日本腦炎とは? わかりやすく解説

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日本脳炎

主にコガタアカイエカによって媒介され日本脳炎ウイルスによっておこるウイルス感染症であり、ヒト重篤急性脳炎をおこす。日本脳炎ウイルスフラビウイルス科属すウイルスで、1935 年ヒト感染脳から初め分離された。

疫 学

日本脳炎

日本脳炎は極東から東南アジア・南アジアにかけて広く分布している(図1)。過去日本脳炎の報告がなかったパプアニューギニアにおいても、1997年患者報告なされた1995年オーストラリアトレス海峡Badu島、1998 年Badu 島・ヨーク岬半島にて日本脳炎患者発生報告されアジア以外地域への日本脳炎ウイルス広がり明らかになった。

1. 日本脳炎の発生地域

世界的に年間3~4万人の日本脳炎患者報告があるが、日本と韓国ワクチン定期接種によりすでに流行阻止されている。日本では1966 年の2,017人をピーク減少し1992年以降発生数毎年10人以下であり、そのほとんどが高齢者であった。しかし、1999年以後10歳代2例、30歳代・40歳代各1例と比較若年患者発生していることは注目される
厚生労働省では毎年夏に、ブタ日本脳炎ウイルス抗体獲得状況から、間接的に日本脳炎ウイルス蔓延状況調べている。それによると、毎夏日本脳炎ウイルス持った発生しており、国内でも感染機会なくなっていない。

病原体
日本脳炎は、フラビウイルス科属す日本脳炎ウイルス感染しておこる。このウイルスは、伝播様式からアルボウイルス節足動物媒介性ウイルス)とも分類される日本など温帯では水田発生するコガタアカイエカ媒介するが、熱帯ではその他数種類媒介することが知られている。ヒトからヒトへの感染はなく、増幅動物ブタ)の体内でいったん増えて血液中に出てきたウイルスを、吸血し、その上でヒト刺した時に感染するブタは、特にコガタアカイエカ好まれること、肥育期間が短いために毎年感受性のある個体多数供給されること、血液中のウイルス量が多いことなどから、最適増幅動物となっている。ヒト血中検出されるウイルス一過性であり、量的に極めて少なく自然界では終末宿主である。また、感染しても日本脳炎を発病するのは100~1,000人に1人程度であり、大多数無症状に終わる。
フラビウイルス属なかでも、特に日本脳炎ウイルス西ナイルウイルス1999 年より夏期ニューヨーク米国東海岸流行している)、セントルイス脳炎ウイルスマレー渓谷脳炎ウイルス相同性が非常に高く、これらは日本脳炎血清型群(Japanese encephalitis serocomplex )とよばれる

臨床症状
日本脳炎の潜伏期は6 ~16 日とされる。本症の定型的な病型髄膜脳炎型であるが、脊髄炎症状顕著な脊髄炎型の症例もある。典型的な症例では、数日間の高い発熱3840 あるいはそれ以上)、頭痛悪心、嘔吐眩暈などで発病する小児では腹痛下痢を伴うことも多い。これらに引き続き急激に項部硬直光線過敏種々の段階意識障害とともに神経系障害示唆する症状、すなわち筋強直脳神経症状不随意運動振戦麻痺病的反射などが現れる感覚障害は稀であり、麻痺上肢で起こることが多い。脊髄障害球麻痺症状報告されている。痙攣小児では多いが、成人では10%以下である。
検査所見では、末梢血白血球軽度の上昇がみられる急性期には尿路系症状がよくみられ、無菌膿尿顕微鏡的血尿蛋白尿などを伴うことがある髄液圧上昇し髄液細胞数初期には多優位その後リンパ球優位となり10500程度上昇することが多い。1,000以上になることは稀である。蛋白50~100mg/dl 程度軽度の上昇がみられる
死亡率2040%で、幼少児老人では死亡の危険大きい。精神神経学後遺症生存者4570%に残り小児では特に重度障害を残すことが多い。パーキンソン病症状痙攣麻痺精神発達遅滞精神障害などである。

病原診断
日本脳炎ワクチン接種者や不完全接種者で夏期発生した脳炎患者場合には、必ず日本脳炎を考慮する必要がある

日本脳炎が疑われ場合は、血清抗体価調べる。赤血球凝集抑制HI試験補体結合CF試験ELISA 法中和試験などがある。HICF抗体確定診断する場合単一血清ではそれぞれ1:640,1:32上の抗体価であることが必要である。急性期回復期ペア血清抗体価が4倍以上上昇していれば感染はほぼ確実となる。海外渡航歴がなく、IgM 捕捉ELISA特異的IgM 抗体陽性であれば、ほぼ確実といえるHI 試験CF 試験よりも感度は高いが、海外感染した可能性のある場合には、その地域流行している他のフラビウイルス例えデングウイルス交叉反応があるので注意が必要である。交叉反応低く特異性の高い方法として中和試験があるが、検査日数要する抗体上昇する前に死亡した症例では、臨床診断に頼らざるを得ない

剖検あるいは鼻腔からの脳底穿刺により脳材料得られ場合は、ウイルス分離ウイルス抗原検出、あるいはRT‐PCR 法によるウイルスRNA検出により、確実な診断となる。血液髄液からのウイルスの検出は非常に難しい。

治療・予防
特異的な治療法はなく、対症療法中心となる高熱痙攣管理が重要である。脳浮腫重要な因子であるが、大量ステロイド療法一時的に症状改善することはあっても、予後死亡率後遺症などを改善することはなと言われている。

日本脳炎は症状現れ時点ですでにウイルス脳内達し脳細胞破壊しているため、将来ウイルス効果的な薬剤開発されたとしても、一度破壊され脳細胞修復は困難であろう。日本脳炎の予後30 年前比較しても、死亡例減少した全治例は約3分の1とほとんど変化していないことから、治療の難しさが明らかである。したがって、日本脳炎は予防が最も大切な疾患である。

予防の中心対策予防接種である。日本脳炎の不活化ワクチン予防有効なことはすでに証明されている。実際近年の日本脳炎確定患者解析より、ほとんどの日本脳炎患者予防接種受けていなかったことが判明している。ワクチン第I 期として初年度に1~2週間間隔で2回、さらに1年後1回の計3回、各0.5mlの皮下注射を行うことによって基礎免疫終了する3歳未満は0.25ml)。第I 期通常3歳行われるが、その後第II 期として9~12歳に、第III 期として1415歳それぞれ1回追加接種を受けることとされている。

感染症法における取り扱い
日本脳炎は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。

診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの

病原体検出
例、血清髄液からの日本脳炎ウイルス分離など
病原体遺伝子検出
例、PCR 法など
病原体対す抗体検出
例、血清または髄液中の日本脳炎特異的IgM 抗体存在
 血清抗体価の上昇(IgG 抗体価がペア血清で4倍以上の上昇)など

国立感染症研究所ウイルス第一部 高崎智彦





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