改革の取組と成果
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公募の結果、5名の候補者のなかから初代理事長に選任され、2010年4月1日に新生「独立行政法人国立がん研究センター」(旧厚生労働省所管の施設等機関「国立がんセンター」)の理事長に着任。中央病院長も兼任する。改革の進め方として、まずは組織改革に重点を置き、「一切の先入観をもたず、すべて白紙、一から行います。利権や縁故は一切排除し、大学の教授選考と同様に厳正に決定し」、責任の所在を明確化した上で、「今いる職員のモチベーションを高め、いかに仕事をしてもらうかを第一に考え」るとした。4月1日の告辞のなかでは、以下の「基本的プリンシプル」が示された。 がん患者に起きる医学的、社会的、精神的問題等を解決する組織 世界トップ10~20のがん研究・医療の展開 定員枠にとらわれず、業務内容による人員配置と広い人事交流 正規職員の増員、職員の福利厚生の向上 就任2か月後の記者会見では、卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表の片木美穂、悪性リンパ腫の患者会「NPO法人グループ・ネクサス」理事長の天野慎介も同席し、それまでの組織改革の進捗を報告。診療体制の抜本的な見直し、各種委員会組織の再編・統合(病院と研究所の連結)、治験の実施状況・治療成績の公開、「がん相談対話外来」(要予約)の設置、総合内科の充実、レジデントの処遇改善、東京大学との連携大学院構想など「新生NCC」の取り組みを明らかにするとともに、「世界最高の医療と研究を行う」、「患者目線で政策立案を行う」とするふたつの理念と「がん難民をつくらない」など八つの使命を発表した。「患者目線で政策立案を行う」については、全職員から募集して採用した標語「All Activities for Cancer Patients」「職員の全ての活動はがん患者の為に!」を軸とし、2010年9月15日からは、無料の電話相談窓口『国立がん研究センター患者必携サポートセンター』も開設(通信料は発信者負担)。 その後の改革を見てみると、まず診療面では、2010年10月に、糖尿病や腎臓病、循環器疾患などを併せ持つためにがん難民化していたがん患者に対応できる「総合内科」を中央病院に開設、がん患者のがん以外の疾病にも中央病院で対応できるシステムを構築。同月には、ドラッグ・ラグ解消を目指して、がん研究センターが旗振り役となり全国377のがん診療連携拠点病院で海外承認済みの日本未承認薬の治験を共同実施する全国的なシステム構築すべく、自身が議長をつとめる都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会において臨床試験部会を設置。 次に、研究面での改革は、病院と研究センターの連携を深めるために、2011年2月から「リサーチカンファレンス」を開始。病院と研究所、双方のスタッフが参加し、闊達な議論をたたかわせるカンファレンスを月1回開催し、臨床と研究の連携を強化するとともに研究成果の検証も行っている。2011年5月からは、中央病院と東病院において「バイオバンク(検体バンク)」を試験的に実施、秋から本格的な稼働に入った。さらに、島津製作所をはじめ各企業と包括同意を結び、企業との連携を強化するとともに、産官学が連携する新研究棟の整備に入っている。産官連携では、すでに、CICSと世界初の病院設置型加速器によるホウ素中性子捕捉療法に関する共同研究が始まっている。 教育面では、「築地ユニバーシティー」「築地医学会総会」などをスタートさせ院内の教育体制の整備にあたるとともに、2012年度からは、慶應義塾大学、順天堂大学との連携大学院制度を開始。これによって、レジデントがセンターに籍を置きながら医学博士号を取得できるようになった。 また、人事面での改革では、就任以前の中央官庁や国立病院機構との「周り人事」について、就任時の中央病院看護部長の異動辞令を機にとりやめ。採用は公募制を取り、11年度新卒採用の事務官公募には定員8名に対して800人の応募があった。さらに、後述の経営改善により、2010年度中に約150人の常勤職員を採用し、派遣・委託職員を削減し、処遇改善もすすめ、職員のモチベーションを高めた(就任前に不足が問題になった麻酔科医も10人から15人に増加)。「NCCは予算も使い、職員数も増やして黒字にした。これが業務であり、改革です。ただ静かにしていれば評価される現行の制度には疑問を感じざるを得ない」。つまり、 僕がやったことは、いまの世間と逆で、常勤職員を157人(実増88人)増やして、人件費が10億円増えました。それでも、病院は黒字になりました。ボーナスを3月に出したら、ある省庁から苦言が来たので、こう言い返したのです。あなた方は行革というものについて、何にもわかっていない。工夫して頑張っても、工夫しなくても同じだったら、何もしなくなってしまうのではないかと。 そして、これらの改革を進めるなかで、経営面でも大幅な改善を見せ、全身麻酔の手術件数、病床稼働率がいずれも約5%増加するなど、2010年度の経常利益は29.6億円(目標は3.1億円)、経常収支比率は107.2%に達した。独法化1年後のナショナルセンターに対する厚生労働省独法評価委員会高度専門医療研究部会(座長・永井良三)の業務実績評価では、6ナショナルセンターの中でトップとなった。 このように、独法や公益法人改革の先駆をなす、がん研究センターの改革の意義について、嘉山は次のように論じている。 独立行政法人に官僚が天下っても、まともに働くのであれば問題ない。その結果、独法に期待される役割が果たされればいい。私はそう思います。ところが、一部の官僚OBは年功序列人事で退職後、独法や公益法人に天下り、後はお茶を飲んでいるだけ。そうした組織には公費が投じられています。なすべき仕事は、事実上非常勤や派遣の職員が請け負っている。天下りの何人かの食いぶちのためにあるといってもいい。NCC改革を通じ、そうした風土を大きく変えていきたい。
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