マラリアとは? わかりやすく解説

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マラリア


マラリア(Malaria)は亜熱帯熱帯地域住民におけるmorbidityおよびmortalityとして重要度の高い疾患である。また、旅行者疾患としても重要性高まっているが、この場合には流行住民のマラリアとは異な視点での対応も必要である。マラリアのなかでも熱帯熱マラリア迅速かつ適切な対処をしないと、短期間重症化あるいは死亡に至る危険性がある。

疫 学
マラリアは世界で100カ国以上にみられ、世界保健機関(WHO)の推計によると、年間3~5億 人の罹患者150270万人死亡者があるとされる。この大部分サハラ以南アフリカにおける5歳未満小児である。サハラ以南アフリカ以外にもアジア、特に東南アジア南アジアパプアニューギニアソロモンなどの南太平洋諸島中南米などにおいても多く発生みられ る全世界で、旅行者帰国してから発症する例も年間3万人程度あるとされる
国内での報告数は、1999年4月以前伝染病予防法での届出によると、1990年代には年間 5080人で推移していた。しかし、感染症法施行以降報告数は増加し1999年(4~12月) には112例、2000年1~12月には154例に達した。しかしその後2001年109例、2002年83 例、2003年78例と減少している。

病原体
病原体Plasmodium 属の原虫であるが、ヒト疾患起こすのは熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum )、三日熱マラリア原虫(P. vivax )、卵形マラリア原虫(P. ovale )、四日マラリア原虫(P. malariae )の4種類である。
マラリア原虫は、媒介動物であるハマダラカAnopheles )の唾液腺スポロゾイトとして集積している。メスハマダラカ産卵のために吸血を行うが、その際唾液注入するので、その中のスポロゾイト体内侵入する血中入ったスポロゾイト45分程度肝細胞内に取り込まれしばらくして分裂開始し分裂小体メロゾイト)が数千になった段階肝細胞破壊して血中放出されるメロゾイト赤血球侵入し輪状体(早期栄養体)、栄養体後期栄養体、あるいはアメーバ体)、分裂体経過をたどり、8~32個に分裂した段階赤血球膜を破壊して放出されメロゾイト新たな赤血球侵入して上記サイクル繰り返す。これが無性生殖サイクルである。三日熱マラリア原虫卵形マラリア原虫場合には、肝細胞内で長期間潜伏態となる休眠原虫形成され、これが後になって分裂開始して血中放出されると、再発生ずることになる。
無性生殖繰り返しているうちに、一部原虫雌雄区別がある生殖母体有性原虫)ヘと分化する。これはヒト体内では合体受精をしないが、ハマダラカ吸われるとその中腸内で合体受精して最終的にオーシストとなり、その中に多数スポロゾイト形成され、それらが唾液腺集積する
熱帯熱マラリア原虫感染した赤血球は、表面種々の原虫由来物質表出するそのなかでPfEMP1は、細小血管内皮細胞表面接着分子であるICAM-1(特に脳)、CD36(特に脳以外)その他と結合する性質有するが、これゆえに感染赤血球脳血管などでsequestration生じ脳症などを引き起こすものと考えられている1)


臨床症状徴候
流行地で生まれ育ち何度もマラリアに罹患して多少免疫得ている者(semi-immune)では、発熱などの症状軽度みられないこともあるが、流行地に住んでいない者では免疫得られず(non-immune)、発熱必発であると言ってよい。

発熱には悪寒を伴うが、戦慄は特に熱帯熱マラリアではみられないこともある。発熱に伴い倦怠感頭痛筋肉痛関節痛などがみられることも多い。ときには発熱以外に腹部症状、すなわち悪心・嘔吐下痢腹痛や、呼吸器症状すなわち乾性咳嗽みられることもある。
一般検査所見では血小板減少LDH上昇総コレステロール(特にHDLコレステロール低下血清アルブミン低下などが高頻度みられる2)貧血長期化するとみられるが、病初期にはみられないことも多い。
熱帯熱マラリア重症化すると脳症、腎症、肺水腫/ARDS(図1)、DIC出血傾向(図2)、重症貧血代謝性アシドーシス低血糖黒水熱(高度の血色素尿症)など種々の合併症生じる。これらの詳細はWHOの重症マラリアのガイドライン3)に詳しい。


