ヨー・ダンパとは? わかりやすく解説

ヨー・ダンパー

(ヨー・ダンパ から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/18 06:08 UTC 版)

ヨー・ダンパーもしくはヨー・ダンパ(yaw damper)とは、方向舵を自動操舵してヨーイングを小さくする安定増幅装置のことである。

概要

性能と乗りごこちとの関係

ヨーダンパーの性能が悪い場合には、客室後方の横揺れが大きくなりやすく乗り心地が悪化する。性能が良い場合には乗り心地が良くなる。エアバスA300では客室後部の横揺れが指摘されヨーダンパーが改良された。

参考文献

関連項目


蛇行動

(ヨー・ダンパ から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/03 13:26 UTC 版)

断面方向
平面方向
蛇行動における輪軸の動き

蛇行動(だこうどう)は、鉄道車両における自励振動現象である。主として直線部を高速で走行するときに、車体や台車、車軸などが垂直軸まわりの回転振動ヨーイング)を起こす現象であり、上から見て蛇がくねって進むような運動をするため蛇行動と呼ばれる。発生した場合、乗り心地の悪化、軌道や台車・車体への損傷、影響が大きい場合は脱線事故を引き起こすこともあり、とりわけ高速化にあたっては本現象への対策が重要である。 また、本稿では蛇行動を抑制するヨーダンパ等の機構についても解説する。

発生の機構

車輪の踏面勾配

鉄道車両の車輪円筒形ではなく円錐形のような勾配を持った形状となっており、車輪のフランジ側(内側)の直径は大きく、外側の直径は小さくなっている。このような勾配を車輪踏面勾配と呼ぶ[1]。 また、超低床電車のような車両を除き、鉄道車両では左右の車輪は車軸により固定され繋がる構造となっている。この車輪と車軸の一組を輪軸と呼ぶ。これらの特徴により、輪軸が直線の軌道を転がるときは、輪軸がレールの片側に寄った場合に定位置に戻る復元力を得、曲線を転がるときは自動車のようなステアリング操作無しにレールに沿って曲がる機能を発揮する。このような働きを輪軸の自己操舵機能と呼ぶ[2]。しかし、踏面勾配による自己操舵機能は輪軸に左右動を引き起こす原因ともなる。すなわち、輪軸がどちらかのレールに偏った場合、それを戻そうとする復元力の働きにより、中立位置を超えて反対側のレールに偏り、さらにまた逆向きの復元力が作用するといった繰り返し運動が発生することとなる。動きとしては、左右変位とヨーイング回転の振動が連成して現れるものとなり、上から見て蛇がくねって進むような運動をするため蛇行動と呼ばれる。

2軸台車の蛇行動

実際の鉄道車両では、輪軸は単体ではなく車体-台車-輪軸という連結構造となっている。このように輪軸は台車に対して拘束されているため、通常の走行速度内では、蛇行動は台車・車体の質量や輪軸に対するサスペンションにより吸収・抑制されている[3]。しかし車両の走行速度を上げていくと、蛇行動を発生させる輪軸を動かす力である車輪・レール間のクリープ力などの影響が、輪軸を拘束しようとする力を上回り蛇行動が発生するようになる[4]。さらに、輪軸、台車、車体は、ばねやダンパー、すり板のような剛性要素、減衰要素、摩擦要素などによって連結されているため、それぞれの動きは相互に影響を及ぼす。このため、輪軸単体での蛇行動のみならず、台車の蛇行動、車体の蛇行動も発生する。蛇行動が発生する箇所に応じて、輪軸蛇行動台車蛇行動車体蛇行動と呼ばれる[1]。車両の諸元、装備により蛇行動に対する安定性は異なり、高速走行を行う車両では蛇行動の安定性に配慮して設計される。この蛇行動に対する安定性のことを走行安定性とも呼ぶ[1]

