原水爆
『現代民話考』(松谷みよ子)6「銃後ほか」第6章の3 広島に原爆が落ち、皆が避難する中、モンペ姿の老婆が、赤い帯のような物をしきりに懐におさめていた。それを見た人が「お婆さん、帯など捨てて早く逃げなさい」と声をかけると、老婆は「これは、わしのはらわたでがんす」と言った。老婆の腹は裂けて、腸が外へ出ていた(広島県)〔*昔の物語であれば、→〔見間違い〕1の『福富草子』(御伽草子)の、「赤い小袖」だと思ったら「血」だった、という程度で、それほど悲惨な話にはならない〕。
『夏の花』(原民喜) 昭和20年(1945)8月の広島。妻の初盆(にいぼん)が近づいたので(*→〔星〕6aの『苦しく美しき夏』)、「私」は墓参りに出かけ、花を供えた。その翌々日、原爆が落ちた。「私」は厠にいたため命拾いした。見渡すと、一面に崩壊した家屋があったが、爆弾らしい穴があいていないのは不思議だった。大勢の人が黒焦げになり、身体が腫れ上がり、うめき苦しんで倒れていた。甥の死体があった。家の女中は腕の火傷が化膿し、蛆がわいて、1ヵ月余りの後に死んだ。
『はだしのゲン』(中沢啓治) 広島に原爆が投下された時、中岡元(ゲン)は国民学校の2年生だった。父と姉と弟は家の下敷きになり、火に焼かれて死んだ。母はその時は助かったが、4年後に死んだ(*→〔骨〕6a)。ゲンは被爆後数日して頭髪が抜け、2年間ハゲ頭だった。さいわいゲンは病気にもならず、中学校へ進学する。光子という恋人ができるが、彼女も被爆者で、白血病で急死する。ゲンは悲しみを乗り越え、絵の勉強をするために東京へ旅立つ〔*「元」は原爆の「ゲン」、光子の「光」は「ピカ」を意味するのであろう〕。
*原子雲→〔雲〕9bの『安芸のやぐも唄』(深沢七郎『庶民烈伝』)。
*原爆投下後に降った黒い雨→〔結婚の障害〕4の『黒い雨』(井伏鱒二)。
『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(黒澤明) 戦後40数年たったある年の夏休み。長崎県の山村に住む老女・鉦(かね)の家を、4人の孫たちが訪れていた。鉦は孫たちに原爆の話をする。鉦の夫は原爆で死んだ。鉦は、今ではもうアメリカを恨んではいないが、原爆の恐ろしさは忘れられない。夜、雷雨があり、鉦は「ピカじゃ!」と叫ぶ。翌日、空に黒雲が湧き起こるのを見た鉦は、キノコ雲を思い出し、豪雨の中、傘をさして走り出す。孫たちが泣きながら追いかける。
『神と野獣の日』(松本清張) 「Z国から5発の水爆ミサイルが誤って発射され、東京方面へ向かっている」との臨時ニュースが、日本中を震撼させた。5発のうち3発は途中で迎撃できるが、残る2発は数十分後に東京に落下し爆発するのだ。総理大臣と閣僚たちはヘリコプターで東京を脱出し、大阪に新しい政府を作る。取り残された都民たちは、混乱と絶望のうちに死の瞬間を待つ。ところが、落下したミサイルは不発だった。都民は歓喜の声をあげ、「万歳」を叫ぶ。その時、空の一角に、2発目のミサイルが現れた。
*→〔水没〕2bの『日本沈没』(小松左京)では、「皇室はスイスへ移すこととなった」と記されるが、『神と野獣の日』では、皇室に関する記述は一切ない。
『ゴジラ』(香山滋) 海棲爬虫類から陸上獣類に進化する途上の古代生物であるゴジラたちが、20世紀になっても、北太平洋の海底洞窟に生息していた。昭和20年代、水爆実験によって彼らは安住の地を追い出され、1頭が東京方面へ向かう。国会議員は「ゴジラ出現の理由を『水爆実験のため』と発表すれば、国際問題になる」と心配する。都民は「また疎開か。嫌な時代になった」とため息をつく。
