律令祭祀の形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/27 04:39 UTC 版)
7世紀に入ると、日本では天武朝・持統朝を中心に律令の整備が始まり、これに伴い神道も大きく変革期を迎えた。古墳時代以来の歴史の中で形成された信仰形態をベースとしつつ、外来信仰などの要素も加味して、祭祀制度の整備、社殿の整備、祭式の整備などが進み、神道の体系化や祭祀の行政組織化が進んでいくことになる。 律令国家による公的祭祀制度は、律令の中の神祇令を基軸に展開された。神祇令は、飛鳥浄御原令制定の段階で規定されたものであると考えられており、唐の祀令が参考にされた。祭祀の管理や運営の規定などに関しては祀令のものが踏襲されたが、祭祀の内容についてはほぼ日本独自のものとなっており、神祇令は日本独自の神祇信仰を祀令に基づいて再整理したものであると理解することが穏当である。 神祇令に基づいて設置された祭祀行政の実務機関が神祇官であり、神祇伯という長官職も設置された。この神祇官の関与の下、祈年祭、鎮花祭、神衣祭、三枝祭、大忌祭、龍田祭、鎮火祭、道饗祭、月次祭、神嘗祭、相嘗祭、鎮魂祭、大嘗祭(新嘗祭)の13種類の祭祀が国家祭祀として季節に応じて催行される規定となった。旧暦2月に豊作を予祝する祈年祭を行い、旧暦3月に散る花に寄せて悪霊退散を祈願する鎮花祭を行い、旧暦の4月と7月に台風の風害が無いよう祈る龍田祭と水害がないように祈る大忌祭を行い、旧暦11月に新穀を感謝する新嘗祭を行うといったように、稲作と密接に結びつき、季節の巡行に合わせて、農耕に必要な自然の恵みに感謝することが律令祭祀の特質となっている。祭祀が行われる前後には、官人に対して斎戒を行うことが規定され、律令祭祀においては斎戒は致斎(まいみ)、散斎(あらいみ)の二種類が定められた。致斎は、一切の職務を放棄して潔斎に入り祭祀の準備のみに専念することで、散斎は職務は行いつつ「六色の禁法」のみを行わないものである。「六色の禁法」とは、喪を弔うこと、病を問うこと、宍(四足歩行の哺乳類のこと)を食べること、死刑の執行と罪人の結罰を行うこと、音楽をなすこと、穢汚に触れることの六つの禁止事項で、これを破ると罰せられることとなっていた。この致斎と散斎を行う期間の長さに応じて、律令祭祀は大祀、中祀、小祀に分類され、例えば大祀(践祚大嘗祭のみが該当)は散斎が1ヶ月、致斎が3日となっている。 律令国家祭祀のうち、祈年祭・月次祭・大嘗祭では、班幣という他国には見られない日本独自の祭祀形態がとられた。これは、神祇官が官社と認定した全国の神社の神職を神祇官に参集させて、そこで中臣氏が祝詞を奏上して斎部氏(忌部氏)が幣帛を神職に配り、これをそれぞれの神社の神に捧げさせるというものである。大祓の祭式も整備され、まず天皇に中臣氏が御祓麻を、東漢氏と西文氏が祓刀を奉って大祓詞を奏上し、次に、百官の男女が朱雀門の祓所に集まり、中臣氏が祓詞を読んで卜部氏が解除(はらえ)を行った。 これまで多くの神社は社殿を持たなかったが、この頃官社と認定された神社を中心に社殿の整備も進められた。さらに、神階の制度もこの時期に整備され、霊験を示した神社には神封や神階、神位が与えられたほか、殊に崇敬の篤い神社の存する地域には、神郡も設置された。また、一部の神社にはその神社の経済基盤を支えるための神戸や神田が設置された。官社と認定されなかった地域の民間祭祀については、引き続き社殿を持たない形式が続き、祝(はふり)という祭祀者が選ばれて、春の田植えや秋の収穫の際に神へ感謝する農耕祭祀が行われていたが、次第に祭祀の場に郡司が立ち会って国の法律を告げるなど公的性を帯びるようになり、社殿を設置することも全国的に広がっていった。 また、この時期には伊勢神宮の祭祀制度も整備され、天武天皇の時代には卜定によって悠紀・主基を決め、伊勢の方角を向いて天皇が天照大御神と食事を共にするという現在の形での大嘗祭が成立するとともに、未婚の皇族女性を神宮に派遣する斎宮の制度がはじめられた上、持統天皇の時代には式年遷宮もはじめられた。 さらに、天武天皇の時代に構想されて元明天皇の時代に結実する国史編纂事業にも神道が影響を与えた。8世紀に編纂された国史『古事記』『日本書紀』には、日本神話として神代の物語と神武天皇の建国についての物語が記され、天皇家が正統な支配者であることを基礎づけた。このほか、宗像大社の祭神を天照大御神が生み出した女神であるとする(宗像三女神)など、古い祭祀と皇祖神を結びつけることが図られ、中臣氏や忌部氏、猿女君などの朝廷における祭祀氏族の起源を神話の世界に求めた。
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