性状指標
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/04 23:30 UTC 版)
グリースの性状と性能を客観的に文書で明示するため、様々な指標が存在する。一般的に、これら指標は性状表という文書にまとめられており、グリースの購入前に仕入れ先から閲覧することができる。 稠度 稠度(cone penetration)とはグリースの硬さや流動性の指標である。潤滑油の動粘度にあたる性能で、使用するグリースの選定は主に稠度によって決められる。日本工業規格の「JIS K 2220:2013 グリース 7 ちょう度試験方法」に測定方法が定められている。同規格では、稠度を000号 - 6号の9区分に分類している。これら区分を稠度番号という。グリース製品の呼び方と表示において、稠度番号を明示することがJIS規格で定められている。 滴点 滴点(dropping point)とは、グリースを詰められて加熱された規定の容器からグリースが滴下する温度である。グリースはある温度以上になると構造粘度を失い、液体となる。このとき、粘度は急激に減少する。滴点はグリースが液体となる温度といえる。滴点の測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 8 滴点試験方法」で規定されている。滴点はグリースの耐熱性の指標であり、滴点以上の使用は摩擦摩耗の原因となる。 銅板腐食 グリースの銅板腐食とは、そのグリースの金属腐食性の指標である。グリースの基油には硫黄や窒素化合物が含まれており、高速の摩擦を受けると摩擦熱でそれぞれ硫酸と硝酸になり得る。これら酸が金属を腐食させる原因となる。この試験では、研磨した規定の銅片にグリースを塗布し、銅片やグリースの腐食や変色の程度を評価する。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 9 銅板腐食試験方法」で規定されている。 蒸発量 グリースの蒸発量は、規定の条件でのグリースからの成分の蒸発による重量の損失分率である。グリースからは水分や軽質油分が蒸発しており、蒸発は熱や剪断により促進される。蒸発量が大きいと長期使用で潤滑性やその他性能が低下する虞がある。このため、蒸発量が小さいグリースは長期使用上望ましい。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 10 蒸発量試験方法」で規定されている。 離油度 離油度は、静的な状態でのグリースの構成基油の分離性の指標である。基油が分離するとグリースは硬化する。これが進行すると、グリースの潤滑性が無くなり使用できなくなったり、機械の故障や焼き付きの原因となったりする。このため、離油度はグリースの貯蔵安定性や寿命の指標となる。ただし、ある程度の基油の分離性は潤滑効果を高める。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 11 離油度試験方法」で規定されている。 酸化安定度 グリースの酸化安定度とは、酸素圧755kPaのボンベ中にグリースを置き99℃に加熱して100時間後の酸素圧の減少量を5kPaの整数倍で表し数値である。酸化に対する強さを表す。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 12 酸化安定度試験方法」で規定されている。 混和安定度 混和安定度(worked stability)とは、グリースを25℃で10万回混和した後に60往復混和した直後の稠度である。混和安定度は、潤滑に長期間使用したときの稠度の寿命の指標となる。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 15 混和安定度試験方法」で規定されている。グリースは長期間剪断を受けると、その構造が破壊されて軟化する傾向にあるという問題がある。混和安定度は長期使用での軟化の傾向の程度を示す。実際にはグリースは非常に複雑な条件で使用されていることが多く、実際の寿命と混和安定度との相関はあまりないとされる。一般的に、混和安定度測定用の電動混和装置と稠度測定用(60回混和用)のそれとは異なる。 水洗耐水度 水洗耐水度とは、グリースの耐水性の指標である。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 16 水洗耐水度試験方法」で規定されている。この試験では、グリースを塗布した玉軸受を63±3 rad/sに回転させながら、玉軸受に38±1.7℃または79±1.7℃の水を10秒間噴射する。グリース重量の減少分率(%)を水洗耐水度とする。 