褐色矮星とは? わかりやすく解説

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かっしょく‐わいせい【褐色×矮星】

読み方:かっしょくわいせい

質量小さく軽水素核融合起こらず主系列星になれなかった天体主系列星惑星中間的な大きさで、そのどちらにも分類されない重水素核融合は起こるため、赤外線放つ長続きしない


褐色矮星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/28 10:26 UTC 版)

褐色矮星[1][2] (かっしょくわいせい、: brown dwarf[1][2])とは、その質量が木星型惑星より大きく、赤色矮星より小さな超低質量天体の分類である[3]軽水素 (1H) の核融合を起こすには質量が小さすぎるために恒星になることができない亜恒星天体の分類の一つである。

概要

褐色矮星と恒星惑星の大きさの比較。左から太陽 (主系列星)、グリーゼ229A (主系列星)、Teide 1 (褐色矮星)、グリーゼ229B (褐色矮星)、WISE 1828+2650 (褐色矮星)、木星 (惑星)。
T型褐色矮星の想像図
比較図:大部分の褐色矮星は木星よりもわずかに大きい程度 (10-15%) であるが、高密度であるため質量は最大で木星の80倍程度にもなる。画像はサイズのおおよその比較であり、木星の半径は地球のおよそ10倍、太陽の半径は木星のおよそ10倍となっている。

原始星において、軽水素の核融合が始まるためにはの温度が 300万-400万 K を超えなければならず、そのためには最低でも太陽のおよそ 8% 以上 (木星質量の 75-80 倍以上) の質量が必要である。それ以下の質量しか持たない星では軽水素による核融合反応は起こらないが、軽水素よりも低温で核融合を起こす重水素 (2H) の核融合、およびリチウム (7Li) の核融合は起こる。これに必要な質量はだいたい太陽の 1% 程度、木星の13倍程度と考えられている。すなわち、褐色矮星の質量は木星質量の13倍から 75-80 倍 (およそ 2.5×1028 kg から 1.5×1029 kg) までの、最も重い巨大ガス惑星と最も軽い恒星の間の範囲である[4][5]。これよりも軽い質量を持つ天体は準褐色矮星、あるいはしばしば自由浮遊惑星と呼ばれる。またこれよりも重い質量の場合は、スペクトル型が M9V の赤色矮星となる。なお、褐色矮星の基準に関しては、核融合反応があるかどうかよりも、その形成過程で定義するべきという議論も存在する[6]

褐色矮星内部では重水素の核融合が発生するものの、重水素の存在比率は低いため核融合反応は短期間で停止し、そのまま冷却していくことになる。これが褐色矮星であり、分類上は恒星にも惑星にも入らない。褐色矮星の内部は全領域で対流が発生していると考えられ、層構造や深さによる化学組成の分化はしていない[7]

恒星はスペクトル分類によってクラス分けされるが、褐色矮星のスペクトル型は M、L、T、Y型に分類される[6][8]。その名前に反して、褐色矮星は褐色には見えない[6]。多くの褐色矮星は人間の目にはマゼンタ色[6][9]、もしくはオレンジ色や赤色に見えると思われる[10]。褐色矮星は可視光線波長ではあまり明るくない。

一般的に、恒星が星雲から誕生する際には大質量星よりも小質量星の方が多く誕生する。この傾向が褐色矮星にまで延長して当てはめられるかどうか、すなわち低質量の褐色矮星が恒星よりも多数存在するかどうかについては互いに矛盾する観測結果が報告されており、星形成領域ごとに褐色矮星の誕生しやすさに差がある可能性も含めて、まだ結論は出ていない[11]

褐色矮星を公転する惑星 (惑星質量天体) が発見されており、2M1207b[12]MOA-2007-BLG-192Lb[13]2MASS J04414489+2301513英語版[14] が例である。

6.5 光年の距離には、知られている中で太陽系に最も近い褐色矮星 WISE J104915.57-531906.1 (Luhman 16) が存在する。この天体は褐色矮星同士の連星を成しており、2013年に発見された[15]HR 2562 bNASA Exoplanet Archive には最も重い系外惑星として掲載されているが、推定質量は 30 ± 15 木星質量であり、惑星と褐色矮星の境界とされる 13 木星質量より2倍以上重い[16]

歴史

赤色矮星グリーゼ229Aを公転する褐色矮星グリーゼ229Bの画像。小さい方の天体がグリーゼ229Bであり、木星質量の 20-50 倍の質量を持つ。うさぎ座にある天体であり、地球からの距離はおよそ19光年である。