蛇行動の解析

1輪軸の蛇行動特性

幾何学的蛇行動

1輪軸の幾何学的蛇行動モデル

蛇行動の基本的特性を考えるために、単体の輪軸がレールに沿って転がっている場合を考える。さらに、この輪軸の慣性を無視して車輪がレールに対して滑らないという仮定を置いて輪軸の動きを解析する。走行速度が非常に低い場合がこの仮定条件に近い[5]。このような前提の輪軸の蛇行動を輪軸の幾何学的蛇行動と呼び、蛇行動の特性を考える上での基礎となる。

上記で説明した通り、車輪の踏面に勾配が存在する場合、輪軸が中立位置から偏ったとき、左右の車輪で回転半径が異なる。今、輪軸が一定の回転速度

弾性支持された1輪軸モデル

実際の輪軸は支持剛性が与えられており、ある程度の限界速度までは蛇行動は抑制されている。台車と輪軸の連結構造は、輪軸に軸受を挿入し、その上に軸箱が乗り、軸箱と台車枠がコイルばねや支持ゴムで繋がる構造が取られる。このような物体の慣性、要素間の剛性なども考慮した実際的な車両運動の解析においては、車輪・レール間のクリープ力も考慮して運動方程式を求める必要がある。蛇行動は主に左右振動・ヨーイング振動に関する現象なので、解析においては1輪軸の左右、ヨーイング方向に関する運動方程式が最も基本となる[9]。そこで右図のような、輪軸と常に一定距離を保ち並走するような固定端を想定し、これに弾性支持された1輪軸が一定速度

曲線通過時の1輪軸の踏面勾配による左右変位

曲線を円滑に曲がる性能と蛇行動に対する安定性の実現は相反することが知られている[17]。そのため、実際の車両は、蛇行動を抑えるだけでなく、曲線通過性能とのバランスを考慮して諸元が決められる必要がある。

幾何学的蛇行動と同じく車輪単体がレールに対して滑らずに旋回する場合を考えると、輪軸の軌道中心からのずれは以下の式で表される[10]

2段リンク方式。横方向のばねを柔らかくすることで、低い速度で車体蛇行動の領域を通過させ限界速度を向上している。

実際の輪軸においては、前後方向や左右方向に対して完全拘束ではなく、弾性的に支持されている。このばね定数を適切に選定することにより、不安定となる速度を使用しない超高速領域に設定する方法や、逆に不安定領域を低い速度に設定し、高速域での振動を抑えるなどの方策がある。二軸車における2段リンク方式は後者の例である(右図)。

軸箱支持装置に軸箱守(ペデスタル)方式を用いている場合、摩耗により支持部にガタが発生しやすく、1軸蛇行動の原因となることが多い[22]。このため、耐摩耗性に優れた材料を用いるとともに、定期的な保守が必要である[22]。円筒案内式による軸箱支持装置はこの欠点を改良したもので、ガタが発生しにくい構造となっている。

台車回転抵抗の適正化

台車と車体の結合部において、車体・台車間のヨーイング回転に対する適切な抵抗を与えることで、台車の蛇行動を抑制する機構が設けられている。台車の車体支持形式の違いにより以下の2つの方法がある。

ボルスタアンカ・側受

ダイレクトマウント式ボルスタ付台車の旋回の様子
断面図

枕ばり(ボルスタ)付きのボギー台車では、心皿と呼ばれる部分を中心に台車枠と枕ばりが回転し、側受と呼ばれる部分が車両を支えて台車回転時に摺動する構造となっている。この側受に適切な摩擦力を発生させて、蛇行動に対する抵抗を発生させている[23]。車体と枕ばり間の回転はボルスタアンカーにより拘束されるが、取付部に適切な剛性のゴムブシュを使用することで回転剛性を与えることができる。すなわち、直線走行時の回転変位が小さいときには、ボルスタアンカゴムブシュによる大きな剛性で台車の蛇行動を抑制し、曲線通過時に大きく台車が回転しようとするときには、側受の摩擦力を越えて枕ばりが滑ることで台車が回転できるような仕組みである[24]。後述のヨーダンパ付きボルスタレス台車が開発される以前は、高速車両には必須の装置とされていた[25]。最初の新幹線用車両である0系でも本構造が採用されている。

