二本の木の時代及び第一紀
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 14:22 UTC 版)
「モルゴス」の記事における「二本の木の時代及び第一紀」の解説
ヴァラールが新たにアマンに築いた国ヴァリノールには彼らの都ヴァルマールが築かれた。そしてこの都の正門の前に緑の築山があり、ヤヴァンナはこれを清めるとその地で力の歌を歌った。この歌により生まれいでたのが世に名高い二つの木である。至福の地アマンはこの木によって美しく照らされたが、その光は中つ国にまでは届かなかった。未だ中つ国はウトゥムノにいるメルコールの暗闇の下にあった。そこでヴァラールは会議を行い、やがて目覚めるであろうイルーヴァタールの子らのために、中つ国をこのままにしておいてよいものか、と意見を出し合った。しかしマンドスの「最初に生まれる者達は暗闇の中に目覚め、まず星々を仰ぎ見るという宿命があり、さらに大いなる光(太陽のこと)が現れる時彼らは衰微するのだ」という発言から、ヴァルダはアルダに降りきたってから今までになかった大事業に取り掛かった。二つの木から零れ落ちる露を受け溜める、ヴァルダの泉からテルペリオンの銀の雫を掬い取り、それを元に幾つもの新しい星々を天に輝かせ、そしてメルコールへの挑戦として滅びの印である<ヴァラールの鎌>すなわちヴァラキアカと呼ばれる7つの強力な星々(要は北斗七星のこと)を天に嵌め込んだ。この難事業を長いことかけてヴァルダがやり遂げた時、エルフはついにクイヴィエーネンの湖の畔にて目覚め、第一紀が始まったと言われる。警戒に抜かりのないメルコールは早速彼らに気づき、エルフを惑わそうとし、黒い狩人の姿をした召使たちを送り込み、これらはエルフを捕らえては貪り食った。このため、狩りに出かけたオロメは偶然彼らと邂逅し彼らをエルダール(星の民)と名付けて、親愛の情から近づいたのだがエルフたちの多くは彼を恐れて逃げ出すか、隠れるかして行方知れずとなった。しかし勇気あるエルフは踏み止まりオロメが暗黒の下僕などではないことを見て取った。そしてエルフたちはみな彼の方に引き寄せられていったのである。しかしメルコールの罠に落ち込んだ不運な者達は、確かなことは殆ど知られていないものの、ウトゥムノの地下深くに囚われて、彼の魔力で捻じ曲げられオークと化したのだと、後の賢者たちの間では信じられている。オロメからこのエルフの目覚めはヴァリノールにも伝えられ、ヴァラールは大いに喜んだ。しかし喜びの中にも惑いの気持ちもあった。そこで彼らはメルコールからエルフ達を守るためにはどうすればいいのか、長い時間をかけて話し合った。そしてマンウェはイルーヴァタールの助言を仰ぐと、ヴァラールを召集し、如何なる犠牲を払おうともメルコールに対して戦を仕掛け、エルフたちをかの影から救い出すべきだと宣言した。これを聞きトゥルカスは喜んだが、アウレはその戦いで被る世界の傷を思って心を傷めた。そしてヴァラールは軍備を整え軍勢を率いてアマンから出撃した。メルコールはアングバンドでまずヴァラールの攻撃を迎えたが、これに抗し得ず陥落し、このため中つ国北西部は甚だしく破壊された。メルコールの召使いたちはヴァラール軍に追われてウトゥムノに遁走した。次いでウトゥムノの攻城戦にかかったがこれは長く苦しいものであった。ウトゥムノは地の底深く掘られ、穴という穴はメルコールの火と夥しい召使いたちで満たされていたからである。しかし遂にウトゥムノは破られ、要塞の屋根は引き剥がされ、地下坑は皆むき出しとなり、要塞最深部での激しい戦いの末、メルコールはトゥルカスに組み伏せられ、アウレの造ったアンガイノールの鎖によって縛り上げられた。こうして世界はしばしの間、平和を得ることになる。しかし、ウトゥムノ以北は徹底的に破壊されたものの、ヴァラールがウトゥムノ攻めを急いだあまり、アングバンドは完全な破壊は免れた。このためメルコールの下僕たちの中にはヴァラールの追求を遁れた者も大勢居た。メルコールの副官サウロンは遂に見つからなかった。またこの戦いの余波で中つ国北西部の地形は激変し、海岸線はあらかた破壊され、広大な高地が隆起したり、大海が広く深くなるなど中つ国が被った被害は甚大なものであった。 ヴァリノールに連行されたメルコールはマンウェの足許に平伏して許しを請うたが、却下されマンドスの砦に投獄された。