初期の理論的研究

現在「褐色矮星」(brown dwarfs) と呼ばれている天体の存在は、1960年代に Shiv S. Kumar によって理論的に予測された[17][18]。また1963年には林忠四郎中野武宣によって、0.08太陽質量よりも軽い星は水素核融合を起こさず、高い電子縮退状態に向けて収縮することを発見した[19]。このような天体は当初は「黒色矮星」(black dwarf) と呼ばれており、水素の核融合を維持できるほどの質量を持たず、宇宙空間を浮遊している暗い亜恒星天体を指す分類であった[17][18]。しかし、黒色矮星という名前は冷たい白色矮星を指す用語として既に使用されており、赤色矮星は水素燃焼を起こすこと、また褐色矮星はその一生の初期段階では可視光線の波長で明るくなる可能性があると考えられた。そのため、これらの天体を指す名称としてプラネターや substar などを含む代替の名前が提案された。1975年ジル・ターター英語版[20] が近似的な色として "brown" を用い、"brown dwarfs" という名称で呼ぶことを提案した[10][21][22][18]。この brown は実際の色そのものを示しているのではない[18]

黒色矮星という名称はその後も、一定量の光を放射しなくなる段階まで冷却が進んだ白色矮星を指す言葉として使用され続けている。しかし最も軽い部類の白色矮星であっても、その温度にまで冷却するには現在の宇宙の年齢よりも長い時間が必要だと計算されている。そのため、このような天体はまだ存在しないと考えられている[23]

最も低質量の恒星の性質および水素燃焼の限界となる質量に関する理論研究では、0.07太陽質量よりも軽い種族Iの星と0.09太陽質量より軽い種族IIの星は通常の恒星のような進化は辿らず、完全に縮退した星になると考えられた[24]。水素燃焼を起こす最小質量の初めての自己整合的な計算が1963年に林忠四郎中野武宣によって行われ、種族Iの天体の場合は水素の核融合を起こすことが出来る質量の下限は 0.07-0.08 太陽質量の間であることが確認された[25][26]

重水素核融合

1980年代になって、0.012太陽質量以上の質量を持つ天体では重水素の核融合が起きることが発見され、また褐色矮星の低温な外層大気でのダスト形成の影響が発見されたことにより、これらの理論には疑問が投げかけられた。しかしこのような天体は可視光をほとんど放射しないため、発見することが困難であった。褐色矮星が最も強く放射をする波長は赤外線であり、その当時の地上の赤外線検出器はいかなる褐色矮星も確実に同定できるほどの精度は持っていなかった。

以降、様々な手法を用いた多数の探索によって褐色矮星が捜索されてきた。これらの手法には、散在星の周囲での多色撮像サーベイ、主系列星白色矮星の暗い伴星の撮像サーベイ、若い星団のサーベイ観測、近接した伴星の視線速度からの探索などを含んでいる。

GD 165B とL型天体

何年にもわたって、褐色矮星を発見しようという試みは実りのないものであった。しかし1988年になって、白色矮星の赤外線での探査によって GD_165 として知られていた天体に暗い伴星が発見された。伴星である GD 165B のスペクトルは非常に赤く奇妙なものであり、低質量の赤色矮星が示すであろう特徴を持っていなかった。GD 165B は、これまでに知られていた晩期M型矮星よりもずっと低温な天体に分類されるべきであるということが明確となった。この天体は、後に 2MASS (Two Micron All-Sky Survey) によって似た色とスペクトルの特徴を示す天体が多数発見されるまでの10年程度の間、この種の特徴を示す唯一の天体であった。

今日では、GD 165B は現在「L型矮星」と呼ばれている天体の分類の原型であると認識されている[27][28][29]

GD 165B が発見された直後に、別の褐色矮星候補天体も報告された。しかしリチウムが欠如していることからそれらの大部分は恒星であることが示された。恒星の場合は1億年強の間にリチウム燃焼によってリチウムを消費するのに対し、褐色矮星の場合は温度と光度は恒星に近い値になりうるものの、リチウム燃焼は起こさない。従って、1億歳よりも年老いた天体においてリチウムが検出された場合、その天体は褐色矮星であることが確認できる。

グリーゼ229BとT型天体 - メタン矮星

1995年Teide 1グリーゼ229Bという2つの疑いようのない亜恒星天体が発見されたことにより、褐色矮星の研究は大きく変化した[30][31]。これらの天体からは、670.8 nm のリチウムのスペクトル線が検出された。またグリーゼ229Bは、温度と光度が恒星が取りうる範囲よりも十分低いことが判明した。また、中島紀のグループにより直接撮像と分光観測に成功し、スペクトルが恒星よりむしろ木星に近いことが示された[29]

