タナトス タナトスの概要

タナトス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/06 19:49 UTC 版)

タナトス
死神
大理石石柱ドラムに彫刻されたタナトス
エフェソスアルテミス神殿 前325年-前300年頃
大英博物館所蔵
住処 冥界
シンボル シータケシサイフォス松明
ニュクス
兄弟 モロスケールヒュプノスオネイロスモーモスオイジュスヘスペリデスモイラクロートーラケシスアトロポス)、ネメシスアパテーピロテースゲーラスエリス
ローマ神話 モルス
テンプレートを表示

夜の女神ニュクスが一柱で生んだ息子[1]、または幽冥の神エレボスと夜の女神ニュクスの息子[2][3]。眠りの神ヒュプノスと双子の兄弟である[4]

ローマ神話の死神モルスラテン語: Mors)やレトゥム(ラテン語: Letum)と同一視される。

タナトスを「亡者の王」や「ハーデース(同一視として)」と呼ぶ事もある[5]

概要

マウリシオ・ガルシア・ベガ英語版『タナトス』

概念的な存在で、古くはその容姿や性格は希薄であったが、次第に柔和で優しいヒュプノスに対してタナトスは鉄の心臓と青銅の心を持つ非情な神で人間にとっても神々にとっても忌むべき者となった[6]

姿は有翼[7]で剣を持ち[8]、黒い服を着た[5]蒼ざめた老人であるとも[9]、ヒュプノスによく似た青年であるともいわれる[10]

寿命を迎える人間の髪を剣で一房切り取り、冥王ハーデースに捧げ魂を冥界に連れて行き冥界の住民とする[8]。英雄の魂はヘルメースが冥府に運び、凡人の魂はタナトスが冥界へ運ぶともされる。

どんな贈り物も求めず、犠牲や歌を捧げ崇めてもタナトスの意志は変えられず、死の運命を回避する慈悲を与えない神であるため、祭壇も無く崇められる事も無かった[11]

太陽はタナトスとヒュプノスの姿を見ようとはせず、彼らは大地の遥か下方の奈落タルタロスの領域に館を構えて住んでいる[12]。または、冥界の門の近くにあるオネイロスたち(夢)が絡まるニレの巨樹の周りにタナトスとヒュプノスは住むという[13]

また「パイアーン(癒す者)」の呼び名がある[14]

神話

サルペードーンの遺体を運ぶヒュプノスとタナトス(紀元前515年頃)

ホメーロスイーリアス』第十六歌では、ゼウスの息子サルペードーンが死ぬ運命にある事を知っていたゼウスは、アポローンに遺体を清めさせた後タナトスとヒュプノスの双子の兄弟にサルペードーンの亡骸をトロイアからリュキアへと運ぶように命じた。

フレデリック・レイトン『アルケースティスを救うため死と闘うヘラクレス』(1869年)

エウリーピデースの悲劇『アルケースティス』では、ペライ王アドメートスの妻アルケースティスが夫の身代わりに死ぬ事になったが、約束の日の丁度の時に館に来たタナトスは、運命の女神モイラたちを騙して人間の寿命を変えさせたアポローンを非難する。タナトスは「アルケースティスの魂は奪われる」とアポローンから予言されても聞く耳持たず魂を連れて行こうとするが、アドメートスの友人ヘーラクレースが館を訪れ事情を知るとアルケースティスの魂を力でもって奪い返した。

またシーシュポスがゼウスの怒りを買った時、連行しようとするタナトスをシーシュポスは罠にかけて捕らえた。そのため地上の人間が死ななくなり、これに気付いた軍神アレースはタナトスを助け出し、冥界に連れて行った[15]

ヤチェク・マルチェフスキ『Thanatos I』(1892)

イソップ寓話「一三三 藪医者」では、藪医者に「お前は明日には死ぬ」と言われた病人の男が快復し、その後、藪医者に会った男は「冥界でタナトスとハーデースが最近人が死なないのは医者の所為だと怒り帳面に医者の名前を書き出していましたが、私は貴方(藪医者)だけはいわれの無い罪ですと言っておきました」と話した。

同書「七八 老人と死」では、老人が薪を担いで歩いていたが、老人は疲れて荷物を下ろすと自暴自棄になって死神に呼びかけて助けを求めた。すると本当に死神が現れ「自分に何か用か?」と尋ねると、老人は慌てて「荷物を持ち上げてもらうためです」と答えた。

アイリアーノス『ギリシア奇談集』第2巻35話「死と眠りは兄弟なること、ゴルギアースの死」において、レオンティノイのゴルギアースの最晩年、体は弱りいつの間にかうとうとする状態で病床にあった時「眠りの神は私を兄弟神に引き渡し始めた」と親友に言った。

一説にはレーテーと兄弟であるとも言われる。また、ヒュプノスとタナトスの兄弟は後にドイツにおいてザントマンとその弟の死神のモデルとなった。

ギリシア神話でのタナトスの役割からジークムント・フロイトは、攻撃や自己破壊に傾向する死の欲動を意味する用語、: Todestriebデストルドー参照)を作った。


  1. ^ ヘシオドス『神統記』211行-214行。
  2. ^ ヒュギーヌス『神話集』序文。
  3. ^ キケロー『神々の本性について』3巻17行。
  4. ^ ホメーロス『イリアス』第十六歌 666行-683行。
  5. ^ a b エウリピデス『アルケースティス』834行-871行。
  6. ^ ヘシオドス『神統記』758行-766行。
  7. ^ エウリピデス『アルケースティス』260行。
  8. ^ a b エウリピデス『アルケースティス』59行-76行。
  9. ^ エウリピデス悲劇『アルケースティス』呉茂一訳 登場人物。
  10. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』ハーデースの補助神たち。
  11. ^ アイスキュロス『ニオベー』断片。
  12. ^ ヘシオドス『神統記』755行-767行。
  13. ^ ウェルギリウスアエネーイス』6巻268行-280行。
  14. ^ アイスキュロス『ピロクテーテース』断片。
  15. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』英雄たち編 ベレロポーンとコリントスの英雄たち。


「タナトス」の続きの解説一覧




固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「タナトス」の関連用語

タナトスのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



タナトスのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのタナトス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS