ロッカーアーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/18 03:16 UTC 版)
ロッカーアームレシオ
ロッカーアームレシオ(以下、レシオ)とは、ロッカーアームの支点・力点・作用点間の長さの比率(てこ比・レバー比)で、ロッカーアーム比とも呼ばれる。「1:1.4」などの数値で表され、ごく一般的には1:1.5や1:1.6などに比率が大きくなるほど、同じ大きさのカム山でのバルブリフトが増大する。
しかし、レシオの数値算出方法は比率の基準となる1の数値をアームのどの場所の長さとするかによって、同じ数値のレシオでもアームの形状が大きく変化する。大きく分けてロッカーアームのカム山側を基準とする場合と、バルブ側を基準とする場合があり、それによってレシオを増大させた場合のバルブトレーンの動作の変化に違いが生じる。
レシオの1の基準をカム山側としている場合には、レシオが大きくなるほどバルブ側の腕の長さが長くなっていく。このタイプの場合にはレシオをいくら変更してもカム山側の腕の長さが変わらないため、アーム変更に伴いカムシャフトを交換する必要がないメリットがあるが、バルブとタペットの直接の位置関係がずれてしまうために、ヘッドの加工やバルブステムの長さ変更なしに極端に大きなレシオの変更は行えない。設計段階からレシオの極端な増大を前提とする場合にはバルブ挟み角の増大が不可避となる場合もある。
レシオの1の基準をバルブ側としている場合には、レシオが大きくなるほどカム山側の腕の長さが短くなっていく。カムシャフトとの同時交換かバルブタイミングの微調整のみでヘッド側を大きく変更することなくアーム比をある程度自在に変更することができる為、現在のエンジンの設計変更においてはこの手法が主であるが、カムシャフトはそのままで単純にアームのみを高レシオのものに交換した場合には、バルブリフトは増大するが、バルブタイミングがそのカム全体で一定の角度ずれる傾向を示すことにもなる。
このバルブタイミングのずれはカムシャフトの回転方向とバルブの位置関係により相対的に変化する。例えば、時計回りに回転するカムシャフトの右側に吸気バルブ、左側に排気バルブが配置されるクロスフロー燃焼室のSOHCの場合、レシオのみを大きくすることでカムシャフトに対して右側の吸気バルブは早く開いて早く閉じ、左側の排気バルブは遅く開いて遅く閉じる傾向を示す。つまり、バルブオーバーラップが減少することになる。
吸排気両方のロッカーアームがカムシャフトに対して左右片側に集中して配置されることの多いターンフロー燃焼室のOHVやSOHCの場合には、吸排気両方のバルブタイミングが一定量早まるか遅まるのみで済むため、ダイヤルゲージでの測定に基づく調整式カムスプロケットでの再調整のみで対応が可能であり、ロッカーアーム式DOHCの場合も吸排気のバルブタイミングを独立調整できるために、カムシャフトを変更することなく対応することが可能であるが、クロスフロー燃焼室のOHV(クライスラー・ヘミエンジンなど)やSOHCの場合にはバルブタイミングとバルブオーバーラップをアーム変更前に合わせるためには、原則としてハイカムを始めとする高レシオアームに対応したカムプロフィールを持つカムシャフトへの交換が必須となる。
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- ^ ただしこれはスイングアーム式と単純比較した場合の一般論であり、実際には材質や形状を工夫することでたわみを最小限に抑えている場合がほとんどである。
- ^ DOHCは構造上の理由から直打式が多く、ロッカーアームそのものを採用することが多くなかったが、燃費性能向上のため直打式から摩擦の少ないローラーロッカーアームへの変更が近年増えている。
- ^ スリッパー式のアームの場合、カムへの負担を軽減する目的で擦動面を大型化する場合が多いが、慣性重量の関係でローラー式ではこのような改良が行いにくい。
- ^ Understanding Camshaft Fundamentals
- ^ 同形式のエンジンでローラー式とスリッパー式の両方が設定されている場合、ローラー式の方が支点と力点との距離が短い場合が多い。これは慣性重量を減らすための工夫の一つで、カム山を少し高くすることでスリッパー式と同様のバルブリフト量を確保している。このような手法を採っているエンジンでローラー式アームをスリッパー式ヘッドに流用する場合、カムシャフトもローラー式の物に同時に交換しないとロッカーアーム比が変化してバルブリフト量やバルブオーバーラップが減少してしまい、性能低下に繋がる。
- 1 ロッカーアームとは
- 2 ロッカーアームの概要
- 3 摩擦抵抗
- 4 ロッカーアームレシオ
- 5 関連項目
- ロッカーアームのページへのリンク