グリーゼ229Bの近赤外線のスペクトルは、2 µm でのメタンの吸収バンドが明確に見られた。この特徴は、これまでは巨大ガス惑星土星衛星タイタンの大気でのみ見られていたものであった。主系列星の場合はいかなる温度であってもメタンの吸収は見られない。この発見により、L型矮星よりもさらに低温で、現在では「T型矮星」として知られている新しいスペクトル分類が作られた。グリーゼ229BはT型矮星の原型である。

Teide 1 - 初めてのM型褐色矮星

初めて確認された褐色矮星は、スペインの天文学者 Rafael Rebolo、María Rosa Zapatero Osorio、Eduardo Martín によって1994年によって発見された[32]プレアデス星団の中に発見されたこの天体は、Teide 1 という名前が付けられた。この天体の発見論文は1995年5月にネイチャー誌に投稿され、同年9月14日に出版された[30][33]。ネイチャー誌はその号の表紙で "Brown dwarfs discovered, official" (褐色矮星が公式に発見された) と強調した。

Teide 1 は、カナリア天体物理研究所英語版 (IAC) のチームによって、1994年1月にテイデ天文台英語版の 80 cm 望遠鏡 (IAC 80) を用いて取得された画像の中から発見された。またこの天体のスペクトルは、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台の 4.2 m ウィリアム・ハーシェル望遠鏡を用いて1994年12月に取得された。Teide 1 は若いプレアデス星団の一員であるため、距離、化学組成と年齢は推定することが可能である。この時点で最も先進的だった恒星と亜恒星天体の進化モデルを用いて、観測チームは Teide 1 の質量を 55 ± 15 木星質量と推定した[34]。これは恒星となるための下限質量を下回るものである。この天体は、その後の若い褐色矮星に関連した研究における参考となった。

理論的には、65木星質量よりも軽い褐色矮星は、その進化のいかなる段階でもリチウムを熱核融合で燃焼することはできない。この事実は、低光度で低表面温度の天体が恒星ではないことを判断するために用いられるリチウムテストの原則の1つとなっている。

1995年11月にケック望遠鏡を用いて得られた高品質のスペクトルデータでは、Teide 1 はプレアデス星団を形成する元となった分子雲の初期のリチウム存在度を依然として保っていることが示され、でリチウムの熱核融合が発生していないことが証明された。これらの観測によって Teide 1 が褐色矮星であることが確実となり、また分光観測でのリチウムテストの有効性を示すことにもなった。

同時に、Teide 1 は直接観測によって同定された中では最も小さな太陽系外の天体であった。この天体の発見以降、1800 個を超える褐色矮星が同定されている[35]。それらの中には、より地球に近く、12光年の太陽に似た恒星に重力的に束縛された褐色矮星の連星であるインディアン座ε星Ba と Bb、6.5光年の距離にある褐色矮星同士の連星系 WISE J104915.57-531906.1 がある。

理論

恒星の誕生の一般的なメカニズムは、ガスと塵からなる冷たい星間分子雲の重力収縮を介するものである。分子雲が収縮するにつれ、ケルビン・ヘルムホルツ機構によって温度は上昇する。この過程の初期段階では収縮するガスはエネルギーの大部分を急速に放射して冷えるため、収縮は継続する。その後、次第に中心領域が放射を捕獲するほど十分に高密度となる。そのため、収縮する分子雲の中心温度と密度は時間の経過に従って急激に上昇し、収縮は減速する。これは、原始星の核で熱核融合が発生するのに十分な温度と密度の条件になるまで継続する。大部分の星においては、星の核での核融合反応によって生み出されるガス圧放射圧は、天体をさらなる重力収縮に対抗して支える力として働く。その結果静水圧平衡状態が実現され、恒星はその寿命の大部分を水素を燃焼してヘリウムに変換する主系列星として過ごすこととなる。

しかし、原始星の質量が0.08太陽質量よりも軽かった場合、核で通常の水素の核融合反応が開始しない。重力収縮は小さい原始星の温度を効率的に上昇させることが出来ず、核の温度が核融合を引き起こすのに十分な温度に到達するよりも前に、密度は電子縮退圧に到達してしまう。褐色矮星の内部モデルによると、核の密度、温度と圧力に対して予想される典型的な値は以下の通りである。


褐色矮星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/18 05:00 UTC 版)

暗黒物質」の記事における「褐色矮星」の解説

恒星誕生の際、核融合が起こるほどのガス質量がなかった場合明るく輝かないために観測は困難となる。近年観測精度の向上によって褐色矮星が観測されるようになった

※この「褐色矮星」の解説は、「暗黒物質」の解説の一部です。
「褐色矮星」を含む「暗黒物質」の記事については、「暗黒物質」の概要を参照ください。

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