生体研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 04:19 UTC 版)
水素に関する研究について概説する。1671年にはロバート・ボイルによって水素ガスが生成され、水素はガスであると認識され、生理的に不活性なガスだと考えられ、注目されなかった。初期には、水素分子の生物学的効果は小規模に研究されてきた。1975年に、Doleらは水素ガスが動物の皮膚腫瘍を退縮するという研究結果を『サイエンス』にて報告したが、注目はされなかった。肝臓に慢性の炎症を持つマウスでの高圧水素の抗炎症作用は、2001年に報告された。こうした研究は数が限られている。 水素ガスを含む吸気として、たとえば飽和潜水用のガスとして水素50 %、ヘリウム49 %、酸素1 %用の混合気が用いられており、この場合、水素に起因する毒性や安全性の問題は見られていない。 ボストン小児病院、ハーバード大学医学部の研究でも、水素ガスの吸入による細胞障害、組織障害のような有害事象はないことが報告されており、名古屋大学医学部産婦人科、香川大学医学部産婦人科の研究においても、水素の摂取による毒性や催奇性はないことが報告されている。 ただし、水素は爆発性を有する気体であり、爆発濃度においては静電気のような微弱なエネルギーで爆発する危険性がある。従って、水素ガス吸入療法においては、爆発限界濃度以下(10 %以下)の水素ガスを発生させる水素ガス吸入機を用いることが重要であると、市販の水素ガス吸入機の安全性について警鐘を鳴らす論文が2019年に発表されている。実際に消費者庁の事故情報データシステムで水素ガス吸入機の爆発事例が複数報告されている。 日本における水素の医療利用の研究に関する最初の報告は、2003年のヒドロキシルラジカルによる水素分子の水素引き抜き反応によって、種々の酸化ストレスに起因する疾病を予防または改善する報告に遡る。さらに2005年には、ラットの酸化剤誘発モデルに対する水素水の抗酸化効果が報告された。 日本医科大学での2007年の実験を受けて、慶應義塾大学では2012年から心停止のラットでの治療モデルを確立してきた。2015年10月には、慶應義塾大学先導研究センター内に水素ガス治療開発センターが開設された。 心肺停止時の水素ガスの吸入は先進医療Bに認定され、研究が進められている。従来の研究では動物を対象として心停止の際の脳・心臓の臓器障害抑制が調査されていたが、2016年9月には、初のヒトを対象とした研究が公表され、5人中4人が90日後には普通の生活に戻った。これは慶應義塾大学を中心として2月に開始された臨床研究であり、心停止の影響によって寝たきりとなる、言葉がうまく話せなくなるといった後遺症が残る事が多く、これを抑制するための医療現場への導入が目標とされている。 αグルコシダーゼ阻害剤である糖尿病治療薬のアカルボースを服用すると炭水化物の吸収が抑制され、大腸の腸内細菌により水素などが発生する。アカルボースの服用が心血管事故を抑制する可能性があり、この原因として高血糖の抑制に加えて、呼気中に水素ガスの増加が認められ、この増加した水素の抗酸化作用で心血管事故を抑制するメカニズムが想定されている。 水素と水素が水に溶存した水素水の研究は、2007年から2015年6月までで321の水素の論文があり、臨床試験も年々増加してきた。 上述のように水素は従来の医薬品とは異なり、病気の根源である酸化ストレスを抑制し広範囲の疾病に対する改善効果を有することから、病気に対する「ワイドスペクトラム分子」と呼ばれる可能性がある。 2019年12月10日現在、水素の医療利用に関係する学術論文は600報を超える。
※この「生体研究」の解説は、「水素」の解説の一部です。
「生体研究」を含む「水素」の記事については、「水素」の概要を参照ください。
生体研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/10 06:58 UTC 版)
「水素#生体研究」も参照 1671年にはロバート・ボイルによって、水素ガス(水ではない)が生成され、水素はガスであると認識され、生理的に不活性なガスだと考えられ、1975年に水素ガスによる研究が報告されたが注目されなかった。 1997年に、白畑實隆らは電気分解した水(電解還元水)を使った実験を行い、活性酸素種によるDNA損傷を抑制することを報告し、その作用は活性水素と呼ばれる水素原子によってもたらされていることを示唆しているとの仮説を、Biochemical and Biophysical Research Communicationsにて報告した。2000年にも白畑は、そうした作用を起こす原因が「活性水素であろうと推定」し、その検出法の開発に取り組んでいることを記している。とはいえ、水素原子は長い時間体内に存在することはできず、電解水に存在するのは水素分子(つまり水素)であるため、2002年には白畑は、水素原子が水中に長時間存在するとは考え難いが、電解還元水の活性酸素消去能力が1か月以上安定してみられることから、水の電解時に、電解のための白金の電極棒の金属と結合し吸蔵されているものと考えた。後の研究者は水素分子の作用だとみなしている。白畑自身を含めた研究者らによる最近の研究では、作用の原因として水素分子に言及している論文もある。しかし2017年の研究では、電解水素水は単に水素を溶存させたよりも活性酸素消去能力が高く、白金ナノ粒子などほかの要因が仮定できるとされる。 2007年には太田成男が、動物実験において脳虚血などによって生成されるヒドロキシルラジカル(・OHと表記される)に対して、水素がもつ抗酸化、抗アポトーシス作用によって選択的に保護できることを『ネイチャー メディシン』にて報告し、これ以降、水素の研究が進展している。当初の大田らの報告は気体として水素を吸入するものであったが、後に水素分子を飽和させた水素水によっても同様の効果が得られることが確認された。当初は、水素ガスの吸引に比べて水素水の摂取は効果が低いのではないかと考えられていたが、水素水でも様々な報告がなされてきた。水素ガスの吸引に比較して、安全で実用的である。また希釈した水素水でもマウスの肥満を改善したことから、当初の想定よりも低濃度で作用すると考えられるようになっている。 ビブリオメトリックスという手法を用いて、水素医学に関する2007年から2014年までの文献を探索した二次資料によれば、この間に357の論文が出版されており、2007年には3論文、2009年には25論文、2013年には71論文と経時的に増加し、地域では中国で190論文、日本で112論文、アメリカで58論文、投与方法としては注射が多く、水素水として経口から、またガスとして吸入する手法がそれぞれ25%前後を占めており、対象としては動物を用いた生体(in vivo)研究がもっとも多く、研究への出資は日本の文部科学省、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、中国国家自然科学基金(NSFC)からが上位3つである。 別の研究は、2007年から2015年6月までで、321の水素の論文があり、年々臨床試験が増加していることを報告している。これらの発見された研究数の違いは、検索した言葉や含めた文献といった研究条件による。
※この「生体研究」の解説は、「水素水」の解説の一部です。
「生体研究」を含む「水素水」の記事については、「水素水」の概要を参照ください。
- 生体研究のページへのリンク