仕組みの種類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/02 13:59 UTC 版)
「ストラクチャード・ファイナンス」の記事における「仕組みの種類」の解説
ストラクチャード・ファイナンスの仕組みは原資産特定型とストラクチャード・ビークル、ストラクチャード・カンパニーの3つに大きく分けられる。 1.資産流動化型(原資産特定型) アメリカの証券化商品はいずれも組成時点で原資産が確定しており、あとはこの資産からキャッシュフローを最終商品である証券へと何らかの形で送り込んでやるだけであり、格付け機関はこの原資産を分析し、商品の期限までに起こりうるシナリオを想定して、どの程度リスクが生じうるかを判断する。例えば、仮定として自動車ローン証券を発行した直後1929年に始まった大恐慌のような経済環境が商品の期限まで続いた時、どの程度貸倒が原債権である自動車ローンに発生するかを、過去の統計に基づいて分析、この部分を補える信用補填がなされれば、トリプルAを付与するわけである。このように統計的に信用リスクを把握できる資産をアクチュアリアル型と呼ぶ。 2.ストラクチャード・ビークル 1980年代前半のアメリカにおいて、組成時点ではどのような資産を組み込むかという方針のみが定まっているだけで、SPVの資産はカラであるようなものに、あらかじめ高い格付けを取得するような仕組みが登場した。その典型例がABCP(Asset Backed Commercial Paper)である。歴史上初のABCPはおそらく1981年にシティーコープの売掛債権等、購入用のビークルであるCAFCO(Corporate Asset Funding Corporation)ではないかと思われる。ABCPの基本的な仕組みは、設立母体(スポンサー)が、自分とは連結対象にならないSPVを設立し、SPVが購入してよい金融資産の種類や条件についてルールを策定する。例えば、「投資適格格付け(トリプルB以上)を有する企業が保有する、期間が1年未満の売掛代金債権で、別途定める信用条件を満たすもの」と決める、一方SPVの購入資金調達のため、一定金額までのCP(コマーシャルペーパー、約束手形)発行枠を設定する。そして、このCPの返済を確保するために高い短期債格付けを有する銀行からバックアップの供与を受け、さらに売掛代金債権に関し発生する貸倒リスクをカバーする為に高い格付けを有する第三者の保証を受けたり、その部分に見合う劣後持ち分(劣後債)を設定したりする。このような仕組みそのものを格付機関と擦り合わせたうえで、資産を購入する前にあらかじめCPの発行枠に対して高い格付けを取得し、以後実際に資産を取得するたびにCPを逐次発行して資金調達を行う。ABCPの発行体は実体のないSPVであることから、通常はスポンサー自らが管理人になり、自分の取引先と売掛債権の購入枠を設定し、購入事務、CP発行事務を代行する。ABCPの信用補填についても、スポンサー自らが提供する場合が多い。ABCPに高い格付けを取得するための信用補填としては、1年未満のバックアップラインはBIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)の自己資本規制上リスクウェート(リスクの重さ)が0%であるから、保証に該当する部分のみのリスクウェートで事実上スポンサーと同リスクのCPを発行することができる。また、スポンサーである銀行が不良債権問題等で格下げされた後は、この信用補填部分を外部から手数料を支払って購入したり、組み込まれた資産のリスク分散を細かく行ったり、その値洗いを頻繁に行ったりすることによって、スポンサーの信用力の制約を乗り越える工夫がなされた。日本でも1990年前後からアメリカやケイマン諸島に設立されたSPVが、日本に支店を持ち、日本国内で売掛債券の購入業務を行い、その資金調達をアメリカのCP市場でドル建てで調達して円に転換することにより、国内向けABCPプログラムがシティバンクや大手銀行によって行われた。96年の時点でABCPプログラムの発行残高枠は約2兆円。CP発行残高は5750億円に達している。 DPC(デリバティブ・プロダクツ・カンパニー) 売掛金ファイナンスのような銀行のオンバランス業務(企業会計において、貸借対照表(バランスシート)に計上されている項目やその額、および計上されているという意味)をストラクチャード・ビークルに担わせると、オフバランス(簿外債務)業務であるスワップション(権利行使日に一定条件のスワップ取引を行うことができる権利を売買するオプション取引の一種であり、スワップ(swap)とオプション(option)を組み合わせた造語)から組成された最初のスキームが、1911年11月にメルリンチがスポンサーになったDPCがある。メリルリンチの当時の格付けはシングルAであり、この格付け自体は低くはないものの、デリバティブマーケットにおいては一般にダブルA以上の格付けを有していないと業務に制約が生じるとされる。そこで人工的にSPVに対して高い格付けを取得して、これを介して高い信用力が必要なデリバティブ業務を行おうという発想が生まれた。従来型のABSやABCPと異なり、DPCは証券やCPを発行して資金調達を行うことはない。