漏洩度 グリースの漏洩度とは、規定量だけグリースを充填されたホイールハブを規定の条件で回転したときにホイールハブおよび軸受から漏洩したグリースの総重量である。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 17 漏えい度試験方法」で規定されている。 低温トルク グリースを詰めた規定の開放形玉軸受の内輪を、ある温度および回転数(毎分 1 rpm)で回転させたとき、その軸受の外輪を制止させるのに必要な力(トルク)は、そのグリースのその温度での低温トルクという。低温トルクは低温でのグリースの流動性を示す。値が小さいほど低温での流動性が高い。グリースは低温で硬くなり潤滑性が悪くなるため、寒冷での使用に低温トルクは重要である。 測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 18 低温トルク試験方法」で規定されている。測定には低温トルク測定機が必要であり、規格はJIS等で定められている。低温トルクは2種類存在し、一つの試験で両方とも得られる。起動トルク:回転起動時に得られる最大トルク。装置を起動して摩擦や摺動直前の、何も力を加えられていない静止状態でグリースは最も硬い。回転トルク:規定時間回転した後に得られるトルクの平均値。時間だけ剪断を受けるとグリースは流体となり潤滑性を示すが、回転トルクはこのときの流動性と潤滑性を示す。起動トルクは起動開始直後の測定値と、回転トルクは回転10 分間の最後の15 秒間における測定値とハウジングのトルク半径の積である。 見掛け粘度 見掛け粘度とは、ハーゲン・ポアズイユの式で計算するずり速度(剪断率)に対するずり応力(剪断応力)の比である。グリースは非ニュートン流体であるため、見掛け粘度はずり速度によって異なる。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 19 見掛け粘度試験方法」やASTM D 1092 「Apparent Viscosity of Lubricating Grease」 で規定されている。測定には見掛け粘度試験機が必要であり、規格はJIS等で定められている。 成分量 グリース中の成分の定性および定量試験の方法がある。一般的な水分の定量方法は蒸留法であり、日本工業規格において「JIS K 2275-3:2015 原油及び石油製品-水分の求め方-」で規定されている。夾雑物の検出方法は一般的に顕微鏡観察であり、「JIS K 2220:2013 グリース 13 きょう雑物試験方法」で規定されている。数値による評価は、試料1mm3当たりの粒子数で行われる。単位体積ごとの粒子数の計数のためのテンプレート(血球計数板など)が市販されている。灰分の定性・定量は「JIS K 2220:2013 グリース 14 灰分試験方法」で規定されている。この規格では、試料は坩堝内で燃焼された後、電気炉で600℃に加熱される。熱処理の後の残留物の重量を灰分量とする。このほか、硫酸灰分試験方法がある。この方法では坩堝での燃焼の後、試料は硫酸を加えられて、硫酸の沸騰が止むまで加熱される。 耐荷重能 耐荷重能の試験方法は、JIS規格では曾田式四球法とチムケン法の二つである。ASTM規格ではシェル四球式が定められている。一般的にシェル四球式が普及している。 吸引性と圧送性 一般的に潤滑目的のグリースの供給(給脂)はメンテナンスの観点から定期的に行わなければならない。集中給脂装置による給脂の良否は吸引性(slumpability)および圧送性(pumpability)という用語により表される。 吸引性とは、グリースタンクからポンプによってグリースが吸い込まれる場合の良否をいう。吸引性が低いと給脂装置および給脂箇所への供給が非効率である。典型的な場合、吸い込み側に真空部分ができたりポンプが空気だけを吸い込んだりする。このような状態が続くと、潤滑箇所にグリースが十分に給脂されず、給脂装置は油切れを起こす。 吸引性は稠度や、増稠剤の繊維の大小による。一般に、長繊維のグリースでは短繊維のものと比べて吸引性が優れている。また、不混和稠度が大きいほど、降伏値が小さいほど、吸引性は高い。しかし、実際は給脂装置を改善することでグリース吸引の問題は解決することが多い。装置の改善方法としては例えば、ポンプを真空度の高いものと交換する、配管を短かくする、配管の径を大きくする等である。 圧送性は、グリースが配管内を圧送されるときの流動の効率である。流動性が低いほど、圧送に要する圧力が大きくなる。圧送性は、数百メートルにもおよぶ集中給脂や自動車の集中給脂などで特に重要である。圧送性はグリースの見かけ粘度の大小による。グリースの圧送に所要する圧力はグリースの見かけ粘度に比例するためである。
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