この方式の欠点としては、雨水や摺動面の荒れにより側受の摩擦力が変動して走行性能が安定しない点[26]などがある。一方の長所としては、側受・枕ばりを装備しない台車であるボルスタレス台車と異なり台車の回転角が空気ばねの許容変位に制約されない点などがある。現在のもので、空気ばねは通常100mm程度まで前後方向に変位できるものが一般的である[23]

右図は、ダイレクトマウント式のボルスタ付台車の構造を示すもので、2次ばねが枕ばり-台車枠間に配置され、ボルスタアンカ・側受が車体-枕ばり間に配置されるインダイレクトマウント式と呼ばれるものもある。ボルスタアンカ・側受の機能はいずれにしても同じである。ボルスタアンカ・側受構造のさらに詳細な説明についてはボルスタアンカーの記事なども参照のこと。

ヨーダンパ

ヨーダンパなし
ヨーダンパあり
JR東日本E531系電車のヨーダンパ
ボルスタアンカー(上)とヨーダンパ(下)を併設する近鉄21000系電車の台車

ダンパの一種であるヨーダンパは、蛇行動抑制のために車体と台車に接続されるものである[27]。台車の左右両側に配置して、ヨーイングによる両側で逆位相の前後振動を減衰させる。上記のような側受構造を持たない、ボルスタレス台車に主に用いられる[26]。ダンパはその特性から、速い動きにのみ抵抗し、ゆっくりした動きにはあまり抵抗しない。この特性により、曲線部における台車のゆるやかな回転は許容しつつ、高速振動である蛇行動のみを抑制する機構である[24]

右図はヨーダンパの役割を模式的に示したものである。ボルスタレス台車においては、台車の回転は空気ばねの変形により行われる。とくに抑制機構のない場合は、空気ばねの減衰特性のみにより蛇行動に抵抗することとなる。一方、ヨーダンパは車体と台車の前後方向を拘束するように取り付けられる。台車は曲線通過時に回転しなければならないため、ヨーダンパ自体は伸縮を許容する構造となっているが、その伸縮部は高速振動を減衰させる機構を有しており、蛇行動を抑制する効果を発揮する。

ヨーダンパ採用による高速車両用ボルスタレス台車は、フランスのTGVで初めて実用化された[28]。日本においては、新幹線特急形車両のほか、最高速度120km/h(JR東日本では130km/h)以上の近郊形電車を中心に採用されている。上記の通り、ボルスタアンカ・側受構造の代わりとして開発されたものなので、通常ボルスタレス台車に装備されるものだが、特殊な事例としては近鉄21000系電車のように、ボルスタアンカー付きの台車にヨーダンパを装着している例も存在する。また、新幹線E6系電車では、新幹線区間に加えて、曲線が多く曲線半径も小さい在来線区間を走行するため、減衰力切替式のヨーダンパを装備し、在来線区間を走行する際は減衰力を低減させて曲線通過性能の向上を図っている[19]

通常のヨーダンパは台車-車体間で機能・配置されるものだが、新幹線のような高速車両では、編成の車体間にもヨーダンパが装備される場合がある[29]。通常のヨーダンパと区別して車体間ヨーダンパと呼ばれる。車体ヨーイング振動をさらに低減させる効果を発揮する。日本においては、新幹線500系電車で初めて採用された[29]

左右独立車輪

蛇行動を引き起こさない輪軸構造として、左右独立車輪の研究がなされている[30]。しかしながら、自己操舵機能を持たないことから、片方のレールや車輪が偏摩耗するなどの問題もあり、本格的な採用には至っていない[30]。近年の路面電車では左右独立車輪の採用事例が増えているが、その目的は蛇行動対策ではなく低床化である[31]

