突発性発疹とは? わかりやすく解説

突発性発疹

突発性発疹(Exanthem subitum)は感染症法に基づく4類感染症定点把握疾患である。乳児期罹患することが多く、突然の高熱解熱前後発疹特徴とするウイルス感染症で、予後一般に良好である。本疾患の原因ウイルスは、ヒトヘルペスウイルス6 1) あるいは7 2)(HHV‐6あるいはHHV‐7)であることが多い。HHV‐7 はHHV‐6 よりも遅れて感染する傾向があるため3)、HHV‐7による突発性発疹は臨床的に二度目の突発性発疹として経験されることが多い。

疫 学
感染症発生動向調査によると、報告症例年齢0歳1歳99%を占めており、それ以上年齢報告は稀である。季節性はなく、毎週定点当たり報告数は一定しており、年次による差異ほとんどない感染症法施行以前比べると、以降の方が定点当たり報告数にして0.2ほど高くなっているが、これは定点設計の差によるもの考えられる)4)。本疾患の原因ウイルスのHHV‐6、HHV‐7 の血清疫学調査からは、2~3 歳頃までにほとんどの小児抗体陽性となることが判明しており、不顕性感染2040%と報告されている。
このような疫学的特徴から、本疾患過去感染症発生動向調査データ解析の際に基準疾患として利用されてきた。ゴールデンウイーク年末などの休日病院休業伴って疾患報告数が変動することはよく知られているが、これを標準化するために本疾患報告数がほとんど一定であることを利用して、各疾患報告数を突発性発疹の報告数で除した値でトレンド比較しようとした試み、あるいは本疾患2歳までにほとんどの子供が罹患することから、実際の突発性発疹の発生数推計し、それと本調査報告数を使用して定点医療機関での疾患捕捉率算定して、各疾患人口10万人当たり罹患率推定利用されたりしている 5)。

病原体
1910年に本疾患記載され以来原因ウイルス長い間不明であったが、1988 年山西らによりHHV‐6 6)であることが証明された 1)。その後、突発性発疹の中にエンテロウイルス原因であるものが含まれていること、またHHV‐6、エンテロウイルスのいずれでもない原因不明の突発性発疹があることも明らかとなり、1990年新しく発見されたHHV‐7 7)もその初感染像として突発性発疹を呈することが1994 年報告された 2)。HHV‐7 による突発性発疹は、臨床的に二度目の突発性発疹として経験されることが多い 8)。
いずれもヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科属す2本鎖DNA ウイルスである。両ウイルスとも初感染以降潜伏感染態となり、断続的に唾液中から排泄される排泄される量はHHV‐7の方が多く容易にウイルス分離されるが、HHV‐6 は分子疫学手法によりDNA検出されるものの、ウイルス分離は困難である。現在のところ感染経路としては、唾液中に排泄されウイルス経口的あるいは経気道的に乳児感染する考えられているが、排泄量が多いHHV‐7の方がなぜHHV‐6より後に感染するかについては、母体からの移行抗体存在がHHV‐7の方がHHV‐6よりも長期持続するためであることが報告されている 9)。また、子宮頚管粘液からウイルスDNA検出されるという報告もあり 10)、周産期における感染感染経路一つである可能性がある。一方母乳については、感染経路として否定的である 11)。初感染時の潜伏期は、1950 年Kempeらの報告により約10日推定されている。

臨床症状
乳児期発症するのを特徴とする熱性発疹性疾患である。38度以上の発熱3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の斑丘疹体幹中心に顔面四肢数日間出現する随伴症状としては、下痢眼瞼浮腫大泉門膨隆リンパ節腫脹などがあげられるが、多く発熱発疹のみで経過する診断は、その特徴的な臨床経過により、発疹出現をもってなされることがほとんどであり、また困難ではない。永山斑(病初期口蓋垂根元両側認められる粟粒大の紅色隆起)を見つけることにより、有熱期中診断予測できることもある。発熱初期熱性痙攣合併することがあるが、一般に予後良好である。まれに脳炎脳症劇症肝炎血小板減少性紫斑病など重篤合併症をおこすことがある

