生活保護の自立支援
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 23:58 UTC 版)
生活保護法の趣旨は、「最低生活保障」と「自立の助長」を2本柱とするが、2000年のいわゆる第一次分権改革を経て、前者は法定受託事務に、後者は自治事務に振り分けられ、現金給付は国の所管、相談支援は自治体の所管となったところであるが、その後、2004年4月からは、全国の数自治体で自立支援のモデル事業がスタートした。この自立支援プログラムの一環として「子どもの健全育成事業」が掲げられている。自立支援策定推進事業に要する費用は地方自治体が負担するが、それへの国庫補助金も厚生労働省の予算の限りにおいてという制限があるうえ、補助割合についても2005年セーフティネット補助金開始当初は2分1の補助率であったなど年により変動もあるものの、2012年度現在では10分の10国庫から補助金が出ている。このため、費用対効果を考え就労支援や退院促進プログラムなどに重点を置いてきた地方自治体でも、現在は財政負担の葛藤なく、自治体の関心の持ちよう次第で子どもに特化した支援に取り組むことができる。ただし、2014年度までは、生活保護受給者の自立支援事業の枠組みの中で、国が自治体に費用の全額を補助してきたが、2015年度からは同年度施行の生活困窮者自立支援法にもとづく学習支援事業の枠組みに変わり、補助率は半分になることが決まっている。全国調査では生活保護の子供の学習支援を行っていない自治体は、人員不足に次いで、財源確保の問題を掲げてる。 なお、男性が25歳から80歳まで生活保護を受け続けた場合では、扶助費総額にあわせ、働いた場合の税金や社会保険料の国と地方の逸失額を合算すると最大で1億5千万円を超えることも明らかになっている。 生活保護有子世帯の課題を見据え、自立支援プログラムの一環として、子どもの支援に特化した「子ども支援員」配置の動きが始まっている。2012年度の神奈川県「子どもの健全育成プログラム策定推進モデル事業」のための当初予算は15,731千円であった。生活保護のケースワーカーでは、その世帯が受給している事実を保護者が子どもに知らせていない場合もあり、また子どもへの支援も生活保護行政でほとんど想定されていないなどの要因により、直接子どもと話し合うことは多くない。 生活保護のケースワーカーなどからは、生活保護受給者の価値観は、消費や健康について刹那的な態度で欲望の先延ばしができない、物事の優先順位がつけられない、家族間の相互不信が強いなどの印象があるとの意見があるという。 貧困の連鎖は高卒未満という学歴や10代の出産などという育成期に発生した事柄が相関している。都内では「生活保護世帯の全日制高校への進学率が7割に届いていない」ような低全日制高校進学の状況がある。このことから、生活保護の子どもの高校の進学意欲を高めること、また高校に進学しても中途退学する生徒は後を絶たず「あまりにあっさりと中退してまうケースがある」ため、将来のために高校を中退しないよう各地で支援が行われている。 江戸川区では生活保護ケースワーカーが有志で1987年から始めた生活保護世帯などの子どもたちを対象に開かれている「江戸川中3勉強会」が長い間学習支援を行っている。 埼玉県のように、教員OBなどがいる一般社団法人に高校進学支援を委託し、家庭訪問や学習支援会を開催するといった生活保護世帯への「学習会」支援も広がってきている。埼玉県では、平成21年度の県の保護世帯の進学率86.9%から平成24年度には97%に上昇している。このように学習会によって高校進学率を上昇させたが、県で生活保護費受給家庭の高校生の就学状況を調査したところ、中退率が全体の2倍以上になっていることが分かり、教室参加でも高校中退した人の22.2%が「学業不振」を理由に挙げている。県は進学後の支援も必要と判断し、2013年度から受給世帯の高校1年生を対象に無料の学習教室を開いている。これにより、2013年10月現在、高校を中退した生徒は一人もおらず、成果を上げている。なお、県の中退後の状況調査では、中退者の約6割は無職の状態にあり、県は高校に進学するだけではなく、きちんと卒業し、安定した仕事に就いてもらうことにより、貧困の連鎖を断ち切り、高校中退を防止することが現在の大きな課題としている。また、平成25年度より最終的にスムーズな就職につながるよう、中学生と高校生を対象に、特別養護老人ホームや農家などでの就労体験の実施も行うとしている。平成26年度には303人の中学3年生が学習教室に参加し、その結果、296人が高校に進学し、教室参加者の高校進学率は97.7%となった。事業開始前の平成21年度の生活保護受給世帯の高校進学率86.9%より約11ポイント高くなっている。高校中退防止支援では、新たに平成25年度から高校1年生を対象に学習教室を県内7か所に開設し、教員OB等が補習を行って高校中退防止に取り組み始め、この結果、262人の教室参加者中250人が進級し、中退率は4.6%となり、事業開始前の平成24年度の中退率8.1%から3.5ポイント改善されている。 東京都では、2011年現在、生活保護を受けている家庭に対して塾代の補助の制度があり、中学3年生では15万円、中学1年生、2年生では年間10万円の補助制度となっており、都が負担している。 生活保護受給の親自身も中卒・高校中退であることが多く、安定した就労のために親への学習支援も必要である。 「高校中退を食い止めることで、未成年者の望まない妊娠を阻止できることが期待できる。この事業(高校就学支援員派遣事業)を通じて支援員への信頼感が、結果として大人への信頼回復ひいては、児童自身の自尊心の回復につながり、将来的に虐待防止へとつながるのでは。」と大阪市の児童虐待対策専門部会で審議されている。 「若年の若年層の生活困窮者では、中高年と違って就労意欲が低い、発達障害や知的障害が疑われる人が多いといった声が(福祉)現場では聞かれる。」との指摘もあり、貧困状況の者の中には特性として学習が不得手な子どもも存在する。このような学習が苦手な子ども達も最終的に安定した就業へつなげていくためには、学習能力に重きを置く従来の教育ではなく、地域の産業と関連性の強い技能を重視した高校教育、職業教育を重視した教育(例:ドイツのマイスター教育)が望まれるとの指摘もある。
※この「生活保護の自立支援」の解説は、「貧困の悪循環」の解説の一部です。
「生活保護の自立支援」を含む「貧困の悪循環」の記事については、「貧困の悪循環」の概要を参照ください。
- 生活保護の自立支援のページへのリンク