研究の歴史

鉄道黎明期

自己操舵機能を得るための車輪踏面勾配による左右振動は鉄道の歴史の初期から認識されてきた。1821年ジョージ・スチーブンソンの著作の中で、1輪軸の蛇行動の発生原理の説明が既になされている[8]。世界で最初の実用的な蒸気機関車を用いた鉄道であるイギリスのリバプール・アンド・マンチェスター鉄道においても、客車の固定軸距が非常に短く、酷い蛇行動揺れが発生していたという評判であった[32]。二軸車の曲線通過性能の悪さを克服するために、19世紀前半にかけてボギー台車が発明され広まっていく。初期のボギー台車は非常に短い軸距構造となっていたが、1850年代には軸距が広げられ蛇行動安定性も向上した[32]。また、この頃の台車の設計は、車軸と台車の結合に過度な自由度が存在する場合に蛇行動が顕著になる経験から、車軸は台車枠に対して固く結合することが一般であった[32]

理論的基礎の確立

蛇行動の数理的解析については、1883年、クリンゲル(W. Klingel)は幾何学的な輪軸の運動解析を行い、1輪軸の幾何学的蛇行動波長を導出した[8]。その後、1916年、 車輪・レール間に作用する力を考慮した初めての現実的な運動モデルとそれによる機関車の蛇行動解析に関する論文が、イギリスのカーター(F. W. Carter)によって発表された[12]。この論文の中でカーターは車輪・レール間に作用する力としてクリープによる接線力を導入し、車輪の踏面勾配とクリープによる接線力が結びつくことで動的な不安定性が生み出されることを示した[12]。カーターは引き続き1920年から1930年にかけて運動解析の論文を発表し、機関車の車軸配置が蛇行動特性に与える影響などを発表する。例えば、ホワイト式車輪配置4-6-0の機関車では、構造の非対称性により前進と後進で蛇行動限界速度が異なることなどを指摘している[12]

19世紀にかけて、エドワード・ラウスによる安定性判別法(今日では制御理論分野におけるラウス・フルビッツの安定判別法として知られる)などのシステムの安定性解析理論が発達してきた。これらの理論の発達は飛行機のフラッター現象の解明などに応用されていく[12]。カーターも、上記の研究の中でラウスの安定判別法を車両の運動解析に応用して蛇行動安定性解析を達成している[12]。このようなカーターの働きにより鉄道車両の運動解析における理論的な基礎が確立された[12]。その一方で、当時の職業鉄道技術者らは経験的な機械工学による設計手法を行ってきており、カーターが取り入れたような理論的手法に通じていなかった[12]。理論結果を裏付ける実験的な基礎の不足もあり、カーターの成果は鉄道工学の中に広がりを見せず、その後20年間ほどの間は運動解析の面で特筆すべき進歩は僅かとなった[12]

軸箱支持剛性の影響

カーターの研究では、台車枠と輪軸が剛結合している台車モデルにより解析されていた[12]。しかし実際の台車枠と輪軸は相対動きを許容するため何らかの非剛的な結合がされている。このような台車枠 - 輪軸間の剛性のことを軸箱支持剛性と呼ぶが、軸箱支持剛性が蛇行動特性に与える影響の研究について、以下のように、第二次世界大戦後の日本とイギリスにより主立って進められた。