病原診断
HHV‐6、HHV‐7の診断法としては、他のウイルス疾患と同様でウイルス分離血清診断PCR法によるウイルスDNA検出などがあるが、現在のところいずれも健康保険適応はない。
ウイルス分離はやや煩雑で、通常患児末梢血球を検体とし、臍帯血リンパ球用いIL‐2PHA などのリンパ球活性化する試薬加えて培養する発熱期に検査が行われればほぼ100%分離可能であるが、発疹期に至ると分離率は40%程度下降し発疹消失する分離されることはほとんどない血清診断は、HHV‐6に関して間接蛍光抗体法によるIgG 抗体及びIgM 抗体測定がコマーシャルラボにて可能であるが、HHV‐7抗体との交叉反応があるので、結果の解釈には留意が必要である。研究レベルでは中和法による抗体測定法確立されている。PCR 法によるウイルスDNA検出は両ウイルスともにコマーシャルラボにて可能であるが、初感染潜伏感染することから、陽性結果の解釈には注意する必要がある潜伏感染部位単球/マクロファージ唾液腺などが考えられているため、血液細胞唾液からDNA検出されても病的意義低く、HHV‐6あるいはHHV‐7を当該疾患原因ウイルスとして考え場合は、細胞ではなく血漿中にウイルスDNA検出されるか、当該臓器からウイルス検出される必要がある

治療・予防
通常予後良好のため、対症療法にて経過観察するのみであり、特に予防問題となることもない
In vitro において、HHV‐6 はガンシクロビルおよびホスカルネットによりウイルスの増殖高率阻害されたという報告なされている。アシクロビルに関しては、高濃度時にのみ同様の効果認められている。
突発性発疹は従来予後良好な疾患であり、実際抗ウイルス療法考慮しなければならない症例遭遇することは稀であるが、重篤合併症呈した場合、あるいは、移植患者AIDS 患者のように免疫抑制状態下にある患者において発症した場合には、前述抗ウイルス剤使用検討する価値がある思われる

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
突発性発しんは5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点から毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の2つ基準のすべてを満たすもの
1. 突然に発熱38以上)し、2~4日持続
2. 解熱前後して体幹部、四肢顔面発しん出現
上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの

文献
1)Yamanishi K, Okuno T, Shiraki K, et al. Identification of human herpesvirus 6 as a causal agent for exanthem subitum. Lancet 1988; i: 1065‐7.
2)Tanaka K, Kondo T, Torigoe S, et al. Human herpesvirus 7: Another causal agent for roseola(exanthem subitum). J pediatr. 1994; 125: 1‐5.
3)TanakaTaya K, Kondo T, Mukai T, et al. Seroepidemiological study of human herpesvirus‐6 and‐7 in children of different ages and detection of these two viruses in throat swabs by polymerase chain reaction.Journal of Medical Virology.1996; 48: 88‐94.
4)平成六年感染症サーベイランス事業年報382‐383p
5)病原微生物検出情報Vol.9No.42p
6)Salahuddin SZ, Ablashi DV, Markham PD, et al. Isolation of a new virus, HBLV, in patients with lymphoproliferative disorders.Science. 1986; 234 (4776): 596‐601.
7)Frenkel N, Schirmer EC, Wyatt LS, et al.Isolation of a new herpesvirus from human CD4+T cells. Proc. Natl. Acad.Sci. USA. 1990; 87: 748‐752.
8)Torigoe S, Kumamoto T, Koide W, et al. Clinical manifestations associated with human herpesvirus 7 infection. Arch Dis Child.1995; 72: 518‐519.
9)Yoshida M, Torigoe S, Ikeue K, Yamada M. Neutralizing antibody responses to human herpesviruses 6 and 7 do not crossreact with each other, and maternal neutralizing antibodies contribute to sequential infection with these viruses in childhood.Clin Diagn Lab Immunol. 2002; 9(2): 388‐93.
10)Okuno T, Oishi H, Hayashi K, et al. Human herpesviruses 6 and 7 in cervixes of pregnant women. J Clin Microbiol.1995;33:1968‐70.
11Fujisaki H, TanakaTaya K, Tanabe H, et al. Detection of human herpesvirus 7(HHV‐7)DNA in breast milk by polymerase chain reaction and prevalence of HHV‐7 antibody in breastfed and bottlefed children. J Med Virol. 1998; 56: 275‐9.

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)





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