彼は三期の間ここに幽閉された。その後再びヴァラールの玉座の前に引き出された彼は、ヴァラールの栄光をその目にして嫉妬の念を懐き、諸神の足許に侍っているエルフたちを見て憎悪でその心中は膨らんでいった。しかし彼はマンウェの足許にへりくだって許しを請い、改心したふりをして見せた。そこでマンウェは彼を赦したものの、ヴァラールはすぐには警戒は解かなかったため、メルコールは已むを得ず、他のヴァラやエルダールを助けたり助言を与えたりして、少しずつ周囲の警戒を解していった。そしてしばらくの後、メルコールは自由にアマンを動きまわっても良いという許可が与えられた。マンウェにはメルコールの悪が矯正されたように思われたからである。しかしウルモとトゥルカスは彼の改心を信用しなかった。 メルコールはエルダールが自身の没落の原因となった事を決して忘れては居なかった。それ故彼らとヴァラールを離間させようと考えるようになる。彼は心中に憎悪の念を抱きつつ、それとは裏腹に親愛の情を装ってエルダールに近づき、彼らのために惜しみなく知識や力を提供した。しかしマンウェとヴァルダに最も愛されているヴァンヤール・エルフは彼を怪しむことをやめなかったため、彼らを堕落させることは難しかった。またファルマリの方は逆にメルコールの方が全く気にもかけなかった。彼にとっては役に立ちそうもないと見たからである。しかしノルドール・エルフは彼のもたらす知識を大いに尊び耳を傾けた。この事からメルコールはノルドール族に目を付けた。そんな時フェアノールが最も世に知られるエルフの作品、大宝玉シルマリルを完成させる。その輝きを目にしたメルコールは世の何よりもシルマリルを渇望した。そして身を焦がすようなその欲望に駆られた彼は、何としてもフェアノールを滅ぼし、ヴァラールとエルフを離間させようと工作に精を出すようになる。彼は時間をかけて虚言の種を蒔いていった。ヴァラールは嫉妬心からエルダールを中つ国から引き離したのだ、これから現れる人間たちに広大な中つ国を任せ、エルフ達は自分達の監視下に置いておくのだ、弱い人間ならば後々支配するのは容易いことだからだ、と。無論これは全く根拠の無いことだったのだが、ノルドール族の中には完全に信じる者、あるいは半信半疑な者が大勢続出するようになった。こうしてメルコールの工作は実りつつあった。フェアノールの心中には新天地を望む気持ちが炎のように燃え盛ったからである。さらにメルコールはフェアノールに異母弟のフィンゴルフィンとその息子達が、ノルドールの上級王フィンウェとその長子フェアノールに取って代わろうとしていると吹き込んだ。その一方で、フィンゴルフィンとその弟フィナルフィンには、フェアノールが父親の愛情を独占し、二人を追放しようと画策していると吹き込んだ。そしてメルコールは武器の造り方をノルドールに語った。彼らが刀剣や槍、斧といったものを造り始めたのはこの頃だと言われている。こうしてノルドールの叛意を焚きつけ、一族の不和を煽り相争わせるまではかれの目論見どおりになったが、フェアノールが刀を抜いてフィンゴルフィンを恫喝したことで、ヴァラールが介入することとなり、この際の審判で事の真相が明らかとなり、メルコールの悪意が明らかとなった。しかしフェアノールは抜刀した罪で12年の間フォルメノスに追放されることとなった。メルコールはその悪意が顕になったことを悟ると身を晦まし、トゥルカスの追手から逃れると密かにフェアノールの許へ訪れた。そして偽りの友情を装って、フェアノールをこの境遇から救い出そうと、彼に逃亡を勧めたがその際の発言でシルマリルへの欲望を見抜かれたメルコールは、フェアノールに面罵された上に立ち去るよう命じられ門扉を眼前で閉じられた。こうして恥をかかされたメルコールの心はドス黒い怒りに塗り潰されたが、ヴァラールの追跡を案じてその場を去った。フィンウェは急使をヴァラールの許に送り、オロメとトゥルカスが追跡に飛び出たが、メルコールは北方へ逃走したという情報がもたらされ、二人は全速力で北に向かったが、彼の消息を見出すことは出来なかった。 メルコールは首尾よく追っ手を撒いた。北方に向かうと見せかけ、実は引き返して遥か南に去っていたからである。この頃の彼はまだアイヌアなら誰でもできる、姿を変えることも、肉体を棄てて不可視の姿に戻ることも可能だったからである。