1946年から1957年にかけて、日本国有鉄道(国鉄)により貨車の速度向上の試みがなされた[33]。この二軸車の貨車は、低い速度でも蛇行動が発生することが問題とされていた[33]。この過程で、鉄道技術研究所松平精により、航空工学のフラッター理論に基づく運動解析と、車両の1/10スケールモデルの実験によって蛇行動の研究が進められた[34]。この研究の中で、蛇行動は自励振動の一種であり、レールの不整のような外的要因が無くても発生し得ることが示された[34]。松平によれば、この頃の古くからの日本の鉄道技術者たちは、蛇行動の原因は蛇行動曲がりと呼ばれるレールの正弦波形の軌道狂いにより発生するものという説を主張していた[34]。松平の研究が浸透する内に、このレールの軌道狂いを原因とする説は姿を消していった[34]。また、この研究で用いられた車両のスケールモデルによる実験は、レールに相当する回転円盤上に車両を設置して走行する模型車両を定置で模擬・実験するもので[34]、回転円盤を用いた定置形式の車両走行試験の始まりでもある[33]。松平の研究は最初は日本語で発表されたこともあり欧米では良く知られなかったが、ウィッケンス(A.H. Wickens)の著作によると、松平の研究が走行安定性に対する輪軸支持剛性の効果の最初の研究としている[35]。松平は、上記の研究を基に、1951年に蛇行動防止のための2段リンク式走り装置を開発し[36]、後の二軸貨物車の速度向上に貢献している。また、回転円盤を使用した車両試験台は、1/10スケールモデルから1/5スケールモデル用へ発展し、さらには実車を乗せることができるサイズの試験台も開発され、共に初代新幹線用台車の蛇行動試験に用いられ、新幹線の開発に貢献した[36]。日本における蛇行動の研究については、鉄道車両の台車史#日本における多様化についても参照のこと。

1960年代前半、イギリス国鉄は、上記の日本国有鉄道と同じように二軸貨車の速度向上の試みを進めていたが脱線発生の増加に悩まされていた[37]。イギリス国鉄はこの問題を解決するため航空産業の技術者だったアラン・ウィッケンス(Alan H Wickens)を採用し、彼が率いる研究チームが結成され、以降は理論、実験の両面からの精力的な研究が進められた[37]1963年に同研究所のキング(B. L. King)により、続く1965年同研究所のポーレイ(R. A. Pooley)により実車スケールの実験で蛇行動限界速度、振動モードの測定が成され[37]、理論予測と実験の比較もなされている[38]。ウィッケンスは、解析モデルの中で輪軸支持剛性に注目し、輪軸と車体(あるいは台車)間に左右剛性とヨーイング剛性を導入する設計手法を考案する[38]。その後、この考え方の車両モデルは同研究所のブーコック(D. Boocock)により曲線通過解析への応用がなされ[38]、蛇行動特性と曲線通過特性を統一的に扱うための2輪軸と台車間のせん断剛性、曲げ剛性という考え方が考案される[39]。これらの研究成果は、イギリス国鉄の1969年から1975年[40]の高速貨車計画のHSFVシリーズ(en:High Speed Freight Vehicle)の開発へと反映されていく[38]

非線形性の影響

1955年には、UIC(国際鉄道連合)で新設されたORE(Office for Research and Experiments)により、蛇行動の数理解析問題のコンペティションが開かれた[41]。二軸車を対象とした最も優れた蛇行動解析を決めるもので[33]、蛇行動問題に関心のある研究者を探し出すことが目的でもあった[41]。受賞は、1位:アルジャリア大学のPossel教授、2位:アルストム社のBoutefoy技師、3位:日本国有鉄道の松平の解析で、いずれも問題への完全な回答はなされなかったが将来性を考慮して受賞が決められた[41]

UICの研究コンペティションの問題条件では、特に非線形性や車輪踏面の摩耗の問題を強調していた[33]1962年からの日本の新幹線試験走行でも、顕著な台車蛇行動を記録し、ダイレクトマウント方式による側受摩擦抵抗と車輪フランジのレール衝突という2つの非線形特性に起因する蛇行動の可能性が認識された[42]。 その後1960年代から1970年代にかけて、コンピュータパワー向上の恩恵を受けて、多くの自由度を持ち非線形性も取り扱う車両運動シミュレーションが発達していった[43]

