応呼ばれる異な2種類急性の炎症反応が起こる場合がある。1)1型らい反応(または境界反応リバーサル反応):B群病像経過中に急に発赤増強し、腫張をきたす。Th1型の免疫応答増強結果考えられている。2)2型らい反応(らい性結節性紅斑erythema nodosum leprosum. ENL):LL型およびBL型に見られる反応で、病変部や正常に見え皮膚に、発赤疼痛を伴う浸潤性紅斑出現するらい菌菌体成分と、これに対す抗体との免疫複合体血管壁沈着して起こる症候群である。


病原診断
1)抗酸菌染色によるらい菌検出皮下組織メスでかき取り、これをスライドグラス塗抹した材料をZiehl-Neelsen染色して抗酸菌観察する病理組織標本をFite染色し抗酸菌証明する。2)Polymerase chain reactionPCR)によるらい菌特異塩基配列検出らい菌特異的に存在する繰り返し配列65kD蛋白質遺伝子36kD蛋白質遺伝子その他の遺伝子一部増幅するPCR利用されている。3)抗PGL-I抗体検出。PGL-Iに対す抗体検出するゼラチン粒子用いた間接凝集反応キット、セロディアレプラ(富士レビオ)が市販されている。
病原材料かららい菌分離する場合マウスのfootpadに接種し2530週の観察を行う。 106107限定増殖であり、全身化あるいは接種局所肉眼変化観察されない


予防・治療
実験感染らい菌増殖阻止効果を示す例がいくつか報告されているが、ハンセン病に有 効なワクチン開発されていない。ハンセン病に対して早期発見早期治療により後遺症残さないことが治療の基本となっている。そのために、WHOの推奨する多剤併用療法MDT)(表1)が広く適用されわが国でもそれに準じた治療指針日本ハンセン病学会により策定さ れている。わが国治療指針では、陰性化および活動性臨床所見見られなくなるまで治 療継続することを基本としている(文献3)。それぞれ定められた期間の治療完了持って治 癒みなされ、登録から外されるこのために図1に示すような急激な患者数減少となったが、 新患発生減少見られず、MDT感染源対策意義絶対的ではない。MDT完了後の再 発率治療終了時数が多く時間を経るとともに高くなり、0.01~3.3/100人/年の結果示 されている。
DDSリファンピシン、オフロキサシンに対する単剤あるいは多剤薬剤耐性例が認められ、特 に再発例ではその割合が高い。近年上記3剤についてそれぞれfolP, rpoB, gyrA 遺伝子特 定塩基の1塩基変異により耐性獲得することが示され治療薬選択利用されている。

参考文献
1)Hastings R. C.: Leprosy 2nd Ed., Churchill Livingstone, (1994
2)大谷藤郎 監修:ハンセン病医学基礎臨床)、東海大学出版会、(1997
3)後藤正道 他:ハンセン病治療指針日本ハンセン病学会誌、69巻、157、(2000
4)ハンセン病新患調査班:2003年のハンセン病新規患者発生状況日本ハンセン病学会誌、 73巻、325、(2004
5)並里まさ子 他:ハンセン病治癒判定基準日本ハンセン病学会誌、71巻、235、(2002
6)Maeda, S. et al: Multidrug resistant Mycobacterium leprae from patients with lerposy. Antimicrob. Agents Chemother. Vol. 45, 3635(2001
7)WHO expert committee on leprosy, Seventh report. Technical report series 874, WHO, Geneva, (1998
8)WHO: Weekly epidemiological record 77, 1(2002






ハンセン病と同じ種類の言葉

このページでは「感染症の種類」からハンセン病を検索した結果を表示しています。
Weblioに収録されているすべての辞書からハンセン病を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
 全ての辞書からハンセン病を検索

英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ハンセン病」の関連用語

ハンセン病のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ハンセン病のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
国立感染症研究所 感染症情報センター国立感染症研究所 感染症情報センター
Copyright ©2024 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.

©2024 GRAS Group, Inc.RSS