白黒テレビジョンとの互換性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/28 15:40 UTC 版)
「NTSC」の記事における「白黒テレビジョンとの互換性」の解説
白黒テレビとの後方互換性を維持するため、以下の基本諸元を引き継いでいる。 表示画面の縦横比は縦3:横4 番組は生放送だけでなく、画面の縦横比は録画放送にも対応する必要があり、記録媒体の規格に合わせて縦横比が決められた。1940年代当時は動画を記録できる媒体がフィルムしかなく、映画フィルムのスタンダード比率と等しくされた。 総走査線数は525本、2:1インターレース 水平走査フリーラン用発振を電源周波数の逓倍で作れるよう、比較的小さな奇数の積525=3×5×5×7とした。60Hz×525=31500Hzを双安定マルチバイブレータで1/2分周した相補出力の矩形波を積分器に通して相補出力の鋸歯状波を得て上昇ランプ側の波形だけを選択し、放送波を受信していない時にも水平偏向系を駆動する。また525本という数字は後述する通り、当時の16mm映画フィルムと同等の画質を実現しようという目標に沿ったものでもある。水平走査線525本の全てが映像表示に使えるわけではなく、垂直帰線にともなうブランキング期間を差し引いた485本のうちオーバースキャン率90%を考慮した436本あまりがブラウン管上に表示可能な走査線数となる。更に、画像を走査線の集まりとして描いている影響 がもたらすケル係数を掛け合わせて、視覚上の垂直解像度は436×0.7≒305本程度まで低下する。画面縦横比3対4で水平方向に400ラインペアの解像度を要求すると、それにみあう垂直解像度300本以上をどうにか満たす数字となる。 飛び越し走査を採用した理由は、当時唯一の実用表示デバイスであったブラウン管の特性に依る。ブラウン管においては発光しているのは電子ビームが当たっている一点のみであり、例えば垂直走査の終わるまぎわ、画面の下部にある走査線を描いている頃には画面上部の領域は蛍光体の残光も消尽して暗くなってしまい毎秒30フレーム程度の描画では視聴者にフリッカーを認識させてしまう事が分かっていた。だからといって毎秒60フレームで走査線525本の表示を実現しようとすると後述する通りの計算をした場合、映像信号の帯域幅が9MHz弱、放送チャンネルは10MHz幅近くもの膨大な周波数資源を浪費してしまう。 そこで1枚のフレームを2フィールドに分け、第一フィールドでは1/60秒の間に1,3,5,7…本目の走査線を、次の第二フィールドでは同じく1/60秒間に2,4,6,8…本目の走査線を一本おきに描画して目の残像作用により1/30秒で1枚のフレームを合成する飛び越し走査が採用された。飛び越し走査により動きのある映像ではラインフリッカーが発生するため、テレビカメラにはこれを軽減する光学的ローパスフィルターが挿入される。垂直解像度はケルファクターによる低下に加えて更に減少するが、毎秒60フレームで表示したのと同等の滑らかな動きとフリッカーの少ない表示品質を限られた信号帯域で実現できる利点の方を重視した。 基準となるブランキングレベル 0Vを0IRE、輝度100%時の電位を100IREとしたとき同期信号のレベルは-40IRE 同期信号とは水平同期信号と垂直同期信号の総称で一続きになって送られてくる映像信号の水平位置と垂直位置の区切り、走査開始の基準となるタイミングを示すパルス状の電気信号である。受像機のブラウン管の水平/垂直走査駆動回路は水平同期信号を受信すると視聴者側から見て右端を照らしていた電子ビームを左端に戻し、垂直同期信号を受信すると下端の走査線を描いていた電子ビームを上端に戻す。戻しきった後は再び視聴者側から見て左から右へ、上から下へと電子ビームの偏向を開始する。映像信号と同期信号との明確な区別が付くよう、基準電位(ブランキングレベル)を0Vとしたとき映像信号は正電圧、同期信号は負電圧に振り向けている。垂直同期信号と水平同期信号との区別は、垂直同期パルスが水平走査線周期の3倍の長さを持っている事を利用して行う。 IREとは基準電位(ブランキングレベル)の0Vを0IRE、映像信号の輝度100%の時の電位を100IREとする相対値で同期信号の電位は-40IREと規定されている。つまり同期信号の底から最大輝度まで映像信号全体の振幅140IREを1V p-pとする場合、同期信号はブランキングレベル-286mV、映像信号の最大値は+714mVとなる。直流電圧を伝えられない伝送系を介する場合、また負電圧を扱えない単電源の増幅回路を使用する場合は同期信号の底のレベルもしくは水平同期信号直後のブランキングレベルを各々の機器で内部の基準とする電圧に揃えるクランプ回路を受信側に設けて限定的直流再生を行う。 表示に使うブラウン管の想定ガンマ値を2.2とし、送出側であらかじめ一括補正 ブラウン管も真空管の一種であり、制御グリッドに印加する電圧と表示光量とが直線比例していないという特性を持つ。