高速鉄道の発達

蛇行動の存在は鉄道の高速化を阻害してきた要因の一つである[19]。1955年にはフランス国鉄電気機関車による時速331km/hの世界記録を達成したが、この時の走行は脱線直前の危険な状態であった[44]。走行後の軌道は左右に大きく変形し、蛇行動の発生が原因の一つと考えられている[44]

一方、日本では上記の松平らの研究を中心として蛇行動の研究が進み、1950年代後半頃から計画された新幹線の開発にもこれらの成果が投入された。1964年には日本で営業最高速度200km/hで東海道新幹線が開業する。ヨーロッパでも高速鉄道の技術が高まり、1981年にはフランスのTGVが、1991年にはドイツのICEが開業する。蛇行動抑制のためのヨーダンパもTGV車両で初めて実用化され[28]、日本でも1992年に運用が開始された新幹線300系電車でヨーダンパを装備したボルスタレス台車が採用され、高速鉄道用ボルスタレス台車の実用化も達成された。

2013年時点で、車両運動の数値解析や台車回転試験など利用した検証により、蛇行動を抑えることそのものは大きな問題とならなくなっている[19]。時速515km/hを記録した1990年のTGVの試験走行においても走行安定性は問題なかったと報告されている[45]。しかし蛇行抑制と曲線通過性能の確保は相反することが多く、これらの両立は鉄道車両設計の課題の1つとされている[19]

脚注

注釈・出典

  1. ^ a b c d 鉄道総合技術研究所. “鉄道技術用語辞典”. 2013年9月22日閲覧。
  2. ^ 「鉄道車両技術入門」p.1
  3. ^ a b c 「鉄道車両技術入門」pp.20-21
  4. ^ a b c 「電車のメカニズム」pp.72-73
  5. ^ 「車両システムのダイナミックスと制御」p.8
  6. ^ a b 「車両システムのダイナミックスと制御」pp.10-11
  7. ^ a b c d 「鉄道車両のダイナミクス」p.26
  8. ^ a b c 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」p.7
  9. ^ 「鉄道車両のダイナミクス」p.23
  10. ^ a b 「車両システムのダイナミックスと制御」p.127
  11. ^ 「車両システムのダイナミックスと制御」p.131
  12. ^ a b c d e f g h i j 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」pp.13-15
  13. ^ a b 「軸箱柔支持台車の蛇行動波長」p.1731
  14. ^ a b 「鉄道車両のダイナミクス」pp.27-29
  15. ^ 「鉄道車両のダイナミクス」p.3
  16. ^ 「車両システムのダイナミックスと制御」p.134
  17. ^ a b c 「鉄道車両のダイナミクス」p.14
  18. ^ 「電車のメカニズム」p.71
  19. ^ a b c d e f 小泉智志「台車技術からみた鉄道車両の高性能化の状況と今後の展望」『新日鉄住金技報』第395巻、新日鉄住金、2013年、12-13頁。 
  20. ^ 「鉄道車両メカニズム図鑑」p.225
  21. ^ 「電車のメカニズム」p.75
  22. ^ a b 「鉄道車両メカニズム図鑑」p.217
  23. ^ a b 「電車のメカニズム」pp.43-44
  24. ^ a b 「車両システムのダイナミックスと制御」pp.111-112
  25. ^ 「鉄道車両のダイナミクス」p.105
  26. ^ a b 「ボルスタレス台車」p.35
  27. ^ 「電車のメカニズム」pp.16-17
  28. ^ a b 「鉄道車両のダイナミクス」p.130
  29. ^ a b 「新世代鉄道の技術」pp.96-97
  30. ^ a b 「鉄道車両のダイナミクス」p.132
  31. ^ 「新世代鉄道の技術」pp.188-189
  32. ^ a b c 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」pp.9-10
  33. ^ a b c d e 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」pp.16-17
  34. ^ a b c d e 「零戦から新幹線まで」p.627
  35. ^ 「Fundamentals of Rail Vehicle Dynamics」p.10
  36. ^ a b 「東海道新幹線に関する研究開発の回顧」p.1561
  37. ^ a b c 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」pp.19-20
  38. ^ a b c d 「A history of engineering research on British Railways」pp.19-20
  39. ^ 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」p.26
  40. ^ 「A history of engineering research on British Railways」p.36
  41. ^ a b c 中村和雄「〔390〕鉄道車両のだ(蛇)行動に関する研究コンテストの結果〔Bull. SFM, 1957, 7eme Annee, No. 24, p.45-46〕」『日本機械学會誌』第62巻第486号、日本機械学会、1959年7月5日、1138頁、doi:10.1299/jsmemag.62.486_1138_3NAID 110002456999 
  42. ^ 「東海道新幹線に関する研究開発の回顧」pp.1562-63
  43. ^ 「Handbook of Railway Vehicle Dynamics」pp.28-29
  44. ^ a b 植木健司「輪重横圧測定のあゆみ」『鉄道総研RRR』第69巻第10号、2012年、29頁。 
  45. ^ 「鉄道車両のダイナミクス」p.92

