競輪用自転車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 16:54 UTC 版)
詳細は「トラックレーサー」を参照 競輪で用いられる自転車は「ピスト(レーサー)」と通称される、規格に基づいた専用仕様の一人乗りの競技用自転車である。固定ギアであり、ペダルを逆回転させることによって速度を制御するためブレーキはない。競輪の関係法令においては『競走車』(単式競走車)と呼称されており、この自転車はNJS規格(Nihon Jitensha Shinkoukaiの略。現在のJKAに改称後もこの呼称が継続している)に適合する部品により製作されることが義務づけられており(特殊な物ではなく自転車専門店にも卸されており、一般の愛好家も購入出来る)、なおかつ組み立て後の車体検査に合格しなければレースに使用することができない。また、別途ブレーキを付けない限り公道での走行は道路交通法により禁止されている(ノーブレーキピストも参照)。 競輪用の自転車は、ここ十数年ほど、ほとんど規格や素材が変更される事のないまま現在まで用いられている。おおむね半世紀前のピストレーサーも同然といって良く、現在他のトラックレースで用いられるピスト競技用車とは大きな性能差がある。これは公営競技としての公正さが念頭にあることが大きいが、他にも規格緩和による部品代高騰の抑制、横方向への移動における操縦安定性の維持、落車事故時における衝撃吸収性、車両性能の向上に伴う過度の高速化による重大事故発生の防止など様々な要因が絡んでいる。なお部品によってはタイヤ(SOYO=ダイワボウプログレス)やリム(新家工業)など製造数や品質などの観点から事実上のワンメイクとなっているものもある。フレームだけで10数万円以上の製作費が必要となるが、その他の部品は規則上の自転車における制限が存在するため、車体総額で50万円を超える事は稀である。 なお2012年7月から開催されているガールズケイリン(女子競輪)、および2014年1月から開催されているKEIRIN EVOLUTION、2021年10月から開催されている250競走においてはカーボンフレームにスポーク以外のホイールが使用されており、他のトラック競技で使われている車両の仕様に近いものとなっている。 女子向けの自転車については「ガールズケイリン#ガールズケイリンの自転車」を参照 KEIRIN EVOLUTIONの自転車については「KEIRIN EVOLUTION#自転車」を参照 250競走(PIST6)の自転車については「PIST6#規格」を参照 ちなみに、競輪草創期には実用車や軽快車、タンデム式(複式競走車)の自転車でも競走が行われていたことがあった。 部品全般 ハンドル・サドル・クランク・ペダル・ギア・チェーンなどの部品は、規格に基づいて製作されたもの中から選択して使用する。 サドルは、一般の自転車と比べ細くて堅い。サドルを支える芯棒(シートポスト)は、設定する高さが1,2mm違うだけでペダルを踏み込む際のバランスが変わるとされる。サドルを高くすると加速しやすくなる半面、横から力がかかった際にバランスを崩しやすくなり、落車の危険が増す。 ハンドルは、「ピストバー」と呼ばれる、曲線だけで構成された物が使われている。乗る選手の体型や脚質によって幅や湾曲、材質が異なる。フレームとハンドルの固定部分(ハンドルステム)は、身長や腕が長い選手ほど長く(前へ突き出す方向に)設定する傾向にある。 ペダルはクリップ・アンド・ストラップモデル。選手が履く専用シューズの底には「サン」(桟)と呼ばれる溝の入った金属プレートが釘で打ちつけられており、このサンにペダルプレートを噛み合わせ、さらに靴の爪先をトウクリップで固定、足(土踏まずから前の部分。脚ではない)を革やウェブベルト製のストラップベルトでペダルに縛り付ける。これにより、ペダルを踏み込む力だけでなく引き上げる力も加速に利用することができる。1980年代に登場しロードレースやトラックレースでお馴染みのビンディングペダルにNJS基準適合品はない。