訴訟と最高裁合憲判決
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 01:08 UTC 版)
「住民基本台帳ネットワークシステム」の記事における「訴訟と最高裁合憲判決」の解説
これまで、住基ネットを巡って各地で憲法訴訟が提起されたほか、関係経費の費用返還を求める住民監査請求、個人情報を外部に提供しないよう求める提供中止請求、個人個人に割り当てられた住民票コードの削除請求などの行政訴訟などが提起されていた。これに対し、後述のとおり、2008年3月6日、最高裁判所第一小法廷は、住基ネットを管理、利用等する行為は憲法13条に違反しないとの判決を行った。最高裁判決を含む住基ネットに関する訴訟の概要は以下のとおりである。 2004年(平成16年)2月27日、プライバシー侵害として慰謝料を求めていた裁判で、大阪地方裁判所は原告敗訴判決を行った(原告の一部は控訴している)。 2005年(平成17年)5月30日、金沢地方裁判所は、住基ネットはプライバシーの保護を保障した日本国憲法第13条に違反する、と判断した。一方、翌5月31日、名古屋地方裁判所は、住基ネットはプライバシーの侵害を容易に引き起こす危険なシステムとは認められない、との判断を下した。相次いで相反する二つの判断が下された形となり、住基ネットの法的な位置づけの難しさが浮き彫りとなった。なお、石川県・愛知県の訴訟ともほぼ共通の訴えとなっており(細部では異なる部分もある)、「住民基本台帳ネットワークシステムはプライバシーの権利などを侵害し憲法違反である」などとして、石川県のケースでは同県の市民団体メンバー28人が、愛知県のケースでは住民13人が、それぞれ国や県・市などに個人情報削除や損害賠償などを求めた訴訟である。2006年(平成18年)12月11日、名古屋高等裁判所金沢支部は、正当な理由による公共の福祉による制限として許されると判示し、2005年(平成17年)5月30日の金沢地方裁判所の判決を取り消し、原告の請求を棄却した。 2006年(平成18年)11月30日、前記の大阪訴訟の控訴審判決として大阪高等裁判所は、住基ネットは個人情報保護対策に欠陥があり、拒否する人への運用はプライバシー権を著しく侵害し憲法13条に違反する、として箕面市、守口市、吹田市に原告の住民票コードの削除を命じる原告勝訴判決を言い渡した。なお、同訴訟の裁判長を務めた竹中省吾判事(当時)は、同年12月3日、自宅で首吊り自殺をしているところを発見された。うち箕面市は2006年(平成18年)12月7日に箕面市議会で、上告を断念したと藤沢純一市長が表明し、12月15日0時、箕面市に対して判決が確定した。これにより箕面市は判決に従って勝訴した原告(1人)の住民票コードを削除する「為す給付債務」を負うことになった。箕面市役所の総務部情報政策課では、アイネスが提供する現行システムではデータを削除できるのは住民が死亡した場合か、日本国籍を離脱した場合だけであるところ、どちらの入力もないまま1人少ないデータで府のサーバと交信すると、市のサーバがダウンしてしまうおそれがある。また、市のサーバ内のデータだけでなく、府や国のサーバ内のデータも削除する必要がある。さらに、削除できたとしても、その後の運用方法は原告のデータを削除して原告だけ文書で管理するか、原告を除く全市民のシステムを作り直し改めて接続する、の2通りであり、前者では住民票や納税通知書の交付について原告の分だけ手作業で行う必要があるし、後者ではシステム再構築に1500万円から3500万円の費用が発生する、と主張している(読売新聞12月9日)。なお、藤沢市長は12月12日に、高裁判決後、原告とは別の市民2人からコード削除を求められていることを明らかにしたうえで「こうした人たちの意に沿うため選択制導入の可能性について検討したい」と述べた(読売新聞 2006年12月12日)。 2006年(平成18年)12月28日から2007年(平成19年)3月30日までの間、「平成18年度箕面市一般会計」予備費の充当により、江澤義典関西大学教授、秋田仁志弁護士、園田寿弁護士・甲南大学法科大学院教授、黒田充自治体情報政策研究所代表による住民基本台帳ネットワークシステム検討専門員が設置され、原告の住民票コードの削除方法、原告以外の住民からの削除要求への対応が2007年(平成19年)3月31日までをめどに調査された。 2007年(平成19年)3月5日、原告らの呼びかけに応じた市民8人から個人情報保護条例に基づき住民票コードの削除が請求され、藤沢は「これは『ためにする請求』。当惑している」と報道された。その後箕面市は、高裁判決の効力は判決を得た市民1人のみにしか及ばないとして当該8人からの削除請求を認めない「非削除」の決定をしている。 