改革の取り組み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/01 15:55 UTC 版)
「グローバル金融システム」の記事における「改革の取り組み」の解説
世界銀行の元チーフエコノミストであり米国経済諮問委員会の元議長であるジョセフ・E・スティグリッツは1990年代後半に高まったコンセンサスについて次のように述べた。大多数の人々は、国際金融市場の参加者でなく、国際投資で投機したり外貨を借りたりできない。彼らに高い費用を課すシステムは何かが間違っている。さらにスティグリッツはさらに論じる。外国の危機は世界全体に強い影響を及ぼす。その一部はモラルハザード現象が原因である。特に多くの多国籍企業が国家的な救済や国際的な救済を見越してリスクの高い国債に故意に投資する場合はそうである。緊急資金供与で危機を乗り越えることはできるが、救済策を採用することは当事国に住む納税者に重い負担をかける。高いコストは生活水準を損なう。そしてスティグリッツは提唱する。長期海外直接投資は通常であれば新知識の波及と技術の進歩を経済にもたらす。長期海外直接投資に悪影響を与えることなく、短期的な国際資本フローを安定させる手段を見つけるべきである。 米国経済学者であり連邦準備制度理事会の元議長であるポール・ボルカーは次のように論じる。主要な問題に関してグローバルなコンセンサスが欠如しているため、グローバル金融システムを改革する取り組みが危うくなっている。おそらく最も重要な問題はシステミックに重要な金融機関の失敗に対処するための統一的アプローチである。伝染を阻止し経済的災難を軽減するために税金を使って債権者を救済することに一般納税者や政府官僚はうんざりしていることに注目すべきである。ボルカーは次のような協調措置を提案する。IMFが各国の政策に対する監視を強化する。各国は最善策に合意しその実施を誓約する。各国に多国間機関への相談を義務付け直接的な政策提言を受けさせる。IMFや海外中央銀行などから提供される緊急資金供与の制限を厳格に管理する。そして金融上のペナルティを伴うインセンティブ構造を改善する。 イングランド銀行総裁でありカナダ銀行元総裁であるマーク・カーニーは、グローバル金融改革について2つのアプローチを示す。それは第1に銀行を各々強化することで金融機関を景気循環の影響から保護することであり、第2にシステムの回復力を高めることで銀行から景気循環を守ることである。金融機関を強化するには、強力な自己資本要件、流動性の用意、適切なリスクの測定と管理が必要である。G20はペンシルベニア州ピッツバーグでの2009年サミットにおいて、バーゼル銀行監督委員会が提示した新基準に合意した。この基準には、バーゼルⅡで定められた自己資本比率要件を補完するためのレバレッジ比率目標が含まれている。グローバル金融システムの回復力を向上させるには、制度や市場の異例な失敗にシステムが耐えられるようにする保護が必要である。カーニーによると政策立案者たちの見解は収斂しつつある。それは、当局の金融危機の際には金融機関が経済的損失を負担しなければならず、そしてそのような事態は詳しく定義され計画されていなければならないという見解である。カーニーは次のように提案する。各国の規制当局が段階的な介入手続きを確立する際は、カナダに倣い、いわゆる「生きた意志」へのコミットを銀行に要求するべきである。 G20は韓国ソウルでの2010年サミットにおいて、バーゼルⅢが勧告する銀行の自己資本比率と流動性基準の新しい組み合わせを承認した。ドイツ連邦銀行理事会のアンドリュー・ドンブレは次のように述べている。グローバル金融システム内における規模・複雑性・相互接続性の程度に基づいてシステミックに重要な機関を特定することは困難であるので、明らかにグローバルにシステミックな機関として25~30の機関を一まとめにして特定すべきである。システミックに重要な機関はバーゼルⅢで要求されている基準よりも高い水準を保っている。機関の破綻はおこり得るが、機関の破綻は機関が参加する金融システムを巻きこむべきではない。銀行規制を超えた範囲で規制を改革すべきであり、情報公開の拡大とシャドーバンキングシステムの規制強化を通じた透明性の向上が望ましい。 ニューヨーク連邦準備銀行総裁兼連邦公開市場委員会副議長であるウィリアム・ダドリーは、グローバル金融企業が存在する世界経済を支えるには、およそ国ごとに規制されているグローバル金融システムでは不十分であると主張した。2011年にダドリーはグローバル金融システムの安全と保障を改善する5つの方法を提唱した。(1)特別な資本要件。これはシステミックに重要とみなされる金融機関に要求される。(2)対等な競争条件。これは各国政府が自分勝手に異質な規制条件を採用し「グローバルな金融の安定性を犠牲にして国内の選挙民」に奉仕する近隣窮乏化政策を防ぐ。(3)規制レジームに関する地域間・国家間の高度な協力。店頭金融デリバティブ取引の記録などの情報を共有するための広範なプロトコルを定める。(4)各国の責任の確定。銀行が問題化した時の「本国と受入国の責任」を画定する。(5)国際的な緊急流動性ソリューションを管理する手順。そのような措置のリスク・条件・資金調達についてどちら側が責任を負うかを含め、明確に定義する。
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