風土
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/11 13:22 UTC 版)
和辻哲郎の『風土』
風土論が展開されていく中で見逃せないのが日本の哲学者・和辻哲郎が著した『風土』(1935年)である。サブタイトルに『人間学的考察』とありハイデッガーの哲学に示唆を受け、歴史への視点を場所に移して論じたものである。和辻によると「風土」は単なる自然現象ではなく、その中で人間が自己を見出すところの対象であり、文芸、美術、宗教、風習などあらゆる人間生活の表現が見出される人間の「自己了解」の方法であるという。そしてこうした規定をもとに具体的な研究例として1.モンスーン(南アジア・東アジア地域)2.砂漠(西アジア地域)3.牧場(西ヨーロッパ地域)を挙げ、[3]それぞれの類型地域における人間と文化のあり方を把握しようとした。和辻の風土論はユニークなものとして受け入れられ、各方面に与えた影響も大きく後の比較文化論などに影響を与えた。
オギュスタン・ベルクの風土論
オギュスタン・ベルクは和辻の風土論の影響を受け、「風土学」を発展させるかを検討した[4]。和辻の研究は人間を中心にしたものであった。ベルクはある生き物とその特殊な世界との関係について考察するために、ヤーコプ・フォン・ユクスキュルの思想を研究し、その影響も受けた。ユクスキュルの「環世界」(Umwelt)概念と和辻の「風土」概念を比較しながら、両者の特殊な意味を明らかにした。
「風土性を生み出す、主観的なものと客観的なもの、物理的なものと現象的なもの、生態学的なものと象徴的なものとの風土的=歴史的な結合過程」[5]を表現するために、ベルクは「通態化」(trajection)という概念を導入した。この造語はベルクの主概念であり、個人主体から環境へ、環境から身体へという、行ったり来たりのようなプロセスを指す。ベルクの風土論は「通態化」という概念に加えて、「通態的」(trajectif)や「通態性」(trajectivité)という一連の概念を含む。
脚注
- ^ フランスの地理学者ポール・ヴィダル・ド・ラ・ブラーシュに自然環境はただ人間の活動のための「可能性」を与えているに過ぎず、この自然風土に働きかけて文化・社会を構築する人間の能動的役割を主張した(=環境可能論)。
- ^ しかしながら、近代地理学の動向は思弁的な思想家たちにとっては無関心なものであり、風土論構築に対する影響は限られたものであった。特に和辻哲郎はその著『風土』執筆後、あらかじめポール・ヴィダル・ド・ラ・ブラーシュを知っていたならばその論述も違っていたと述べている。
- ^ 後の版にはこれに4.ステップ(ロシア・モンゴル地域)5.アメリカを加えている。
- ^ 野間 2013, p. 115.
- ^ オギュスタン・ベルク【著】 木岡伸夫【訳】.『<>.』関西大学出版部、2019年、55頁。ISBN 978-4-87354-697-1。OCLC 1145606219。
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