3K問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 02:46 UTC 版)
明治以来の工業社会、なかんずく高度経済成長期以後において、ブルーカラー職種は社会の様々な分野で活躍し、経済を支えてきた。しかし、生活水準が上昇した1980年代頃より、以下の理由から次第に「3K」(汚い・危険・きつい)職種と名指しされ、とりわけ青少年から嫌悪されるようになった。英語圏などの国々でも、「3K」の同義語として「3D」(Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demanding=きつい)が使用されており、「3D」の定義を「Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demeaning=屈辱的」とする場合もある。 きつい 重量物(数十kg~100kg以上の資材、家具、工作機械など)の運搬を主(または補助的な作業)として伴うため、肉体的および精神的な負担の大きい作業が多い。マンションや高層ビルなどの土木・建築ではクレーンやフォークリフトなどで資材の運搬ができるが、引越しなどの作業ではそれらの建設機械が使用できないため、最終的に人力に頼らざるを得ない。 エレベーターと台車で家具や資材を運搬できれば、肉体的な負担を大幅に低減できるが、5階建以下の集合住宅や雑居ビルにはエレベーターが設置されていないため、1階~5階(場合によっては6階以上)まで階段を何度も昇降する必要が発生し、肉体的な負担が非常に大きくなる。 運送業では、扱う荷物の破損などは弁償させられる場合もある。 対象物の形状や重量は、階段を伝っての運搬を考慮していないのもある(運搬用の取っ手がついていないなど)。 物理的に劣悪な環境で作業する必要がある。高温多湿・あるいは寒冷な戸外。 粉塵や悪臭など不愉快な環境。 勤務時間や休日が不規則。24時間体制または年中無休の稼働による2交代ないし3交代の交代勤務。土・日・祝日・年末年始でも休業できず、毎日稼働する現場もある(運輸業、施設の警備員など)。 年中無休で稼働しているにもかかわらず、完全週休2日制を導入していない企業が多く、休養を十分に取り難い。土・日曜出勤の場合も、半休でない例もある。 年中無休で稼働する(休業日がない)性質上、病気や急用などで欠員が出た場合、非番の労働者に休日出勤を要請されることがある。 天候で可能な作業が変化するなど。 作業が単調で、独創性に乏しい(マックジョブ)。他人が描いた図柄を組み立てる「ジグソーパズル型」能力ばかりが珍視され、自分で世界観を描いて組み立てる「レゴ型」能力が蔑視される。どんなに美しい立体(製品)が完成しても、それは自分で描いた図柄ではない。 工場の流れ作業では、各々の労働者が担当する仕事は、思考力が不要で誰にでもできる仕事でルーチンワークの連続になりえるため、やりがいに乏しい(モチベーションの維持が困難)。 変化や独創性に乏しい環境で長時間の緊張を強いられ、精神的な負担を伴うことがある。 休憩時間が限られ、作業中は体を清潔にするための時間を十分に取れない。工事現場、工場、倉庫などではその場で腰を下ろして休憩を取ることができず、所定の休憩所まで移動する必要があり、その分余計な時間をかけることになる。 汚い 機械油や埃(塵埃)の多い場所で勤務すれば、作業服の汚れが避けられない(各自で作業服を持ち帰り、洗濯しなければならない場合もある)。 戸外では土が、雨が降れば泥がある環境では、それらに塗れる場合もある。 作業内容によっては雨天の戸外で活動する必要もあり、業務や納期の必要上、悪天候でも作業を中断できない。 戸外では空調や冷房がないため、必然的に汗まみれになる。 清掃、ゴミ収集や廃品再生など、日常的に汚れを相手にする。 危険 次のような理由から、勤務中に生命に関わる事故(労働災害)の危険を妊んでいる。工場内の各種工作機械や建設機械などの機械類や鋭利な刃物・工具類を扱う、あるいは動作中の機械類の周辺で作業する職種では、機械に巻き込まれたりする事故もある。 職種や作業内容によっては、様々な危険の高い有害物質・大きなエネルギーの使用を必要とする作業もある。 高所・閉所・暗所といった劣悪な環境や、高圧ガスやガスボンベなどを取り扱う環境など、転落・中毒・爆発・火災に巻き込まれる危険を伴う作業が求められる職種もある。雨天で濡れた階段を上り下りしながら重量物を運搬する場合、一層転落の危険が高くなる。 労働災害や職業病の問題がしばしば発生する。 屈辱的 疲れる割には、ホワイトカラーよりも事故発生時の危険が高く、賃金や身分が低いという不公平感。賃金の高低はおおむね「技能」や「経験」を基準としており、「肉体的・精神的な負担」「環境の優劣」など労働者に対する負担がほとんど考慮されない。 アルバイトや契約社員の場合、「非正規」という理由で正社員より賃金が低く、賞与(ボーナス)も出ない。 土・日・祝日の勤務でも賃金が平日と変わらず、割増賃金が出ない(休日出勤扱いにならない)ため、モチベーションの維持が困難。 事故が発生した際に、実際に現場で機械の操縦者や法定管理者などとして作業に携わる有資格者にばかり、大きな責任が掛かる。資格取得までの手間や万一の際の資格喪失などのリスクと比べて、賃金や組織内での扱いが見合わず、精神的負担ばかりが大きい。 事務員(ホワイトカラー)が作業員(ブルーカラー)よりも高い身分を保っており、事務員は作業現場の実情を知らず、作業現場を軽んじる性質を持っている。従って、ホワイトカラーは身分が高いとして珍視される一方、ブルーカラーは身分が低いとして蔑視される。 上から指示される事だけを強制され、キャリアパス(出世の道)が全く開かれていない。ホワイトカラーのように「自分で方向を決められる者」になれず、工場長などへの昇進も望めない。 とりわけ2003年に小泉純一郎政権によって製造業への派遣労働が解禁された結果、ブルーカラーの「短期間の大量採用、大量解雇」が頻繁に起こり、ブルーカラーは「短期間の使い捨て要員」と見なされている(→プレカリアート、秋葉原通り魔事件、派遣切り)。 企業内は元より、社会的な地位も低い。「需要がある」「社会に貢献している」と宣伝されながら、社会から冷たくあしらわれている。 これらの要因によって、バブル景気の時期には、日払いが10,000円強の高給でもブルーカラーは忌避され、社会全般とりわけ学生・生徒・児童の間にも、ブルーカラーを忌避してホワイトカラーを志向する傾向や、「ものづくり」を嫌悪して「ものづくり」以外を愛好する傾向が高くなった。バブル崩壊後、すなわち冷戦後の現在もこのブルーカラーへの忌避や「ものづくり」への嫌悪は変わっておらず、ブルーカラーへの忌避や「ものづくり」への嫌悪は高校・大学の進学率の高さにも現れている。そして、冷戦後の25年以上に亘る長期間の不況によって、ホワイトカラーになれず、仕方なくブルーカラー(言わば「でもしか工員」)となる大学卒業者も現れた。また、職種別の賃金格差が小さければ、衛生的で安全そうなホワイトカラー職種のほうが(多少賃金が安くても)「より快適な職場」だと考えられた。
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