取り替え子
『雨やどり』(御伽草子) 按察大納言の姫君は、雨宿りが縁で中納言と契りを結び、男児が誕生する。折しも内裏では女御が鬼子を産んだので、姫君の産んだ男児と取り替える。男児は東宮になり、やがて帝位につく。
『源平盛衰記』巻43「宗盛取替子の事」 平清盛は、妻の二位殿(=時子)が懐妊した時、「弓矢取る身は男子こそ宝よ」と言って、男児誕生を強く望んだ。しかし生まれたのは女児だったので、二位殿は、唐傘売りの僧の所に生まれた男児と取り替えた。これが平宗盛である。だから、平家の総大将宗盛は、清盛の子でもなく二位殿の子でもない。二位殿は、壇の浦で入水する時、初めてこのことを語った。
『バーガヴァタ・プラーナ』 クリシュナは誕生するとすぐ、同日に生まれた牛飼いの娘と取り替えられた。
『本朝二十四孝』4段目「十種香」 武田勝頼は生まれた時に家老の子と取り替えられていた。足利将軍暗殺の犯人が詮議できぬため、責任を負ってにせ勝頼は切腹し、本物の勝頼は花造り蓑作として、家宝諏訪法性の兜を取り戻すべく、長尾(=上杉)家に入りこむ。
『魔術師』(江戸川乱歩) 宝石商玉村善太郎一家の皆殺しをたくらむ奥村源造は、玉村家に誕生した女児(=文代)と、同じ頃生まれた自分の娘(=妙子)を、病院で取り替える。玉村家で成長した妙子は、やがて実の父親源造から自分の出自を知らされ、父親と協力して、玉村一家殺害計画を実行にうつす。しかし明智小五郎が妙子の正体をあばき、文代こそが玉村家の娘であることが明らかになって、明智と文代は結婚する〔*後に書かれた『暗黒星』でも、同様の赤ん坊取り替えのトリックが使われる〕。
『歴史』(ヘロドトス)巻1-108~113 アステュアゲス王は王位を奪われることを恐れ、生まれたばかりの孫(=キュロス)を殺すよう命ずる。同じ時に牛飼の妻が死産したので、牛飼は死産した赤子とキュロスを取り替えて育てる。
『今昔物語集』巻4-3 阿育王には8万4千人の后がいたが、王子がなかった。しかしようやく、寵愛する第2の后が王子を出産した。それを妬む第1の后は乳母を味方につけ、第2の后の産んだ子を猪の子とすりかえて、王子を殺した。阿育王は「猪を産んだ」と聞き、第2の后を他国に流した〔*数ヵ月後、阿育王は他行して第2の后と再会し、第1の后の悪事を知る。王は第2の后を王宮へ連れ帰り、再び后にする〕。
『長谷寺験記』上-7 美福門院が懐妊したが、博士が「姫宮だろう」と占った。美福門院は嘆いて長谷寺に参籠し、「滝蔵山の尼が産む男児と取り替えよう」との夢告を得る。その結果生まれたのが、後の近衛天皇である〔*『三国伝記』巻2-15に同話〕。
『春色辰巳園』4編巻之12 丹次郎はお長(蝶)を本妻に、米八と仇吉を妾にする。仇吉は身ごもるが、子のない米八に遠慮して姿を隠し、女児お米を産む。同じ頃、お長は男児八十八(やそはち)を産む。八十八が3歳の時、お長・米八たちは池上本門寺に参詣し、喧嘩騒ぎの雑踏の中で八十八とお米を取り違える。これが縁で仇吉母子は再び丹次郎の世話を受け、皆で仲良く暮らす。
『当世書生気質』(坪内逍遙) 上野が彰義隊と官軍の戦場になり、士族・守山友定の妻は3歳の娘お袖を抱いて逃げる途中、同じく3歳の娘お新を背負って逃げるお秀とぶつかり、互いの娘を取り違える。守山友定の妻は流れ弾に当たって死に、お秀は取り違えに気づいてお袖を捨てる。お新もお袖も、他人に養われて育ち、やがてお新は娼妓「顔鳥」、お袖は芸妓「田の次」となる〔*10数年後、お新は自ら「お袖」と名乗って守山友定の子になろうとするが、失敗する〕→〔出生〕1b。
