甲種輸送
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 09:07 UTC 版)
輸送される車両の車輪(仮設を含む)を用い、日本貨物鉄道(JR貨物)など貨物鉄道事業者の機関車の牽引で、貨物列車扱いで輸送されるものを甲種鉄道車両輸送(こうしゅてつどうしゃりょうゆそう)、略して甲種輸送(こうしゅゆそう)と称する。新幹線車両や一部の私鉄・地下鉄など、軌間が在来線 (1,067mm) とは異なる車両を輸送する場合には、メーカーなどから取り降ろしを行う貨物駅まで仮の台車を使用し、貨物駅から納入先まで道路上をトレーラーで陸送し、納入先にて正規台車上への装着を行う。また、軌間が在来線と同じでも、線路が物理的にJR線と接続されていない路線の場合も、トレーラー陸送を伴う。線路が物理的にJR線と接続していても、車両の輸送経路の一部がJR貨物の営業路線に含まれない南海電気鉄道ならびに南海の路線経由で車両を搬入する泉北高速鉄道の場合は、JR貨物ではなくJR西日本の機関車が牽引を担当する。JR貨物は近年、旅客鉄道会社に支払う列車通行料の問題から私鉄との甲種輸送の取り扱いを縮小しており、メーカーからの甲種輸送から道路上の陸送に移行した事業者(長野電鉄など)もある。 新車や改造・譲渡車両の輸送の他、第三セクター鉄道への移管やJRの社内規定などによりJR旅客会社の車両が自走回送できないケースで、当該車両を甲種輸送として輸送する場合もある(トワイライトエクスプレス下り最終営業後の返却回送や田沢湖線用701系5000番台の秋田総合車両センター入場回送など)。 また、マルチプルタイタンパやJR東日本の鉄道クレーン車のように、厳密には鉄道車両とは見なされない保線機械が甲種鉄道車両輸送として輸送されることもある。 甲種輸送を行う場合には、最寄りの貨物取扱駅長に対して運送申込みを行い、発駅・着駅・荷送人・荷受人・車種・形式・両数・車両の大きさ・車両のブレーキ装置の有無・連結装置・運転速度・運転方法・運送希望日・付添人の有無等の記載された申込書又は貨物の図面を提出する。その運送申込みに対して、JR貨物などの貨物鉄道会社が運送条件等を関係各所と協議して検討したのち、運送可能となれば承認される。運送申込書に記載された運送希望日と列車ダイヤの決定については、JR7社間で行われている四半期ごとの臨時列車運転計画調整会議において輸送日の審議を行い、関係する旅客鉄道会社とJR貨物の間で、2社以上の旅客鉄道会社をまたがって運転される臨時貨物列車を中心に、列車ダイヤの運転時刻の調整や駅構内の作業等の考え合わせを行って、輸送の施行日と列車ダイヤが決定される。 輸送に使用できる路線は貨物輸送が可能な路線に限られ、甲種輸送の事前にはJR貨物の社員が発送元を訪れ、限界測定検査を行い問題がなければ「特大貨物等検査票」を発行して輸送車両に貼られる。輸送される車両のサイズにより異なるが(基本的には急勾配のある路線は避けられる)、車両限界に抵触しなければフル規格の新幹線車両を在来線で輸送することも可能である。実際に2004年までは、日本車輌製造豊川製作所から東海旅客鉄道(JR東海)浜松工場への新幹線車両の輸送において、あらかじめ車両限界を広くしてあった飯田線・東海道本線経由で実施されていた。甲種輸送時には機関車と連結できるように仮設の連結器を使用する場合があるほか、電気指令式ブレーキを使用する車両では、電源が取れないため一時的に列車全体にブレーキを掛けるための仮のブレーキシステムを使用する場合がある。輸送される車両の先頭車両には、汚れなどを防ぐためのビニールなどによる養生が行われ、下部には後部標識の赤い円盤が取り付けられる(例外もある)。これらの理由で、最高速度は 75 km/h 程度に制限される。 貨物列車扱いは、自社の回送運転ではなく輸送の委託にあたる。すなわち運賃の授受が発生する貨物営業運転であるため、「甲種回送」と呼ぶのは誤りである。なお、JR貨物が他のJRグループ会社の車両を輸送することを、一部の鉄道ファンが「甲種回送」と区別して呼称しているが、JR旅客鉄道各社とJR貨物は別会社であり(加えて、新車の場合メーカーから鉄道会社への車両の引き渡しは甲種輸送の後の公式試運転を終えてからであり、甲種輸送時の車両の所有権はまだメーカーにある)、誤用であるのは変わらない。 甲種輸送の際には、メーカーの社員が「付添人」として2名が添乗し、輸送中の車両の走行音などから車両に不具合がないかなどの確認や異常などが発生した場合は緊急連絡網により連絡できる体制を取り、他の列車に運行に支障が出ないようにしている。長距離の場合は寝袋・食料・発電機・冷蔵庫等を持ち込んで添乗している場合もあり、トイレの場合は列車の時刻表を確認しながら停車駅で行うようにしている。 なお、国鉄時代は通常の貨物列車に甲種輸送する鉄道車両を併結して輸送した例もあったが、JR化後はこの手法はあまり用いられていない(2011年7月に行われた若桜鉄道向け12系客車の甲種輸送では久々に定期貨物列車への併結が行われた)。 国鉄時代は、国鉄の車両は車両メーカーの最寄りの路線で試運転を行ってから、配給列車として配属先へ回送するのが通例となっていた。このため、国鉄の車両を甲種輸送するケースは少なかった(配属先までの電化方式や保安装置などの関係で自力走行できない場合に限られた)。分割民営化後は、特に旅客会社の自社管轄エリア外に製造工場がある車両メーカーで落成した車両について、引き渡し(受け取り)駅までの甲種輸送が必須となったが、21世紀に入ってからも、在来線車両ではJR西日本の近畿車輛落成車や、JR東海の日本車輌落成車では甲種輸送を行わず試運転を兼ねて配属先まで自力走行するという例が見られる。 かつては阪急電鉄や近畿日本鉄道(南大阪線系統のみ)などの車両も甲種輸送を実施していたが、前者は1985年に、後者も1982年までに終了し、現在はこの2社はJR線を使用しての甲種輸送を実施していない。 機関車の牽引による甲種輸送の例 車掌車が連結された甲種輸送列車の例。 輸送車両の先頭には、汚れ防止の養生が行われ、下部には後部標識の赤い反射板が取り付けられている。 東急3000系の甲種輸送。先頭車が中間となるように組成が変更されている
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