電子式アナログ計算機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/30 22:29 UTC 版)
「アナログ計算機」の記事における「電子式アナログ計算機」の解説
「アナログコンピュータ」も参照 日本では「電子式計算機を指してコンピュータとする」ということがあるため、電子式アナログ計算機を「アナログコンピュータ」とすることがある。以降の節では主としてこの電子式アナログ計算機(ないしアナログ電子式計算機)すなわちアナログコンピュータについて述べる。 アナログコンピュータは、演算増幅器、コンデンサー、抵抗、ポテンショメーター、ダイオードなどを用いて(この回路が縮小・集約されたのが集積回路)、積分器、加算器、符号反転器、係数器あるいは乗算器、非線形函数発生器などの演算要素を構成して、これを組み合わせて方程式を構成、初期条件を与えて解を求めるもので、微分方程式を解くのに多く用いられる。多くの場合、反転増幅器と抵抗、コンデンサーを用いて加算器兼符号反転ミラー積分器を構成する。 演算結果の表示器として、ペン書き記録計を利用するものを「低速型」、オシロスコープなどCRTに繰り返し描画させるものを「高速型」「繰り返し型」と呼んだ。CRT表示ではちらつき回避に毎秒25回程度以上の繰り返しが必要となり、その繰り返し時間より長時間の現象は時間軸変換をして演算表示させた。 機械系、電気系を問わず物理現象を方程式に現して座標軸換算を行いアナログ計算機に方程式をセットして演算を行い、その結果を元の物理量に引き直して読み取るものである。実用上、演算増幅器の使用可能周波数範囲が広く取れないので、高域特性を求められる微分器を汎用に用いることはなく、微分方程式は積分器を使うよう式展開して使うのが普通である。 質量・バネを使ったシステムを考えてみる。物理的にシステムを作るには、まずバネ・おもりを接続して適当な定着装置で固定し、適当な入力範囲に対応できる試験装置をつけて、最後に実測する。電気的に等価なものは、増幅装置(オペアンプ)と受動線形部品で構成できる。回路内では、質量にあたるものはポテンショメータで調節できる。このような電気的システムは、物理システムの類推であることからアナログコンピュータと呼ばれる。 これらは条件毎に現物を試作して確かめるよりも安価、安全に構築でき、簡単に変更可能で網羅的な条件で模擬的な検討が可能となる。また電子回路はシミュレート対象の機械系システムよりも高速に動作することが多いため、シミュレーションは実時間以上に高速化され、即座に結果が得られる。欠点はダイナミックレンジ(最大出力/雑音レベル)によって変数の範囲が限られることである。 連立方程式求解機の原理は、そのままオペアンプにより電気回路(電子回路)に置き換えることができる。また、微分解析機のような微積分にはキャパシタンスやインダクタンスが利用できる(精度は相対的なものもあり課題次第である)。 なお、微分解析機の原理をそのままデジタル化し専用の電子機器としたものがDDA(en:Digital differential analyzer)である。DDAは汎用デジタルコンピュータにプログラム(ソフトウェア)で実装することもある。 エレクトロニクスを利用したデジタルコンピュータは1940年代に誕生したが、本格的に成長したのは1960年代であり、1950年代にはアナログによるものも多く作られた。以下にそれらをだいたい時間順に挙げる。 カリフォルニア工科大学のギルバート・D・マッキャン、チャールズ・H・ウィルツ、バート・N・ロカンシー(英語版)が "Direct Analogy Electric Analog Computer" を作り、それを使ったサービスを事業化するため1950年 Computer Engineering Associates を創業した。 1950年、力学系の解析・設計用のアナログコンピュータ Cyclone が作られた。 1951年、電子回路などでニューラルネットワークをアナログ的に実装した SNARC(en:Stochastic neural analog reinforcement calculator)を、マービン・ミンスキーと Dean Edmonds が作った。 1952年、RCAがアナログコンピュータ Typhoon を作った。真空管4000本、ダイヤル100個、プログラミング(配線)用コネクタ6000個などで構成されている。 1958年、アナログコンピュータを使った(コンピュータ)ゲーム Tennis for Two が作られた。 1963年、ヒースキットは199ドルの教育用繰り返し型アナログコンピュータ EC-1 を発売した。これは、演算増幅器オペアンプ9基を含む部品をパッチコードで配線して使用する形のものであるが、オペアンプが9基あるので2階の微分方程式2組の連立を構成可能で、減衰振動解、臨界制動、過制動解、単振動解(正弦波発生)、2重振り子(結合共振回路)などを見ることができた。主構成としては、5極3極管である6U8単管で演算増幅器を構成、双2極管6AL5で待機時の電位クランプを行い、マルチバイブレター発振器により交流電源周波数前後で演算を繰り返すものだったから、機械系解析では特に時間軸スケール変換が必須だった。 コンピュータグラフィックスのためのアナログ専用計算機と言える、スキャニメイトのような例もある。 アナログ計算機は、いわゆる電子計算機の能力の低い時代において複雑な要素を、文字通り「類似モデル(アナログ)」でモデル化して直接計算できる特徴があった。1957年、国鉄の鉄道技術研究所にて日本初の運転曲線作成システムとなる「列車シミュレータ」をアナログ計算機を用いて実現し、各列車の加速力曲線、こう配別速度距離曲線など運転性能曲線や、列車の運転曲線等の作図に威力を発揮した。これらは新規開発のキハ80系特急形気動車など、ダイヤ改正で新規投入された列車のダイヤ作成に一役買った。なお列車シミュレータはデジタルコンピュータの能力向上に伴いデジタル計算機に置き換えられていった。
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