火
★1a.神々が人間世界に火をもたらす。そのため神が犠牲になることがある。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第7章 プロメテウスはゼウスに無断で、火を大茴香(おおういきょう)の茎の中に隠して、人間に与えた。それを知ったゼウスはプロメテウスを罰した→〔繰り返し〕2。
『古事記』上巻 イザナミは日本列島の島々を産み、風や木や山や野などの神を産んだ。その後に火の神を産んだが、その時イザナミは性器を焼かれて病み、黄泉国へ去った。
火食と死の神話 昔、人間は何でも生(なま)で食べていた。その頃の人間は、年をとると神がまた若返らせてくれたので、不死だった。ある日、人間たちは「火が少々欲しい」と、神に願う。神は「死ぬ覚悟があるなら、火をやろう」と言う。人間は火を得た。しかしそのために、死なねばならなくなった(エチオピア、ダラッサ族)。
『封神演義』第1回 太古、人々は火を知らず、物を生(なま)で食べていた。食べ残しで集落に臭気がこもり、食中毒が絶えなかった。燧人(すいじん)氏が人々に、食物に火を通すことを教え、人々は燧人氏を王に推戴した。
『王書』(フェルドウスィー)第1部第2章「フーシャング王」 フーシャング王が山を歩いていると、黒い大きな蛇がいた。王は石を投げつける。蛇は逃げ、王の投げた小さな石は、地面にあった大きな石に当たる。両方の石は割れ、その衝撃から火花が散って、石の中に隠れていた火が出て来た〔*こうして、鉄で石を打てば、いつでも火が現れるようになったのである〕。
火と死の起源譚(ブラジル・アピナイエ族の神話) 昔、人間は火を知らず、肉を天日で乾燥させて食べていた。少年が猛獣ジャガーの養子になり、ジャガーの家へ行って、はじめて火を見る。ジャガーは「あれは火というものだ。夜には、あれがお前を暖めてくれる」と教える。少年の村の大人たちが火をもらいに来ると、ジャガーは彼らを歓迎し、人間たちに火を贈った。
★1f.火を消す女。
食人から始まった言語(南オーストラリア、ナリニェリ族の神話) 遠い昔、ウルルリという意地の悪い老女がおり、1本の長い棒を持って歩いていた。人々が火の周囲で眠っていると、ウルルリは棒で火を消してしまうのだった。やがてウルルリは死に、人々は喜んで、彼女の死体の所までやって来た→〔外国語〕1。
『創世記』第19章 ソドムは男性同性愛者の町、ゴモラは女性同性愛者の町だった。主(しゅ)は、これらの罪深い人々を滅ぼそうと決めた。ある朝、主はソドムとゴモラの上に、天から硫黄の火を降らせ、2つの町と低地一帯を、町の全住民、地の草木もろとも滅ぼした。
『古事記』上巻 コノハナノサクヤビメが一夜で身ごもったことを、ニニギノミコトは信じない。コノハナノサクヤビメは「わが妊める子が、まことに天つ神の子ならば、無事に生まれるであろう」と言い、出入口のない御殿を作り、中に入って土で塗り塞ぎ、火をつけた。炎の中で、コノハナノサクヤビメは3人の男児を無事に産み、彼女の貞節が証明された〔*『日本書紀』巻2・第9段一書第5ではニニギノミコトは、「一夜で孕んだことを疑う者がいることを考え、わざと疑いの言葉を発し、人々に、生まれる子が我が子であることを明らかに示したのだ」と述べる〕。
『雑宝蔵経』「ラゴラの因縁(はなし)」 釈迦の出家後6年を経て、妃ヤシュダラは一子ラゴラを産んだ。浄飯王はそれが釈迦の子とは信ぜず、ヤシュダラとラゴラを火坑に投げ入れ焼き殺そうとする。ヤシュダラが、「我が身が潔白ならば火よ消えよ」と祈って火中に飛びこむと、火坑は清涼の池に一変する〔*『太子成道経』などに類話〕。
