常用漢字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/10 08:16 UTC 版)
法令における使用
法令では常用漢字のみを使用することを原則として[14]、常用漢字外の字は、語そのものの言い換えが行われるか、その字のみ平仮名書きするか、常用漢字外の字を使用しつつ初出の箇所にのみ振り仮名(ルビ)をつける運用がなされる。
同音の漢字による書きかえは、第二次世界大戦後、当用漢字告示後から多用されている。「慰藉料」を「慰謝料」と表記するなどである。
平仮名書きは、機械的に行えるために多く使用されてきたが、同音異義語がある場合や、「だ捕」(拿捕)「改ざん」(改竄)など語の一部のみ平仮名書き(交ぜ書き)される不自然さがあり、次第に避けられるようになりつつある。
初出箇所にのみ振り仮名を振る方式は、常用漢字使用の原則に沿いつつ、自然な記載をなしうるため、法令の条文の記載において、多く用いられるようになりつつある。平成に入って口語化された刑法・民事訴訟法などはいずれもこの方式によっている例である。
法令以外の公用文においても、「公用文作成の考え方」[15]により、常用漢字のみを使用することを原則とするように定められている。
実際には使用されないもの
日本国憲法に用いられている漢字は全て当用漢字表に採られ、常用漢字表にも引き継がれている[注 15]。一般的に用いられない漢字が常用漢字である一因はこのためである。
- 『公用文作成の要領』において「常用漢字表にあるものであっても,仮名で表記するもの」とされているもの[注 16]
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- 虞、 恐れ:「おそれ」
- 且:「かつ」
- 従って(接続詞):「したがって」、動詞「したがう」の活用として用いる場合は「従って」と表記。
- 但し:「ただし」
- 但書:「ただし書」
- 外、他:「ほか」
- 又:「また」(ただし,「または」は「又は」と表記する。)
- 因る:「よる」
- 常用漢字表にある字種だが、日本新聞協会新聞用語懇談会が使用しないことを決めた7字[16][17]
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- 虞(おそれ):『新聞用語集』「用字用語集」では「恐れ」の表記が示され、『NHK漢字表記辞典』では「おそれ」の表記が採られている。常用漢字表外の音に「グ」があり、熟語として虞美人、虞犯などがある。報道関係では「虞犯」は「犯罪予備軍」「非行少年」などに言い換えている。
- 且(かつ):「かつ」は副詞で「同時に」、接続詞で「それに加えて」という意味があるが、仮名書きが一般的であるとして、新聞社などマスメディアでは漢字を用いない。
- 遵(ジュン):「決められた規則などに従う」という意味。遵守、遵法などの熟語があるが、『新聞用語集』『NHK漢字表記辞典』共に順守、順法など、同音の「順」とする表記を採る。
- 朕(チン):かつての天皇の一人称。使用頻度が低いとして使用しないこととされている。『新聞用語集』「用字用語集」に表記例は示されず、『NHK漢字表記辞典』では仮名書きすることが示されている。
- 但(ただし):仮名書きが一般的であるとして漢字を使用しないこととされている。
- 附(フ):同音の「付」に書き換える。新聞では学校名や病院名など固有名詞に含まれる「附属」も「付属」とする表記が行われる[18][19][20]。『NHK漢字表記辞典』では固有名詞では「附属」の表記も認めている[21]。
- 又(また):仮名書きが一般的であるとして漢字を使用しないこととされている。公用文とは違い「または」も仮名書きにする。
- 用途が限られる常用漢字
- 尺貫法で用いられる常用漢字
- 世論調査によって、あまり使用しないと回答された漢字
字体・字形に関する指針(報告)
近年、手書き文字と印刷文字の表し方に習慣に基づく違いがあることが理解されにくくなっている。また、文字の細部に必要以上の注意が向けられ、正誤が決められる傾向が生じている。
文化庁では、平成26年度から文化審議会国語分科会漢字小委員会において、「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」に関する指針の作成」に関して検討を進めていたが、その検討結果が国語分科会で「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」(案)として示された[22]。
