経済学とは
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:16 UTC 版)
マルクスとエンゲルスによる科学的社会主義の思想は、経済学の理論研究とともに体系化された。マルクスとエンゲルスが経済学に着目したのは、資本主義経済とその運動法則から社会主義革命による移行の必然性を考察することに科学的根拠を示そうとしたためである。 経済学の対象となる経済活動は生産と交換によって行われる。ただし、交換も生産に依存するものである以上、生産から議論されねばならない。だが、生産力は石を使うのか鉄を使うのかといった技術や道具などに量的な制約を受けており、生産力はその歴史的な発展段階に依存しているため、歴史的な側面から議論しなければならない(史的唯物論)。また、同時に人間が生産活動を社会的に展開させる際、人々は奴隷主と奴隷、封建領主と農奴、資本家と賃金労働者といった階級のもとに生産をおこない、身分や階級の秩序によって生産関係を組織していった。こうした社会的関係のもとに生産様式が成立し、古代では奴隷制、中世では封建制、近代では資本制の形態を取っていた。したがって、人類社会の発展の歴史とは支配するものと支配されるものからなる生産様式の経済発展段階説と言ってよいものである。この支配関係の政治的機構が国家であり、国家の興亡の歴史も生産様式の盛衰を反映する形で展開していく。 一方、分配もまた生産様式の発展による生産力の増大に依存している。デューリングは分配を正義によって決定されるものと見なし、社会主義を「ふたりの男」による平等論といった聖書的な物語から噤み出される永遠不変の道徳的真理として考えたのであるが、マルクスとエンゲルスは経済力学による歴史発展法則の産物として捉えようとした。 原始共同体では生産力が低く、共同体のなかで共同で生産して共同で消費する以外に生きる道はないため、こうした共同体は原始共産制と呼ばれる平等な分配を前提としている。しかし、新石器革命によって農耕を開始して農業と牧畜が導入されると社会は生産力の増加を促していく。すると、土地の所有というものが生産活動の要をなすようになり、大土地所有者が奴隷を使役して生産をおこない、奴隷を生かす最低限の食糧分配をともなう不平等な分配関係を作り上げた。水車が導入されたり優れた犂が発明されると、生産力が増大して古代奴隷制に基づく生産様式と相容れなくなり、奴隷制の生産様式は生産力の桎梏となって分配も阻害していき、奴隷戦争や黄巾の乱など奴隷の反抗が相次ぎ西ローマ帝国や漢帝国などの古代国家の滅亡をもたらした。こうした古代末期の混乱の中から、水車や農具、土地を所有する封建領主と土地に根差して年貢を納める農奴の封建的関係が成立して封建国家の時代となっていく。 中世封建制は新大陸の発見、三角貿易の確立などにより崩壊の道を歩み始め、フランス革命によって封建的特権の廃止が廃止されるなどの革命の動乱のなかで国民国家が形成されていく。名誉革命によって立憲的議会政治が確立されていたイギリスでは、蒸気機関が発明されミュール紡績機や力織機が導入されて生産力が高まると産業革命が始まり、工場を所有する資本家とそこで労働する賃金労働者が登場して、資本家による資本の集積と賃金分配の時代となっていく。不平等な分配関係は資本主義経済のもとでも存在するが、分配は依然として経済発展の段階に依存している。経済発展を通じて生産は増加して文明は豊かになっていくが、一方で資本の集積も進展して支配力が強化され、他方で大都市に無産大衆が集積されることで、平等な分配を要求する声は高まっていく。 エンゲルスは、空想的社会主義者やデューリングのような人物による個人的で道徳的な憤激は経済変革の兆候を示すに過ぎず、変革の科学的根拠を提示するものではないと考えていた。むしろ、平等な分配の要求は経済法則によって展開される歴史過程とともに主張されるもので、経済学を通じて平等な分配の可能性を論じることが重要だと見た。 経済学はアダム・スミスにその発展の基礎をもつが、『国富論』に代表されるブルジョワ的な古典派経済学は封建制や重商主義に対する批判で始まり、資本主義経済の生産と分配の必然性を強調するものとして成立した。これと同様に、資本主義的生産と交換の構造的問題点を指摘し、資本主義の否定的側面を強調する批判が登場してくる。この資本主義批判が要するに社会主義である。エンゲルスは資本主義に対する社会主義的批判の興隆を次のように描写した。 「階級対立と階級差別を廃止せよという叫び声……が、……、近い将来の勝利を確信できるほどの力を獲得したのだとすれば―それはなにによるのか?それは、近代の大工業が一方において一つの無産階級、すなわち……階級一般の廃止の要求を歴史上初めて提出できる一つの階級……をつくりだしたからである。また、この同じ大工業が他方においてブルジョアジーという姿で、一切の生産要具と生活資料とを独占してはいるものの、自分たちの力にあまるようになった生産力を今後も支配していくだけの能力がないことを、投機熱の盛んな好況期やその後に来る恐慌によって証明して見せてくれる一つの階級、……機関車のように、破滅に向かって突進しているところの一つの階級をつくりだしたからである。 言いかえれば、近代の資本主義的生産様式によって生み出された生産諸力と、またその様式によって作り出された財貨分配制度とが、その生産様式そのものと激烈な矛盾に陥っていて、しかも、全近代社会が滅亡してしまうことにならないためには、生産様式と分配様式との変革が起こって、一切の階級的差別を除去してしまわなければならない、という程度にまでその矛盾が激しくなっているからである。眼前にあるこの物質的事実は、搾取されているプロレタリアの頭脳に不可抗的な必然性をもって…押し寄せてくる。近代社会主義の勝利の確信はまさにこの事実に基礎をもつのであって、正義、不正義についての書斎学者の観念を根拠とするものではない。」 マルクスは、経済学を生産様式の発展の歴史を経済法則から読み解り、資本主義の内的な矛盾にその「歴史性」を捉えて、崩壊の契機を科学的に突き止めるということが目的に定めた。そして歴史的に最適な生産と分配のあり方を考察して、「社会のすべての成員に生活と彼らの能力のための自由な手段を確保するために計画的な協働をおこなうように組織された社会」、共産主義社会が成立する法則的な必然性を論じるということがマルクス経済学・科学的社会主義の方法論なのである。
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