あごだし
「あごだし」とは・「あごだし」の意味
「あごだし」とは、九州の北部地域でトビウオを「あご」と呼ぶことから名付けられた魚風味の旨味だしのことで、まるごと焼いた後に干したトビウオを粉末状の顆粒にしたものが多く流通している。「あごだし」は、脂肪分が少なくて、すっきりとした上品な口あたりが魅力である。トビウオは水面を飛びながら動いていく運動量の多い魚であることから、低脂肪で高タンパクな上に、ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富に含まれていることでも知られている。そのため、「あごだし」はダイエットに効果的な食品としても女性を中心に注目を浴びている。
また、トビウオは臭みの少ない魚として知られていて、「あごだし」は魚のだしでありながら青臭さがなくて旨味が伝わりやすい。さらに、トビウオに含まれているアミノ酸のひとつであるグルタミン酸と、核酸系のひとつであるイノシン酸が融合することにより、相乗効果によって旨味が多く感じられるのである。「あごだし」が急速に広まったのは、家庭で作る普段の料理に使うとまるでお店の料理のように感じられる深いコクとおいしさにあると言われている。
「あごだし」の原料となるトビウオは、危険から身を守るために海面をすべるように滑空していて、飛行距離は600メートルにも及ぶ。そのため、トビウオの漁法としては「刺し網漁」「定置網漁」のほかに「ロープ曳き漁」が行われていて、2隻の船でトビウオの群れを追い込み囲いこんでいきながら、トビウオが飛んで網の外に逃げないように工夫を施している。
トビウオで「あごだし」を製造する工程は、海水でよくあらったトビウオを一尾ずつ串にさして、真水で丁寧に洗う。その後、炭火でじっくりと焼いてから、串にさしたままの状態で網の上に並べてゆっくり冷ます。さらに、トビウオの頭がとれないように慎重に串をはずして再度網に並べていき、3日から4日かけて天日干しをして完成する。粉末状のものは、できあがった焼きあごを粉砕して仕上げている。
丸ごとの焼きあごから「あごだし」をとる方法は、焼きあごの頭と腹わたを取り除いて身を縦に割き、水につけておく。焼きあごをつけておく時間は1時間から半日で、その後鍋に入れて火にかけて、沸騰してからアクをとって煮出していく。最後にザルやふきんでこしてなめらかな「あごだし」ができあがる。粉末状のものは、そのまま料理に加えたり、パックのまま煮出して使う。
「あごだし」の歴史・由来
「あごだし」の歴史
「あごだし」の発祥地の一つとして有名なのは長崎県の北部に位置する平戸市である。「あごだし」の歴史は少なくとも江戸時代までさかのぼるとされている。平戸藩主の日記には、干しあごや焼きあごが江戸藩邸に届けられた記録が残っていて、「あご」が当時からすでに平戸の名産として珍重されていたことがわかる。
「あごだし」の名前の由来
トビウオが、九州北部地域やそのほかの日本海沿岸地域で「あご」と呼ばれるようになった由来には諸説ある。トビウオの味があごが落ちるほどにおいしいことから名付けられた説が有名だが、トビウオがあごがはずれるほどおいしくて驚くこと、トビウオの引き締まった身を食べる時にあごをよく使うことからついた呼称であるとも言われている。そのほかにも、正面から見たトビウオがあごが出ているように感じること、トビウオのあごが大きくて目立つことなど、トビウオの姿や形状に基づいたものであるという説もある。
「あごだしブーム」について
「あごだし」の発祥地は長崎県だが、「あごだしブーム」の火付け役となったのは福岡の食品会社である。日本の代表的なだしといえば、それまで鰹節、昆布、椎茸、煮干しが主流であったが、福岡の食品会社が焼きあご入りのだしパックをヒットさせたのが発端となり、全国の百貨店や直営店では行列ができるほどの人気となる。2016年には、トビウオの価格が急騰して、1箱3000円程度のトビウオが1万5000円にまで高騰して価格が約5倍にもなり、「あごだしバブル」とよばれて話題になる。
その後も「あごだしブーム」の勢いは止まらず、さまざまな食品会社が「あごだし」の製造と販売をスタートさせる。「あごだし」はいつもの料理をワンランクアップさせる高級感のあるだしとして普及し、新しいだしの定番として売り上げを伸ばしている。店舗販売だけではなく、通信販売などでも積極的に販売が展開されて、全国的な人気を集めている。
「あごだし」の熟語・言い回し
「あごだし鍋」とは
「あごだし鍋」は、焼きあごを中心に煮干し、さば、鶏ガラ、しいたけ、かつおなどブレンドしたスープで味わう鍋のことである。「あごだし」の発祥地である平戸では、古くから相撲とも縁が深いことから、豊かな海が育んだ食材と相撲を融合させた「あごだしちゃんこ鍋」が名物となっている。
現在では、具材を入れるだけで簡単に「あごだし鍋」が楽しめる液体状の鍋つゆ商品が数多く販売されていて、デパートやスーパーなどの食品売り場で多種多様な商品の中から選ぶことができる。鍋の中に入れるものとしては、ネギ、キャベツ、白菜、にんじん、キノコなどの野菜類をはじめ、豆腐、豚バラ肉、鶏モモ肉、鱈など、幅広い食材が使われる。また、「あごだし」のコクの深さを最大限に凝縮して味わえる、しめの雑炊や麺類も「あごだし鍋」には欠かすことできないと好評である。
「あごだしラーメン」とは
「あごだしラーメン」は、トビウオでだしをとった香ばしく風味豊かなスープで作られているラーメンである。「あごだし」の発祥地として知られる平戸でも「あごだしラーメン」が名物料理の一つとして浸透していて、透き通った薄茶色のあごだしスープのあっさりとした上品な味わいが特徴となっている。店舗で出されるラーメンだけではなく、お土産として自宅で作ることのできるチルド食品やレトルト食品の「あごだしラーメン」も人気がある。
「あごだしつゆ」とは
「あごだしつゆ」とは、本醸造の醤油をベースとして、焼きあご、かつお、昆布、椎茸のだしの旨味を抽出したつゆのことである。個別に抽出して絶妙なバランスでかけ合わせることにより、深みのある旨味を実現している。そばやうどんのつゆとしてだけではなく、天つゆ、おすまし、煮物、だし巻き卵、茶碗蒸しなどの料理の味付けにも広く使われる。
また、時速50キロメートル以上のスピードで海上を飛んでいるトビウオを使った「あごだし」から作られる「あごだしつゆ」は、うすい黄金色でありながら、ほかのだしにはない上品で筋の通った味わいが評判である。そのまま使えるストレートタイプをはじめ、2倍濃縮、4倍濃縮などの多様なバリエーションの「あごだしつゆ」が流通している。
「あごだし塩」とは
「あごだし塩」とは、トビウオの粉末だしにまろやかな焼き塩を加えて作られた、香り豊かな「だし塩」のことである。「あごだし塩」は、さまざまな料理に深い味わいと旨味を加えることができる万能調味料として活用でき、人気が高まっている。また、「あごだし塩」をそのまま食しても、あごだしの風味が口いっぱいに広がり、まろやかな塩味を堪能できる。
「あごだし塩」を使ったレシピとしては、お吸い物、スープ、炊き込みごはん、漬け物、おにぎりなどがある。「あごだし塩」をそのまま付けて味わうのに相性がよいメニューとしては、冷や奴、お刺身、納豆、天ぷらなどがあり、ひと振りするだけで、料理のグレードがあがると評判である。
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