参考文献

関連項目

外部リンク

  • 振動の世界 - NPO法人・科学映像館Webサイトより、20:00頃から回転円盤による定置車両走行試験での蛇行動の様子が映されている。

ヨーダンパ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/20 21:40 UTC 版)

蛇行動」の記事における「ヨーダンパ」の解説

ヨーダンパなし ヨーダンパあり JR東日本E531系電車のヨーダンパ ボルスタアンカー(上)とヨーダンパ(下)を併設する近鉄21000系電車台車 ダンパ一種であるヨーダンパは、蛇行動抑制のために車体台車接続されるのである台車左右両側配置してヨーイングによる両側逆位相前後振動減衰させる上記のような側受構造持たないボルスタレス台車に主に用いられるダンパはその特性から、速い動きにのみ抵抗しゆっくりした動きにはあまり抵抗しない。この特性により、曲線部における台車ゆるやかな回転許容しつつ、高速振動である蛇行動のみを抑制する機構である。 右図はヨーダンパの役割模式的に示したのであるボルスタレス台車においては台車回転空気ばね変形により行われる。とくに抑制機構ない場合は、空気ばね減衰特性のみにより蛇行動抵抗することとなる。一方、ヨーダンパは車体台車前後方向拘束するように取り付けられる台車曲線通過時に回転しなければならないため、ヨーダンパ自体伸縮許容する構造となっているが、その伸縮部は高速振動減衰させる機構有しており、蛇行動抑制する効果発揮する。 ヨーダンパ採用による高速車両用ボルスタレス台車は、フランスTGV初め実用化された。日本においては新幹線特急形車両のほか、最高速度120km/h(JR東日本では130km/h)以上の近郊形電車中心に採用されている。上記通りボルスタアンカ・側受構造代わりとして開発されたものなので、通常ボルスタレス台車装備されるものだが、特殊な事例としては近鉄21000系電車のように、ボルスタアンカー付き台車にヨーダンパを装着している例も存在するまた、新幹線E6系電車では、新幹線区間加えて曲線多く曲線半径小さ在来線区間走行するため、減衰力切替式のヨーダンパを装備し在来線区間走行する際は減衰力低減させて曲線通過性能の向上を図っている。 通常のヨーダンパは台車-車体間で機能配置されるものだが、新幹線のような高速車両では、編成車体間にもヨーダンパが装備される場合がある。通常のヨーダンパと区別して車体間ヨーダンパと呼ばれる車体ヨーイング振動をさらに低減させる効果発揮する日本においては新幹線500系電車初め採用された。

※この「ヨーダンパ」の解説は、「蛇行動」の解説の一部です。
「ヨーダンパ」を含む「蛇行動」の記事については、「蛇行動」の概要を参照ください。

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