『ひらかな盛衰記』3段目「大津の宿」 木曽義仲の討死後、山吹御前と若君駒若丸は落ちのびて大津に一宿する。その夜、源氏の追手が襲い、闇の中で、宿に泊まり合わせた船頭権四郎の孫槌松が、駒若丸と間違えられて首を討たれる。権四郎は駒若丸を家へ連れ帰り、槌松として育てる。
★3b.若君と乳人子(めのとご)を取り替えたように見なされる(*実際は、取り替え子ではなかった)。
『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』「足利家奥御殿の場」 仁木弾正一味が、伊達家の若君鶴喜代の毒殺をはかる。乳人(めのと)政岡の子千松が、身代わりになって殺される(*→〔死因〕1)。ところが政岡は、我が子千松の死を見ても顔色一つ変えない。仁木弾正一味は、「若君暗殺に備えて政岡は、若君と千松を取り替えておいたのだ。死んだのは実は若君鶴喜代で、暗殺は成功したのだ」と考える。
『木幡の時雨』 故奈良兵部卿右衛門督の中の君は、式部卿宮(のち東宮)と契りを結び、双子の男児を産む。中の君の妹三の君は、中納言との間に双子の女児をもうける。やがて三の君は東宮(=式部卿宮)妃となり、中の君が産んだ双子の男児を自分の子として育てる。中の君は中納言と結婚し、三の君が産んだ双子の女児を自分の子として育てる。2組の双子は成長後、それぞれ皇位継承者とその配偶者となって結婚する。
★5.悪魔や魔法使いなどが人間の赤ん坊をさらい、代わりに自分の子を置いておく。
『ドイツ伝説集』(グリム)82「取り替えっ子」 悪魔はしばしば人間の子を揺籃からさらって、代わりに自分の子を入れておく〔*83「川の中の取り替えっ子」に類話〕→〔成長〕2b。
『夏の夜の夢』(シェイクスピア)第1幕 妖精王オベロンの妃タイターニアは、お産で死んだインド王妃の子を盗み出して、自分の小姓にした〔*この時も、代わりの子を揺籃に入れて置いたと考えられる〕。
『魔法を使う一寸法師』(グリム)KHM39「3番目の話」 魔法使いの一寸法師たちが、ある母親の揺籠から赤ん坊を盗み、代わりに、頭でっかちの鬼子を入れておく。鬼子はやたらに飲み食いをしたがるので、母親は困り、鬼子を追い払おうとする→〔笑い〕1c。
*悪魔が人間の赤ん坊を殺し、代わりに自分の子を育てさせる→〔同日・同月〕1cの『オーメン』(ドナー)。
★6.悪魔が人間の赤ん坊をさらった後、悪魔自身が赤ん坊に変身して、人間の父母のもとにとどまる。
『ゲスタ・ロマノルム』201 スペイン王夫妻が、キリスト教の洗礼を受けたおかげで、跡継ぎの王子を授かった。悪魔がこれを怒り、生まれたばかりの王子をさらってローマの森へ運び、籠に入れて月桂樹に吊るした。悪魔は王子に変身して、スペイン王のもとで育てられ、成長するとともにさまざまな悪事をはたらく。スペイン王は当惑し、落胆して、キリスト教を棄てた。一方、王子は教皇シクストゥスに拾われ、ラウレンティウスという洗礼名を与えられる。ラウレンティウスは成長後スペインへ戻り、父母と対面し、悪魔を追い払った。
★7.ジプシーが美しい女児をさらい、代わりに化け物のような醜い男児を置いておく。
『ノートル=ダム・ド・パリ』(ユゴー)第4編1・第6編3 パケットは娼婦をしていたが、20歳の時、美しい女児(=エスメラルダ)を産んだ。しかしジプシーが女児をさらい、代わりに、化け物のような醜い男児(=カジモド)を置いておく。パケットは悲しみと怒りで狂乱状態になり、ジプシーを呪う。男児はノートル=ダム大聖堂の前に棄てられ、若い司祭フロロが養父となって男児を育てる。
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