増幅回路であればほぼ直線比例していると見なせる領域のみを使用し最も歪みの少ない動作点を選べば良いが、ブラウン管は最大輝度:電子ビーム電流最大から黒:電子ビーム電流ゼロまでの全動作領域を使用するため、どこかの段階で何らかの方法で補正してやらなければ画像が異様に暗く表示されてしまう。NTSCではブラウン管の発光輝度は制御入力電圧の2.2乗に比例すると想定して、カメラからの出力直後の段階で信号電圧を0.45乗してガンマカーブを補正してから放送を行っている。数億台分もの補正回路を各受像機毎に付けるより、放送事業者側で一括補正した方が受像機のコストダウンになる為である。 放送時の映像信号帯域は水平解像度にして約330本 当時の16mm映画フィルムと同等の解像度、400ラインペア程度を目標として設定された。水平走査線一本分の時間 1 15750 ≒ 63.5 {\displaystyle {\frac {1}{15750}}\fallingdotseq 63.5} μ秒のうち、帰線消去期間等 を除くと映像表示に使える期間は約53.3μ秒となる。更にブラウン管のオーバースキャンによりそのうちの90%程度しか画面に表示されていない場合を想定すると、有効表示時間の最悪値は48μ秒ほどになる。ここに最大400ラインペア、200サイクルを表示しようとするとその周波数上限は 200 48 × 10 − 6 ≒ 4.2 {\displaystyle {\frac {200}{48\times 10^{-6}}}\fallingdotseq 4.2} MHzとなる。 伝送路や録画再生機器の周波数特性上限を表す性能指標として使われる「水平解像度何本」という文言は画面縦横比3:4に設定された映像領域を正方形で切り取った時の数字である。放送時の映像信号周波数上限はオーバースキャンによるマスク分を含めた有効映像期間 約53.3μ秒に最大で220サイクル、440ラインペアほど並べられることとなる。画面を正方形に切り出すという事は縦3横4比率である画面の横4ある長さのうち、縦方向と同じ横3の長さに含まれている分だけを評価するという事になるので 440 × 3 4 {\displaystyle 440\times {\frac {3}{4}}} =330が放送波で送られてくる映像信号の水平解像度上限となる。 映像信号は残留側帯波、負極性振幅変調で放送。音声信号は周波数変調 映像信号の4.2MHzという帯域は、そのまま両側帯波の放送電波に振幅変調すると8.4MHzもの広大な周波数帯域を占有してしまう。VHF帯の利用が緒についたばかりの1940年代の放送業界において、そのような資源浪費を許容する余地は無かった。都合の悪い事に映像信号には垂直同期信号の60Hzが含まれており、そこから更に周波数の高い4.2MHzという信号帯域に比してほとんど直流に等しい領域まで同じ利得で伝送出来ないと画面の明るさが急激に変化するシーンで受像機の垂直同期がかからなくなったり画面の上部と下部で明るさが変わってきたりしてしまうため、SSBの採用も出来ない。 そこで搬送波周波数より低い側の側帯波も一部を送信して直流付近の信号まで確実に伝送する残留側帯波方式とし、遮断特性はゆるやかだが安価で大量生産に向くフィルターを使えるようにした。また変調は負極性、すなわち映像信号電圧の最も低い同期信号の底で変調波の振幅が定格出力100%になり最も明るい白を表示する時の変調波振幅は12.5%となるよう規定されている。これは、受像機側での自動利得制御を容易にするためである。水平走査期間63.5μ秒の間に電波の振幅が100%になるピーク期間が確実に存在するので、そこが規定のレベルになるよう自動利得制御回路を構成すれば良い。仮にこれが正極性の変調だと、暗いシーンを映しているから電波の振幅が低いのか電波が弱いから振幅も低いのかを区別する為に、復調後の映像信号からもフィードバックをかける回路が余計に必要になる。 音声は周波数変調(FM)とし、自局および隣接チャンネルの映像信号から受ける妨害を軽減した。FMラジオ放送は米国において1939年から開始されており、AMラジオに比べて占有帯域は広いものの歪みやノイズが少なく音域も広い上に良好な耐妨害特性を持つ事が既に実証されていた。 映像搬送波周波数はチャンネル周波数帯下端から+1.25MHz、音声搬送波周波数は+5.75MHz、放送波の占有帯域は1チャンネルあたり6MHz 音声信号は映像搬送波周波数+4.5MHzを中心として±25kHzの変移、更に周波数変調がもたらす側帯波(サイドバンド)の広がりを加えた合計6MHzが1チャンネルの帯域幅となる。映像搬送波はチャンネル周波数下端から1.25MHz、音声キャリアは同じく下端から5.75MHz高い周波数に設定されている。 放送バンドプランは各々の国で異なっているが、日本においては例えば、チャンネル1は90 - 96MHzを占有し映像搬送波周波数91.25MHz、音声搬送波周波数95.75MHzと定められている。
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