インド系文字とは? わかりやすく解説

ブラーフミー系文字

(インド系文字 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/29 13:40 UTC 版)

ブラーフミー系文字(ブラーフミーけいもじ、: Brahmic scripts)、またはインド系文字: Indian scripts)は、マウリヤ・インドブラーフミー文字から派生し、南アジア東南アジアチベットで使われているアブギダ(文字体系)の一族の総称である。

歴史

ブラーフミー文字 - カンヘリー石窟

ブラーフミー系文字は古代インドブラーフミー文字から派生した。ブラーフミー文字は欧州の文字と同じ祖先を持っているかもしれないが、学者によっては (Rastogi 1980:88-98を参照) Vikramkhol[1][2][3]碑文はブラーフミー文字が固有の (おそらくインダス文字からの) 起源を持つという決定的な証拠であると信じている。

一族の最も有名な一員は、デーヴァナーガリーである。デーヴァナーガリーはインドネパールの数種類の言語で使われている。これにはヒンディー語コンカニ語マラーティー語ネパール語ネパール・バサ語およびサンスクリットが含まれる。他の北ブラーフミー系文字にはベンガル文字 (ベンガル語アッサム語アッサム文字とも呼ぶ)、ビシュヌプリヤ・マニプリ語、および他の東インド言語を書くために使われる)、オリヤー文字グジャラーティー文字ランジャナ文字、Prachalit script、Bhujimol scriptおよびグルムキー文字が含まれる。南インドのドラヴィダ語族は、南方の需要に合わせて改善が加えられたブラーフミー系文字を使っている。南インドでブラーフミー文字が使われた最古の証拠は、アーンドラ・プラデーシュ州グントゥール県にあるバッティプロール刻文(en:Bhattiprolu) からもたらされた[4]。バッティプロールは3世紀にかけて大きな仏教の中心地であり、仏教はここから東アジアへ広まっていった。現在のテルグ文字は'テルグ=カンナダ文字'、別名'古カンナダ文字'から派生したものであり、その類似性の原因も同じである[5]。初めに小さな変更がなされ、現在タミル・ブラーフミー文字と呼ばれている文字は他のインド系文字のいくつかと比べてはるかに少ない文字しか持たない。これは独立した有気もしくは有声 子音が存在しないからである。後に、グランタ文字ヴァッテルットゥ文字の影響を受け、今日のマラヤーラム文字と類字の外見になった。19世紀と20世紀にさらなる変更が加えられ、印刷やタイプライターでの使用ができる現在の文字になった。

ビルマ語カンボジア語ラーオ語タイ語ジャワ語バリ語およびチベット語もブラーフミー系文字で書かれるが、それらの言語の音韻に合わせるため、かなりの変更が加えられている。悉曇文字は多くの経典を書くために使われたため仏教で特に重要であり、悉曇書道の芸術は今日の日本で生き残っている。

いくつかの特徴はすべての文字体系に存在するとは限らない:

  • 子音が持つ随伴母音は通常短母音の'a'である (ベンガル語オリヤー語、およびアッサム語では、母音推移のため短母音の'ô'である)。他の母音は文字を追加することによって書かれる。随伴母音が存在しないことを示すにはマーク (サンスクリットではヴィラーマ/ハラントと呼ばれる) を使う。
  • 各母音には2つの形態がある。子音の一部でない場合の独立形と、子音に付けられる場合の従属形である。文字体系によって従属形は基底子音の上下左右のどこに置かれるかは異なり、左右の両方に置かれることもある。
  • 子音は (デーヴァナーガリーの場合5つまで) 組み合わせて合字にできる。'r'を他の子音と組み合わせることを示すには特別なマークが追加される。
  • 子音に従属する母音の鼻音化有気化も独立した記号によって示される。
  • 伝統的な文字順は以下のようにまとめられる: 母音軟口蓋音硬口蓋音そり舌音歯音両唇音接近音歯擦音、そして他の子音。各子音のグループには4つの子音 (有気化と有声化でありうる4つの組み合わせすべて) と、鼻音化した子音が含まれる。

ブラーフミー系文字を使う言語の多くは、主に非母国語話者の利便性や当該文字体系をサポートしないコンピュータソフトウェアでの使用のためにラテン文字で書かれることがあるが、それらの慣習は南アジア自身ではほとんど進んでいない。

ウルドゥー語カシミール語、およびシンド語は、すべて基本的にブラーフミー系ではないペルシア=アラビア系文字を使っているが、インドの一部ではデーヴァナーガリーで書かれることもある。

en:Gari Ledyard教授は、朝鮮語の表記に使われるハングルが、チベット文字を経由してブラーフミー系文字から派生したモンゴルのパスパ文字を基に作られたという仮説を立てている。

比較

以下は数種類の主要なインド系文字の比較表である。発音はISO 15919IPAで示す。発音は可能ならサンスクリットからとったが、必要に応じて他の言語からもとった。これらの一覧は包括的なものではない。表現されていないグリフもある。

