学術的な使用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 19:32 UTC 版)
一方で、学術的に漢字表記ではない片仮名「シナ」が現代でも用いられる場合がある。言語学では「シナ・チベット語族」の学術用語が、標準表記として使われている。また、地理においても「東シナ海」(英語 East China Sea)・「南シナ海」(英語 South China Sea)・「インドシナ半島」(英語 Indochina)が使われている。 東京大学や京都大学に設けられた支那史専攻は、この地域国家の歴史を研究対象とする専攻である。 1992年(平成4年)に朝日新聞社から刊行された『地域からの世界史』シリーズの第6巻『内陸アジア』では、モンゴル史の専門家中見立夫が、上述の漢人国家と中国概念のズレについて考察したのち、 近代世界におけるモンゴル民族やチベット民族の歩みを跡づけると、「中国」という概念の問題が浮かび上がる。これらの民族には、少なくとも清朝崩壊の段階では、漢人が居住する地域といった意味での「中国」という言葉はあった。誤解を恐れずに書くならば、「シナ」(この場合、おおむねモンゴルやチベットは含まれない)という地域概念はあった。しかし、漢人たちが抱くような、多民族の共同体、歴史的な存在としての「中国」という概念は欠如していた。 — 中見立夫、地域からの世界史第六巻 という文脈で「シナ」という語を使用している。 田中克彦は、オットー・メンヒェン=ヘルフェン『トゥバ紀行』の日本語翻訳版を出版しているが、この中で敢えて「シナ」を用いている。田中によれば「国家と民族は厳密に区別すべき」として「言語は国家ではなく民族と結びつくものであり、中国といえば多民族国家としての略称であって、国民を表す中国人とシナは別々に使うべきである」と主張している。 木村光彦は、福澤諭吉の『学問のすゝめ』の支那表記は、現代日本語版では中国と言い換えられているが、福澤諭吉が『学問のすゝめ』を書いた当時は、中国という国家は存在しないため、支那と書くのは当然であり、中国と言い換えるのは「徳川家康が東京に幕府を開いた」と奇妙な事を言ってるに等しく、歴史上の用語を抹殺するかのような風潮には疑問を感じるとして、中華民国成立以後を CHINA と表記している。その上で「この言葉は支那と同根であるが、なぜか誰も文句を言わない。それどころか、かの国自身、英語表記として使用しているのが可笑しい」と述べている。そしてロシアでは CHINA を「キタイ」といい、かつての漢族の北狄・契丹に由来するが、中国共産党総書記習近平は気にならないのだろうかと述べている。 岡田英弘は、19世紀以前の隣の大陸(中国という国がないため、大陸という地理的概念で説明するしかない)を「中国と呼ぶのはおかしい」として、シナを使用する理由を以下のように述べている。 中華民国は1912年、中華人民共和国は1949年にできたのであって、それ以前に中国という国はありません。「中国」と呼ぶから、大昔から今につながる不変・悠久の歴史を思い浮かべてしまう。しかし、実際には、「中国」はその領土も、そこに生きる人々も、王朝も、時代ごとに大きく違っている。滅亡と断絶、人間の大移動と入れ替わりが、あの国の歴史なのです。ここでは正しい歴史は記述できないので、19世紀以前の隣の大陸や文明には「シナ」という言葉を使うようにしています。これは英語の「CHINA」と同じく、秦の始皇帝の「秦」が語源で、新井白石が、イタリアの宣教師シドッティが語った内容に基づいて、古い漢訳仏典から「支那」の文字を探し出したものです。同様に、19世紀までは「中国人」もいなかったので、原則として「漢人」と表記しています。 — 岡田英弘 宮脇淳子は、漢字の「支那」ではなく、片仮名の「シナ」を使用しており、その理由を「『中国』という国家は一九一二年一月に建国された『中華民国』までありませんでした。古い時代には中国という国家も中国という土地も存在しなかったので、なるべく使いたくないのです。英語の『チャイナ/China』に対応することばは『シナ/支那』です。チャイナもシナも秦の始皇帝の『秦』から来ています。秦は紀元前二二一年に今の中国の中心部に初めて統一国家を建てた王朝です。『古代中国』という呼び方は、第二次世界大戦後に中国に気を使って使用するようになったことばです。『支那』という漢字には、べつに悪い意味はありませんが、良い意味でもないので、中国人はこれを使うことを侮辱と考えてひどく嫌います。だから、意味のないカタカナの『シナ』を使うのならいいでしょう、ということです」と説明している。 生物・植物学の分野でも、戦前に命名されたシナイタチアナグマ、シナグリ、シナレンギョウなど「シナ-」を用いた和名は用いられており、学名についても同様である。ただし、チュウゴクモクズガニのようにかつての「シナ-」という名前が「チュウゴク-」に変わった例もある。 このように、学術界における「支那(シナ)」の使用は、 概念と用語に厳密であろうという学術的態度。[独自研究?] 支那の部分だけを指す王朝や政権の変遷を超えた国号としても、使用可能な固有名詞の呼称が存在しないこと。[独自研究?] に起因するものであり、使用者側の政治的立場との関連性は見られない[独自研究?]。
※この「学術的な使用」の解説は、「支那」の解説の一部です。
「学術的な使用」を含む「支那」の記事については、「支那」の概要を参照ください。
- 学術的な使用のページへのリンク