蚊柱
「蚊柱」とは、ユスリカなどの双翅類の羽虫の大群が柱状に密集して飛ぶ現象のことである。夏場の夕方や朝方に、水辺や水辺に近い路上などでしばしば発生する。
蚊柱が発生することを「蚊柱が立つ」という。蚊柱は夏の季語である。
「蚊柱」の概要
「蚊柱」を作る代表的な羽虫は双翅目(ハエ目)のユスリカである。カゲロウやガガンボなども蚊柱を作る(=柱状に群飛する)習性がある。一般的に見られる「蚊柱」は、たいていユスリカの群飛である。ユスリカ(揺蚊)は蚊によく似た姿をしているが、蚊の仲間ではなく、ハエの仲間である。蚊と違って吸血の習性はなく、したがって人を刺すこともない。
ちなみに「揺蚊」という漢字表記は、蚊によく似た姿をしていること、そして、幼虫が水から体を半分出してユラユラ揺れる習性があることに由来するとされる。ユスリカは成虫も幼虫も蚊に似た姿をしており、幼虫は「アカボウフラ」とも呼ばれる。釣り人は「アカムシ」とも呼ぶ。
ユスリカは人を刺すことはない(成虫は口が退化している)が、蚊柱は路上で人の頭の高さで発生しがちであり、大いに通行の邪魔になる。うっかり蚊柱に突入すれば視界は遮られるわ目や鼻に迷い込む個体もあるわで不快なことこの上ない。
蚊柱はなぜ発生するのか
ユスリカの蚊柱は、繁殖行動であると考えられている。蚊柱となって群飛するユスリカのほとんどはオスである。蚊柱の中にメスはほぼ全くいない。繁殖期のオスが群集して飛行し、メスの到来を待つ、蚊柱はいわばアピール手段なのである。ユスリカのメスが蚊柱を見つけて中に入り、蚊柱の中で手頃なオスをみつくろい、交尾を行い、卵塊をもうけ、近場の水辺に産卵する。
ユスリカの成虫の寿命は長くても数日程度である。ユスリカの成虫は口や消化器が退化しており、栄養摂取が一切できない。繁殖行動を全うしたら死を待つのみである。
蚊柱はいつ発生するか
蚊柱は主に(ユスリカの繁殖期の)夕方もしくは明け方に発生しやすい。どちらも一日のうちで気温が落ち着く時間帯といえる。とはいえ、気温、天候、虫の種類などによっては、日中でも蚊柱が立つ。蚊柱はどこで発生するか
蚊柱は、水が近くにあるところに立ちやすい。産卵場所として手頃な水場が近くにある場所で発生するわけである。典型的には川辺、池の周り、あるいは水たまりの近くで発生しやすい。水はそれほど豊富にある必要はなく、少量の水のある所でも蚊柱は発生する。また、水辺のごく近くでのみ発生するとも限らず、水のある所からだいぶ離れた場所で蚊柱が立つこともある。要するに蚊柱の立つ場所は対して局限されない。
ユスリカは光に集まる習性もあり、夕暮れ時には街灯などに集まってくる。
蚊柱がうざいときの対策
蚊柱が家の庭などで発生すると、窓や扉はうかつに開けられなくなる。屋内に侵入した個体はまもなく息絶えて床を汚す。蚊柱の発生を防ぐために最も重要なことは、水場を作って放置しないという点が挙げられる。家の周りにバケツやたらいやビンなどを放置し、そこに雨水が溜まっていたりすると、蚊やユスリカが繁殖しやすい。もっとも、家の近辺に池や川などの恒常的な水場がある場合にはこの対策は難しい。
家の周囲で発生した蚊柱の影響を屋内に及ぼさないためには、夜に窓を解放したままにしないこと、網戸にする場合も虫よけなどの対策を重ねて講じることなどが求められる。遮光カーテンを使って蚊柱を誘導しかねない光を漏らさないようにするといった方法も有効である。
ハエやカを駆除できる殺虫スプレーは、ハエの仲間であるユスリカにも効くものが多い。
ユスリカは蚊柱を作ったのち数日も経ずに死ぬ。必死なユスリカに情けをかけて看過するのも手ではある。
「蚊柱」の発音・読み方
「蚊柱」は「かばしら」と読む。訓読みする2字熟語である。もし音読みするとすれば「ぶんちゅう」のように読むことになるであろうが、「蚊柱」は音読みされない。
「蚊柱」の使い方・例文
・下校中に蚊柱に突っ込んでしまい散々な思いをした・行く手にクネクネ動くヒョロ長い影が見えて一瞬ゾッとしたがただの蚊柱だった
・現場にワッと集まる野次馬を眺めながら「まるで夏の蚊柱みたいだな」と思った
・「蚊柱が立てば雨のおとずれ」のことわざ通りに雨が降ってきた
ユスリカ
(蚊柱 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/15 13:21 UTC 版)
ユスリカ科 | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Chironomidae Newman, 1834 |
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和名 | ||||||||||||||||||||||||
ユスリカ(揺蚊) | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
non-biting midges | ||||||||||||||||||||||||
亜科 | ||||||||||||||||||||||||
ユスリカ(揺蚊)はハエ目(双翅目)・糸角亜目・ユスリカ科(Chironomidae)に属する昆虫の総称。幼虫が自分の体を揺するのでユスリカ(揺蚊)と命名されている[1]。
大部分の種は幼虫が水生で、川、池などほとんどあらゆる淡水域に棲んでいる。他には海の潮間帯に棲むものや陸生のもの、水辺の朽木の中や土壌中などに棲む半水生的なものなども少数ある。中には水生昆虫や貝類に寄生する特殊なものも知られている。釣り餌や金魚・観賞用熱帯魚の生餌に使われるアカムシはオオユスリカやアカムシユスリカなどの幼虫である。
成虫は蚊によく似た大きさや姿をしているが、吸血することはない。また蚊のような鱗粉も持たないため、蚊と見誤って叩いても、黒っぽい粉のようなものが肌に付くことはない。しばしば川や池の近くで蚊柱をつくる。アフリカのマラウイ湖での蚊柱は数十メートルの高さになることで知られる。

非常に種類が多く、世界から約1万5,000種、日本からは約2,000種ほどが記載されている[2]。水生昆虫の中では1科で擁する種数が最も多いものの一つである。
特徴

見た目が蚊にとても似ていて、電灯の灯などにもよく集まるが、蚊とは科が異なる昆虫で、成虫には口器が無く、消化器も退化して痕跡化しているので、餌をとることは一切できない。ゆえに、蚊のように動物や人を刺したり、その血液を吸うことはない。他の双翅目の昆虫同様、翅は2枚のみで、後翅は平均棍という微小な器官に変化している。成虫は微小-小型で、体長は0.5ミリメートルから1センチメートル程度。メスの触角は普通だが、オスのそれは全方位に生えた多数の横枝がありブラシ状を呈し、蚊のそれよりも短めでフサフサに見える。メスグロユスリカなど雌雄で体の色が異なるものもある。
幼虫はその体色からアカムシまたはアカボウフラと呼ばれるが、蚊の幼虫である本来のボウフラとは形状が大幅に異なる。通常細長い円筒形で、本来の付属肢はない。頭は楕円形で、眼、触角、左右に開く大腮や、そのほか多くの付属器官があり、これらの微細な形態が幼虫の分類に使われる。口のすぐ後ろには前擬脚と呼ぶ1つの突起があり、その先端には多くの細かい爪があって付属肢の様に利用する。腹部末端にも1対の脚があり、やはり先端に爪があり体を固定したりするのに役に立っている。また通常、体の後端には数対の肛門鰓(直腸鰓)を持っており、ユスリカChironomus など一部のグループには腹部にも血鰓(けっさい:血管鰓とも言う)を有するものもある。
川や用水路などで発生するが、特に生活排水などで汚れたドブ川では大量発生することがある。ドブの泥を集めて棲管を作り、そこから上半身をのりだしてユラユラするのがよく見られる。ただし、種数からすればドブに住むものはごく一部で、富栄養化の進んでいない普通の川や池沼、あるいは清流にすむものも多い。ウミユスリカ類の幼虫は潮間帯やサンゴ礁に棲む。また渓流の落ち葉に潜り込むもの、岩の上に棲管を張り付かせるもの、わずかに水が流れる岩の上に棲むもの、土壌中に棲むもの、その他、特殊な生息場をもつものも知られている。周囲の泥や砂をつづって巣を作るものもあり、ナガレユスリカ属のように巣の入り口に特殊な縁飾りを作るものや、トビケラ目に似た可携巣を作るものなどがある。食生はデトリタスを食べるものが多いと考えられるが、モンユスリカ亜科のように肉食のものや、他の水生昆虫に寄生するものなどもある。蛹はカのそれであるオニボウフラを細長くしたような姿で、水面に泳ぎ上がって、水面で羽化が行なわれる。
