米国におけるケーブルテレビ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 17:17 UTC 版)
「ケーブルテレビ」の記事における「米国におけるケーブルテレビ」の解説
国土が広く日本に比べて人口密度が低い米国では、地上波の直接受信だけでテレビジョン放送を国内にあまねく届けるのは困難で、例えば日本の関東エリアのように一本の電波塔からの送信で国家人口の2割近くをサービスエリアとするなどは望むべくもない。また地域ごとの独自性が強く、過度の行政の規制や干渉も少ないため、自前で大規模な送信設備をもてない小規模ローカル局や特定の言語(スペイン語、中国語、タガログ語、日本語など)だけで番組を構成する放送局や、映画、食材・料理、住宅、歴史、科学番組などに特化した全国規模の「放送局」も多数存在し、これらの放送を視聴者に届けるための最終伝播手段として、比較的人口の密集した地域でのケーブルテレビの役割は非常に大きい。大都市はもとより、郊外でも共聴アンテナがなくケーブルのみのアパートは多く、また中流以上の住宅地で地上波用屋上アンテナをほとんど見ない地域も多い(代わって最近多く見かけるのは衛星放送受信用のパラボラ(ディッシュ)アンテナ)。 2006年の調査によれば、米国の全世帯の58%がケーブルテレビを視聴している。この加入率は、貧困層の多い都市部よりも富裕層の多い郊外で高いが、過疎地域ではケーブルの敷設が少ないので低くなる。 米国のケーブルテレビは、コムキャスト、チャーター、コックスなどのMSO (Multiple System Operator) と呼ばれるケーブルネットワークに寡占的に支配されている。零細なローカルケーブルテレビサービスも存在するが、多くは次第にMSOに買収されネットワークに組み込まれている。MSOは自社チャンネルや自社番組を持つことはなく、「キャリア」として事業に特化しているのが通常であるが例外もある。 ケーブルテレビ会社により異なるが、視聴者は「ベーシック」「エクストラ」「プレミエ」「アルティメット」などの予め見られるチャンネルがパッケージ化されたプランを契約するのが一般的で、TVジャパンのようなチャンネル単位の追加は例外的である。ベーシックプラン(月$30〜)でもほとんどのローカル局を含めて50チャンネル程度が受信でき、無料の地上波の直接受信(大都市近郊で10 - 20局)より格段に多い。一番高額なプラン(月$200程度)では、NFLなどのスポーツ専門チャンネルやコマーシャル無しの映画チャンネルなど300チャンネル前後が受信できる。2011年現在、映画や大手ネットワーク、専門チャンネルなどはほとんどHD化されたが、財政的に脆弱な独立系の零細ローカル局は未だにSDのみであり、HD放送は多くない。特に非英語放送チャンネルはローカルニュースやコミュニティ情報番組以外の自社製作は少なく、海外製作の古い番組を買っているケースも多く、家庭用VCR以下の画像品質の放送も多い。 MSOはテレビジョン放送のラストワンマイルを制しており、その影響力は強大である。ABC、NBC、CBS、FOX、CNNのような全国ネットワークでさえ、ケーブルテレビがなければ多くの視聴者に番組を届けることができない。そのため、例えば全てのプランにローカルチャンネルを含めることを義務付けるなどの規制もある。MSOの影響力は視聴のための機器にも及ぶ。テレビジョン受像機は量販店などで購入した市販の機器が使えるが、そのままで視聴できるのは暗号化されていない「ベーシックプラン」のチャンネルに限られ、プレミアムチャンネルを視聴するためには「ケーブルカード」と呼ばれる認証と復号のためのPCカードをケーブルテレビ会社から借りて受像機に差し込まなければならない(CA=Conditional Access)。1980年代ごろまでのアナログ放送の時代は、ダイアル式の選局機構をもつセットトップボックスをケーブルテレビ会社から借りて受像機のアンテナ端子にフィードし、プレミアムチャンネルの視聴制限はマクロビジョン方式のようなアナログ技術で行っていた(自作や「信号安定化アダプター」と称する簡単な機器でスクランブルを回避する者も多かった)。 録画は、アナログ時代は視聴者が調達したVCRで行うのが一般的であったが、ディジタル時代になり、ケーブルテレビ会社が月$10程度の追加料金で貸し出すDVR(モトローラやサイエンティフィック・アトランタなどの専業メーカが設計・製造)を使うことが一般的になった。米国では視聴者が録画したコンテンツをリムーバブルメディアに記録して個人ライブラリを作るという文化が希薄なのと、コンテンツ権利保護のため、ケーブルテレビ会社の提供する録画装置にはDVDやBDなどの書き込み装置はついていない。ユーザが自分で用意したHDDをDVRに接続して録画時間を増やすことも可能であるが、録画されたファイルは個々のDVRのハードウェア内部の基板上に設置された個別の暗号鍵で暗号化されているので、録画したHDDを同一DVRモデルを含む他の機器に接続しても再生はできない(録画機が故障すると本体交換になるが、増設HDDは手元に残ってもその内容を再生することはできず全て無効になってしまう)。MSOによる過度の受信機器の支配を防ぐために、ケーブルテレビ会社が提供するものでなくてもケーブルカードと互換のDVRなどの機器で受信・録画できるようにすることを妨げてはならないことになっているが、月$10程度の料金で借りられるケーブルテレビ会社提供のDVRに対して、最初に数百ドルの投資が必要な「買い切り」DVRの販売は難しく、ティーボなどごく少数の専業メーカーしか市場に存在していない。大手家電メーカーがこぞってテレビ録画器を家電量販店で売る日本とは全く違った市場構造である。ティーボはMSO向けの貸し出し専用機も製造しているが、貸し出し専用機はYouTubeなどのインターネットコンテンツを見る機能が削除されている。 ケーブルテレビは、普及率では電話網に及ばないものの1GHz近いバンド幅の有線通信網を各家庭や事業所まで所有しており、インターネットを含む通信ビジネスで非常に有利な立場にある。ケーブルモデムを使ったインターネット接続サービス(200Mbps程度まで提供)はもとより、近年はIP電話技術を使った電話サービスの普及に力を入れており、さらには無線電話網の分野にも参入している。例えば最大手のコムキャストは2005年にIP電話サービスの提供を開始した。元来電気通信事業者すなわち電話屋であったAT&Tが光ファイバ経由のIP放送を使ったテレビ、インターネット、電話の複合サービス 「U-verse」 を2006年に立ち上げてこれの普及に傾注しているのと対照的である。
※この「米国におけるケーブルテレビ」の解説は、「ケーブルテレビ」の解説の一部です。
「米国におけるケーブルテレビ」を含む「ケーブルテレビ」の記事については、「ケーブルテレビ」の概要を参照ください。
- 米国におけるケーブルテレビのページへのリンク