世相の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 09:40 UTC 版)
しばし、本ジャンルは欲望や願望を満たすためにあると言及される。日刊工業新聞は社説で「“なろう系”とされる作品の傾向は、満たされない欲求を補うことだ。(中略)現代の若者の潜在的な不満を見いだすことができるかもしれない」としている。ニコニコニュースORIGINALでは「叶わないはずの夢が異世界で叶う」という魅力が影響して、無意識になろう系異世界転移作品を求めている可能性や、共通するお約束があるからこそ毛色が違っても深く考えず楽しめ、そこにわくわく感や非現実感も合わさって惹きつけられると考えている。ヒーロー文庫編集者の高原秀樹も現実ではうまくいかない悩みは誰でもあるとみられ、異世界なら活躍できるかもしれないと思ったことも多いはずでそれを叶えてくれることに共感したり、チート展開が人気なのも無双したい願望の人が多く、中途半端ではなくチートの方が爽快感があり、爽快感が重要なのはどのエンターテインメントでも共通なのかもしれないとみている。渡邉大輔は努力することなく最初から最強な主人公は2000年代以降の自己責任、能力主義が過剰に求められる世間のプレッシャーからとにかく離れたい若者の欲望が凄く反映されていると感じている。異世界に行った後、元の世界戻りたがったりその方法があることは少なめで、女性向け作品ではわりとあるが男性向けでは少なく、飯田一史はやり直し願望の発露だと指摘した。元より特定の層に向けたジャンルであり、ウェブサイト「ライトノベル作法研究所」(以下「ラ研」)は主人公=読者であるため主人公を賞賛することで読者は心地よくなり、承認欲求こそが現代で誰もが一番求めることで、『転生したらスライムだった件』を例にリーダーとしての苦悩が描かれないのは、尊敬される快感を壊しかねない真逆のことだからとしている。また、本ジャンルは男性版シンデレラ・ストーリーで、中にはラノベ恋愛不要論、ヒロイン不要論もあり、読者が自己投影するのは主人公のみでヒロインは脇役に過ぎず、それが出番を食うと面白くなくなるとも考えられている。そして、読者は主人公以外に興味がないとも言い切り、それを中心に活躍する徹底が重要であるという。萩原魚雷はチート願望は親ガチャの言葉が広まったように生まれや育ちに格差を感じる火が多いことからきているとしている。 川上量生はなろう系を「欲望充足型コンテンツ」と表現して「努力すると感情移入ができない」とする傾向に言及、また川上は「むしろ、努力したら(必ず)成功するっていう方がファンタジー」ともした。中西新太郎はSNSの普及で人間関係がずっとある窮屈さを感じて若者は大人以上に疲れ、なろう系の人気が出る前は日常系が人気だったことに触れ「ほのぼのした日常が憧れだったが、現実の日常は窮屈になりすぎてもはやリアリティーがなくなった。異世界で冒険ではなくスローライフを送る作品が多く、ほのぼの日常を現実ではなく異世界に求めている」と言い、津田彷徨は「どの作品もまるで金太郎飴のように、“平凡”な主人公が“異世界転生”をして文明度の劣る世界で“現代知識”をひけらかし“ハーレムを築く”という、非常に明確な『願望充足型』作品の一ジャンル」とされることが多く、「小説家になろう」で主人公に不幸が訪れる展開になるとアクセス解析で明確に読者離れがわかり、それゆえにストレスがかかる展開が排除、「異世界日記」とも呼ばれるこのジャンルは言い得て妙なるもので現実味を感じる程度の過剰すぎないギリギリの幸福が続き、ストーリーが緩やかに上昇していくことが読者を満足させる最適解の1つで、なろう系が日常系の延長線上にもあるとしている。ラ研はなろう系が冒険小説の皮をかぶった日常系であり、主人公が負けない安心感が重要だとしている。 ライトノベルは従来より価格、刊行ペース、文章構成やイラストレーター選びまで平均的な読者の欲望に忠実で効率的に作られているとする見方もある。飯田一史はエンターテインメントは願望充足的な要素が少なからずあるもので、現実とは違うからこそ求められているが、一部のなろう系作品は簡単に欲望を満たしてくれることに価値があるのは疑いえないとしている。大橋崇行は社会反映論を思い起こさせやすいが、異世界での仕事が題材になるのは現代の若者の労働環境と簡単に関連付けられるものではなく『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』以降のRPGにある職業がゲーム的世界をベースとした小説に持ち込まれているとする方が正しいのではないかと考えている。異世界に行った主人公が順調に物事が進んでいくわけではない作品『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』のように苦労することになる物語も共感を呼んでおり、なろう系作品を出版しているある社の編集者は転生しても厳しい現実が待っているのがこれほど受け入れられていることに日本社会の空気を感じ、それまでの作品は少年少女の大冒険のように夢が必要だったが商業活動していない筆者の人生を反映、フィクションでもあっても自らは5、10年後も変わらず凄いことなんて起きない諦めが色濃く出ているという。2021年に老川菜綾は人と接触することを控え、リアルな人間関係を結びにくい時代だからこそ現代では孤独な主人公が異世界で仲間との絆に魅力を感じるのも世相が影響しているかもしれないとしている。 青柳美帆子は悪役令嬢ものに角川ビーンズ文庫、ビーズログ文庫(いずれもKADOKAWA)によるファンタジーとラブコメディの合体、2000年代後半のコバルト文庫(集英社)であった一人のヒーローに愛される姫嫁や溺愛のように少女小説の系譜を感じ、その読者の欲望が悪役令嬢ものの中に息づき、継承されているとしている。ただ「小説家になろう」発作品を少女小説として捉えると作品の受け入れの幅が狭まるのではないかとの批判も考えられ、BookLiveの男性向けライトノベルランキングでは主人公が少女で女性読者も多く、以前なら少女小説レーベルで出版されていたかもしれない『本好きの下剋上』『薬屋のひとりごと』がトップ10入り、書籍市場の縮小で対象者が広くなって性別による区別が実質を伴わなくなっているが、それでも少女たちの欲望に全力で応えるエンターテインメントとして少女小説らしさを感じるとする。 追放もの人気の理由としてはブラック企業のような現実問題が反映されたことで追放する冒険者パーティなどをそれに見立て、そこから脱出して成功、ブラック企業のような存在は消えて欲しいという願望が挙げられている。
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