四字熟語の範囲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/13 22:54 UTC 版)
小学校や中学校など初等教育において、「熟語」と言えば、複数の漢字が結合して1つの語となっているものと教えられることが多い。この解釈に従えば、4つの漢字が連結した語は全て四字熟語である。これは、四字熟語という語における最も広い意味とされ、二字熟語、三字熟語、五字熟語などは、これと同様に広い意味で定義されることが多い。一方で「熟語」という語は「ことわざや慣用句として用いられる表現」という意味もしばしば同時に含蓄する。特に「四字熟語」と聞いて想起される漢字の結合の範囲は、狭いものであることが多い。漢字の結合のうち、四字のものは特別の意味をもつ語が多く、現状で特別視されることが多いからである(#成語を参照)。「広い意味での『四字の熟語』と、狭い意味での『四字熟語』は異なる概念である」という主張がなされることさえある。この「狭義の四字熟語」をどう定義するべきかがしばしば問題となる。 漢字4文字で構成される、広い意味での四字の熟語は、無数に挙げることができる。このうち「高速道路」「介護保険」「内閣改造」「児童虐待」など、現代の事象に関する語の多くは、熟語の構成成分を見ただけで、その意味を把握することができるという性質がある。この性質を言語学的には、「熟合度が低い」と言う(イディオムを参照)。このような性質をもつ語は、慣用句という意味での四字熟語から除外できるという。ただ、「現代における語」で熟合度が比較的高い語、すなわち「一見して意味を把握しにくい」という語も「教室崩壊」や「援助交際」などのようにやはり無数に存在するという。このような議論はかなり古くからなされていたらしく、1941年(昭和16年)に技術院が設置について審議された際、当局は「『科学技術』は一熟語であり、『科学』、『技術』の単なる並列ではない」と回答したという。 現代の事象に関する語を排除して、故事や仏典に基づく慣用句のみを狭義の四字熟語と呼ぶと結論付けることもできる。しかし、この場合、四字の故事成語という意味で「四字成語」と言った方が実態をよく反映している。また、「一期一会」「風林火山」のように和製のもの や、「一石二鳥」のように明確な典拠を見出せないものも、慣用されている四字熟語であると広く認識されているので、かなり限定的な範囲しかカバーすることができない。 道路標識にみられる「一時停止」という語のような例もある。これは、本来ならば現代における道路交通に関する用語であるが、「彼は一時停止のきかない人間だ」などと慣用句的に用いることもあるという。ところで、ある学生に「( )肉( )食」の空欄を補って四字熟語を完成させる問題を出題したところ「焼肉定食」と答えたという小噺がある。もちろん想定される正解は「弱肉強食」であり、多くの日本人が「焼肉定食」を狭義の四字熟語であると認識していない以上、常識的に考えればこれは正解とはみなされないであろう。しかし、前述の「一時停止」の例のような慣用句的用法が存在しないと断言できないので、これを不正解とする確固たる理由を挙げるのは難しい。(「焼肉定食」については、焼肉定食 (熟語)も参照)。これら「一時停止」「焼肉定食」などの事例に関して劇作家の別役実によると、「四字熟語というものは、もっと古風で、いかめしさを感じさせるものである」などと言って、四字熟語であるか否かを感覚的に判断する者は、少なくないという。 このように四字熟語を思いつく限り挙げていくときりがない。しかし、書籍に掲載できる数には限界があり、採用する四字熟語の選定基準が必要になる。多くの四字熟語辞典は、四字熟語を種別に分類し、これを採用基準にしているという。四字熟語の定義のかわりに、辞典の収録範囲のみに言及しているのは、四字熟語辞典でさえも四字熟語のはっきりとした定義を決定することが困難であることを物語っている。 例えば現状で収録数が最も多いとされる『新明解四字熟語辞典』(三省堂 1998年(平成10年))は、凡例で以下のように6分類している。 現代社会 - 官官接待、総量規制など 日本の成句 - 手前味噌、手練手管など(「てまえみそ」「てれんてくだ」のように音読みしないものが多い) 中国典籍 - 臥薪嘗胆、櫛風沐雨など 仏教語 - 色即是空、四苦八苦など 「之」入り - 背水之陣、一炊之夢など(通常は「背水の陣」「一炊の夢」と表記する) 訓読語 - 灯火可親、先従隗始など(通常は「灯火親しむべし」「先づ隗より始めよ」と訓読される) ただ、現代社会の範疇に属する四字熟語を採用していると謳っているにもかかわらず、「駅弁大学」「昭和元禄」といったこの種の語がほとんど掲載されていないという批判がある。 この分類を他の辞典にあてはめると、現代語や和語を含むものをまず除外し、之入り、訓読語に属するものは、四字熟語とみなすかどうかを峻別しないものが多いという。 また、『岩波四字熟語辞典』(岩波書店 2002年(平成14年))では、前書きの中で「質実剛健」といった2字の熟語を2つ(「質実」と「剛健」)を組み合わせただけのものや、「九十九折(つづらおり)」のような和語をもとにしたものは正確には四字熟語とみなさないと明記している。しかし、それにもかかわらず、これらの語も収録しているという自己矛盾がある。このほかにも同書には、「天手古舞(てんてこまい)」「我武者羅(がむしゃら)」といった当て字に類するものや「試行錯誤(trial and error)」「門戸開放(Open-door policy)」と英語に由来するものなど、突飛な語が多く収録されている。もちろん前述のように、これらに類する言葉は無数に存在し、全てを網羅するのは不可能であるので、収録語に偏りが生じているという批判もあった。この批判に対して、同辞典の編集部が後年著した『四字熟語ひとくち話』(岩波書店 2007年(平成19年))によると、どの語にもそれぞれにいくばくかの根拠があり、どこまでが四字熟語であるか「侃々諤々の論争」 が予想されたので、編集者が興味深いと判断した語を厳選し、漢字が4つ並んでさえいれば全て四字熟語と認めるという方針で辞典を執筆したという。この方針でいくと、「四字熟語」という語自体さえも四字熟語であるとみなせることになる。 中国文学者の高島俊男は、これらの事例を忖度し、狭義の四字熟語であると一般に認識される言葉には、以下の共通点があると指摘している。 昔から日本人が使ってきた すべて音読み 漢製和製ともに含む さらに創作四字熟語まで広げれば、「離妻苦留(リサイクル)」 のような英語に対する当て字や「撤湾跡夢(てつわんあとむ)」のような駄洒落、「紙面ソ禍(しめんそか)」「長3慕思(ちょうさんぼし)」のように漢字以外を含むもの、「打打打打(いてまえだせん)」「様様様様(よんさま)」のようなジョークなど、珍奇なものも多い。
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