病原診断
血液塗抹標本ギムザ染色し、光学顕微鏡検査する方法顕微鏡法)がgold standardである。塗抹標本には厚層塗抹と薄層塗抹があり、理論上は厚層塗抹の方が多く血液量を検査できるので診断感度が高いと言えるが、実際上は原虫形態判別容易でないことがあり、通常は薄層塗抹標本詳細に観察することが推奨される原虫認められ場合には原虫種の判定を行うが、熱帯熱マラリア原虫それ以外マラリア原虫とを区別することが重要である。
血液塗抹標本見られる熱帯熱マラリア原虫通常輪状体のみであり、数が少ないときなど見逃しやすい。したがって他の検査手段、すなわち抗原検出法PCR法などを併用することが望ましい。
抗原検出法には大別して2種類あり、一方熱帯熱マラリア原虫のhistidine-rich protein 2(HRP2)を主体検出し他方マラリア原虫特異的LDH(pLDH)を検出する4)前者キットとしてはNow Malaria(Binax社)があり、後者としてはOptiMAL-IT(DiaMed社)があるが、両者ともに国内では販売されていない両者ともに熱帯熱マラリア原虫それ以外3種マラリア原虫区別して検出する熱帯熱マラリア原虫検出には、一般にHRP2検出系の方がpLDH検出系よりも優れている5)
PCR法としては種々の研究室種々の方法開発されているが、岡山大学綿矢および湧永製薬山根らの開発になる方法(PCR-MPH法)は優れている2)ある程度設備技術が必要ではあるが、4種類マラリア原虫区別して感度良く検出でき、顕微鏡法を補うものとして、あるいは顕微鏡法技術高めるものとして有用である。

治療・予防
三日熱マラリア卵形マラリア、四日熱マラリアでの急性期治療としてはクロロキンが用いられるが、三日熱マラリアではパプアニューギニアインドネシアなどでクロロキン耐性出現していることも念頭におく6)。クロロキンが入手不可能な場合には、スルファドキシン/ピリメタミン合剤ファンシダール)、メフロキン(メファキン「エスエス)なども用いられる三日熱マラリア卵形マラリアの場合急性期治療成功した後、肝臓潜む休眠原虫殺滅する根治療法としてプリマキンを用いる。
熱帯熱マラリアではクロロキン耐性進行しているので、クロロキン以外の薬剤用いるべきである。スルファドキシン/ピリメタミン合剤耐性進行しつつあり、望ましくない。メフロキンは、タイ・カンボジアあるいはタイ・ミャンマーなどの国境地帯感染除けば有効なことが多い。欧米ではキニーネ経口薬ドキシサイクリン、あるいはクリンダマイシンとの併用行われるアトバコン/プログアニル合剤(MalaroneTM)も薬剤耐性熱帯熱マラリアに有効であり、欧米ではアーテメター/ルメファントリン合剤(Riamet)も使われ始めたが、特に後者場合、nonimmuneでのデータ未だ少な6)
重症マラリアでは非経口的投与が必要であり、キニーネ注射薬標準的であるが、最近ではアーテミシニンおよび誘導体注射坐剤用いられることがある2,3国内販売されている抗マラリア薬キニーネ経口薬ファンシダール、メファキン「エスエス3種類のみであるが、他の抗マラリア薬は「熱帯病治療薬研究班(略称)」(筆者班員http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/didai/orphan)が保管している。
重症マラリアでは適切な抗マラリア薬療法以外に、合併症病態応じた適切な支持療法も重要である。詳細はWHOのガイドライン3)記載にゆずるが、欧米での最近の傾向として交換輸血積極的に行われ、しかも評価されていることが挙げられる2)
予防の3原則は、1)による刺咬を避けること、2)予防内服予防的に抗マラリア薬服用すること)、3)スタンバイ治療(マラリアが疑われるときに、自らの判断抗マラリア薬服用すること)であるが、1)はマラリア流行地に行く場合に必ず行うべきことであり、2)はマラリアの罹患重症化リスク検討して抗マラリア薬副作用上回るメリットがあると判断される場合に行う。3)も2)と同様に抗マラリア薬使用するが、高度に熟練した医師のみが処方すべきものと思われる。マラリア予防については、新し専門分野である「旅行医学」において活発に議論されている。

感染症法における取り扱い
マラリアは四類感染症であり、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りである。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断なされたもの。
病原体検出
 例 血液塗抹標本による顕微鏡下でのマラリア原虫の証明と、鏡検による種の確認など
病原体遺伝子検出
 例 PCR法など


引用文献
1)Miller, L.H., Baruch, D.I., Marsh, K., Doumbo, O.K.: The pathogenic basis of malaria. Nature415:673-679, 2002
2)木村幹男:マラリアにおける診断と治療現況感染症76:585-593, 2002
3)World Health Organization: Severe falciparum malaria. Trans. R. Soc. Trop. Med. Hyg. 94(Supple 1):S1/1-1/90, 2000
4)Moody, A.: Rapid diagnostic tests for malaria parasites. Clin. Microbiol. Rev. 15:66-78, 2002
5)木村幹男,大友弘士,熊谷正弘廣重由可:旅行者によるマラリア診断キット使用問題.日熱帯会誌28:1-7, 2000
6)Hatz, C.: Clinical treatment of malaria in returned travelers. In: TravelersMalaria(Schlagenhauf, P. ed.), BC Decker, p.431-445, 2001






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