2007年(平成19年)3月7日の住民基本台帳ネットワークシステム検討専門員合議で、原告の住民票の職権消除と、住基ネットの選択制が検討されていることが報道され、2007年(平成19年)3月30日開催の専門員合議において、「控訴人について、住民票を改製し住民票コードを削除する」「控訴人に係る本人確認情報に異動事由として「職権消除コード」を記録し、当該コードを含む本人確認情報を、住基ネットにより大阪府サーバに送信するとともに、住民票コード削除に係る本人確認情報を「文書」により府知事に通知する」「住基ネットでの自己情報の運用を希望しない他の住民についても、控訴人と同一の方法により、住民票コードを削除する」とする、原告以外からの削除要求についても受け入れ、全国初の選択制を導入するよう市長に答申された。 答申を受けて藤沢純一市長は、2007年(平成19年)5月29日、箕面市役所内での記者会見において、2007年(平成19年)11月に実施される予定のRKK情報サービスの提供する新住基システムへの移行時を期に住基ネット参加の選択制を導入すると表明した。実際は新住基システムの移行が遅れ、納税記録情報の紛失事故が発生するなど、選択制の導入は見送られた。 2007年(平成19年)6月12日開催の箕面市議会総務常任委員会において日本共産党議員から、先の記者会見での選択制導入報道と5月29日実施の議会各会派への説明内容との齟齬および会見内容の真否についての質問に対し、藤沢は「否定も肯定もしない」、「議員はどういう報道になれば納得するのか」と答弁した。 2007年(平成19年)9月6日、大阪府知事から、住民基本台帳法第31条第2項の規定により、箕面市長に対し、「住民票コードを削除すること、すなわち住民票コードの記載を住民の選択に委ねることについては、住民基本台帳法第7条第13号の規定に違反するものである」「現に区域内に住所を有する住民の住民票を、改製と称して職権で消除することは、住民基本台帳法第3条第1項及び第8条に違反するものである。さらに、府知事に対し、職権で消除した旨を住民基本台帳ネットワークシステムにより通知するとともに、本人確認情報から住民票コードを削除したものを文書により通知することは、住民基本台帳法第30条の5第1項及び第2項に違反する」「住民基本台帳事務を適正に執行するよう法第31条第2項の規定により勧告する」と3項目の勧告がされた。 2007年(平成19年)12月20日、箕面市議会は、最高裁判所において大阪高等裁判所判決が見直される公算が大きいこと、顧問弁護士らが住民票コード削除の実施は最高裁判決まで待つよう求めていることなどから、最高裁判決まで「選択制」を進めないことを求める「住民基本台帳ネットワークシステムの適正な運営を求める決議」(自民党同友会、民主・市民クラブ、公明党の3会派の議員が提出)を賛成多数で採択した(市民派ネット・日本共産党が反対)。 2008年(平成20年)2月14日、最高裁判所判決を待たずに、原告の住民票を磁気ディスクから、書面による住民票に「改製」し、住民票コードを削除を実施したと発表した。 2008年(平成20年)2月18日、住民基本台帳ネットワークシステム検討専門員から、紙改製は違法であり、判決の履行に当たらない。答申に基づき、職権消除手法による住民基本台帳ネットワークから原告の本人確認情報の削除を実施しろとの意見書が藤沢純一に出されたと発表された。 守口市と吹田市は最高裁判所に上告した。2007年(平成19年)11月16日の新聞各紙に、吹田市・守口市の上告審について、最高裁判所が弁論期日を2008年(平成20年)2月7日に指定したことが報道された。判決の見直しに必要な弁論が開かれ、法令について違憲の判決を出すための大法廷への回付が行われなかったため、違憲判決が行われず、原判決破棄・原告敗訴が濃厚となった。 2008年(平成20年)2月7日の最高裁判所で、吹田市、守口市の上告審の弁論が行われ、同日弁論終結した。2008年(平成20年)3月6日、第1小法廷は、「法令等の根拠」に基づき、正当な「行政目的の範囲内」で行われて、「具体的な危険」が生じていないとの要件を示し、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものの、当該個人がこれに同意していないとしても、憲法13条により保障された自由を侵害するものではないとし、『住民基本台帳ネットワークは憲法に違反しない』と初の合憲判断を下した。その上で二審の大阪高等裁判所の判決を破棄し、訴訟原告(被上告人)の請求を棄却した。 2008年(平成20年)8月28日、埼玉県民5人が求めた個人情報削除や損害賠償をさいたま地裁の「情報漏洩に危険はなく、ネットワークのサービスも正当な行政の範囲」とした判決を東京高裁が支持、原告の控訴を棄却した。
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