注釈
- ^ さらに漢字を適切に使うことに関しては、義務教育では学年別漢字配当表に示されている漢字にとどまる。
- ^ 「崎」の異体字だが改定常用漢字の「埼」は訓読みの「さき」ではなく「さい」である。
- ^ a b c 改定常用漢字表では「曽・痩・麺」について「頻度数に優先して、生活漢字としての側面を重視し」て、印刷標準字体「曾・瘦・麵」ではなく簡易慣用字体「曽・痩・麺」を採用した。
- ^ 「坂」の異体字。
- ^ 「側」には〈「かわ」とも。〉と注記された。
- ^ 追加された「隙」には〈「隙間」は、「透き間」とも書く。〉と注記された。
- ^ 「表の見方」に「字音を動詞として用いることのできるもの」として「力む」が「案じる」・「信じる」とともに例示されている。
- ^ 第20回漢字小委員会で配付された資料2 (PDF) P.4参照。
- ^ この2点のほか、P.2 6行目 候補漢字Aの「樋」は「桶」の誤りである。
- ^ 第2次字種候補案[8]と国語分科会提出資料[9]では表現が若干変わったが、実質的な内容に変わりはない。なお、国語分科会提出資料は第39回国語分科会で了承された。
- ^ 第32回漢字小委員会で配付された資料3 (PDF) による。ただし、「䑓(「臺(台)」の異体字)・ヶ・々」などの文字についても除外せずに記載されている。
- ^ 2010年(平成22年)4月7日、最高裁で敗訴確定。
- ^ 「常用漢字表」(国語審議会答申)前文には「新しく加わった漢字については、同表に掲げたものに準じて整理を加えた」とある。(注)「同表」は「当用漢字字体表」のこと。
- ^ 人名用漢字として「昭和26年以降平成9年までに示された字体」のこと。
- ^ ただし上諭に用いられている「詢」は当用漢字・常用漢字ではない。
- ^ 『法令における漢字使用等について(平成22年11月30日内閣法制局長官決定)』「1 漢字使用について(4)」。なお本決定以前は『法令用語改正要領』「第五 常用漢字表にあっても、かなで書くもの」において同旨が定められていた。
- ^ a b 平成18年度「国語に関する世論調査」の結果についてによると「あまり使われていないと思う」と「全く使われていないと思う」の合計で「逓」は60.5%、「遵」は60.1%となる。このほかには「謄」「弐」「厘」も調査されたが、「あまり使われていないと思う」と「全く使われていないと思う」の合計は約3割程度である。
出典
- ^ 常用漢字表(2010年)まえがき
- ^ “「空揚げ→唐揚げ」 新聞用語のバイブル『記者ハンドブック』改訂の背景とは 共同通信校閲部に聞く:中日新聞Web”. 中日新聞Web. 2023年2月11日閲覧。
- ^ 標準漢字表、1942年(文化庁ホームページ) (PDF)
- ^ 文化審議会国語分科会報告 国語分科会で今後取り組むべき課題について (PDF)
- ^ 第39回文化審議会総会 情報化時代に対応する漢字政策の在り方について
- ^ 第6回漢字小委員会で配付された資料3 (PDF) P.3参照。
- ^ 第1次字種候補素案 (PDF)
- ^ a b 第2次字種候補案 (PDF)
- ^ 国語分科会提出資料 (PDF)
- ^ a b c d 改定常用漢字表試案への意見(H21.12.11) 三鷹市、2009年12月11日公開、2010年11月25日更新。
- ^ 要望の多かった「玻・碍・鷹」の扱いについて (PDF) 参照。
- ^ 「改定常用漢字表(答申)」 (PDF) P.(12)参照。
- ^ 新聞用語集, p. 24.
- ^ 法令における漢字使用等について (PDF)
- ^ 「公用文作成の考え方」について(建議)(令和4年(2022年)1月7日、文化審議会会長、文化審議会国語分科会長から文部科学大臣宛て)
- ^ 新聞用語集, p. 4.
- ^ NHK漢字表記辞典, p. 14.
- ^ 記者ハンドブック, p. 415.
- ^ 最新用字用語ブック, p. 415.
- ^ 読売新聞用字用語の手引, p. 323.
- ^ NHK漢字表記辞典, p. 493.
- ^ 文化庁:「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」の代表音訓索引
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