最もこの能力はそのうちに永遠に失われることになるが。そしてペローリ山脈の東の山麓の裾野にあるアヴァサールを訪れた。そこには闇の大蜘蛛ウンゴリアントが棲息していたからである。かの雌蜘蛛は光を吸い上げ闇の糸を紡ぐ事が出来た。そしてその紡がれた暗黒の蜘蛛の巣には最早如何なる光も届かなくなっていたため、彼女は飢餓に瀕していた。メルコールはここで彼女を探しだすと暗黒の王の姿をとった。そして二人はアマンを襲う計画を練った。ウンゴリアントは本心を言うと諸神に挑むのは大変な危険を伴うため、恐怖から些か気が進まなかったのだが、メルコールが示した報酬に釣られて力を貸すことを承諾した。そしてメルコールとウンゴリアントはアマンを急襲した。丁度その時ヴァリノールは祝祭の季節であったため、ほぼ全住民はマンウェの御許であるタニクウェティル山頂の宮居に赴いており、都は無人であった。メルコールとウンゴリアントは二つの木の前に来ると、メルコールが黒い槍で二つの木を髄まで刺し貫いた。木は深傷を負って樹液が血のように流れ出た。ウンゴリアントはそれを吸い上げたうえ、二つの木の傷口に口を当て樹液を一滴残らず飲み干した。そしてウンゴリアントの体内にある致死の猛毒が木に入って二つの木は枯死した。それでもまだ足らず彼女はヴァルダの泉をも飲み干した。そして見るもおぞましい巨大な姿に膨れ上がり、黒い煙霧を吹き出した。その姿はメルコールさえ恐れをなすほどであった。 こうしてウンゴリアントの放つ闇でヴァリノールの国は大混乱に陥った。その隙にメルコールはフォルメノスを訪れ、祝祭に参加していなかったフェアノールの父フィンウェを殺害して、シルマリルとその他のエルフの宝石の全てを奪い、北方へと逃走した。この報せを聞いたフェアノールはメルコールをモルゴスと呼んで呪った。そして彼は闇の中へと走り去っていった。これより後メルコールはその名で呼ばれることはなく、モルゴス、黒き敵などと呼ばれるようになる。オロメの軍勢とトゥルカスがモルゴスを追跡するため直ちに出撃したが、ウンゴリアントの黒雲と闇の中では何も見えず、結果的に彼らの追跡は空しく終わった。モルゴスとウンゴリアントは、軋み合う氷の海峡ヘルカラクセを渡って中つ国へ逃亡した。モルゴスは彼女を撒いてアングバンドに逃げ帰るつもりだったのだが、ウンゴリアントはそれを許さなかった。報酬を要求する彼女に、モルゴスは渋々エルフの宝石をくれてやると、彼女は次々とそれを貪り食った。ウンゴリアントはさらに大きさを増し闇を吹き出したが、彼女はまだ満足しなかった。そして遂にシルマリルを要求したのである。モルゴスは激高し、自分が力を与えてやったからこそ、今回のことは上手くいったのだからシルマリルは決して渡さないと拒絶した。しかしモルゴスから出て行った力の分だけ、ウンゴリアントは大きくなり、モルゴスは小さくなっていた。その為ウンゴリアントを制御できず、彼女の紡いだ暗黒の蜘蛛の巣に囚われ、宝玉はおろか自分自身の息の根を止められそうになった。その時モルゴスは山々をも揺るがすほどの恐ろしい絶叫を上げた。その叫びをアングバンドの地下深くで主の帰還を待っていたバルログ達が聞きつけ、彼らは火を吐く嵐のごとくやって来て、その炎の鞭でウンゴリアントの蜘蛛の巣をズタズタに切り裂くと、ウンゴリアントを追い払った。一命を取り留めたモルゴスはアングバンドに新たに地下要塞を築き、城門の上にサンゴロドリムの塔を打ち建てた。そしてシルマリルを巨大な鉄の王冠にはめ込むと、世界の王を称して中つ国に君臨した。 モルゴスはアングバンドに帰還すると直ぐ様戦支度を始めた。彼の不在の間、副官サウロンが闇の中で十分な数のオークを繁殖させていたからである。そこでモルゴスはオークの力と残忍さに加えて破滅と死を渇望する心を植え付けて、彼らを中つ国北西部即ちベレリアンドへと送り出した。そして彼らは大挙してシンゴル王の領地を襲った。これがモルゴスとエルフの間で初めて行われた戦であった。モルゴスとエルフの大きな戦いはこれを皮切りに全部で五度行われることとなる。
※この「二本の木の時代及び第一紀」の解説は、「モルゴス」の解説の一部です。
「二本の木の時代及び第一紀」を含む「モルゴス」の記事については、「モルゴス」の概要を参照ください。
- 二本の木の時代及び第一紀のページへのリンク