羽化した成虫は川の近くで、たくさん柱状に集まって飛んでいることがよくある。いわゆる「蚊柱」をつくっている昆虫である。蚊柱は、1匹の雌と多数の雄で構成されている。これは群飛(swarming)と呼ばれる[2]。蚊柱が形成される理由は交尾のためで、成虫は交尾を済ませ産卵を終えるとすぐに死ぬ。成虫の寿命は一日程度、長くても数日ほどである[2]。
人間とのかかわり
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人を刺すことはないが、水に棲む幼虫が、生活排水による川の汚れなどにより、川の富栄養化が進むと大量発生して害となる。川のそばを歩くのも困難なほど大量発生すると、川の近隣住宅においては、洗濯物を干せない、窓を開けられないといった問題が起こる。洗濯物などに止まり、うっかり潰すと黄色い体液が洗濯物に付着する。
ユスリカを抗原としたアレルギー性鼻炎や「ユスリカ喘息」と呼ばれる呼吸器疾患も知られている。これらの疾患は、大量発生したユスリカが交尾産卵して死滅した後、死骸が風化する過程の微細な粒子が、空気中に浮遊したり家屋内に堆積し、それらを人が吸引することで起こると考えられている。小型のユスリカでは、成体が直接眼や口に飛び込むことで炎症を起こす可能性もある[3]。
こうしたユスリカの大量発生による問題は、全国各地の川や、池のある公園、湖沼などでも起きており、発生場所を有する各自治体などではその対策に悩まされるようになる。琵琶湖や霞ヶ浦におけるオオユスリカ、諏訪湖のアカムシユスリカの大発生などはよく知られており、琵琶湖では南湖周辺を中心に「ビワコムシ」という俗称が生まれるまでになっている[4]。
しかし、指標生物としての利用や、幼虫が泥中や水中の有機物を消費し、やがて成虫となって水外に飛び去ることで、川や池などの水質を改善するという側面もある[3]。成虫のユスリカは、1 gあたり最大で5 kcalのエネルギーを持つことが確認されている[5]。
富栄養化した水域で特に多く発生するとは言え、川などが完全に汚れて、有害物質がいっぱいになると、発生しない。つまり、都会の川では、下水道の整備などで川の浄化がある程度進んだ時点で、大発生することもある。川にユスリカがいるのは普通のことなので、「まったくいない」もしくは「大量発生」するといったことで、川の汚染の状態を計る自然のバロメーターともいえる。すなわち、指標生物として使える。しかし、幼虫によるユスリカの種の判定は例外を除けば極めて困難で、実際には属レベルまでの同定でも口器その他の微細な器官の形態を調べなければならず、それなりの熟練が必要である。大ざっぱな見方としては、赤いユスリカ幼虫の生息する環境は富栄養で汚染がすすんだ場所と見てよい。赤い色素は、ヘモグロビンの様に酸素を蓄えるものであり、そのようなユスリカの生息地は、有機物の分解がさかんで、酸素欠乏状態になりやすい場だと見られるからである。渓流生のユスリカ幼虫は、緑や茶色で、赤くないものが多い。
前述の「蚊柱」を作る現象でも、蚊柱が人の頭の上にできる場合がある。頭の上にできた蚊柱から逃げようと人が移動しても、ユスリカの蚊柱はそれについてくる。この現象から「頭虫(あたまむし)」と呼ばれる場合がある。また同様の理由から特に虫などが苦手な人からは不快害虫として扱われやすい。
他に、高等学校理科の教材として、唾腺染色体の観察に用いられることがよくある。なお、ユスリカの唾腺染色体は透明がかった白色をしており、酢酸カーミン液などで染めて観察に用いる。
また、幼虫であるアカムシは乾燥アカムシや冷凍アカムシとして商品化され、釣り餌や熱帯魚などの観賞魚のエサとして利用されることもある。
アフリカのヴィクトリア湖沿岸では、大量発生するユスリカの一種を集めてハンバーグのように固めたものを、鉄板で焼いて食べる習慣がある[6]。
2017年(平成29年)には琵琶湖で例年に比べて大量発生したが、「害虫」とまではいえないため、駆除は住民の自助努力であると報じられた[7]。
2025年5月、大阪・関西万博の会場内にてユスリカの群れが目立つ様になり、不快感を訴える声が上がっていることから博覧会委員会は、会場内に殺虫ライトを設置したり殺虫剤を散布するなど対策をとっている。また、これを受けアース製薬は博覧会委員会に虫除けスプレーや殺虫剤を送っている[8][9]。