“位置につく”と足を着くことは出来なくなるので、スタートラインには号砲で飛び出すとロックが外れそのまま走り出せる専用のスタンドがあり、これに自転車をセットしてから乗る。 車輪は直径が27インチ と決められており、金属スポークおよびリムにより構成され、タイヤは外径675mm のチューブラー(チューブ一体型)タイヤを使用するが、コースコンディションや脚質による選択は出来ない。 フレーム 車体となるフレームはクロムモリブデン鋼のパイプ(鋼管)を素材とした「クロモリフレーム」と呼ばれるもので、使用者の体格に合わせて完全オーダーメイド で製作されたものである。フレームのうち、サドルを支える縦パイプ(ロードレーサーでいう「シートチューブ」)の角度(シートアングル)は乗る選手の脚質によって異なり、具体的には先行選手は後ろに重心をかけて乗る傾向にあるため縦パイプの角度も後ろに寝ている。捲りの選手はチェーンの長さを短くし、踏み込む力が伝わりやすいよう縦パイプの角度を立たせている。競輪選手は、前輪軸と後輪軸を結んだ線よりもクランク軸がどの程度下げるか(ハンガー下がり)に気を神経をとがらせる。ハンガー下がりが大きいと安定感が増す反面、力の伝わりが悪くなるためペダルの踏み込みが重く感じられるようになり、小さいと踏み込みを軽く感じるようになる。 ギア(ギヤ) ギアは空回りのない固定ギアで、クランク側と後輪ハブ側のスプロケットの歯数を選手が自分で判断し交換する(下記に詳細)。ブレーキは装着しておらず、減速したい時にはギアが空回りしないことを利用して後ろへペダルを踏む(「バックを踏む」という)。ファンの車券作戦においてポイントとして結びつく重要なルールの一つに「ギヤ 倍数」がある。ギヤ倍数とは、自転車についている前後2枚のギア(スプロケット)のうち、クランク側ギヤ(大ギヤ。チェーンリング)の歯車の数と後輪のギヤ(小ギヤ)の比率をいい、「大ギヤの歯車の数を小ギヤの歯車の数で割ること」で求めることができる。各選手はレース前にギヤ倍数を申告し、数値は出走表に記載される。出走表掲載後に急遽変更する場合もあり、その際は場内で告知される。 大ギヤの歯車の数は44から55、小ギヤの歯車の数は12から16と決められており、かつては最大倍数の4.58まで使用できていた が、2015年の開催からは男子は4.00未満(実質最大3.93)、女子は3.80未満(実質最大3.79)という規制 も加えられ、その制限のもとでギヤ倍数が決められる。なお、250競走においてはトラックレースのケイリンに準じたルールを採用しているためギア倍数に対する規制はなく、出場選手によっては5倍以上ものギア倍数で出走するケースも見られる。 2015年の開催より使用できるギヤ比の最大比率が制限された理由は、従前から重いギヤ比では前方の選手の急減速に対応・反応しづらく、バランスを崩して落車に至ることが起きやすいという指摘があり、実際の事故件数そのものは増加していなかったが、「速度の増加による事故の重大化」と「レースの単調化」を理由として実施されている。 従来の競輪における一般的なギヤ倍数は3.5ないし3.6で。ギヤ倍数が低いほど漕ぐ力が軽くなりダッシュ力に優れる。その逆では当然重くなることからダッシュ力は弱いがスピードに乗れば速くなり、高速を維持しやすくもなる。一般の自転車のギヤ倍数は2倍強であるが、競輪で使用する自転車の場合は3倍強から4倍弱である。ギヤ倍数が大きいとペダル1回転で進む距離が長い反面加速にしにくく、小さいと加速はしやすいがペダル1回転で進む距離が短い。 「先行選手がギヤ倍数を普段より落とせば先行・逃げ切り狙い」「先行選手がギヤ倍数を上げれば捲り狙い」などが読み取れる。なお近年は周回中における先頭誘導員(後述)の誘導スピードが速くなったことによる体力の消耗防止や、勝負どころにおいてトップスピードで走れる距離を伸ばすため「大ギヤ」を選択する選手が近年は増えており、かつて脚力が衰えたベテラン選手が先行選手についていくためにギヤ倍数を上げるのとは異なる傾向にあるため、個々の選手の「ギヤ倍数」には注意を払う必要がある。
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