優先使用権
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神宮球場が他の球場と決定的に違うのは、学生野球(東京六大学と東都)に優先使用権が認められていることである。これは神宮球場の建設と拡張に東京六大学連盟の尽力や資金提供があったという事実からである。また、所有者の明治神宮がアマチュア野球を優先してきたという歴史的な経緯もある。しばしば他の一般的なプロ野球の本拠地球場になっている球場と同じように「神宮球場はスワローズの本拠地で大学野球は間借りしている」と誤解されることがあるが、スワローズ側が間借りしているのが正しい(ただし他の球団の本拠地球場も球団所有ではなく間借りであるものが少なくない)。 収益力の高いプロの日程を最優先させるべきだとの意見は以前から一部にはあり、時代の経過とともに大学野球全体の人気の低下がその声を後押しする傾向が強まり、近年は興行収入の問題から大学連盟側がヤクルト球団側に譲歩するようになってきている面もある。ただし、神宮球場側の基本的な認識は、前述の歴史的な経緯から、現在でも球場使用の割り当ての最優先権を東京六大学野球連盟に与えている。 明治神宮とヤクルト球団は、神宮球場の使用契約を1年ごとに更新している。このことが、度々取り沙汰されるヤクルトの他地域への移転の根拠として挙げられている。 学生野球の使用割り当てを優先的にするのは、あくまで基本的には春先に行われるその年度の球場使用割り当てを決定する場合においてである。一年を通して、春先に決定した内容が年間を通して遵守される。後日に順延等の都合で調整が必要な場合は、基本的に未使用で空いている日時をやりくりして調整を行うことになる。 この手の誤解を招く元になっている代表例として、東京六大学(以下、六大学)と東都の関係を紹介する。 大学野球のリーグ戦期間中は、基本的に六大学が土曜日 - 水曜日、東都が木曜日・金曜日の割り当てとなっている。実際には東都が火・水の日程で組まれているが、これは「六大学のリーグ戦期間中で六大学が使わない日は東都側が使用しても構わない」という六大学と東都間の従来からの協定に従ってのものである。そのため六大学が順延などで月曜までにその週の対戦(前週の未消化試合がある場合はそれも含む)が決着しない場合は、翌日以降も六大学の開催日に変更される。東都の開催日はそれに従い順延され、最悪木・金のみに変更されることもある。この順延の制度のためいつでも六大学が自由に使えるという誤解が一部に生じている。事前の球場使用割り当て時では六大学のリーグ戦の日程および六大学連盟からのその他の使用申し出に従った割り当てを優先的に行う(従来から行われている使用申請がほぼ認められる)が、リーグ戦期間外では優先権はない。そのためリーグ戦後に行う新人戦と、リーグ戦が消化しきれなかった場合では六大学が優先的に割り込めるわけではない。東都側についても同様で、リーグ戦期間外でも東都が木・金曜日を自由に使えるわけではない。シーズン固有の事情などにより事前に何らかの使用権が成立している場合は例外となる。球場の年間使用スケジュールの概況は各年の「神宮球場ガイドブック」春季号に掲載されていた(廃刊)。 プロ野球(ナイター開催)と大学野球(日中開催)の併用日には、大学野球の試合開始時間を通常より30分ないし1時間早めたり(東京六大学と東都では別の処置となる)、延長なしの9回打ち切りとなる。2009年(平成21年)からは併用日でもプロ野球の試合開始時間が18時となっているが、それまでは遅らせて試合を開催していた。1989年(平成元年)までは一律18時30分、延長戦が15回までに変更されたことをきっかけに1990年(平成2年)から2008年(平成20年)まで18時20分開始となっていた(併用日以外は一部年度を除いて18時)。大学野球が長引いた場合は試合開始時間を遅らせる処置が取られている。このように学生野球のスケジュールが優先されてきたが、1985年(昭和60年)10月16日に阪神タイガースが21年ぶりのリーグ優勝を決めたヤクルト対阪神戦の試合当日は、日中に予定されていた東都大学リーグの試合が延期される事態となった。