『ラーマーヤナ』第6巻「戦争の巻」 シータは長くラーヴァナの後宮に閉じこめられていたので、その身の清浄なることを人々に示す必要がある、とラーマは考えた。ラーマはシータを疑う言葉を発し、シータは純潔を証明するために自ら望んで火中に身を投ずる。火神アグニがシータを膝に置いてあらわれ、火が彼女をまったく焼き得なかったことが明らかになる。
★3b.母親の遺体を火で焼いた時に、その腹から男児が生まれ出る。
『大般涅槃経』(40巻本「師子吼菩薩品」) 長者の妻が懐妊した。6人の外道が「女子が生まれる」と占ったが、仏陀は「男子が生まれ、家に大きな福徳をもたらす」と予言する。6人の外道は仏陀に嫉妬し、長者の妻を毒殺して、「仏陀の予言は外れた」と触れ回る。しかし、長者の妻の遺体が火葬された時、腹が裂け、中から男児が出て来て、火の中で端座した。仏陀は男児に「火」を意味する「テージャ」という名を与えた〔*→〔誕生〕9の『今昔物語集』巻1-15に類話〕。
『法華経』「薬王菩薩本事品」第23 はるか昔、日月浄明徳如来(にちがつじょうみょうとくにょらい)という仏の世に、一切衆生喜見菩薩(いっさいしゅじょうきけんぼさつ)は自分の身を燃やして、仏と『法華経』を供養した。その光明は80億恒河沙(ごうがしゃ)の世界を照らし、燃え続けること千2百歳にして彼の身は尽きた〔*命が終わった後、彼は再び日月浄明徳仏の国に生まれた〕→〔手〕8。
『述異記』(祖冲之)「宝玉の帯」 州の長官僧栄の部屋に、前任長官の亡霊が現れて「そこにある宝玉の帯を、わしに譲れ」と望む。そして「亡霊だから帯を持って行けないと思っているのではないか? 本当にくれるなら、今すぐ帯を焼け」と言う。僧栄は帯に火をつけて焼き、亡霊の方を見ると、すでに亡霊の腰には帯がしめられていた〔*死者を火葬にするのも、これと同じ考え方によるものであろう〕。
★5.火を乗り越えることによって、男は女を得ることができる。
『ヴォルスンガ・サガ』29 ブリュンヒルドの館をとりまいて火が燃えており、それを馬で乗り越える男だけが彼女と結婚できる。臆病なグンナルに代わり、シグルズが炎を越えてブリュンヒルドのもとへ到る。
『潮騒』(三島由紀夫)第8章 新治と初江が観的哨で待ち合わせた日は嵐だった。新治が先に来て眠ってしまい、後から来た初江が、濡れた着物をぬいで焚火で乾かす。新治が目覚め、焚火をへだてて裸の初江と新治が向かいあう。「その火を飛び越して来い」と初江が言う。新治は火を飛び越し、初江と抱き合う。しかし接吻だけで、2人は離れる〔*『ニーベルングの指環』(ワーグナー)の「岩山の炎」を「焚火」に、「眠るブリュンヒルデ」を「眠る新治」に変えたもの〕。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ワルキューレ」 ワルキューレはヴォータンの娘たちであり、戦死者を天上のワルハラ城へ運ぶ役目を持つ。しかしワルキューレの1人ブリュンヒルデは、ヴォータンの「ジークムントを戦死させよ」との命令に逆らう。ヴォータンは罰として、ブリュンヒルデを岩山の上に眠らせ、炎で包む。炎を乗り越える勇者だけがブリュンヒルデを解放し、花嫁とすることができる→〔眠る女〕1。
『酉陽雑俎』巻2-82 峡中の人・乾祐が、某市に入った時、「今晩、八人の者がここを通るはずだ。厚遇せよ」との予言をしたが、人々は理解しなかった。その夜、火が出て数百戸が焼けた。「八人」は「火」という文字だった。
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