『空の大怪獣ラドン』(本多猪四郎) 原水爆実験は、空気や海水を汚染するばかりでなく、大地にも影響を与えた。阿蘇山中で2億年眠り続けた翼龍ラドンが、地殻変動によって卵から孵り、巨大な姿を現す。ラドンは超音速で飛び、その衝撃波が、九州・沖縄・フィリピン・中国などに大きな被害を与えた〔*ラドンは最初は1頭で、自衛隊の攻撃を受けて負傷する。負傷したラドンを助けるかのように、途中からもう1頭が現れる。2頭のラドンは雌雄と見なされている〕。
*アンギラスも、水爆実験によって長い眠りから目覚めた→〔怪物退治〕6の『ゴジラの逆襲』(小田基義)。
*水爆実験の放射能によって、液体人間が出現する→〔水〕5cの『美女と液体人間』(本多猪四郎)。
*水爆実験の放射能によって、動物や人間の性転換が起こる→〔性転換〕7の『大変だァ』(遠藤周作)。
『大怪獣ガメラ』(湯浅憲明) 北極圏を飛ぶ国籍不明機が、米軍によって撃墜された。不明機は原爆を搭載しており、キノコ雲が立ち昇る。そのあたりには、かつてアトランティス大陸があり、体長60メートルの巨大な亀ガメラが生息していた。ガメラは数千年の間、氷山の中で冬眠していたが、原爆の衝撃で目覚めた。ガメラは日本列島へ向けて動き始め、北海道、次いで東京に上陸する。
『残虐記』(谷崎潤一郎) 昭和20年(1945)、31歳の今里増吉は広島で被爆し、不能者になった。以来、彼は9歳年下の愛妻むら子との性交渉が、まったくできなくなった。昭和28年、増吉は、むら子の幸福を願って彼女を情夫に与え、自らは毒薬を飲んで死んでいった〔*未完の小説なので、情夫の登場から増吉の自殺にいたる経緯が不明確である〕。
★5.放射能汚染。
『魚が出てきた日』(カコヤニス) 1972年。某国の爆撃機がエーゲ海に墜落し、パラシュート付きの箱が、カロス島に落下した。箱は金属製の頑丈な造りで、中には強力な放射性物質が入っていた。箱を回収すべく、軍の関係者たちが、観光ホテル建設のための調査と称して島中を探し回る。箱は、島の山羊飼いが見つけて家へ持ち帰っていた。彼は苦労して箱を開けたが、中には数個の卵型カプセルしかなかったので、がっかりして箱ごと海へ棄てる。その夜、無数の魚の死骸が海に浮かんだ。
『チャイナ・シンドローム』(プリッジズ) カリフォルニアの原子力発電所で、チャイナ・シンドローム(*高熱の核燃料が格納容器や建屋を溶かして地中へ入り込み、アメリカから見て地球の裏側の中国にまで突き抜ける非常事態)寸前の事故が発生した。電力会社は事故を隠し、何事もなかったかのように原発を再稼動する。ベテラン技師ジャックが発電所の制御室を占拠し、原発稼動の危険性をテレビ中継で訴える。電力会社はSWATを呼んでジャックを射殺させ、「社員の1人が酔って錯乱した。原発の安全性には、まったく問題がない」とコメントした。
核爆弾
原水爆
「 原水爆」の例文・使い方・用例・文例
- 条約は原水爆の使用を禁止している。
- 原水爆禁止運動という社会運動
- 原水爆禁止日本協議会という社会組織
- 原水爆禁止日本国民会議という社会組織
- 原水爆の放射能に被曝する
- ビキニデーという,原水爆禁止運動の日
- 原水爆禁止日本国民会議という反核運動組織
- 原水爆禁止世界大会という,反核団体の世界大会
- 原水爆が爆発したとき生ずる,強い放射能を帯びた灰
- 原水爆の被害を受ける
- 彼らは要望書の中で,原水爆を地上から永久に抹殺するためには後世への戒(いまし)めとしてドームを永久に保存しなければならないと訴えた。
原水爆と同じ種類の言葉
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