これは前日から阪神ファンが球場前に多数詰め掛けたため、学生野球の試合を開催した場合の混乱を避けるべくなされた措置で、当球場始まって以来の異例のものであった。 ヤクルトではオープン戦期間中と、公式戦でも主として学生野球の試合が組まれない4月初旬、ないしは9月初旬にデーゲームを組むことがある。1990年以降、神宮でのデーゲームは1991年(平成3年)と2001年(平成13年)の4月に各2試合開催したのみだったが、近年は大学野球側との折衝交渉を積極的に行うようになり開催数が若干増加している。2005年(平成17年)は6月4日、5日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦、6月18日の西武ライオンズ戦(交流戦予備日)と7月2日、3日の中日ドラゴンズ戦をデーゲームで開催した。更に2006年(平成18年)、「F-PROJECT」の一環としてデーゲーム開催数の増加について大学野球側と折衝を行った結果、前年に引き続き6月3日、4日に加えて、従来の東都大学野球連盟のリーグ戦使用分であった5月3日、4日もデーゲーム開催(東都大学リーグ戦はナイター開催)に変更した。 2011年(平成23年)も東日本大震災による省エネ・節電の対策により4月の公式戦・ヤクルト主催試合の一部をデーゲームで行うことになり、東京六大学・東都大学両野球連盟の協力を得て、プロと同日開催である場合、学生野球の試合は1試合に減らし(それも午前9時開始)、プロ野球の試合を午後から開催できるようにした。 2017年(平成29年)は5月3日・5月4日の阪神タイガース戦をデーゲームで開催することにし、これに伴い、本来であれば上記の木・金曜日(および東京六大学連盟が使用しない火・水曜日)のデーゲームを基本使用日としている東都大学野球連盟のリーグ戦は、5月1日・5月2日(3回戦にもつれたり、雨天延期が生じた場合は5月5日に予備日を設定する)の月・火曜日に前倒して開催を行った。 アマチュア野球とプロ野球が同日に開催される場合、観客は通常入れ替え制とするのが原則である(アマチュア野球の観客がすべて出場してから、プロ野球の観客を入場させる)。ただし、曜日・注目カード・優勝決定等の理由で入場待ち列が長くなり、神宮外苑内に並ばせる余地がない場合は試合中に主に外野席から優先してプロ野球の観客を入場させることがある。アマチュア野球で外野席を開放するのは原則として、東京六大学リーグ戦のみである。 下記はその一例(六大学野球・東都大学野球の双方で例外入場歴あり)である。 1997年(平成9年)9月28日 - ヤクルトの優勝がかかった試合・日曜日などの条件が重なり、さらには隣接する国立競技場でサッカーフランスワールドカップ予選の日韓戦が行われており、神宮周辺は史上最高の人出と言われるほどにまでなったため、外野自由席の客を東京六大学の試合中に入場させた。六大学野球でも高橋由伸(当時慶大4年)が1968年(昭和43年)田淵幸一(当時法大4年)の持つリーグ戦通算本塁打記録を更新する可能性があり、こちらも多くの集客があった。高橋はヤクルトファンで埋まったライトスタンドにホームランを打って記録を更新している。 2007年(平成19年)10月7日 - ヤクルトの大功労者である古田敦也の引退記念試合であり、日曜日ということもあって早朝から多数の観客が詰めかけたため、東京六大学の試合中に入場させた。 上記のようにファンサービスの観点で、学生野球が組まれていない時期にもデーゲームが行われることがあるが、これまで8月の開催については暑さ対策のためデーゲームとはしなかった。2013年以後は、8月にも17時開始の薄暮開催の形でデーゲームをする試合が増えている。なお2018年は4月から6月に昼間開催を行ったほか、6月30日と7月1日には17時からの薄暮デーゲームを実施した。それ以後はすべて18時以後のナイターとなり、夏季薄暮を含めたデーゲームは行われない。
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