俳句
蚊柱は、夏の季語。
分類
大部分の属・種はモンユスリカ亜科・ヤマユスリカ亜科・ユスリカ亜科・エリユスリカ亜科の4つの亜科に属している[10]。
- チリーユスリカ亜科 Chilenomyiinae - 1属1種 Chilenomyia paradoxa
- クロバネユスリカ亜科 Usambaromyiinae - 1属1種 Usambaromyia nigrala
- フタオユスリカ亜科 Buchonomyiinae - 1属 フタオユスリカ属 Buchonomyia
- トゲユスリカ亜科 Aphroteniinae - 3属
- ケブカユスリカ亜科 Podonominae - 約15属
- モンユスリカ亜科 Tanypodinae - 50属以上
- イソユスリカ亜科 Telmatogetoninae - 2属
- ヤマユスリカ亜科 Diamesinae - 約20属
- ユスリカ亜科 Chironominae - 100属以上
- エリユスリカ亜科 Orthocladiinae - 100属以上
- オオヤマユスリカ亜科 Prodiamesinae - 4属
系統
PETER S. CRANSTON et al.(2012)による分子系統解析によると、以下のような系統樹が得られている。この研究では単系亜科のチリーユスリカ亜科 Chilenomyiinae ・クロバネユスリカ亜科 Usambaromyiinae は除外されている[11]。
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脚注
出典
- ^ “ユスリカ | イカリ消毒 害虫と商品の情報サイト”. www.ikari.jp. 2023年9月30日閲覧。
- ^ a b c 『図説 日本のユスリカ』p.11
- ^ a b 平林 公男, 中里 亮治, 那須 裕, 沖野 外輝夫, 村山 忍三 (1991). “ユスリカ研究の現状と諏訪湖ユスリカ対策研究をめぐる諸問題”. 環境科学年報 13: 5-20 .
- ^ 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
- ^ 河合 幸一郎,川井 敏子,今林 博道 (2003). “Chironomus属ユスリカ5種の水質浄化能の比較”. 衞生動物 54 (1): 37-42. NAID 110003819251.
- ^ 大量発生した蚊を集め、蚊100%ハンバーグを作って食べるアフリカの人々 カラパイア
- ^ 毎日新聞2017年4月3日
- ^ 日本放送協会. “大阪・関西万博 会場のユスリカの群れに不快感 対策強化へ|NHK 関西のニュース”. NHK NEWS WEB. 2025年5月23日閲覧。
- ^ “アース製薬、大阪万博に虫よけスプレー発送 府知事要請受け”. 日本経済新聞 (2025年5月22日). 2025年5月23日閲覧。
- ^ “Chiro Key”. 2012年9月21日閲覧。
- ^ PETER S. CRANSTON et al. (2012). “A dated molecular phylogeny for the Chironomidae (Diptera)”. Systematic Entomology 37 (1). doi:10.1111/j.1365-3113.2011.00603.x.
参考文献
- 近藤繁生・平林公男・岩熊敏夫・上野隆平編 『ユスリカの世界』 培風館、2001年、 ISBN 4-563-07761-5。
- 日本ユスリカ研究会『図説 日本のユスリカ』文一総合出版、2010年9月9日。 ISBN 978-4-8299-1172-3。
関連項目
外部リンク
- “The Chironomid Home Page”. 2005年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年9月21日閲覧。
- >> 「蚊柱」を含む用語の索引
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