第8巻: ワールズ・エンド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 23:48 UTC 版)
「サンドマン (ヴァーティゴ)」の記事における「第8巻: ワールズ・エンド」の解説
独立した短編が主体だが、メインストーリーの結末が近づいていることを予兆するシーンが含まれている。それらの物語は旅籠に集まった登場人物たちが酒の席で語り合ったもので、チョーサーの『カンタベリー物語』と似た枠物語の形式になっている。そのため各話は語りと絵の両面で独自のスタイルを持っており、旅籠を舞台とした短いシークエンスが間をつないでいる。旅籠のシーンの作画は英国のベテラン作画家ブライアン・タルボット(英語版)による。 冒頭部は主人公ブラント・タッカーの一人称で語られる。彼は自動車旅行の途中で事故に遭い、「世界の果て、滞在無料」と書かれた奇妙な旅籠に入る。旅籠は一種の避難所であり、何らかの重大な出来事の余波として「リアリティの嵐」が吹き荒れる間、いくつもの世界を渡る旅人たちが身を休めるための施設だった。物語を語り合っていた滞在者たちはやがて、夜空に屹立する巨人たちの葬列を見る。最後尾のデスは悲し気な視線を送る。その後タッカーは自分の世界に帰り、バーの主人にこの物語を語る。 A Tale of Two Cities 物語の主人公は、深夜の地下鉄でドリームと乗り合わせたのをきっかけに、住み慣れた都市とは異なる奇妙な街並みに迷い込む。帰路を探すうちに出会った老人は、そこは都市そのものが見る夢の中だという。自己の存在が失われる恐怖に駆られながら現実に帰り着いた彼は、都市を離れて小さな村に移り住み、物語の語り手に自らの体験を伝えた。 登場人物が人知を超えた真実を知る物語で、作者ゲイマンはH・P・ラヴクラフトの影響を認めている。枠線で囲まれたコマの中に吹き出しで文章を書くという通常のコミックの様式ではなく、散文で書かれたナレーションの合間にイラストレーションを挟む構成を取っている。作画のアレック・スティーヴンスは自作でドイツ表現主義を意識したアプローチを取っており、ゲイマンはそのスタイルで描くよう依頼した。 Cluracan's Tale 第4巻で登場した大胆不敵な妖精の使節クルラカンが語る冒険活劇。クルラカンは妖精の女王マッブによって都市アウレリアンに派遣され、その地で開かれる都市国家の首脳会談をかく乱する任務に就く。彼は会談の最中、衝動的に真実を言い当てる妖精の本性により、アウレリアンの支配者の罪を暴き出してしまう。投獄された彼は妹ヌアラの夢を見る。ヌアラは主君モルフェウス(ドリーム)に嘆願して彼を牢獄から脱出させる。クルラカンは妖精の力によってアウレリアンの住民を扇動し、支配者を倒す。 Hob's Leviathan 海に取りつかれ、ジムという名の少年に扮して船員となった少女が語る、未踏の海が持つ不可解な謎と、人々が持つ秘密についての物語。第2巻の短編 Men of Good Fortune で不老不死となったホブ・ガドリングが登場する。 20世紀初頭、リバプールに向かう商船に乗り組んでいたジムは旅客のホブと親しくなる。航海中にインド人の密航者が発見されるが、ホブの厚意で同乗が認められる。密航者はインドの王についての昔話を語る。その王はたった一つ手に入れた生命の果実を妻に贈るが裏切られ、絶望のあまり自ら果実を口にして不死となり、地位を捨てて世界を放浪しているのだという。 航海も終わりに近づいたころ、恐るべき大きさのリヴァイアサンが現れ、偉容を誇示して姿を消す。ジムは興奮してこの体験について語り合おうとするが、共に目撃したはずの水夫たちやホブは敢えて語ろうとしない。後にジムは密航者とホブの会話を盗み聞き、二人が数百年間生きてきたことを知る。ホブもジムの秘密を察していた。しかし、彼らにはそれぞれの秘密を口外するつもりはなかった。 The Golden Boy リチャード・ニクソンの次にプレズ・リカード(英語版)がアメリカ大統領となった平行世界の物語である。 「プレジデント」にちなんでプレズと名付けられた男の子は、幼いころから神童として知られ、政治家として将来を嘱望されるようになる。19歳にして大統領選で圧倒的な勝利を収めたプレズはすぐに華々しい政治的業績を上げ、理想の実現に力を尽くす。しかし、伝説的な政治的黒幕であるボス・スマイリーがプレズを誘惑しようとする。プレズは抗うが、凶弾によって婚約者を失ったことで痛手を受ける。任期を終えたプレズは故郷に隠棲し、若くして死ぬ。死後の世界を支配していたボス・スマイリーは隷属を強いる。しかしドリームがプレズを救い出し、平行世界のアメリカを巡り歩いて理想を伝道する機会を与えた。この物語を語ったアジア系の人物は、世界から世界へと旅しながらプレズの後を追い、その言葉を伝えているのだという。 プレズはDCコミックスが1973年に発刊し、4号で打ち切ったコミックシリーズ Prez: First Teen President の主人公であった。スマイリーフェイスのモチーフが登場するのは『ウォッチメン』へのオマージュと見られる。 Cerements リサージと呼ばれるネクロポリスの住人ペトリファクスが語り手だが、物語中で別の語り手が物語を始めるという重層的な構造となっている。 リサージは他の世界から送られてくる死者のために多様な葬儀が執り行われる都市であった。ペトリファクスは葬儀人としての徒弟修業について話し始め、鳥葬の場でほかの者から聞いた物語を口伝えに語る。 一人目の徒弟が語ったのは死刑囚が死刑執行人の役を担う国の話だった。二人目の徒弟は旅の途中でリサージに立ち寄ったディストラクションから聞いた話を語る。はるか昔、ディスペアの最初の人格が死んだときに存在していたネクロポリスは、典礼通りの葬儀を行おうとしなかったため崩壊させられたという。三番目の親方は女師匠から伝えられた体験談を語る。リサージの地下墓地の奥深くに、エンドレスの葬儀に使われる経帷子 (cerement) を収めた部屋があるというのだった。 語られる内容は最終巻で起きる出来事と密接なかかわりがある。
※この「第8巻: ワールズ・エンド」の解説は、「サンドマン (ヴァーティゴ)」の解説の一部です。
「第8巻: ワールズ・エンド」を含む「サンドマン (ヴァーティゴ)」の記事については、「サンドマン (ヴァーティゴ)」の概要を参照ください。
- 第8巻: ワールズ・エンドのページへのリンク