日本における展望
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 05:59 UTC 版)
「年齢主義と課程主義」の記事における「日本における展望」の解説
日本の小中学校では戦後60年間にわたって年齢主義が続いてきたが、必ずしも問題点が指摘されなかったわけではなく、改良して行こうという動きも強い。しかし、情報不足欄に記したように、年齢主義以外の制度に対する免疫が存在しない状況では、混乱が生じる恐れもあるため、改悪になってしまわないか危惧する声もある。 官僚・識者の間にも、課程主義の導入を求める声はある。町村信孝文部科学大臣は、2001年の 中教審、講演会や『教育の論点』(文藝春秋刊)掲載の文章内で、10歳の大学生や20歳の中学生がいてもよいとの見解を示した。また河村建夫文部科学大臣は、2004年に朝日新聞のインタビューに答え、義務教育段階での原級留置は今までほとんど活用されなかったが、これからはこれについて研究しなければならないとの考えを示した(キャッシュ)。このように、大臣レベルでは年齢主義に反感がないわけではない。しかしながら、2005年現在はまだ現実に原級留置が増加したとの報道はない。 原級留置の適用拡大に当たっては、ちょうど少子化の時期であり、教員数、教室数は余裕があるため、明治初期のように破綻することはないといわれる。また、補習や習熟度別指導などの個別指導の技術についても、明治初期とは比較にならないほど情報が蓄積されており、当時のように破綻する可能性は低い。また前述したように、原級留置が増加しても税金負担は増えないので、導入による財政負担の増加はないと考えられる。ただし現状では、義務教育期間の終了基準は年齢主義になっているものの、無償の義務教育期間を過ぎた中学生に対しても、授業料を徴収していないという例も多いため、この取り扱いを継続するならば原級留置が増加すると財政面の負担が増えることになるが、過去の指導では「(学齢超過者は)学校の収容能力等の諸事情を考慮して(受け入れるべきである)」とされているため、学齢生徒と比較すると融通が利くので、一人当たりの税金負担は少ない。また、原級留置をせずに高等学校に進学した場合と比較しても、公立高校の授業料も低廉に抑えられているため、学齢超過の中学生から授業料を徴収しないことによる、高校生との税金負担の差はあまりない。 一方、浮きこぼれ問題もやはり存在するため、戦後約60年間にわたって禁止されていた中学校以下の学校での標準年齢者の飛び級に対しては、各界から導入の要請が強いが、上記の町村発言のようなダイナミックな飛び級はまだ不可能である。また飛び入学が可能な大学数は1998年当初は千葉大学1校だったが、2005年には5校に増加しており、徐々に広まってきてはいるが、「特に優れた資質」に限定し、例外的措置とされている。また現在の教育環境では、中学校以下の学校での飛び級のような早期教育に対してはアレルギーが強く、安易に飛び級を認めると過当競争が生まれる恐れも強く、ますます受験戦争(飛び級競争)を低年齢化させるという懸念も強い。 原級留置や就学猶予、学齢超過者の就学については、法律を改正しなくても現場の対応の変更によって対応可能である。一方、標準年齢者の飛び級や早期就学については、学校教育法などの大々的な改正が必要であるため、原級留置などと比較すると即座の導入は困難である。 このように、2005年現在ではまだ固定的な年齢主義は打破されておらず、新制学校以来長年にわたって続いている慣習はなかなか打破できていない。それは学校社会に限らず企業社会においても、従業員の新卒一括採用制度が根強く残っている一因もそこにある。しかし、一部の学校では色々な先駆的な試みを始めていることもあり、新しいアプローチがなされることも期待できる。ただ、日本政府は票田にならない部分の変革が鈍いため、少数派の声のみが採り上げられても大きな動きは望めず、国民全体に影響する問題が生じるか、熱意のある政治家が改革の音頭をとる必要があるが、現段階ではそこまでに至っていない。 学校教育法一条校ではなくインターナショナル・スクールだが、東京都豊島区の ニューインターナショナルスクール(日本語・英語) というプレスクールから9年生まで(幼稚園から中学3年に相当)の学校では、「マルチエイジ教育」という名称で各クラスに2、3歳年齢が異なる生徒が在籍している。 2006年8月に、日本弁護士連合会は 学齢期に修学することのできなかった人々の教育を受ける権利の保障に関する意見書(PDFファイルに全文がある)を発表した。この文書では、15歳以上18歳未満の新渡日外国人(いわゆるニュー・カマー)については、既存の昼間の小中学校への編入学も許可されるべきであると提言している。 2006年の教育基本法改正では、義務教育年限が9年とされていた規定が削除された。これは学校教育法などの下位の法律で年限を個別に決定しやすくするためのものであるが、現時点では義務教育年限の変更の気配はない。ただし、これによって義務教育年限の終期が延長され、高等学校が義務教育諸学校の一角を形成するようになると、公立高校の年齢制限が厳しくなる可能性もある。 2008年5月には、文部科学省初等中等教育局メールマガジンに、前川喜平大臣官房審議官による、年齢主義偏重に対する疑問を提示したコラムが掲載された。このコラムでは、学齢超過者の入学に対する教育委員会の方針の違いの問題にも触れつつ、外国から来日した子どもが年齢によって学年が決められたために苦労した話を挙げ、不登校だった子どもの場合なども含め、機械的な年齢主義は不適切であると批判している。また読売新聞の記事(現時点でネット上にはない模様)の中でこれらの問題を「学校教育法の年齢主義が原因」と断じていることに対し、学校教育法はこの意味では年齢主義ではなく、現場の実態が年齢主義であることが問題であるにすぎないと反論している。町村・河村両大臣に続いて今回のように官僚からも年齢主義に対する疑問の声が上がっており、議論の雰囲気ができつつある。 2010年に中川正春文部科学副大臣は記者会見で、「初等中等の教育システムの中に、いわゆる外国人の子どもたちに対する、(中略)、公立学校に入りやすい環境の整備、これは年齢制限が基本的にはあったということですが、弾力的に運用していって、必要な子どもたちについての受入れの幅を広げていくということ。(中略)、そういうことを進めていこうということです」と述べ、外国籍の場合については年齢主義を緩和する方針を示した。 2010年現在では、小学校・中学校・中等教育学校のうち、年齢主義の打破を謳っている学校はまだ存在しないものと見られる。私立中学校などでは、出願資格に年齢上限がない学校も複数あるが、それらの学校でも積極的に年齢多様性を謳っているわけではない。また逆に、年齢主義の堅持を謳っている学校も稀である。あえて主張する必要がないほど、同じ年齢主義の学校が多く、横並びの状態といえる。
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