子音

NLAC IPA デーヴァナーガリー ベンガル
アッサム
グルムキー グジャラーティー オリヤー タミル テルグ カンナダ マラヤーラム シンハラ
k [k]
kh [kʰ] -
g [ɡ] -
gh [ɡʱ] -
ŋ
c c
ch [cʰ] -
j [ɟ]
jh [ɟʱ] -
ñ [ɲ]
[ʈ]
ṭh [ʈʰ] -
[ɖ] -
ḍh [ɖʱ] -
[ɳ]
t [t̺] -
th [t̺ʰ]
d [d̺] -
dh [d̺ʰ] -
n n
n - - - - - - - -
p p
ph [pʰ] -
b b -
bh [bʱ] -
m m
y j
r r র/ৰ
r - - - - -
l l
[ɭ] - ਲ਼
[ɻ] - - - - - -
v [ʋ] -
ś [ɕ] ਸ਼ -
[ʂ] -
s s
h h

母音

母音は独立形を左の欄に表現し、ka に対応する子音と組み合わせて右の欄に表現する。

NLAC IPA デーヴァナーガリー ベンガル・アッサム グルムキー グジャラーティー オリヤー タミル テルグ カンナダ マラヤーラム シンハラ
a ə - - - - - - - -
ā [ɑː] का কা ਕਾ કા କା கா కా ಕಾ കാ කා
i i कि কি ਕਿ કિ କି கி కి ಕಿ കി කි
ī की কী ਕੀ કી କୀ கீ కీ ಕೀ കീ කී
u u कु কু ਕੁ કુ କୁ கு కు ಕು കു නු
ū कू কূ ਕੂ કૂ କୂ கூ కూ ಕೂ കൂ නූ
e e कॆ - - - - - - - - கெ కె ಕೆ കെ කෙ
ē के কে ਕੇ કે କେ கே కే ಕೇ കേ කේ
ai ai कै কৈ ਕੈ કૈ କୈ கை కై ಕೈ കൈ කෛ
o o कॊ - - - - - - - - கொ కొ ಕೊ കൊ කො
ō को কো ਕੋ કો କୋ கோ కో ಕೋ കോ කෝ
au au कौ কৌ ਕੌ કૌ କୌ கௌ కౌ ಕೌ കൗ කෞ
[ɻ̣] कृ কৃ - - કૃ କୃ - - కృ ಕೃ കൃ කෘ
[ɻ̣ː] कॄ কৄ - - કૄ - - - కౄ ಕೄ - කෲ
[ɭ̣] कॢ কৢ - - - - - - - - ಕಌ - (ඏ)[6] -
[ɭ̣ː] कॣ কৣ - - - - - - - - ಕೡ - (ඐ) -

数字

Number デーヴァナーガリー ベンガル・アッサム グルムキー グジャラーティー タミル テルグ カンナダ マラヤーラム
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9

Unicodeに存在するブラーフミー系文字の一覧

基本多言語面

追加多言語面

他のブラーフミー系文字

ブラーフミー系文字に似た文字

脚注

  1. ^ http://www.angelfire.com/de/vu2dpi/Vikram.htm
  2. ^ Rastogi, Naresh Prasad 1980. Origin of Brāhmī Script: The Beginning of Alphabet in India. Varanasi: Chowkhamba Saraswatibhawan.
  3. ^ http://jharsuguda.nic.in/tourism.htm
  4. ^ アーカイブされたコピー”. 2007年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年6月12日閲覧。
  5. ^ Telugu Language and Literature, S. M. R. Adluri, Figures T1a and T1b (http://www.engr.mun.ca/~adluri/telugu/language/script/script1d.html)
  6. ^ 古代に書かれたシンハラ文字のみ

関連項目

外部リンク


インド系文字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/07 06:13 UTC 版)

インドの言語」の記事における「インド系文字」の解説

インド文字有する著し特徴は、配列編成仕方にある。文字ランダムな順序並べラテン語アルファベットとは異なりインド字母は、音声学的な原理に従って編成されている。(硬口蓋音実際に破裂音ではなく破擦音無声破裂音 有声破裂音 鼻音 無気音 帯気音 無気音 帯気音 軟口蓋音 k kh g gh ṅ /ŋ/ 硬口蓋音 c ch j jh ñ /ɲ/ そり舌音 ṭ ṭh ḍ ḍh ṇ 歯音 t th d dh n 両唇音 p ph b bh m わたり音接近音 y r l v 摩擦音 ś ṣ s h この音韻分類は、目下問題としているすべての言語守られている。更に、それぞれの言語は、当該言語固有な音を示すための幾つかの特別な文字有している。同様に各言語は、複合音を表す幾つかのシンボル有している。 母音の一覧は、子音とは別に規定され、以下のように配列される: a, ā, i, ī, u, ū, r̥ , r̥̄, l̥ , l̥̄, e, ai, o, au, aṃ, aḥ このうち、r̥ 以下の4文字は、サンスクリットにのみ表れ母音化音節主音化)した r/l を表す。 この一覧では、同じ母音短母音長母音が対になって表示されている( a と ā、i と ī など)。最初の「 a 」は、英語の bus の「u」のような音(/ə/)である。日本語の音韻表である五十音で、「あいうえお」という順番になっているのは、このサンスクリット順序基づいている。「 aḥ 」はサンスクリット単語固有で、苦痛災難意味するdukhaḥ の場合のように、音節末に現れる。 これらの文字サンスクリット音韻体系もとづいて決められたため、現代のインド言語では、音声とつづりの差が大きくなっている。東インド言語であるベンガル語オリヤー語アッサム語では短母音「 a 」がほとんど「 o 」のように発音されている。母音長短区別しない言語や、母音が5種類より多い言語も多い。多く言語では ś と ṣ を区別しない

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