DPCの目的は、スポンサー自身の格付けが低いために自らカウンターパーティとなることができなかったり、取引金額に制約があったりする相手方との間で、スポンサーに代わりデリバティブの契約主体となることにある。このため、デリバティブ契約のいわゆるカウンターパーティ・リスクである義務履行について、通常トリプルAという高い格付けを取得する。 3.保証専業保険会社:ストラクチャード・カンパニー ストラクチャード・ファイナンスとコーポレート・ファイナンスの境界線は、保証専業保険会社の登場によっていよいよ曖昧になってくる。もはや「仕組み」は適当ではなく、格付けされている主体は登録者が事務代行しているペーパーカンパニーといったSPVではなく、完全に独立した会社であり経営が行われている。さて、アメリカでは銀行の業務として信用保証が認められておらず、債券の保証業務はむしろ保険業として取り扱われている。ただ銀行も保険業を営んでおり、クリーン信用状と言われている。クリーン信用状とは クリーン・クレジットまたはクリーンL/Cとも呼ぶ。 船積書類の呈示がなくても支払いや引受けを訳する信用状のこと。その限りでも銀行保険業務を行うといえよう。しかし、保険会社は自己資本比率1%程度、銀行に(国際銀行でも8%)比べると非常に低いので、資本を有効利用できるという利点がある。このように債券の保証業務は専業保険会社か、自己資本比率に無頓着な外国銀行によって営まれ、事実、アメリカに進出した邦銀の80年代前半の主要業務のひとつが、地方債、社債の保証業務であった。保証専業保険会社がストラクチャード・ファイナンスの領域に近づいたのは、1990年のFSA(Financial Securities Assurance)の登場である。FSAは従来型の地方債保証会社と異なり、ストラクチャード・ファイナンスに対する保証を主要業務としていることがあげられる。保証専業保険会社が提供している特徴的な保証形態があり、自動車ローン等のABSを一部ではなく、丸ごと全部保証するのである(フルラップ)。これに対し、保険会社は保証債務の額面のいかんに関わらずリスク部分のみを考える(従って、保険料も最初のいくらまでは何%、そのあといくらまでは何%と段階型の構造になっている)。自動車ローン等のABSは、多くの企業にとってはなじみの薄い存在である。特に、自己の保有する資産の信用リスクを格付機関に説明するという仕事は、財務部のスタッフにとって簡単な仕事ではない。また、これをABSを引き受ける証券会社のアドバイスに依存する場合、十分に競争力のある価格が引き出せないという懸念があり、また、メインバンクに比べると繋がりが薄く、売掛金その他の保有金銭債権の貸倒率というような重要な社内情報を開示する抵抗も強いだろう。そこで、トリプルAを有する保証機関に全額保証させてしまえば、発行体はそのような説明義務から解放されることになる。また、不良債権の証券化などの場合のように、発行体によっては自分の名前をマーケットで明らかにしたくない場合もあるだろう。この場合、保証機関にフルラップで自動車ローン債を発行できれば、発行体の匿名性を維持することができる。最後に、1社ではABSを発行するに足りる経済的規模に達しない会社にとっては、保証機関のフルラップ・スキームは債券市場に参入するための数少ない道の1つといえる。 次に、FSAという会社自身もストラクチャード・ファイナンスの技術を用いて人為的にトリプルAの格付けを維持できるように仕組まれている点で、従来の保険会社の在り方とは一線を画す。その後、もともとトリプルAであった既存の保証専業保険会社も地方債保証以外の分野への進出を機に、格付機関の変化に合わせて同様の信用コントロールを行うようになっていった。こうして、人為的にトリプルAを維持することを自己目的とした、ストラクチャード・カンパニーができあがった。保証専業保険会社の格付けコントロールの方法は、DPCのそれと類似している。保証した先の正味リスク金額を格付け機関との間で設定した基準や、保証時の個別の交渉で決定する。こうして決定された正味保証リスクの総額が、保有資産の正味現在価値で完全に埋められるように操作する。正味保証リスクについては、格付け機関が厳しいか環境下で発生するであろう貸倒損失をシミュレーションして決定する。また、保証先については発行体別、国籍別、業種別、格付け別といった、様々なリスク分散に関する取り決めがなされる。地方債については、格付け機関に長年のノウハウが蓄積されており、一定の基準を設けてこれに従って比較的裁量的な運営がなされ、一定期間ごとに状況を格付け機関にレポートする。一方、信用補填については、原則として案件ごとに格付け機関と交渉して正味リスク額を決定する。このように、ストラクチャード・カンパニーは、格付け機関をあたかも自己の監督機関であるかのように位置づけ、自主的に活動のほとんどすべてを開示し、トリプルAを維持することを至上命令として企業運営にあたる。ストラクチャード・カンパニーの登場は、資本市場で格付けというものが極めて大きな意味をもつようになったことの帰結とも言える。この先にあるのは、一般事業会社が格付けというものを極めて重視して経営を行う格付け経営(rating management)ということになるだろう。
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